新製品レビュー

SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary

ミラーレス対応で刷新されたライトバズーカの威力とは

シグマから発売されたミラーレスカメラ用望遠ズームレンズ「SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary」は、中望遠となる焦点距離100mmから400mmの超望遠域までをカバーする、35mm判フルサイズセンサー対応の交換レンズである。対応マウントはLマウントおよびソニーEマウント。同じ焦点距離域をカバーするズームレンズでは、一眼レフカメラ用の「SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM|Contemporary」があるが、両者の違いは単にフランジバックの長さをミラーレス機に合わせただけという訳ではないという。そこで今回、あらためて本レンズを、SIGMA fpとLUMIX S1Rにそれぞれ組み合わせて試用し、その実力に迫ることとした。

望遠撮影に特化したズームレンズ

本レンズは、広角端100mmから望遠端400mmまでをカバーする超望遠ズームレンズだ。開放F値はズーム操作に伴って変動するタイプで、100mm側でF5.0、128mmからF5.6に変化し、238mmから400mmでF6.3と、開放絞りが変化する。

レンズのサイズは最大径が86mmで、フィルター径は67mmだ。長さはLマウント用が197.2mm、ソニーEマウント用では199.2mmとなっている(ともに100mm時)。質量はLマウント用が約1,135g、ソニーEマウント用は約1,149gとなっている。一眼レフカメラ用の100-400mm F5-6.3 DG OS HSM|Contemporary(最大径86.4mm、全長182.3mm、フィルター径67mm、質量約1,160g:※各数値はシグマSAマウント用)と比較すると、大きさ・質量ともにほぼ同じであることがわかる。

シグマのミラーレスカメラSIGMA fpに本レンズを装着したところ。カメラ自体が小型であることもありレンズの大きさが目立つが、トータルでのサイズを考えると、これで400mmの超望遠撮影が可能であることを考えればかなりコンパクトな組み合わせといえる。

レンズフードは製品に同梱。なおマウント部にはゴムシーリングが施されており簡易的な防塵防滴機構となっている。ただし、あくまでもマウント内への異物侵入をある程度防ぐ程度と考えておいた方がよいだろう。

100mm側
400mm側

レンズ鏡筒左手にAF/MF切り替えスイッチが設けられている。他に測距範囲切り替えスイッチ、AFLボタン、レンズ内蔵手ブレ補正ON/OFF/設定モード切り替えスイッチがある。

レンズ鏡筒右手にはズームロックスイッチが設けられている。ロック操作は100mmの位置でのみ有効だ。ちなみに本レンズはレンズ先端部を直接手で掴み、直進ズームのような操作も可能な“デュアルアクションズーム”としている。

三脚座(別売)の取付けも可能。一眼レフカメラ用の100-400mm F5-6.3 DG OS HSM|Contemporaryには三脚座がないので、別売とはいえ三脚座を取付けることができるようになったことはとても良い改良だ。なお三脚座のプレート部はアルカスイス互換形状となっている。

レンズ構成は16群22枚(FLDレンズ1枚、SLDレンズ4枚を含む)。絞り羽根は9枚で、円形絞りを採用。最小絞り値はF22。最短撮影距離は広角端で1.12m、望遠端で1.6m。カメラ側からの補正(周辺光量、倍率色収差、歪曲収差など)にも対応している。

AFは位相差AFとコントラストAF両方に最適化したステッピングモーターを採用。動画AFや瞳AFにも素早く反応することができるとしている。またレンズ内手ブレ補正機構(OS)を搭載。シャッター速度にして約4段分(CIPA準拠による)の効果が期待できる。

遠景撮影で解像力を確認

広角端と望遠端で、それぞれ遠景を撮影してレンズの解像感を確認した。絞りは開放から最小絞りまで1段ごとに変えて撮影している。

広角端100mm時

広角端といっても100mmは中望遠にあたる。そもそも画像中心部と周辺部の違いは広角レンズほど顕著ではないが、このレンズではよりその差は小さい。

画像中央部の立て看板と柵の描写を見る。開放F5.0から高い解像力であることがわかる。そこからF8.0〜16.0と絞ることで木々の葉や柵の分離がより明確になり解像力がピークを迎える。F22まで絞っても解像力は十分にある。

