【緊急連載】新メモリーカードCFexpressを徹底理解する

第2回:CFexpress規格の誕生と詳細

最先端かつ長寿命でありうる規格となるために

今回は、CFexpress規格について少し詳しく解説し、さらに規格提唱の背景・経緯についても触れていきたい。CFexpressが生まれた“特別な理由”を知ることは、この規格の意義を理解してもらうためには不可欠な要素だと思うからである。

CFexpress1.0と2.0の違い

CompactFlash Association(以下CFAと表記)は、2017年4月18日にCFexpress1.0を、2019年2月28日にCFexpress2.0を発表している。1.0から2.0とバージョンがアップしたことで、速度など性能の向上が図られているのではないかと感じる方も多いと思う。

規格策定当時の詳しい状況は以下の記事を参照いただくとして、ざっと整理しなおしてみよう。

仕様策定に関する記事はこちら

新メモリーカード規格「CFexpress」が開発中(2016年9月8日)
新メモリーカード規格「CFexpress 1.0」仕様発表(2018年4月23日)
新メモリーカード規格「CFexpress 2.0」が策定(2019年3月2日)

1.0でNVMe1.2対応だったものが、2.0でNVMe1.3対応とされたが、これはNVMe(Non-Volatile Memory Express、PCI Expressによる接続インターフェースの規格)のバージョンアップに対応するものである。したがって実質的には1.0と2.0の違いはひとつしかない。大小2つのサイズが追加されたことだけである。

1.0ではCFexpressカードはXQDと同サイズの一種類だけだったが、2.0でより小さいサイズの「Type A」と、より大きいサイズの「Type C」が速度のバリーションとともに追加された。それに伴い当初のCFexpressカードが、「CFexpress Type B」カードと規定され直された。したがってType Bであれば、1.0も2.0も規格性能は全く同じである。

CFexpressカードの規格(CFexpress2.0)

規格サイズの拡大=スケールメリットの拡大

では、なぜ異なるサイズが必要となったのか。CFexpress2.0でCFAがCFexpressに大中小3つのサイズを規格化した理由を見ていこう。

複数の異なるサイズを新しく規格化した理由は、Type Bだけではカードのサイズが大き過ぎたり、2レーン最大2GB/秒の速度では不足する場面があったりするなど、イメージング業界の次世代メモリーカードとして、ひとつのサイズで今後求められるであろう需要を網羅しきることはできないと考えたためである。

いま、35mm判フルサイズセンサー搭載機を中心に採用されているType Bを中心に、Type AとType Cを加えることによって、CFexpress採用ホストを拡大し、それによりCFexpressカードの普及が進めば、開発・生産・販売の効率が向上し、それぞれにかかるコストも低減していく。そうした「スケールメリットの拡⼤」は、結果的にホストメーカー、カードメーカー、そして最終ユーザー全てにとって⼤きなメリットとなるだろう。

Type A:フルサイズSDカードの次世代規格候補として

つづけて、Type A〜Cまでの特徴をみていこう。まずはType A。この規格ではサイズがフルサイズSDよりもひと回り小さく、少しだけ厚みがある(Type A:20×28×2.8mm、フルサイズSD:24×32×2.1mm)。1レーンなので限界速度は1GB/秒である。サイズが示すように、現在多くのカメラに使用されているフルサイズSDカードの「後継」候補としての位置づけにある。

エントリーとしてのミラーレスカメラや一眼レフカメラであれば、SDカードで十分ではないかと思われる方も多いと思う。しかし、パソコンの高速化はもちろん、モバイル通信でも、まもなく開始される5Gで最大2.5GB/秒の高速化が視野に入っている。デジタルカメラがいつまでも現状のSDカード(UHS-II限界速度312MB/秒)に依存していれば、スマートフォンなど他の最先端デジタル機器との相対的な体感速度はどんどん低下するだろう。

SDカードも進化の宿命を背負っているのだ。2018年6月、SD Association(以下SDAと表記)は次世代規格として「SDExpress」を発表している。これには最後「SDExpressとは?」の項で触れたい。

SDExpress仕様策定に関する記事はこちら

SDアソシエーション、最高985MB/秒の新SDインターフェース「SD Express」(2018年6月27日)

Type B:CFast/XQDカードの次世代規格として

第1回でType Bについて解説しているので、ここでは簡単に。

CFexpress Type Bカードは、現時点でCFastやXQDを採用しているデジタルカメラやビデオカメラの更なる高性能化をサポートする役割を担うものとして生まれた。

