新製品レビュー

Panasonic LUMIX S5

歪みがなく心地の良いEVF コンパクトながら良好な操作性

パナソニックの35mm判フルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S5」(9月25日発売)のインプレッションをお伝えします。今回はキットレンズともなっているLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6のほか、Sシリーズの標準ズームでもあるLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.、小型単焦点のLUMIX S 85mm F1.8の組み合わせでみていきました。

[2020.11.27修正]記事初出時(11月25日)にメーカーより三角環カバーが逆付けになっているとの連絡を受けました。これに関して、各製品画像を三角環カバーを正しく装着したものに差し替えました。

サイズ感と重量

まず本機のボディサイズについてですが、筆者がメイン機にしているAPS-Cフォーマットの富士フイルムX-H1と比べても少しだけ小さいという事実に驚きを禁じえませんでした。ライバル機であるソニーα7 IIIやニコンZ 6などと比べてみても“おおよそ同等”と言って差し支えないサイズ感ですが、重量だけはやや重めです。

キットレンズでもあるLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6と組み合わせると、その重量は約1.1kgとなります(ボディ約714g+レンズ約350g※バッテリーおよびSDメモリーカード1枚を装填した状態)。筆者の基準では、フルサイズ機という枠に当てはめて考えなくても、本機は気軽に持ち歩けるカメラだと思いました。

ちなみにLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.を装着すると、重量は約1.4kgになります(ボディ約714g+レンズ約680g※条件は同前)。「旅行のお供にしたり、目的を定めずにカメラを1日持ち歩く」という条件でギリギリ負担を感じない最大の重さを考えると、筆者はカメラとレンズを合わせても最大で約1.0~1.3kgの以内に収まっていれば好ましいと考えています(もちろん撮影がメインで、さらに目的がハッキリしているなら、10kgでも担いで行きます)ので、LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.との組み合わせだと、重量の面では少しだけ負担に感じるかもしれないな、と思いました。

グリップまわりの印象

手元で弄り倒した限りではグリップ感は上々。強いて挙げるなら、筆者の手には深さが若干足りない気がしました。ただ、このあたりは個人差がありますので、あくまでも筆者の印象では、ということです。

シャッターボタンへの指掛かりはとても自然。電源スイッチについてもカメラを握ったまま、親指もしくは人差し指でOFF/ON操作が出来るのはGoodです。

各種ボタン類の配置デザインについても使いやすく、例えばWB/ISO/露出補正ボタンには高低差が設けられていて、ISOボタンにはポッチが付けられている等、ブラインド操作でも指がボタンを探す事がないので好感触。

総じて操作性はかなり良く、UIもわかりやすいので、全くの初見でも少しカメラを弄れば問題無く使いこなせそうなところは、パナソニックのカメラに共通する美点だと思います。

ただ、気になった点もいくつかありました。まずカメラを構えてみて気になったのが、グリップした際にショルダーストラップ取り付け用の金具が人差し指の付け根に突き刺さること。どうにも邪魔な位置に吊り下げ用の金具が配置されているように感じました。さらに言うと、メディアスロットカバーを開くときにも三角環がカバーに引っ掛かって開ききらないことがありました。

※編集部注:三角環カバーが逆付けになっている状態です

◇   ◇   ◇

[2020.11.27追記:編集部]
メーカーからの三角環カバーが逆付けになっているとの指摘をうけまして、上記の豊田氏指摘内容について、編集部にて再現性の検証を実施しました。三角環カバーを逆付けにした状態と正しく装着した状態で、それぞれ角度や前後の傾きを含め、様々な状態でメディアスロットの開閉操作を1セットにつき10回繰り返すという方法で検証しています。

結論としては、三角環カバーを逆付けにした状態だとボディを左側に45度ほど傾けた状態で高い再現率となりました。正しく装着した状態では、突起部がボディ側にくるため、若干三角環カバーがボディ側より浮くようになります。この状態であらためて問題の角度を含め、他の角度および傾きでも検証したところ、スロットカバー開閉を三角環カバーが妨げることはありませんでした。

三角環カバーが逆付けになっている状態。メディアスロットカバーが三角環に当たっている
三角環カバーを正しく装着した状態。カバーの突起部のアール形状がメディアスロットカバーの力を逃してスムースな開閉動作となっていた

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操作面

操作面では、ダイヤルやボタン類の操作感が25万円以上というボディ価格を考慮すると、ちょっと物足りませんでした。

ボタン類は全体的にストロークがあり押し易いですが、押し感がどれも若干チープ。またAFモードボタンの押下感がとても曖昧な点や、AF−ONボタンについてもボディの小型化が影響しているためか、操作感が悪い事が気になりました。

他にもモードダイヤルやドライブモードダイヤルのローレットについて、角がトゲトゲしていて触感があまり良くないなと感じました。

フォーカスセレクターを兼ねるジョイスティックは、誤操作への配慮なのか、収納時や衣服への引掛けによる破損を嫌ったのかは分かりませんが、LUMIX S1と比べて高さが低く、操作性・操作感ともに悪化しています。

