新製品レビュー
汎用性とカスタマイズ性が向上したLoupedeckシリーズの3世代目「Loupedeck CT」
コンパクト形状にタッチスクリーンを実装 視覚表示でわかりやすく
2020年6月10日 06:00
写真や動画の編集に欠かせないLightroomやPhotoshop、Premiereなどのアプリでは非常に多くのパラメータを調整することができる反面、効率的に作業を進める場合は、ショートカットキーや多ボタンマウスなどを駆使しての作業が欠かせない。
しかし、このような操作を行えるようになるまでにはかなりの習熟期間が必要であり、一般の人がすぐ出来るようになるかというと、相応の時間が必要となることも事実。そこで近年注目を浴びているのがカスタマイズ可能なボタンやノブが備わったコントロールデバイスだ。このようなデバイスを使えば複雑なショートカットを覚える必要はなく、ノブを使った直感的なパラメータ変更も可能になり、作業効率がアップするのだ。今回は3月に発売されたLoupedeck CTについてレビューしていく。
Loupedeckとは
Loupedeckは2017年にクラウドファンディングから登場したLightroom専用のコントロールデバイスだ。その後、2018年にはLightroomだけでなくCapture OneやPremiere Proなどの操作にも対応したLoupedeck+(プラス)が発売されている。
この2製品には任意の機能を割り当て可能な多数のボタンやノブが配置してあり、専用アプリと組み合わせることでキーボードやマウスを使う事なく直感的に写真を編集していけるため、愛用するカメラマンも多い。
その一方で、フルサイズキーボードほどの大きさがあるために、狭い日本の住環境で使うにはハードルが高い、という側面があった。はじめからボタンやノブの位置が物理的に固定されていることもあり、カスタマイズ性にも限界があった。新しいもの好きの私も、実は初代Loupedeckを海外から個人輸入して使ったのだが、サイズと自由度(それと初代はノブの質感がイマイチだった)がネックとなりお蔵入りさせてしまった。
今回紹介するLoupedeck CTは従来より大幅に小型化されキーボードやノートPCの横に置きながら操作できるサイズになったほか、自由にカスタマイズ可能なタッチスクリーン式のボタンが採用されるなど、より高性能なコントロールデバイスに仕上がっている。コンパクト化により、サイズの問題もより日本の住環境にマッチしたといえるだろう。実際に2カ月ほど試用してみたので使用感も含めて詳しく紹介していこう。
外観
Loupedeckシリーズはデザイン性が高く、今回レビューするLoupedeck CTもしっかりとした高級感のある箱に入っている。内容物は本体とPCを繋ぐためのUSBケーブル、スタートアップガイドだ。本体のベース素材はアルミであり物理ボタンにはカラーバックライトも仕込まれているため、デザイン面もスタイリッシュでカッコいい。
本体側のUSBポートはUSB Type-Cが採用されており、付属のケーブルはUSB Type-C to USB type-Aのケーブルだ。ちなみにUSB Type-C側のケーブルはL字形状になっておりデスク上の配線もスッキリまとめやすくなっている。
Loupedeck CTのサイズはLoupedeck+の396×155×35mmに対して150×160×30mmとかなりコンパクトになっていることがポイントで、テンキーを一回り大きくしたくらいのサイズ感だ。デスクスペースの関係で使用を諦めていた人でも十分に使えるサイズになっている。
搭載されているボタン類は物理ボタンが20個、ダイヤル(ノブ)6個、コントロールホイール1個の構成。ダイヤルは押下にも対応。コントロールホイールの天面もタッチパネル液晶となっているため、小型化しつつも、幅広いコントロール性能が維持されている。さらにLoupedeck CTの最大の特徴ともいえるのがタッチスクリーン式のボタンが12個(3×4個)搭載されていることだ。
タッチスクリーン式ボタンはカスタムした操作に応じてアイコンの表示が変わるため、キーの割り当てを覚える必要がないのが嬉しい。しかもタッチスクリーンボタンはシーンによって役割を変えることができるため、使い方によっては100を超えるようなカスタム設定をボタンに付与できてしまう。
