新製品レビュー
TourBox
Lightroomでの作業を効率良く カスタマイズ性の高いコントローラー
2020年1月9日 07:02
LightroomやPhotoshopといったクリエイティブソフト向けの新型コントローラー「TourBox」(ツアーボックス)が登場する。今回、メーカーであるTourbox Tech Inc.からサンプルを提供頂いたので、その使い勝手などをお伝えする。
TourBoxは、いわゆる“左手デバイス”の1つで、右手にマウス、左手にTourBoxという具合に手を置いて、クリエイティブソフトでの作業効率を向上させるためのアイテムだ。
もともと2018年に海外のクラウドファンディングサイト「Kickstarter」でプロジェクトを成功させ、海外では2019年7月に出荷を開始していた製品だ。米Amazon.comなどではすでに購入できるが、この度国内向けに「Makuake」で予約販売が始まった。
一般販売価格は税込1万9,600円だが、Makuakeでは数量限定の早期割引価格で予約を受け付けている(1月7日現在)。国内向けの出荷は4月とのことだ。
対応ソフトは、先に挙げたPhotoshopやLightroomのほかにもCapture One、Illustrator、Premiere、Final Cut Pro、DaVinci Resolve、CLIP STUDIO PAINT、SAIなど、動画編集やイラスト制作ソフトなどにも対応しており幅が広い。詳しくは後述するが、これはTourBoxのカスタマイズ性の高さによるものである。
目次
・本体は小型
・セットアップ
・カスタマイズソフト「TourBoxコンソール」
・スライダーの操作が楽になる
・ボタンの割り当てとカスタマイズ
・Webブラウザなどの操作も
・Loupedeckとの違い
本体は小型
付属品はUSBケーブルとマニュアルが2冊。TourBox本体は幅116mm、奥行き101mm、高さが44mmとコンパクト。比較的持ち運びもしやすいサイズ感だろう。
重量は370gと大きさに対してずっしりしている。おそらく安定性を高めるためにわざと重めに作ってあるのではないかと思う。ゴム製の足もしっかりしており、使っていて机の上で滑るといったことはなかった。
対応OSはWindows 7以降およびmacOS 10.10以降。本体に電池は不要だ。本体背面にはUSB Type-CとUSB Type-Aの2つのコネクタがあり、PCとの接続はUSB Type-Cで行う。
付属のUSBケーブルは長さ約1.5m。製品付属のものとしては珍しい袋打ち仕様であり、しなやかなのがよい。
USB Type-AコネクタはスルーのUSBポートになっており、例えばUSBメモリーなどを刺すとPCからアクセスできる。つまり、ノートPCなどUSBコネクタが少ない環境でTourBoxを使ったとき、コネクタ数を担保するようになっている。
セットアップ
TourBoxのセットアップだが、WebサイトからダウンロードできるドライバーとTourBoxコンソールをインストールし、そのあとで本体をPCに接続すれば認識される。
TourBoxコンソールにはLightroomとPhotoshopのプリセットがあらかじめ登録されていた。ただ、Lightroomのプリセットでいえば登録されていないボタンやその組み合わせも多く、ごく基本的なものだけがプリセットされている感じだった。
ソフトにおいてよく使う機能は各自で異なると思うので、プリセットをベースに色々追加していくのが良さそうだ。つまりTourBoxを自分好みに“育てていく”といったイメージだろう。
そういうわけなので、上記2つ以外のソフトで使う場合は一からプリセットを作る必要があるということだ。
カスタマイズソフト「TourBoxコンソール」
TourBoxにはダイヤルが3個、ボタンが12(ホイールの押しボタン含む)あって、専用ソフト「TourBoxコンソール」でカスタマイズできる。わかりやすい作りでカスタマイズはやりやすい。