画像周辺部はF5.0でも十分に解像しているが、ほんのわずかだがコントラストが低い。F5.6からコントラストも上がりF11まで解像力とともに維持する。F16からほんのわずかだが解像力が低下しF22まで絞るとその差が広がる。とはいえF22でも必要十分以上の画質だ。

100mm
Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary / 絞り優先AE(F5〜F22・1/500〜1/25秒・-0.3EV) ISO 100
F5.0
F5.6
F8.0
F11
F16
F22

400mm時

開放絞りF6.3では周辺減光が若干目立つが、400mmという超望遠の焦点距離にも関わらず開放絞りであってもとても解像力に優れている。

画像中央部の灯台の細い梯子やワイヤー、手摺などが見事に解像しており開放絞りF6.3からF22まで解像力は全く衰えない。

画像周辺部は開放絞りF6.3で周辺減光の影響か若干解像感が鈍るが、F8からF16まで解像力が高まりススキの穂までも確認できるほどだ。F22では流石に解像力が落ちるが使用を躊躇う理由にはならないだろう。

400mm
SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary / 絞り優先AE(F6.3〜F22・1/250〜1/20秒・+0.7EV) ISO 100
F6.3
F8.0
F11
F16
F22

作例:SIGMA fp編

まずはシグマのミラーレスカメラSIGMA fpと組み合わせから。さすが同一メーカーの製品どうしの組み合わせだけに、コンパクトサイズのボディとの組み合わせでも違和感はない。ただしSIGMA fpにはEVFがないため、今回の撮影では背面モニターを接眼ファインダーとして使用するLCD VIEW FINDER LVF-11を装着して撮影した。

太陽が水平線に沈んだ直後、残照の空が海面に映り込んだ光景。釣り人をシルエットで浮かび上がらせた。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/15秒・±0EV) ISO 800

ヨットハーバーに停泊するヨット。400mm望遠の圧縮効果により離れた位置の製鉄所の高炉が背景に大きく浮かび上がる。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/500秒・+0.7EV) ISO 100

東京湾アクアラインの橋梁部と海ほたるPAを対岸の木更津側から撮影。巨大な橋桁と細かな鉄骨の組み合わせもしっかりと描写。望遠効果と合わさり存在感を引き出す。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/500秒・+1.0EV) ISO 100

谷間いちめんに咲く向日葵の花々。そのなかでひとりすっくと立つようにも見えた花に焦点を合わせて撮影。手前に咲く花がきれいな前ボケとなった。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/250秒・+0.3EV) ISO 200

北海道の小さな漁村の港。夏の暑い一日が終わり太陽が水平線へと沈むまでのひととき。黄金色に輝く海のなかに標識灯がシルエットとして浮かぶ。強い逆光でも滲むこともない。コントラストも高いがシルエット部でも黒つぶれはしていない。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F8.0・1/1,000秒・±0EV) ISO 200

海岸沿いに立ち並ぶ風力発電の風車。日本海から吹き付ける強い風を受けて勢いよく回る。超望遠の400mmで規則正しく並ぶ風車とどこまでも真っ直ぐに伸びる道路を立体的に捉えた。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F6.3・1/800秒・+1.3EV) ISO 200

日没まであと数分。北の島の岬に建つ灯台が灯る。本レンズに三脚座を取付け三脚に据付けてカメラがブレないように慎重にシャッターを切った。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F7.1・1/40秒・±0EV) ISO 400

本レンズは、テレコンバーター2種を組み合わせることもできる。倍率は1.4倍(TC-1411)と2倍(TC-2011)があり、1.4倍なら最大で560mmに、2倍なら最大で800mmの超望遠レンズとしてAF撮影が可能。ただし開放F値もそれに比例して暗くなるので注意が必要となる。

1.4倍テレコンバータTC-1411を併用。北海道最北の宗谷丘陵に建つ数十基
の風車群を、離れた位置から560mmの超望遠で撮影。一基100mの高さにもなる風車が勢いよく回る姿はまさに迫力満点だ。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary+TC-1411(560mm) / 絞り優先AE(F9・1/500秒・+2.0EV) ISO 400

宗谷丘陵に設置されている陸上自衛隊丸山レーダー基地。一般人は立ち入り禁止のエリアに設置されているものも、560mmの超望遠であればエリア外からでも、いまにも手がとどくかと思うほどに大きく撮ることができる。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary+TC-1411(560mm) / 絞り優先AE(F9・1/200秒・+1.3EV) ISO 400