セットアップ方法
Loupedeck CTの導入にあたり、まず最初にLoupedeckのWebサイトから最新の「Loupedeckソフトウェア」をダウンロードしてインストールしておこう(Win、Mac両対応)。現在のところ、本ソフトウェアは日本語には対応していないが、基本マニュアルには日本語版が用意されている。
インストール後、Loupedeck CTをパソコンに接続することで「Loupedeckソフトウェア」のボタンをカスタマイズできるようになる。導入自体はいたって簡単だ。
ここからLoupedeck CTを自分好みにカスタマイズしていくわけだが、このコントロールデバイスは高機能すぎてセットアップ方法を理解するのが大変だ。使う前に以下の特徴を押さえておかないと、どうカスタムしてよいか分からなくなるかもしれない。
1.Loupedeck CTのボタンやノブの役割は使用するアプリ毎に変わる
同じボタンでもLightroomを使っている時とPhotoshopを使っている時、ブラウザを使っている時で、それぞれの役割が変わってくることを理解することが大事だ。もちろん設定で同じ役割を割り当てることも可能となっている。
2.WORKSPACEエレメントとGENERALエレメントが存在する
6つのダイヤル、12個のタッチスクリーン式ボタン、1つのコントロールホイールは「WORKSPACEエレメント」といって同じアプリ内で異なる役割を割り当て切り換えながら使える。例えばLightroomを使うときにセレクト作業用、基本現像用、詳細色補正用…といった具合にプリセットを変えながら使用できる(手動切り換え)。一方、20個の物理ボタン(うち変更可能なのは15個)は「GENERALエレメント」といって同一アプリ内では同じ役割を持つボタンとなる。
3.Home > Workspase > Pageの3階層を理解して設定する
Loupedeck CTで設定できる階層はアプリごとに自動で切り換わる「Home」、作業シーンごとに手動で切り換える「Workspace」、Workspace内でさらに設定を分けて使える「Page」の3階層になっていることを覚えておこう。
例えば基本現像用のWorkspaceを使うときに物理ダイヤル6つでは足りないといった場合に、基本現像用Workspaceの下に露出コントラスト用、ホワイトバランス用、トーン調整用のPageを作るといった具合だ。「Workspace」と「Page」の切り換えリンクはタッチパネルボタンなどにショートカットとして登録することが可能だ。
つまり、Loupedeck CTは液晶埋め込みのタッチパネル式ボタンとダイヤルのおかげで、やろうと思えば途方もない数のパターンでボタンカスタマイズできるようになるのだ。Lightroom側でできるほとんどの操作に対応しているため、慣れれば左手にLoupedeck CT、右手にマウスといった配置で、ほとんどの操作を完遂できるはずだ。
実際に使ってみて
ここからは実際に使ってみた個人的な感想をまとめていこう。まずは最初に書いたとおり、製品のデザインが洗練されており常にデスクに置いておきたいと感じさせる仕上がりはとても良い。一方で本体は高級感のある金属製だが、ボタンやダイヤルはプラスチックであり、押し心地は安価なキーボードと同様のため、全体の高級感と比べると若干物足りないかな、と感じた。ただし、実際の操作自体は反応性も良く実用には何ら問題ない。上部のタッチ式ボタンも適度な大きさがあり、ボタン間に仕切りが付いているため誤タッチするようなこともなく、快適に操作可能だった。
ダイヤルを使ったパラメータ調整も滑らかに反応してくれる。このため、アナログ的に編集していくことができるのもメリットといえそうだ。
ボタンの割り当て機能についても上述の通り申し分ない。使い始めの時は「Home > Workspase > Page」の3階層構造の感覚が掴めずに苦労したが、ここさえ理解できれば、あとは欲しい機能をボタンにドラッグ&ドロップしていくだけで完全にオリジナルの操作プリセットを作ることができる。ほとんどのショートカット操作を好きな場所に配置して使えるようになるはずだ。
本機最大の特徴である液晶埋め込み式のタッチスクリーンボタンは、アプリ側でアイコンと共にカスタマイズ出来るため、ある程度複雑な配置をしても画面を見ればその機能が何なのか分かるということも大きなメリットだ。