機能の割り当ては複数のボタンの同時押しやダブルクリック、ボタンを押しながらダイヤルを回すといった組み合わせでも登録可能。ざっと数えたところ、組み合わせは42通りだった。これだけあれば普段使う多くの操作をカバーできそうだ。ソフトごとのプリセットももちろん作れるようになっている。
海外のクラウドファンディングから生まれた製品だけに、日本語対応を心配したが杞憂だった。TourBoxコンソールはヘルプなども含めてフルで日本語化されていた。また、パッケージに入っていたマニュアルは英語版だったが、日本語のマニュアルがWebで公開されている。
TourBoxコンソールの画面は左側がプリセットリストとなっており、ソフトの名前をクリックするとそのプリセットに切り替わる。右側が選んだプリセットの設定内容となる。変更したい設定をポイントすると左側の本体写真で実際のボタン/ダイヤルがハイライトされるのでわかりやすい。
そのままクリックすると設定の画面となりショートカットキーなどを選べる。PhotoshopとLightroom用にはショートカットの組み合わせが機能名の「タグ」として登録されており、検索で簡単に探せる。膨大な数のショートカットがあらかじめ登録されているので、この検索機能は助かる。
スライダーの操作が楽になる
今回はLightroom Classic(バージョン9.1、OSはWindows 10)で試用した。TourBoxコンソールのバージョンは1.1である。とりあえず、最初から入っているLightroomのプリセットを使用した。
なんといっても、Lightroomをマウスで操作するとき、面倒なのが現像モジュールのスライダー操作ではないだろうか? 小さいスライダーはマウスで掴みにくく、微妙な操作がしにくい。筆者はそう感じていた。そこでTourBoxの回転系操作部が活躍する。
TourBoxの操作部材にはそれぞれ固有の名前が付けられている。3つの回転系操作部はそれぞれ「ノブ」「スクロール」「ダイアル」と呼ばれる。3つの違いはスライダーの動く量である。
これらの回転系操作部の動作だが、スライダーをポイント(マウスポインタを置いた状態)して、回転系操作部を回すだけである。マウスのホイールでもスライダーは動かせるが、一度スライダーをクリックしなければならないのが結構面倒なのである。TourBoxではポイントするだけで動かせるので、次々にスライダーを調整していける。
スライダーの調整でメインに使うのは「ノブ」である。人差し指または中指で軽く回せる。そして、「ノブ」よりも大きくスライダーを動かしたい場合に回すのが「ホイール」で、薬指などで上下に回すイメージ。さらに、「ノブ」よりも少ない量を動かしたければ「ダイアル」を動かす。ダイアルは薬指か小指で回せる。
一部のスライダーにおける最小の変化量をそれぞれの回転系操作部で確認したところ、「ノブ」は色温度で50K、露光量で0.1EV、「スクロール」は色温度で200K、露光量で0.33EV、「ダイアル」は色温度で5K、露光量で0.02EVだった。大きな値を調整するときは「スクロール」を使い、微調整は「ダイアル」を使うのが良いだろう。
実際に操作してみると、3タイプの変化量があるためにマウスよりもずっと早くイメージした画像に仕上げることができた。マウス操作でありがちな、ほんの少し動かしたいのに、勢いでズズッと沢山動かしてしまうあのまどろっこしさは解消する。この回転操作部分だけでも導入する価値はあると思った。
そのほか、回転系操作部はボタンを押しながら別の動作をすることもできる。デフォルトでは「トール」というボタンを押しながら「ノブ」を回すとブラシサイズを変えられる。加えて「トール」を押しながら「ダイアル」を回すとブラシのぼかしを調節できる。ブラシサイズのほうはマウスホイールでも変えられるのだが、ぼかしの大きさもすぐに変えられるのがポイントである。
なおクリックストップがあるのは「スクロール」のみで、他は滑らかに回転する仕様となる。
ボタンの割り当てとカスタマイズ
次にボタンの割り当てを見てみる。メインボタン部分(サイド、トップ、トール、ショートの各ボタン)は初期設定ではほとんど機能が登録されていないため、各自でよく使う機能を割り当てて使いたい。
