新製品レビュー

Plustek OpticFilm 135i

久しぶりに登場した35mmフィルム用本格スキャナーの実力とは

ラインセンサータイプの35mmフィルム専用スキャナー「Plustek OpticFilm 135i」。最高解像度は7,200dpiを実現する。浅沼商会(代理店)直販サイトの販売価格は税込5万8,850円

フィルムカメラやフィルムでの撮影に注目が集まっている。それを裏づけるかのように、ライカや国産高級コンパクトなどプレミアム性の高い中古フィルムカメラは依然として人気・価格ともに高止まりの状態が続いているし、以前はジャンク箱に入っていたようなプラスチック製コンパクトカメラの一部は、今やショーケースのなかに鎮座している。さらにフィルムの販売や現像を取り扱うカメラショップも何かと賑わっていることが多い。さらにフィルムの現像時にプリントのほかにもデータ化をしてくれるというサービスも増えている。

フィルムをデジタイズすれば、デジタルカメラで撮影した画像同様パソコンやスマートフォン、タブレットなどでの閲覧が可能となるし、SNSやブログへのアップ、あるいはインクジェットプリンターによるホームプリントなどが手軽に楽しめるからだ。今回紹介するのは、そうしたフィルムを自宅でデジタルデータ化するのに必須のアイテムであるフィルムスキャナーの新製品「Plustek OpticFilm 135i」だ。フィルムのデジタイズを考える写真愛好家注目の35mmフィルム専用スキャナーである。

ラインセンサーにより作品レベルのデータ化が可能

本製品の注目ポイントは何といってもラインセンサータイプであることだ。

「Plustek OpticFilm 135i」の同梱品。USBケーブル、電源アダプター、フィルムホルダー(スリーブ用およびマウント用)。そのほかにクイックガイドブックやアプリケーションソフトの入ったCD-ROMが付属する

このところアクセサリーメーカーなどからも1万円から2万円ほどの低価格帯のスキャナーが登場しているが、これら製品はマクロレンズを装着したコンパクトデジタルカメラを内蔵したような仕組みとしているケースが多く、一発撮りでスキャンする、その“コンパクトデジタルカメラ”に搭載されるイメージセンサーは1/2.3インチクラスのものがほとんどであるため、スキャンの精度・画質はそれ相応だ。

こうした製品に対して、本機が採用するラインセンサーはフィルムを少しずつ動かしながら読み取っていき、最終的に1枚の画像データとする仕組み。スキャンに時間を要するというデメリットはあるものの、その精度や階調再現性などは“一発撮りタイプ”にくらべて秀でていることが多い。しかもスキャン解像度を上げることで、高解像度のスキャンデータを得ることも可能だ。

シンプルな筐体。正面中央の開口部にフィルムホルダーを差し込んでスキャンを開始する。スリーブおよびマウントされた35mmフィルムのスキャンが可能
フィルムスキャナーの背面側。フィルムを入れたホルダーはスキャンが済むと中央の開口部から一旦出てくるが、すべてのスキャンが終了すると前面側に戻り排出される

かつてはニコンやミノルタ(コニカミノルタ)などからも積極的にこういった製品がリリースされていたことを覚えている読者もいることだろう。作品づくり向けの解像性能を重視した製品に久しぶりに新製品が登場した、というわけだ。

ちなみにラインセンサータイプのスキャナーというと、フラットベッドタイプのものもある。こちらはフィルムを動かすのではなく、スキャナーの読み取りヘッドが移動してスキャンを行う。コンビニやオフィスに設置されている複合型レーザープリンターを思い浮かべてもらえるとわかりやすい。

もちろん、SNSなどにアップするだけなら廉価な“一発撮りタイプ”のスキャナーも何かと使い勝手が良いことは事実だ。しかし作品レベルでのデータ化を望むのであれば、こういったラインセンサータイプのスキャナーがベストなチョイスと考えられる。

このほかにもスリーブフィルムをマクロレンズを装着したカメラで撮影してデジタルデータ化する製品もある。カメラとマクロレンズを用意する必要はあるものの、フィルムのデータ化が可能な製品としては比較的安価で、ピント面の結像もしっかりしている。手軽さという点でもはじめやすい選択肢だろう。

Camflixのフィルムデジタイズアダプター

解像性能はどれくらい?