サイズはXQDと全く同じ(38.5×29.8×3.8mm)。PCIe接続のXQDをベースに、より汎用性の高いオープンな接続規格PCIe Gen3 NVMeに対応させた発展形である。XQDカードとCFexpressホストの関係、CFexpressカードとXQDホストとの互換性については下図を参考にしてほしい。

XQD 2.0とCFexpress 2.0 Type Bの比較

Type C:リムーバブル・フルスペックPCIe Gen 3 NVMe SSDとして

Type Cは、2.5インチのSSDよりふた回りほど小さく薄い(54×74×4.8mm)。

フルスペックPCIe Gen3、4レーンの高速性能を必要とする業務用ビデオカメラなどの用途を想定して規格された。パソコンに使用されている内蔵SSDは取り外して使用する仕様ではないので、リムーバブルなフルスペックSSDが、例えばノートPCやタブレットPCの交換可能なSSDとして新たな用途を生み出す可能性もある。

CFexpress2.0策定時のスペックには規定として明記されていないが、CFAは8レーン(8GB/秒)までの規格化の可能性があることを明言している。

左からCFast 2.0カード、CFexpress Type C、2.5インチSSD

CFexpress誕生の背景

CFexpressは単なる次世代の高速カードとして生まれたわけではない。デジタルカメラ市場の拡大と縮小の歴史、フラッシュメモリー市場の大転換と大きく関わっている。この2つの要素をまとめると下図のようになる。

2000年から2010年頃まで、デジタルカメラ市場は急成長を遂げた。同時にメモリーカードも戦国時代で、SD、コンパクトフラッシュ、メモリースティック、xDピクチャーカードなどが規格競争に凌ぎを削っていた。

コンパクトフラッシュカード
メモリースティック
xDピクチャーカード

メモリーカードブランドは主なところだけでも20くらいはあっただろう。メモリーカード会社の積極的なサポートを受けて、メモリースティックProデュオ、miniSD、microSD、メモリースティックマイクロなど派生規格も次々と生まれた。その頃、フラッシュメモリーの最も重要なアプリケーションは、メモリーカードとUSBメモリーだったからだ。

しかし、スマートフォンが急成長してくるに伴い、その影響を受けてデジタルカメラ市場は2010年をピークに販売台数が急降下していく。

メモリーカードを取り巻く環境も同時に大きく変わった。それには3つの大きな理由がある。すなわち、[1]リーマンショックに伴う半導体業界の不況、[2]スマートフォンのシェア拡大に伴うメモリーカード需要の変化、[3]半導体メーカーのフラッシュメモリービジネス重視体制への移行、だ。以下、時代の移り変わりを振り返りながら状況の推移を整理していこう。

リーマン・ショックにより、新規開発投資がシビアになった:2008年

アメリカ・リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻に端を発する不況リーマン・ショックが世界経済にもたらしたインパクトは説明するまでもないが、半導体メモリー業界が受けた影響はとりわけ大きかった。

長期化した世界レベルの不況は、厳しく長い半導体不況をもたらした。これにより、主要なメモリーメーカーは開発費のかかる新たなメモリーカードを開発するよりも、既存の規格や汎用インターフェースの転用などに注力するようになった。

その結果として、3つのことが起こった。ひとつめはハイエンドを除くデジタルカメラ用のメモリーカードがSDカードへ集約され、事実上のディファクトスタンダードになったこと。2つめは、SATA規格の転用としてのCFastへの関心が高まったこと。3つめは、サンディスクがXQD規格策定には合意したが、XQDカードの開発から撤退したことだ。後に起こる高速メモリーカードの混乱は、リーマン・ショックから始まる半導体不況にその原点があるのだ。

スマートフォンの爆発的成長で“スマートフォン・シフト”へ:2011〜12年

2011年から2012年にかけて、デジタルカメラとスマートフォンに対照的な予測が流れた。デジタルカメラは2011年出荷台数が前年割れし、2012年以降はさらに縮小するだろう、スマートフォンは2011年出荷台数4億台を超え、2012年以降は倍々ゲームで成長するだろう、というものだった。

実際に、スマートフォンは作れば作るだけ売れ、半導体不況に苦しむフラッシュメモリー業界には絶好の業績回復チャンスとなった。フラッシュメモリーの開発や供給は、スマートフォン向けが最優先になり、メモリーカードは“縮小市場”と位置づけられ、開発はもちろん供給の優先順位も大きく下がってしまった。