例えば筆者は「トール」ボタンにグレースケール(モノクロ)切り替えを割り当ててみた。これで写真をモノクロにしたときにどう見えるかを瞬時に確認できる。これはキーボードのVキーを押したことと同じなのだが、右手をマウス、左手をTourBoxに置いたままで実行できるのがミソ。なるべくキーボードに手を移動させなくて良いように割り当てを作るのがコツだろう。
TourBoxには上下左右のいわゆる十字キーもある。デフォルトでは現像モジュールの右側にあるパネルの開閉に割り当ててあり、上が基本補正、下が明暗別色補正、左がHSL、右がディテールとなっている。
この十字キーのみ、HUD(ヘッドアップディスプレイ)表示機能があり、割り当てをフローティングで出しておくことができる。
ちなみに筆者はこれらのパネルはほぼ全部を常に展開しているので、個別に閉じたりはしない。となれば、別の機能を割り当てられる。そこで左と右にライブラリモジュールと現像モジュールをそれぞれ割り当ててみた。こうすると、頻繁に使う2つのモジュール間移動がやりやすい。
そしてもう1つ大変便利に感じたのが、「ノブ」の右上にある「C1」と「C2」ボタンである。それぞれ「取り消し」と「やり直し」が割り当ててある。操作を戻したいときにCtrl+Zを押すより遙かに楽だったことを記しておきたい。
沢山の割り当てはなかなか覚えられないということもあると思うが、「ノブ」の左下にある「ツアー」ボタンを押すと、割り当て一覧のガイドがポップアップするので素早く機能を確認できる。
Webブラウザなどの操作も
TourBoxはクリエイティブソフト用ということになっているが、ショートカットキーで操作できるソフトなら色々動かせる。例えばWebブラウザのChromeで画面のスクロール(マウスのホイールよりも微小に動かせる)やタブの切り替えを割り当てることもできた。また特定のWebサイトの操作――例えばYouTubeで再生速度やボリュームを変えるといったことも可能であった。
ただし今のところ、使用中のソフトを検出して自動的にプリセットを切り替える機能は無い。そのためLightroomからPhotoshopに作業を移ろうとすると、TourBoxコンソールでプロファイルを手動で切り替えなければならないのが、少々めんどうではあった。
その反面、1つのソフトに対して複数のプリセットを用意しておき、用途に合わせて切り替えると行った高度な使い方も可能となっている。
Loupedeckとの違い
この手のコントローラーとしては、先行する「Loupedeck」(およびLoupedeck+)がよく知られている。Loupedeckはある程度機能を固定したダイヤルを多く備えており、一例として複数のパラメーターを同時に変更するといった芸当ができる。
一方、TourBoxはスライダーをマウスでポイントしないといけないので、1度に動かせるのは1つのパラメーターだけである。筆者はそれで困ることも無いが、TourBoxのほうが汎用的なデバイスという印象だ。
こうして見てみるとLoupedeckとのコンセプトの違いは興味深い。本体の大きさも全然違う。Loupedeckは充実したボタン/ダイヤルを装備しているためキーボードほどのサイズがあり、実際キーボードの前などに置いて見ながら操作するといったイメージだ。
その点TourBoxはだいぶ小さい。キーボードの左側において、見ずに操作するようにできていると感じた。それは、ボタンなどが立体的になっていて、指先で探せるようになっていることからもわかる。慣れは必要だが、いちいちコントローラーに目をやらなくてよいのはメリットだろう。
コンセプトを想像するに、Loupedeckがある程度「こう使いなさい」というイメージなのに対してTourBoxは「どうぞご自由に」という感じだ。すなわち、TourBoxはカスタマイズ性が非常に高いため、ユーザーを少し突き放したようなところも感じられるのだが、それだけにカスタマイズを自分のものにできれば、とても強力なツールになる可能性を秘めているといえそうだ。