さて、では肝心の解像性能についてみていこう。Plustek OpticFilm 135iの最高解像度は7,200dpiだ。35mmフィルム1コマ(36×24mm)の画素数は約5,500万画素(9,000×6,200ピクセル)となる。3,600dpiのときでは約1,400万画素だ。いずれのdpi設定でも、カラーで48ビット入力、モノクロ16ビット入力となっており、豊かな階調再現性、高いレタッチ耐性を誇る。

繰り返しになるが、スキャン動作はフィルムを少しずつ移動させながら読み込んでいく方式となっている。シンプルかつ簡便な操作系である点が特徴とはいえ、ボタンを押したら即時に完了というわけにはいかない。フィルムホルダーの全コマ(スリーブ用ホルダー:6コマ、マウント用ホルダー:4コマ)を一度に全てスキャンするため、相応のスキャン時間が必要となるのだ。

筐体上部のボタン類。左上よりフィルムホルダーイジェクトボタン、あらかじめ設定した状態でポジフィルムのスキャンを行うポジボタン、同じくネガフィルムのスキャンを行うネガボタン、カスタムスキャンを行うカスタムボタン、スリープからの復帰および2秒間押し続けるとスリープになる節電ボタン
スキャン中の画面。ラインセンサーであるためスキャンに時間を要するのは致し方ないところ
スキャンが終了すると今度は画像を生成するための処理を開始する。スキャンおよびスキャン後の画像処理にかかる時間は6コマ対応のスリーブ用フィルムホルダーで約13分、4コマ対応のマウント用フィルムホルダーのときで約11分40秒(いずれも7,200dpi選択時)
画像処理が完了すると「表示」に画面が切り替わりスキャンした画像を表示する。この画面では写真の回転やSNSなどへのアップも可能としている

マウントしてあるフィルムならスキャンしたいコマだけホルダーに装填すればよいが、あるスリーブ中の1コマだけをスキャンしたい場合にちょっと辛い仕様となる(時間的な面で)。プレスキャンを行ったうえで、必要なコマのみ本番のスキャンができないものかと販売元である浅沼商会にも確認してみたが、現状では対応していないとのことだった。

マウントしたフィルム用のホルダー。ワンタッチでマウントに入ったフィルムを装填できて便利
スリーブ仕上げ用のフィルムホルダー。最大6コマに対応する

ちなみにスリーブ用フィルムホルダー(6コマ対応)を使ったときのスキャンおよび画像処理にかかる時間は約13分(7,200dpi選択時/実測値)。マウント用フィルムホルダー(4コマ対応)のときで約11分40秒(同)であった。なお、スリーブ用とマウント用のホルダーは製品に同梱。別売でパノラマ用のホルダーも用意されている。

パノラマ用のフィルムホルダー(別売)。現時点での価格は未定

作例

以下、カラーネガ、カラーポジ、モノクロの各フィルムからスキャンした例をご覧いただきたい。いずれも筆者が過去に撮影したものを使用している。

カラーネガフィルムの場合

デフォルトの設定でダイレクトスキャンして生成した。濃度がやや薄くなる傾向にあるようで、ここではPhotoshopのレベル補正をメインに使い調整した。画像に破綻しているようなところは見受けられない。

こちらもカラーネガによるものだが、階調再現性は上々。色調も不足を感じさせないものである。Photoshopで微調整を行い、画像を整えている。ホコリの除去はスキャナーの機能よりも手作業で行った方が早く確実だ。

スキャンの仕方にもよるだろうが、ややピントは甘めになる印象。せっかく高解像度のスキャンを可能としているだけに、何とか対応してほしく思える。

ポジフィルムの場合

カラーポジの場合は、比較的に原板に忠実な濃度となりやすい。この写真もスキャン後フィルムに付着しそのまま写り込んだホコリの除去とわずかな色かぶりを補正しているにすぎない。

色かぶりしていたポジフィルムもナチュラルな色合いに調整できるのは、デジタイズの魅力のひとつ。このポジフィルムも色かぶりしたものを補正している。

こちらは元のフィルム自体の暗部がつぶれ気味だったケース。そのことを踏まえるなら、十分な階調再現性だと言える。褪色や変色したポジフィルムでも、完全までとはいかないもののある程度復元できる。撮影したときの記憶も蘇ること、うけあいだ。

モノクロフィルムの場合

40年ほど前の広島・尾道。モノクロフィルムの場合、スキャン後のレタッチはマストのようだ。ここでは、Photoshopの「レベル調整」を使って濃度とコントラストの調整を行い、さらに「レンズ補正」で画面周辺部の濃度を上げて画面を黒く締めている。

こちらもPhotoshopの「レベル調整」で濃度とコントラストの調整を行なっている。シャープネスの調整も試しているが、どうだろうか。

曇天の空もディテールはあり、広いダイナミックレンジを持つことが分かるカット。“一発撮りタイプ”のスキャナーでは白トビしていた可能性もありそうだ。こちらはいくつか手を入れて画像を整えている。

スキャンからデータ化の流れ

それではスキャンの手順を紹介していこう。まずは付属のUSBケーブルで「Plustek OpticFilm 135i」とドライバソフト「QuickScan Plus」をインストールしたパソコンにつなぐ。

接続ポート類は背面側にある。右上から時計回りに、電源スイッチ、電源コードレセプター(ACケーブル用のジャック)、USBポート、防犯用のケーブルを装着するセキュリティスロット。中央は後部フィルムホルダースロット