HDDからSSDへの移行の波で、開発投資は“SSD中心”に:2011〜12年

フラッシュメモリー業界にはもうひとつの大きなチャンスが巡ってきた。SSDにSATA3が採用され、HDDに対する速度優位は決定的になり、HDDの置き換えとして大きな需要が見込まれた。同時に、フラッシュメモリーの特性を活かしたインターフェース(PCIe NVMeプロトコル)の研究開発も進み、将来的にはさらに大きな市場が形成されることが予測されたのだ。フラッシュメモリービジネス各社のSSD重視は決定的になったのである。

XQD1.0、CFast2.0の船出:2011〜12年

スマートフォン、SSD重視の影響で、デジタルカメラ用メモリーカードへの新規投資優先性は決定的に失われた。そのタイミングと同じくして、CFAは2011年にPCIe接続インターフェースのXQD1.0を発表。2012年には、もともと産業用途として開発されたCFast1.0(SATA2)に、当時SSDで標準的に使われていたSATA3(当時はSATA接続が主流だった)を採用したCFast2.0を発表した。

CFast 2.0メモリーカード

XQDはフラッシュメモリー業界の転換を前に既に動き出していたし、CFastは汎用技術の適用で開発コストを減らしたいフラッシュメモリーメーカーの要望にかなうものだった。

こうして、ほぼ同等の性能を持つ2つの高速メモリーカード規格が別々のインターフェースと形状を持って生まれた。コンパクトフラッシュで統一されていたプロ・ハイエンド用メモリーカード規格が“ねじれ”てしまったのである。

フラッシュメモリービジネス各社の”経営判断”の正しさを裏付けるように、デジタルカメラ市場は縮小を重ねていった。XQDとCFastは、さらに規模の小さいプロ用機器カードだったため、ソニーやサンディスクなど強力なメーカーがサポートしたとはいえ、参入メーカーは少なく、安定した市場を形成するというには程遠い船出となってしまった。

ミラーレスカメラも一眼レフカメラも、メモリーカードがなかったらレンズ交換式望遠鏡か広角鏡になってしまう。メモリーカード市場を再び活性化させなければならない。そのためには新たな発想・取り組みが必要なことは明白だった。

次世代規格は“One Team”で策定:2013年~

デジタル技術の進化は止まらない。2013年には早くもXQDとCFastの次世代をどうするか? がテーマになった。止まるところを知らないデジタルカメラ・ビデオにおける記録メディアに対する要求が、両規格の持つ限界速度(500〜600MB/秒)では足りなかったからだ。同時に、この次世代規格は、“ねじれ”を修正し、“誰にでも安心して選んでもらえる”メモリーカード規格を策定する、まさに“最後のチャンス”だった。

CFA(共同議長はキヤノンとニコン)は、XQDおよびCFastの経験値、デジタルカメラ・ビデオ市場の置かれたポジショニングを踏まえ、全ての利害関係者にとってメリットのある規格にするため、ホストメーカー、メモリーカードメーカー、コントローラーメーカー、パーツメーカー含めた「One Team」で議論を進めた。多くの課題に一つひとつのコンセンサスを積み重ねたため、最終合意が得られたのは2016年のことだった。こうして2017年にCFexpress1.0として、次世代メモリーカードの規格が策定・発表されたのである。

CFexpress規格のコンセプト

・次世代規格を一本化する
・最先端かつオープンなコンピューティング技術を適用し、ホスト・カードともに参入可能性を最大化する
・技術の進化への適合可能性を最大化し、できるだけ長寿命な規格とする
・イメージング機器だけでなく、より多くのデジタル機器に採用される可能性のある規格とする
・これまでの規格との互換可能性をできるだけ維持する

上記のコンセプトを踏まえ、CFexpress規格は以下のように決まった。

CFexpress規格の概要

・次世代コンピューティング技術として主流となったPCIe NVMeインターフェースを適用する
・同じPCIe接続のXQD規格を継続活用し、ホストサイドからの互換可能性を維持する
・サイズと速度のバリエーション(Type A/B/C)により、適用ホストの可能性を拡大する

以上により、CFexpressのホストもカードも、コンピューティング市場に存在する部品やソフトウェアを調達することによって開発を開始することができる。PCIe技術の進化への対応も、同じ規格サイズで対応することが可能だ。また、XQDからCFexpressへの互換可能性もホストサイドのファームウェアアップデートにより維持され、XQDからCFexpressまでシームレスな規格となった。