ボディの剛性感は非常に高く、安心感があります。が、キットレンズのLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6は、ズーム操作で鏡筒を伸ばした時に、鏡筒を揺するとガタつきがある点が気になりました。ニコンのZレンズやキヤノンのRFレンズは、ハイクラスのレンズ以外でもこういった部分のガタつき感が非常に少なくなっているので、特に気になった点でもありました。

作例

LUMIX G9以降のパナソニック機の特徴だと思っているのが、赤系の色に「瑞々しさ」や「艶感」がある点。印象的なのに現実の見た印象に近く、特に強調されているとも感じないので絶妙だと思います。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(60mm) / プログラムAE(F8.0・1/60秒・+0.3EV) / ISO 160

LUMIX S1シリーズのような感動的な覗き心地ではないけれど、水平垂直がとり易いEVF。やはりカメラはこうでなくては。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(46mm) / プログラムAE(F6.3・1/60秒・±0EV) / ISO 320

松下幸之助氏に敬意を払い、ナショナル印の室外機をパチリ。iダイナミックレンジを適用していませんがハイライトからシャドーまでなかなか良い階調性があると思います。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(60mm) / プログラムAE(F9.0・1/80秒・±0EV) / ISO 100

階調に対するコントラストの付け方には味がありますが、少しマニアックに色に対する感度(どの色がどのくらいのグレーになるか)を見てみると、色よりも明度でトーンを決めているような、デジタルライクな特性であることが分かります。とは言え結構好きですL.モノクロームD。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(60mm) / プログラムAE(F8.0・1/60秒・-0.7EV) / ISO 200

LUMIX S 85mm F1.8は軽くて小さくて写りも良いので、中望遠好きには是非! と言いたい1本。絞り開放からガシガシ撮れるし、シャープ過ぎない素敵な描写が魅力的。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 85mm F1.8 / プログラムAE(F1.8・1/100秒・+1.3EV) / ISO 100

フリンジが出やすい条件で絞りやピント位置を変えたりしながら撮りましたが、目立つフリンジは出ませんでした。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 85mm F1.8 / プログラムAE(F2.8・1/800秒・+2.3EV) / ISO 400

撮影を終えて:良かったところ

主にスチルカメラとして使ってみてどう感じたか? という報告になります。

Sシリーズは像面位相差ではなくコントラストAFを採用する都合上、AF時には “ウォブリング”という、ピント位置を前後させてコントラストのピークを探る動作によるLV映像の揺らぎがどうしても発生してしまいますが、本機ではその揺らぎが気になるシーンがグッと減っていました。

この点についてパナソニックに質問したところ下記の回答がありました。

Q:従来機(S1シリーズ)と比べて特にS20-60mmレンズとの組み合わせ時にAF時のウォブリングによるLV画像の揺らぎが減ったように思います。何かAF制御の改善があったのでしょうか?

A:S5ではS1シリーズからAF性能を進化させています。
認識AFは、頭部認識に対応したディープラーニングの進化と認識処理の高速化により、追従性の向上や顔・瞳検出力の向上を実現しています。
さらにAFCや動画撮影時のAFについても、新アルゴリズムの採用等により、性能を向上させていますが、今回ご質問のAFC時のライブビューの見え方につきましても、DFDの進化とアルゴリズムを見直すことで検波動作を見えにくくしています。
また11月24日(水)に予定しているファームアップにおいて、S1シリーズ(S1H/S1R/S1)にS5同等のAF性能を展開していきます。

キットレンズと組み合わせた際のハンドリングの良さについても好印象。例えばLUMIX S1とLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.の組み合わせの場合、「今日はフルサイズ機を持っていくぞ!」という気合が必要でしたが、APS-C機並のサイズに収まっている本機とLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6の組み合わせなら、気楽にカメラをバッグに詰め込むことができます。写真は撮ってナンボ、カメラだって持ち歩いてナンボ、みたいなところがあるので、小さい・軽いは基本的に正義です。

画質についても感心しました。自然だけど発色が良いと感じる(パナソニックでは「生命力・生命美」と表現。この画づくりでマイクロフォーサーズ含め製品を展開している)再現性があり、高感度画質についてもフルサイズ機というイメージが持つ期待値をクリアしているので、満足度が非常に高い仕上がりだと思います。キットレンズのLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6についてもよく写ります。

ISO 6400
Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(20mm) / プログラムAE(F4・1/60秒・+1.3EV)

また撮像センサーのカバーガラスに光学ローパスフィルターが内蔵されていない、いわゆる「ローパスレス」仕様なこともあってか、解像感の高い仕上がりもまた、本機の特徴のひとつだと思います。ただし、シーンによってはモアレや擬色が出る、という点には理解が必要。例えば建築のタイル目地やポートレートシーンではセーターやレースの網目などでモアレが目立ち易いと思います。ズーム位置や撮影距離を変えたりカメラを若干回転方向に傾けたり、大きく絞り込める状況ならF13以上に絞り込んで回折させるとモアレや擬色をある程度回避できます。

