新製品レビュー
TAMRON 70-180mm F/2.8 Di III VXD
軽さと近接性能が魅力のフルサイズ望遠ズーム
2020年6月23日 06:00
2020年5月14日、タムロンからEマウント用のレンズ「70-180mm F/2.8 Di III VXD(Model A056)」が発売となった。すでに発売されている28-75mm F2.8 Di III RXD(Model A036)と17-28mm F2.8 Di III RXD(Model A046)に、望遠ズームレンズである本レンズが加わることで、フルサイズミラーレス用大口径ズームレンズ3機種がついに出揃った。
今回は、当レンズを用いてスナップ撮影を行なった。α7R IVに装着して撮影した作例を見ながら、本レンズの魅力を体感していただければと思う。
※撮影は緊急事態宣言解除後に身近な場所で実施している。
サイズ感と重量
ズーム全域で開放F2.8通しにした、というと「とにかく大きくて重い。そして持っていると疲れる」といったイメージが根強い。しかし、このレンズはそんなイメージをことごとく覆す。「使用頻度の高いズームレンズだからこそコンパクトに」というタムロンの強い信念を感じる。
望遠側の焦点距離を200mmではなく180mmに設定することで、フィルター径φ67mm、長さ149mm(70mm時)、重量810gという圧倒的な小型軽量さを実現している。αのボディに装着したときもバランスが良い。
レンズの写真だけだとサイズ感が伝わりづらいので、身長148cm、自分よりも小さな手をした大人を見たことがない筆者がカメラとレンズを手に持ってみた。小さな手の女性が手にしても、無理なくホールドできる。これでF2.8通しの望遠ズームレンズだというのだから驚きだ。
ただし、当レンズはインナーズーム式ではないため、180mmまでズームすると全長が少しだけ伸びる。
デザイン
鏡筒デザインは非常にシンプルで、すっきりとしている。筆者は、触ったときにあたたかさと柔らかさを感じる、本レンズ鏡筒のマットな質感がとても好みだ。空気が冷え込むような状況でも、レンズからヒヤっとした感触が伝わることはない。
手ブレ補正のスイッチなどはついていないが、唯一、右側面に70mmを選択すると使用できる「LOCK」スイッチがある。このスイッチは、持ち運びする際、鏡筒が誤って繰り出されるのを防ぐためのもの。また、70mm固定で撮影したいときにも使用できる。
フォーカスリングおよびズームリングは心地よいトルク感があり、微妙なズーミングやピント合わせがしやすい。近接撮影時に、マニュアルフォーカス操作でより細かくピント合わせをしたいときでも操作性は抜群だ。
AF
AF駆動には、新開発の静粛性・俊敏性に優れたリニアモーター「VXD(Voice-coil eXtreme-torque Drive)」を採用している。これにより高速かつ高精度なAF制御が可能となっている。
ドラマの撮影現場で、スチールの撮影に当レンズを用いてみたのだが、そこで高いAF性能を実感することになった。
スチールの撮影はVTRが回っている最中にも進行しなければならないので、現場ではちょっとした物音を発することすらご法度だ。今までは望遠ズームレンズを使うと、カタカタというモーター音が気になるシーンがあったけれども、今回は静まり返った現場でもレンズのモーター音がまったく聞こえず、一切気になることはなかった。その静粛な動作には驚かされた。
また、AFは前記したとおり高速かつ非常に高精度であり、必要カットを取り逃がすこともなかった。組み合わせたα7R IVの顔/瞳認識AF機能も問題なく動作するので、遠くから人物を狙うような場合も、安心して撮影に臨めた。
作例
動物園で寝そべるカピバラを撮影した。望遠ズームレンズは、手前にある金網の存在を感じさせることなく被写体に寄って撮影できるのでありがたい。絞りは開放のF2.8だが、ゴワゴワして硬そうな毛の質感が見事に描写されている。カピバラのずっしりとした存在感を感じられる一枚となった。
雨の日、ひっそりと佇む一輪車を撮影した。本レンズの良さは、被写体の色や質感を誇張せずに描いてくれるところにあると思っているが、この一枚からはその特性を強く感じてもらうことができるだろう。しっとりと濡れた葉や金属の質感が伝わってくる。
少し高いところから、目の前にまっすぐ伸びる道を見下ろしてシャッターを切った。奥の方まである程度シャープに描きたかったのでF5.6まで絞った。周辺も流れず、画面内の直線がまっすぐに描かれており気持ちが良い。
70mmは意外とスナップにちょうどよい画角だと思う。手前のものにピントを合わせ、背景を大きくボカせば、ちょっとしたストーリー性のある写真を撮れて楽しい。このカットは、自転車に乗った少年を大きくボカしすぎると、なんだかわからない写真になってしまうと思ったので、F5まで絞ってその存在が薄れないようにした。
日没直前の川辺で撮影した一枚。ひらけた感じを描きたかったので、手前の草にピントを合わせて、背景をボカした。やりすぎない色味、やりすぎない質感描写が、夕暮れ時の黄昏れた雰囲気を余すところなくすくい取ってくれた。
池の水面に触れ、波紋をつくる葉が美しいと思ったのでシャッターを切った。全体は優しい描写だが、ピント合焦面だけは息を呑むほどクリアで、それが現場で感じた「ハッ」とした瞬間を描いてくれているように感じた。