こうしてCFexpressは、常に最先端かつ長寿命でありうる規格としてスタートを切ることになったのである。ホストメーカーには安心して採用される、メモリーカードメーカーには安心して市場に参入できる、そして最終ユーザーには安心して買ってもらい、喜んで使ってもらえる、そんなメモリーカード規格になることを目指して。

CFexpress対応ファームウェアを適用したLUMIX S1R(バージョン1.3)にXQDカードを挿したところ。XQDカードとして認識し、問題なく使用できた(撮影・検証:編集部)

CFやCFast、XQDは今後どうなるのか?

「新しい規格として、CFexpressが誕生したのだから、旧い規格であるCF、CFast、XQDはもう終わりなのですか?」と質問されることがある。結論から先に言えば、これらの3規格はバージョンアップなどの進化は想定しにくいが、規格としては継続されることになる。

CFast 2.0カードとXQDカード

ホストメーカーが採用するか? カードメーカーが生産するか? 選択はあくまでもそれぞれのメーカーが判断することになる。それぞれの規格を採用する現行モデルは、ホストもカードも存在する。したがってCFAは3つの接続インターフェース規格で5つの形状のメモリーカードを提唱していくということになる。

CFAの提唱する規格

SDExpressとは?

以上、CFexpress規格の策定の詳細をサイズ展開の意図や策定の経緯などとともにみてきた。最後に、SDAの提唱する次世代規格SDExpressについても触れてみたい。

SDExpressも、CFexpressと同じく接続インターフェースにPCIe NVMeインターフェースを採用した規格だ。レーン数もCFexpress Type Aと同じ1レーン仕様なので限界速度は985MB/秒だ。

パフォーマンスが同じなら広く普及しているSD UHS-IIカード(以下、UHS-IIカードと表記)の次世代規格SDExpressの方が良いのでは? と思う人も多いだろう。しかしSDExpressには、CFexpressの背景で述べてきた“過去の課題”に通じる2つの問題がある。

SDExpressはUHS-IIには互換性がないこと

ひとつめの問題は、SDExpressにはUHS-IIへの互換性がないことだ。

SDExpressでは背面端子部2列目のピンをNVMe対応として使用するため、UHS-IIに対応できない。したがって、SDExpress対応ホストにSD UHS-IIカードを使用すると、UHS-Iカード(限界速度104MB/秒)として動作する。逆も真なりで、UHS-II対応ホストにSDExpressカードを使用すると、同じくUHS-Iカードとして動作してしまう。

現在発売されているミラーレスカメラやデジタル一眼レフカメラの多くは、UHS-IIに対応している。したがって、SDExpressホストとカードが発売されても、既に多くのUHS-II対応ホストがある以上UHS-IIカードの重要性・必要性は全く変わらない。それだけでなく、相互の互換性が分かりにくく混乱を招くことも想定される。ホスト視点からも、カード視点からも、SDExpressに移行する動機づけが乏しくなり、移行には時間がかかると想定される。また、SDExpressの速度を必要とするホストに、UHS-I速度の互換性があることに、どれだけのメリットがあるのか疑問だ。

UHS-Iとの互換性を保つにはコントローラーの開発が必要となること

2つめの問題は、NVMeとUHS-I双方に対応するコントローラーの開発が必要となることだ。

SDExpressの普及に時間がかかれば、開発投資の回収にも時間がかかる。市場の成長が不明な製品に対し、特別仕様のコントローラーを開発してまでSDExpressカードに参入するメモリーカードメーカー、ホストメーカーがどれだけいるのだろうか。

現時点、SDExpress採用を明言しているホストメーカーはまだない。これらの「疑問」を解消するビジネスリーズンが見いだせないからではないだろうか。SDExpressとCFexpress、名前はよく似ているけれど、規格コンセプトは180度違っているようにみえる。

第3回予告

連載2回を通じてCFexpressの速度がもたらすメリットと、規格策定の道のりをみてきた。3回目となる次回は、カメラからみたCFexpressについて掘り下げてみたい。

大木和彦

おおきかずひこ:プログレードデジタル日本代表。ソニー、マイクロソフトなど数社を経て2006年サンディスク入社、2013年マイクロンに移りレキサーを担当。その後現職。13年以上に渡りフラッシュメモリービジネスに従事。「イメージング業界をメモリーカードから盛り上げる」がモットー。