Panasonic LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(45mm) / プログラムAE(F7.1・1/200秒・+0.3EV) / ISO 100

EVFについては、“必要十分な性能があり、周辺まで歪みが無く覗き心地が良い”と評価できますが、同じ24MPクラスのフルサイズ機を見てみると、より高品位なEVFを持つZ 5などがより安価に存在しているので「ワンランク上のドット数を持つEVFが欲しかった」というのが正直な気持ちです。

120fpsと60fpsの違いについては、120fpsの方が鮮鋭感が少し下がってピントの見えも悪化して見えました。動体撮影したり、大きくパン動作をする等のシーンでは、120fpsの方が明らかに表示が滑らかなので、撮影状況に応じて切り替えるのが良さそうですが、個人的には60fpsで十分だと思いました。

撮影を終えて:気になったところ

意外と気になったのが、ジョイスティックが斜め操作を受け付けないところ。操作感の曖昧さと斜め操作不可が気になったので、タッチパッドAFに設定したところ、操作自体は快適になりましたが、LCDをベタベタ触る事になる、タッチパッドAF時は親指をやや不自然な位置に持ってくるのでグリップ感が低下する、というトレードオフがあります。

グリップ感については、実際に撮影にくり出してみると“当初期待したほどではなかった”というのが正直なコメント。LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.のように600gを超えるレンズとの組み合わせだと、グリップの深さが足りないと感じました。

また前述の通り、タッチパッドAF時にはグリップが少し不安定になるので、丸1日撮影してみると、本機の重量やサイズ感から期待するよりも疲労感が大きい気がします。これは手の大きさに由来するものかも知れないので、気になる人はお店やショールームで試してみてください。

ストラップ取り付け用の金具については、ずっと意識させられました。これは筆者にとっては大きな不満点となりました。

他にも、撮像センサーにゴミがつきやすいのか、はたまた落ちにくいのかは分からないけれど、センサーゴミはかなりつきやすい印象です。

※編集部注:三角環カバーが逆付けになっている状態です

手ブレ補正について

LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6を装着し、ズーム位置を40mmに、シャッター速度を1/2秒にそれぞれ設定して、背面モニターを見ながらそこまで頑張らずに撮影した場合の手ブレ補正の効果についてもチェックしてみました。まず結果をお伝えすると、この条件なら撮影したコマの少なくとも70%以上は使えるカットになりそうです。しかし60mmまでズームすると歩留まりは40%程度まで低下しました。

また1秒間の露光ではズーム位置が40mmであっても歩留まりは約20%程度。筆者の経験から言えば、“概ねスペック通り”という印象です。個人差や体調によって結果は前後しますので、このあたりはあくまでも参考程度に。

連続撮影枚数とバッファ

バッファについても軽く計測してみました。使用した記録メディアは、サンディスクの最速モデルであるExtremePro 32GB UHS-II。ISO 1600で約7コマ/秒で連写したところ、JPEG+RAWで27コマ連続で撮影できました。バッファフル後は大体1.5コマ/秒程度。バッファ開放まではUHS-IIに対応するスロット1で約21秒、UHS-I対応のスロット2では約36秒でした。UHS-IIに対応するスロットは片方だけなので、連写や動画撮影を多用する人、同時記録で使用したい人は注意する必要があるでしょう。

バッテリーライフについては、単写のみかつJPEG+RAW記録で、比較的こまめに電源をOFFにする以外はデフォルトの設定で、背面モニターとEVFの切り替え頻度は、おおよそ1:1という条件でスナップ撮影したところ、330コマ撮影したところでバッテリーの残量目盛りが「1」になり、390ショットでバッテリー表示が点滅になりました。%表示であれば「あと○コマ撮れそうだ」という予測がつくので筆者的には%表示が好きですが、一方で具体的な数値が表示されると気になって仕方がないという人もいますので、表示スタイルを選べると良いなと思いました。

ともあれ、最近のカメラにしてはちょっとバッテリー消費が大きいと思いますので、予備バッテリーは必須。旅行などでは最低2個の予備バッテリーか、もしくはUSB Type-Cによる給電動作にも対応していますので、PD対応の大容量モバイルバッテリーが欲しいところです。

まとめ

以上お伝えしてきたとおり、ファーストインプレッションとしてのGoodポイントとbadポイントを整理すると、以下のようになりました。

Good

・覗きやすいEVF
・比較的コンパクトなボディ
・操作性の良さ
・キットレンズとの組み合わせで、とても軽快
・進化したAF
・画質が良い
・Lマウント

Bad

・ストラップ取り付け金具が気になる
・重量級レンズとのマッチングは少し微妙
・お値段と質感のバランス
・バッテリー消費が大きい
・全開にならないバリアングルモニター

総合的に判断して、SIGMA fpを除いて、静止画用のLマウント機としてはもっともリーズナブルに入手できる本機、キャッシュバックキャンペーンを併用できるならとても魅力的なカメラであると断言できます。LUMIX S 85mm F1.8のような軽量コンパクトな単焦点レンズとのマッチングの良さも魅力的です。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。