赤城耕一の「アカギカメラ」
第131回:心地よい動作と十分な性能。今年もっともココロを充実させてくれたカメラは……
2025年12月20日 07:00
今年も残すところ10日あまりですが、読者のみなさまはどのような1年だったでしょうか。
筆者は、可もなく不可もない凡庸な1年で、購入したカメラは例年よりも少なかったですね。
先立つものがないという大きな理由もありますし、年齢的にも機材整理を考えねばならない歳になってきたということもあり、年々「カメラを買う理由」を見つけるのが困難になりつつあるというのが正直なところであります。
スーパースペックのフラッグシップ機とか超絶の高画素機などは筆者の仕事ではまったく必要としていないのですが、それでも、カメラと戯れてココロを満たすという目的のために、本来は頂点的存在となるフラッグシップ機が欲しいのですが、さすがに最近は持て余してしまい、無駄遣いの域を出ない感じがします。それでも、クラスによらず最新カメラは1台くらいは手元には欲しいですね。
今年の数すくない購入カメラのうち、常に筆者の手元にあり、アサインメントだけではなく、プライベートの撮影にも活躍し、寂しいココロを満たしてくれたカメラがあります。これがニコンZ50IIであります。
筆者の生活を支え、かつプライベートでも満足させてくれるという意味で、年間使用頻度1位のカメラになります。長らく王座を守ってきましたOM SYSTEMのOM、PEN系システム、アサインメントのメイン機材であるキヤノンR系システムは使用頻度の最上位から陥落してしまいました。たいへんなことであります。
Z50IIはあらためて説明不要でしょうが、DXフォーマット(APS-C)のイメージセンサーを搭載したZマウントのミラーレスカメラです。
筆者はもうフォーマットサイズがAPS-Cだろうが35mmフルサイズだろうが気にならないわけです。少なくとも画質差は問題としていません。多少気に留めることがあるとすれば、使用レンズの実焦点距離の違いによる描写のニュアンスをどう作画に生かすかというくらいでしょう。
Z50IIは発売から1年を経たところであります。クラスとしてはエントリー機の属性でしょうけど、筆者には十分すぎるスペックでした。年初にウチにお迎えしてから、その使用頻度は高いまま推移し、現在に至るというわけであります。
当初は前機種のZ50よりも少々重くなったということだけで、重量や大きさに敏感な筆者の視野には入っていませんでしたが、偶然手にしたときのグリップの握りやすさに驚き、思わず、「おお」と声が出ました。自分の手のひらが喜びます。
これ、発売とほぼ同時にお迎えしたニコンZfcとの関係が1カ月も持たずに破局を迎えたという悲しい事実があり、より喜びが強調されたというわけです。Zfcは筆者のカラダには合わなかったわけです。
だから自然にZfcに代わるものを探していたようであります。そこにはもうヘリテージデザインがどうだとか、細かな要求もなくなっておりました。
筆者はこうみえても、職業写真家もやっていますから、デジタルカメラは趣味性の高いものでも商売道具の一部として考えております。
したがって、設備投資からにはモトはとろうと考えてしまうほうなので、Zfcでも、容赦せずに、まずは仕事の道具として評価することにしていますが、手元にあるレンズをいくつかZfcに装着してみたところ、いずれも気持ちが上がらないままでした。
筆者だけかもしれませんが、この大きな理由は頼りないグリップ感かもしれません。ボディ前面に爪をたてるようにホールディングしなければならないそのボディの頼りなさでは何らかのグリップを用意せねば実用としては問題があると判断したということもあります。
2つめの理由は、その最大のウリであるヘリテージデザインですね。
かつてのニコンDfは一眼レフでしたから、ヘリテージのために、かぶりものを着せて変身させたと揶揄されても、その立ち位置には機能的必然があったわけです。
ところがZfcではミラーレス機なのにデザインを一眼レフに似せてくるとはどういうことなのか、自身としてはどうにも納得できないところがあったわけです。何せ40年以上のニコン歴のある年寄りですからね、素直じゃないわけです、ええ老害です。
Z系のデザインは個人的にこれまであまり馴染めない印象でしたが、Z50IIではじめてピンとくるものがありました。たたずまいが自然であると感じたからであります。そのコンパクトさにも好ましい凝縮感を感じました。
先に述べましたように、Z50IIは握った瞬間にこれはイケると判断しました。グリップ感と重量感のバランスが絶妙でした。
さらに価格的にも性能的にもデザインにしても、納得できます。すべての物価が上がり続けるこの状況では奇跡といってもよい価格設定かもしれません。
本来はZ50IIはエントリークラスに属するのですが、筆者にはこれ以上のスペックがあっても無意味であり、持て余すとさえ感じました。もっともこれまで購入したカメラのうち、その機能を完全に使い果たしたというものは存在しないのですが。
ニコン Z50II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/50mm(75mm相当)/絞り優先AE(1/1,000秒、F2.5、+0.3EV)/ISO 400
さらに最終的に購入の決め手になったのは、撮影時の動作の心地よさですね。ここに問題があると、筆者の場合、撮影時のモチベーションはダダ下がりになります。
日々、自分と共にある、常に持ち歩くカメラという意味では、高スペックよりも携行時と撮影する時の心地よさが重要になります。Z50IIでは、携行性と共に、メカシャッターのシャキシャキ感にもグラっときました。