太陽をフレームの中に入れ、思いっきり逆光で撮影してみた。若干フレアとゴーストが発生しているが、このように、かなりいじわるな状況を作り出さない限り、これらは出現しない。逆光に相当強いレンズだと言える。
3匹でうとうとするアヒルが可愛いと思い、立ちどまった。私は昔アヒルを飼っていたことがあるので、アヒルについては知識があるほうだ。アヒルの羽はよく観察すると白一色ではなく、グレーっぽい白や、黄色っぽい白も混ざっている。このレンズは、そんなアヒルの「いろいろな白」をしっかりと描いていると感じた。
草むらにしゃがみこんでいたら、前方を小さな鳥が横切ったので、とっさにシャッターを切った。草が生い茂る中、鳥はかなりのスピードで移動していたが、高速かつ高精度なAFのおかげで、一撃で画面中央にしっかりとおさめることができた。拡大してみると、鳥がシャープに描かれていることに驚くが、口に虫を2匹咥えているのもハッキリと見えて、ちょっと怖くなった。
花を撮影していたら、そこへ親指の先ほどの大きさの虫が飛んできた。即座に、ほぼ最短撮影距離(0.85m)まで近づいて撮影した。とにかくAFが速くて正確なので、シャッターチャンスを逃さずにすむ。180mmが作り出す大きなボケは、身近なシーンをドラマチックに変えてくれる。
最短撮影距離(0.85m)まで寄って、昼食のガパオライスを撮影した。従来の望遠ズームレンズはあまり寄った撮影ができないものが多いので、食事シーンを撮るには向かないような印象があったが、本レンズはかなり近接しての撮影が可能だ。気軽にテーブルフォトにも使えることだろう。
この時は少し暗かったのでシャッタースピードを遅くしている。レンズに手ブレ補正がついていないので心配になるところだが、α7R IVのボディ内手ブレ補正がしっかりとブレを抑え、シャープな結像が得られた。
当レンズは、カメラボディ側でマニュアルフォーカスに設定した場合のみ、70mmでなんと0.27mまで寄れるというユニークな特徴がある。望遠ズームレンズをマクロレンズのように使えるのは嬉しい。ここでは、水の入ったグラスにぐっと近づいてみた。氷のぬるりとした質感が気持ち良い。
雨の日、屋外に咲く赤い花を覗きこみ、フォーカスをマニュアルフォーカスに設定。70mm側で0.27mまで寄って撮影した。画面周辺部は大きく流れているが、それも味という一枚に仕上がった。あまりに近づけるので、レンズ前面に水滴がついてしまったが、防汚コートが施されているのでさっと拭くだけで元どおりになった。
絞り別の描写をチェック
ここまで作例を見ていただいた。最後に絞り値別に描写がどのように変化するのかを見ていただきたい。比較は70mm側と200mm側それぞれでおこなっている。なお掲出したカットは、すべてカメラ内のレンズ補正をオンにして撮影している。
軽量性が撮影の現場を大きく変える
超広角ズームレンズ「17-28mm F/2.8 Di III RXD (Model A046)」、標準ズームレンズ「28-75mm F/2.8 Di III RXD (Model A036)」に、望遠ズームレンズである本レンズを加えると、F2.8通しの大三元レンズが出揃ったことになる。
3本はデザインや操作性が統一されており、レンズを交換した際も操作に気を取られず撮影に集中できる。また、フィルター径は67mmと共通しており、PLフィルターをはじめとした各種フィルター、レンズキャップなどの共用もできる。
そして、なんといっても魅力なのが、3本あわせての総重量が1,780gと、2リットルペットボトルよりも軽いところだ。これまでF2.8通しのいわゆる大三元ズームレンズを持ち歩くには覚悟と気合が必要だったが、これらは気軽に持ち歩くことができる。筆者は、ドラマの現場スチールの仕事で、3本をカメラバッグに入れ、一日12〜15時間×数日間持ち歩いていたが、肩にじんわりと疲労を感じるくらいで済んだ。今までならば、考えられないことだ。本当にこれは「撮影者の肉体的負担を軽減する」という意味で革命的な出来事なのだと、身をもって感じた。
そして、この3本があれば、開放F2.8通しの明るさを確保しながら17mmから180mmという、日常的に使用するほとんどの焦点距離をカバーできる。結果として、スナップだけではなく、ポートレートやテーブルフォト、ネイチャー写真など、撮影の幅をいちだんと拡げることができる。ドラマのスチールでは、28-75mmを基本にし、広めの状況カットが必要なときは17-28mmを、演者にぐっと寄ったカットが必要なときは70-180mmを、といった使い分けで対応していった。
まとめ
今回は、状況も状況ということで、身近なところで身近なものを撮影した。最初は、望遠ズームレンズで身近なものを撮れるのだろうかと心配だった。望遠ズームレンズは、仕事以外だと、景勝地で遠くのものを撮ったり、ちょっと気合が入ったシーンで持ちだすイメージがあったからだ。
しかし、それは杞憂だった。タムロンレンズの「被写体を見たままに描く」特徴はそのままに、驚異的な小型・軽量さと高い描写性能、0.85mという短い最短撮影距離が、70-180mmという望遠ズームレンズを私の日常にすっと溶け込ませてくれた。気づけば、気軽にレンズを持ち出し、身近なものをすすんで撮る自分がいた。
大口径望遠ズームレンズならではの大きなボケ味は、身近なシーンをたちまち新鮮な絵に変えてくれる。正直なところ「望遠ズームレンズってこんなに楽しかったんだ」と思った。
このレンズは、人々の日常に寄り添うズームレンズだと思う。大口径望遠ズームレンズへ敷居の高さを感じているすべての人に、ぜひ使っていただきたい。