本ソフトは簡単な画像編集やフィルムに着いたキズ・ホコリを自動的に除去する機能なども搭載。WindowsおよびMacのいずれにも対応している。ソフトは専用サイト(下記)からダウンロードが可能だ。

ドライバソフト「QuickScan Plus」の基本画面。シンプルで分かりやすいUIとなっている。フィルムスキャナーを使ったことのあるユーザーなら、初見でも大きな間違いはしないように思える
ドライバソフトダウンロードURL:QuickScan Plus

スキャナーを起動したら、「QuickScan Plus」を立ち上げる。次にスキャンモードから「ポジフィルム」「ネガフィルム」および「カスタム」を選択。「カスタム」はその名のとおりユーザーがあらかじめ設定をカスタマイズしておけるモードだ。

スキャンモードを選択したら、次に大切な解像度の選択を行う。解像度は最大7,200dpiから最小600dpiまで選択が可能。後々のことを考えると通常は最大解像度でスキャンしておくと便利なことが多い。

解像度は最大7,200dpiから一番軽い600dpiまで選ぶことができる。なお、35mm判1コマの画素数は7,200dpiの場合で約5,500万画素、3,600dpiで約1,400万画素となる

「カラー」はカラーかモノクロを選択する(なぜかモノクロの表示は「灰色」となっている)。ファイル名や保存先のフォルダーの選択、ファイル形式(JPEG/TIFFなど)もあらかじめ設定しておく。

「カラー」ではカラーとモノクロの選択を行う。これはネガフィルムの場合でも同じだ。モノクロが「灰色」となっているなど、時折翻訳が怪しいような単語が出てくる

ひととおり設定が完了したら、フィルムをセットしたホルダーをスキャナーのフィルムホルダースロットに通し、自動的にホルダーが引き込まれるまで挿入する。なお、その際ホルダーの天地には注意。同じように見えるが、矢印のあるほうが上である。

ホルダーのセットを終えたら、スキャンボタンを押しスキャンを開始する。一連の動作が完了すると取り込まれた画像が表示され、同時に指定した場所に保存される。

設定からフィルムのセット、スキャンまでの操作はシンプルで、初見でも大きなミスをするようなことはないはずだ。便利なのが前述した画像編集機能を備えていることだろう。

内容的にはシャープネス/トリミング/回転など最小限でシンプルなものだが、スキャン後速やかに編集作業を行うことが可能なので、レタッチソフトを起動する手間がかからない。上手に活用したい機能と言える。設定によりスキャンした画像をPhotoshopなどのレタッチソフトで開くことも可能となっているので、こちらも積極的に活用するとよさそうだ。

「編集」の画面。右のボックスのタブは「効果」と「調整」から選ぶことができる。キャプチャーは「調整」の画面。レタッチはごく簡単なものに限られている
こちらは同じ「編集」の画面だが、右のボックスは「効果」を選択している。いわゆるフィルター機能のことで、より多彩な表現を可能としている
「スクラッチ&ごみ」の処理画面。小さなゴミ、ホコリには有効だが、ちょっと大きくなると元々の画像と判断してしまうためか削除しないようである

ちなみに、スキャンでは、画像の濃度をユーザーの意思で変えることはできない(固定露出と自動露出は選べる)。そのためスキャン後Photoshopなどでの微調整はマストと言える。実際、今回掲載した画像のほとんどは濃度やコントラストなどの調整を行なっている。生成された画像はレタッチ耐性が高いので、そのようなときでも安心だ。

「優先」と名のついた設定画面。スキャンした画像の濃度が思ったようにいかない場合は「自動露出」を、ゴミの多いフィルムは一番下の「スクラッチ&ごみの」にチェックを入れるとよいだろう。ただし後者の機能の場合、最大解像度は3,600dpiとなるので留意しておきたい

改善を望みたいポイントとしては、ピントがやや甘く感じられた点が挙げられる。浅沼商会によると、本機のスキャナー部は固定ピント式となっているとのこと。マウントされたフィルムからスキャンする場合は裏返してスキャンしてみるなど、マウント面の高さを調整することで結像面の微調整ができるとのことだった。

ラインセンサータイプらしく階調再現性やレタッチ耐性の高さなど、高い画質でのデジタイズが可能なフィルムスキャナーである。製造元であるPlustek社は台湾の企業とのこと。今や同じタイプの国産フィルムスキャナーは、筆者の知るかぎり見かけなくなってしまったが、このように海外のメーカーが頑張ってくれるのはたいへんありがたく感じられる。アフターサービスについても国内の発売元である浅沼商会が行うので、万一のときも心強い。積極的に今でもフィルムでの撮影を楽しむフィルムカメラユーザーや、かつて撮影したフィルムを改めて見直してみたい往年の写真愛好家など、これからフィルムのデジタイズを始めたい人は選択肢に加えてみてはどうだろうか。

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。