本機はエントリー機らしくフラッシュ内蔵ですが、ポップアップするとは思えないような外装のデザインの処理もいいですね。
せっかくフラッシュが内蔵されているのだからと、購入後に必然を感じない条件でも無理やり(笑)日中シンクロ撮影を敢行してみたのですが、その精度はかなりのものでありました。フラッシュの調光精度の高さはフィルム一眼レフカメラ時代から受け継がれているニコンの伝統であります。
これで上部のダイヤルが撮影モードダイヤルではなく、シャッタースピードダイヤルだったりすれば、筆者は本気でよよと泣けるのではないかと妄想しました。でもこれは実現は難しいのだろうなと。そういうヤツはZfcを使えと。
そうですね、シャッタースピードダイヤルが存在したとしても本当は触れもしないですもんね。もっともそれでもいいんですけど。
本機で大きなウリになっている「ピクチャーコントロールボタン」は筆者は使っていません。
たしかにライブの撮影現場で、ピクチャーコントロールの反映とその効果が確認できると、良い場合もあるでしょう。でもね、筆者はピクチャーコントロールはNikon NX Studioで画像を編集して行うことを前提として考えていますから、現場で設定するボタンの必然って、ほとんどありません。ピクチャーコントロールボタンは、FマウントのMFニッコールを使用する場合に拡大機能に割り当てて、正確なフォーカシングをするために使用しております。
さらに細かくみてゆくと、AFの性能にも感激しました。
AFの被写体認識の検出対象は5種あります。「人物」「動物」「鳥」「乗り物」「飛行機」。「鳥」だけを独立選択できるのは本モデルの特徴ですが、「オート」のままでも、頼まずとも高い精度で、ほとんどの撮影条件で合焦することに驚かされます。
筆者はそれまでカメラ任せにするオートエリアAFを使用した経験はほとんどありませんでした。
ところが試しにオートエリアAFを使用してみると、筆者がここに合焦すると嬉しいなあという場所にZ50IIくんのAFエリアはすっと貼りつくわけであります。うーむ。すばらしい。これでは失敗することすらできないではありませんか。
実際にAFの被写体認識が高精度すぎて、画面内のはるかかなたにいる、ゴマつぶよりも小さな小さな人物のアタマに合焦し、追い続けることも珍しくありません。しかもこの人物をよく確認してみると、後ろ姿、つまりZ50IIは後頭部を懸命に追い続けていたりするわけです。もう、見事ですね。
年寄りはこれまでの経験則による、自分のチカラを信じたいものですから、「おいおい〜キミにはそこまで望んでいないぜ」と思うこともないわけではありませんが、内心ではこうした技術の進化に喫驚しているわけであります。
表立ってAFの精度ばかりを強調すると、なんだか自分の知恵と工夫を否定してしまうみたいでカッコ悪いじゃないですか。でもねえ、若い頃にこれだけ高い精度のカメラがあったら仕事はラクだったでしょうねえ。いや、あまりにラクすぎて逆に全ての人にそこそこの写真を撮ることができてしまうわけですから、仕事は逆になくなるのか。
Z50IIには、さほど文句はないのですが、正直にいえば手触りやら、ボタンやダイヤルの操作感にまだ多少の改善の余地はありますね。
たとえばボディサイズに対して必要以上にデカく感じるモードダイヤルですが、筆者所有の個体はやたらと動きが軽いんです。知らない間に動いていたりすることが数度ありまして。しかたないので、パーマセルで止めています。これは正直困りますね。
ボタンの押下感などは頑張っている方です。バッテリー室の中にスロットがあるのは、お安いカメラ感があるんですが、ライカM11-Pだって、リコーGR系もそうかな。そう考えると許せたりしますけどね。ただし、蓋のぶらぶら感は、もう少しがんばってほしいところです。
これらの写りとは関係ない要件には正直エントリー機だから仕方がないと諦めるのが普通ですが、逆に細部に文句をつけたくなるのは、Z50IIがエントリー機という単純な枠に収まらない優れたカメラである証明と考えています。
したがって最終完成型として、Z50IIの後継機は全体のサイズを変えずに、VR(手ブレ補正)が搭載されたりすれば筆者は大感動しちゃうんですが、これはどうでしょう、難しいのかなあ。
今後はZ50IIを2台体制でいくかなあと考えていたところにZ5IIがすっと登場してきました。
その操作性はほとんど同じ。FXフォーマットのZも持っていないとこれはマズいんじゃないかということで、これもお迎えすることにいたしました。
筆者はフィルムニコンもまだ使用していますから、どうしてもFXフォーマットのカメラは用意せねばならないと強い責任を感じておりまして。と、いうのが言い訳でありますが、これもまた冒頭で申し上げた「カメラを買う理由」になるわけです。
いや、なんというか、こじつけでもその理由、背景に流れる物語を想像することができれば、FXフォーマットのZもお迎えする覚悟は持っておりました。本当です。ここに理由ができてしまいましたので、Z5IIもお迎えすることに。これもまた価格設定が絶妙でしたね。結局そうなるのか。
でもね、Z50IIとZ5IIの関係というのは、久しぶりの熱いニコンのコンビとして、今年後半でのお仕事でも大活躍しました。
さて、2026年は写真、カメラの世界はどのような年になるでしょうか。
スペックのみを強く主張したものではない、使って気持ちのよい、ココロが充実するカメラがさらに登場してくると嬉しいのですが。ええ、もう筆者はヘリテージにはこだわっておりません。ホントか?
読者のみなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。少し早めですが、どうぞ、良いお年をお迎えくださいませ。




