また、完全物理式のコントローラーでは将来アプリ側に大きなアップデートがあった時に使い勝手が悪くなるといったことも考えられるが、タッチスクリーン式ならアプリ側のアップデートにも柔軟に対応できる。公式配布されているボタンカスタム用のアプリについても頻繁にアップデートされており、サポート体制も心配なさそうだ。
また、面白いなと思ったのがLoupedeck CTの本体に8GBのフラッシュメモリが搭載されており、パソコンからはUSBメモリと同じようにリムーバブルドライブとして認識される点だ。
自分で作成したオリジナルプリセットと「Loupedeckソフトウェア」をここに保存しておけば他のPCで使いたいケースでもすぐに同じ環境で作業を進めることが出来る。ちょっとした作業データを入れておくことも可能だ。
一方で使ってみて注意が必要だと感じたポイントは、設定の難解さと物理ダイヤルの数だ。
設定の難解さは高度な割り当て機能と表裏一体の関係となっており、複雑なオリジナル設定を作ろうと思うとそれなりに学習コストはかかってくる。そもそも、LightroomやPhotoshopの機能全容がある程度見えていないと効率的な設定は作りにくいかもしれない。公式に用意されている日本語基本操作ガイドは30ページのボリュームがあり、LightroomやPhotoshopなどメジャーなアプリ向けの操作ガイドがまた別で用意されているほどだ(こちらは現状英語のみ)。
筆者おすすめの使い方を紹介
このようにカスタマイズ性能の高さとひきかえにして、複雑な設定が求められる本デバイスの使用にあたり、筆者がおすすめする使い方をお伝えしたい。それは、Loupedeck側ではじめから用意されているプリセット(Workspace、Page)を使い、自分好みにカスタムしていくことだ。これであればそれほど困ることなく使い始められるだろう。
物理ダイヤルの数についてはボタンワンタッチでプリセット切換が可能なので6つでも大きく困ることはないのだが、切り換え操作は多く発生してしまう。
例えば、Lightroomの場合、基本補正パネルだけで13のパラメータが用意されているため、物理ダイヤル6つのLoupedeck CTですべてを操作しようと思うと3つのPage(6+6+1)を作らねばならない。カラー調整でよく使うHSLに至っては24のパラメータがあるため、Pageが4つ必要になってしまう。実際にすべてをLoupedeck CTで操作しようと思うと、WorkspaceやPageの切り換え動作がかなり多くなってしまうことは覚えておこう。デスクスペースが大きいなら物理ボタンがたくさん付いたLoupedeck+の方が作業効率は上がりそうだ(Lightroomで使う場合)。
作業の効率アップに向いているのかという点でも使う人によって評価が分かれそうなポイントになると思う。この手のコントロールデバイスは物理ダイヤルで直感的に操作ができるため作業効率アップに繋がると思いがちだが、実際にはダイヤルを持ち替える操作が発生するためそれほど時間短縮にならない場合も多い。
Loupedeck CTの場合、タッチパネルの左右に3つずつのダイヤルが付いているため片手で操作する場合はダイヤルの持ち替え操作が少し大変だ。私の場合、キーボードショートカット操作に慣れていることもあり、作業効率という点で言うと従来のショートカット+高性能マウスでの操作のほうがワークフロー全体で見ると効率的に作業できそうだという感想だ。Lightroomで使う場合は作業効率アップというよりはダイヤルを使い、アナログ的な操作で直感的に調整が出来るという点に価値があると感じる。
まとめ
この手のコントロールデバイスは作業スタイルによって使用感が大きく異なるアイテムなのだが、設定の自由度や機能という点で見ると私がいままで触ったことがあるものの中ではもっとも高機能なものであると感じた。
現在は対応していないが、本機にはBluetooth機能も内蔵されており、今後ソフトウェアアップデートで利用可能になることがアナウンスされている。今後はさらに自由な使い方ができるようになっていくことだろう。6万9,800円と導入するにはなかなか勇気のいる価格だが、これまでにない自由な操作感を得たい人には検討する価値が十分にあるといえそうだ。