北海道黄金岬から水平線に沈む太陽を撮影。赫灼たる太陽がいまにも沈まんとする時、空の雲までもが燃えるように輝く。800mmという超望遠が引き出す圧倒的なドラマ。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary+TC-2011(800mm) / 絞り優先AE(F13・1/125秒・-0.3EV) ISO 200

北の離島に渡り海鳥たちが集まる岩場を撮影。本レンズはテレコンバータ併用でもAF撮影が可能。被写界深度が極端に浅い超望遠撮影でも精度の高いフォーカス合わせが可能。

SIGMA fp / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary+TC-2011(800mm) / 絞り優先AE(F13・1/640秒・±0EV) ISO 800

作例:LUMIX S1R編

本レンズはパナソニックの35mm判フルサイズカメラSシリーズや、ライカSL/SL2、T、TL、CLなどで使うこともできる。ここではパナソニックLUMIX S1Rとの組み合わせを掲載する。約4,730万画素センサーによる描写もご覧いただきたい。

夏の青い空と牧場施設の赤い屋根。木々の萌えるような緑のグラデーションがとても美しい。約4,730万画素の緻密な描写にも十分にこのレンズは応えてくれる。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(241mm) / 絞り優先AE(F7.1・1/160秒・±0EV) ISO 100

牧場の草を食む子ヤギ。目元にフォーカスを合わせると400mmの浅い被写界深度により体の輪郭は奥に行くにつれ徐々にぼけていく。35mm判フルサイズセンサーとの組み合わせではこのような描写を楽しめるのもメリットのひとつ。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F8・1/60秒・+0.3EV) ISO 100

起伏のある丘に広がる草木。LUMIX S1Rとの組み合わせなら細やかな描写も問題なく再現してくれる。周辺までクリアな描写が気持ち良い。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(100mm) / 絞り優先AE(F11・1/80秒・+0.3EV) ISO 100

アンテナのようないくつもの細かい鉄骨が絡み合った被写体でも、ひとつひとつの物が確実にかつ明確に解像されている。手前の木の前ボケも自然な描写に。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F13・1/100秒・-0.3EV) ISO 100

港に停泊された運搬船。年季の入った鋼板の質感までも見事に描き切る。重厚な存在感を引き出せるカメラとレンズの組み合わせといえる。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporary(400mm) / 絞り優先AE(F11・1/80秒・-0.3EV) ISO 100

まとめ

SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS|Contemporaryは、その見た目もズームの焦点距離域も既存の一眼レフ用望遠ズームレンズSIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM|Contemporaryにそっくりだ。このレンズが発表された当初は、てっきりミラーレス機の構造に合わせて調整した製品なのかと思っていたほどだ。しかし今回、あらためて本レンズをじっくりと使用したところ、100-400mm F5-6.3 DG OS HSM|Contemporaryから受け継いだ点はあるものの、さらに高い描写力を発揮するとともに、AF動作もミラーレス機に最適化されていることに気がつく。さらにサイズ感自体もスリムかつ軽量なものとなっているため、小型・軽量化されたミラーレス機との組み合わせにおけるマッチングの良さも光る。

一眼レフカメラ用の製品は「ライト・バズーカ」の愛称で親しまれているが、本製品も同じく「DG DN版」としてこの愛称を背負っている。開放F値はF5.0-6.3と若干控えめであるものの、これはきっと画質と明るさ、大きさの絶妙なバランスによって導き出された結果だろう。何より、税別12万円という価格に収めながらも超望遠レンズならではの世界を、画質に妥協することなく提供してくれる、というのは多くのユーザーにとって注目ポイントだろう。Lマウント版はテレコンバーターの使用にも対応しているなど、さらなる超望遠の世界を軽快に撮影・体験することもできる。こうした魅力こそが本レンズ最大の特徴だと言えるはずだ。

礒村浩一

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。「人の営みが紡ぎだす日本の日常光景」をテーマに作品制作を行い全国で作品展を開催するとともに、撮影テクニックに関するセミナーへの出演やワークショップ等を開催する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。(公社)日本写真家協会正会員、EIZO公認ColorEdge Ambassador。シグマ公式サイト「SIGMA Station」にてCP+2020で公開を予定していた「シグマfpで撮る小笠原の魅力 国境離島の旅」が公開中