新製品レビュー

Panasonic LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.

見事なボケ味と立体感を実現 テレコンバーターを使用した作例も

35mm判フルサイズセンサーを採用するパナソニックSシリーズ用望遠ズームレンズ「LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S」(S-E70200、2020年1月17日に発売予定)の試作機をテストできることになり、僕には楽しみと同時に不安があった。それは第一に、現状使っている同シリーズのS PRO 70-200mm F4 O.I.Sレンズが非常に優れているゆえの楽しみと、舞台撮影などで使っている他社F2.8ズームと比べてどうか、という点での不安だった。

本レビューで使用している製品は試作段階のものです(編集部)

デザイン・操作性

箱をあけてみた最初の印象はデカイ、であった。フィルター径は82mmあり、同クラスが77mmなことを考えると硝材を非常に贅沢に使っていることがわかる。鏡筒もどっしりと太い。フォーカスリミッターなどのスイッチ部分が、後からパネル部材を取り付けるのではなく鏡筒に直接加工されているのが精密さを感じさせる。全体のデザインは精悍だがやはり太さはあり重そうだ。最近の小型軽量を売りにしたミラーレスシステムを見慣れてしまった自分を再認識した。

だが、長期にわたって撮影しているマングローブの森(ヒルギ林)に入り、レンズを実際に持ってみるとそれほど重くない。鏡筒を指先でたたいてみるとマウントに近い側は金属、フォーカスリングに近い側はプラスチックを使っているようだ。金属は熱の変化に強く、プラスチックは衝撃を吸収する。それぞれの素材を使い分け強度を確保した上で、重さのバランスをとっているのではないかと想像する。

ボディに装着した状態。雨の中でも普通に写真が撮れる。これは撮る世界を確実に変える。体験した者でないとわからない世界だ

重さは三脚座なしで1,570g。以前から使っている他社のF2.8が1,490gなので80g重いのだが、LUMIX S1Rにつけて握ってみると、これが持ちやすいのである。なんというか、きわめて感覚的ではあるが「写真機を構えている」という感じがぴったりくる。特徴的な尖ったフードの形状もどこか「やる気」にさせるものがあるのだ。

三脚座をつけた状態だけでなく、S1Rにつけた状態でも自立した。動画撮影の際にビデオヘッドのカウンターバランスがとりやすい

もちろん長時間片手でハンドリングしなくてはならないような場面ではS PRO 70-200mm F4 O.I.S(三脚座なし985g)を選ぶこともあるだろう。早い時期に2本の70-200mmを揃えてきたLUMIX Sシリーズは、メーカーの方向性をはっきりと感じさせて好ましい。メーカーがどこに向かうのかはっきりしないままでは、ユーザーも思い切ってマウントを変更できないものだ。

ほかにも三脚座はアルカスイス対応になっており、愛用の雲台へダイレクトに取り付けが可能になったり、三脚座が凝ったつくりでボディからレンズを外さずに取り外しできたり(雨中ではなるべくレンズ交換は避けたい)、いろいろな点で機能が練りこまれているのが感じられた。

愛用のLUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.との比較。使っているカメラザックにフードをつけたまま収めることができた。フードを逆向きに付け替えているとチャンスを逃すことがある。

AF・MF

LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.は「レンズとはどうあるべきか」にこだわった製品だ。それもプロに向けて開発されたものである。LUMIXでは「匠」のイメージをもとにプロダクトの開発を進めてきたという。匠とは職人のこと。つまり機能性を第一にデザインを決めているということだ。このあたりは協業をしているライカのシステムとも通じるものがある。パナソニックは銘機LUMIX GH-4、GH-5などのGシリーズでも、年々増えていく機能を小さいボディにうまく纏めあげてきた。LUMIX GMシリーズなどの非常に小さなカメラでもユーザーインターフェースが使いやすい。

このレンズもよく考えられている。MFとAFの切り替えは、フォーカスリングを前後にスライドするだけで切り替えることができるクラッチ機構を採用している。カチッと素早く切り替えが可能だ。音をさせたくない現場ではゆっくりとずらすことで音を軽減することができた。

切り替えは操作リングの幅が広いために気持ちよく素早く決まり、切り替え後の応答の遅れもない。今回レンズを持ち込んだマングローブの森の中は木立が縦横に密集し、AFには厳しい場所だ。MF・AFを頻繁に切り替えることになるが、レンズを支えた同じ姿勢で切り替えられるのでストレスがない。この機構は他社レンズでも使ってきたが、改めて便利だと感じた。

フォーカスクラッチ機構:AF操作時
フォーカスクラッチ機構:MF操作時

新規にフォーカスボタンも追加された。縦位置でも押しやすいように3つある。今回はボディのファンクション設定で「AFモード切替」にした。自動認識、追尾、スポット、というように切り替えられたことで撮影の流れがスムーズになった。

今のところ別々の設定はできないが、今後のファームアップで個別に設定できるようになると面白いだろう。例えば左横ボタンはMF時にAF-ON、上ボタンはAF-SとAF-Cの切り替え、といったように。

フォーカスボタンはボディ側に向けて斜めにつけられているため手探りでも押しやすい。またグローブをつけた状態で扱ってみても問題なく使うことができた。もちろん設定でOFFにもできる。

フォーカスリミッターと手ブレ補正スイッチは表面形状を変えてある。暗い現場でこれは助かるものだ。手ブレ補正スイッチは頻繁に使うため、大きさも適度にあり無理なく動かせるデザインなのはよい。

SシリーズのAFは巷では「まだまだ」と言われているのを耳にするが、スピードと正確さは見事だ。AF-Sは爆速といってもいい。「DFD」(空間認識AF/Depth From Defocus)の熟成に加え、フォーカスレンズを2つのグループに分けたことによる軽量化が効いているのだろう。あまり宣伝されていないがLUMIX S1Rは−6EVまで対応と、暗い場面でも思いのほか合焦するので、肉眼では見づらい宵の口の暗い森でのピント合わせでAFが重宝した。

レフ機ではいちいちライブビューに切り替えて、時間がたって画面が閉じたらまたボタンを押して……、とカメラに気を遣いながらピントを合わせたり、ヘッドライトで被写体を照らす苦労をしたりと余計な操作が多かったが、そんな作業に煩わせられないぶん、見ているものに集中できる。

AF-Cに関しては、精度はいいものの、他社機から乗り換えた僕としてはやはり測距中のEVF内表示の「揺らぎ」が気になる。初めて使ったときには戸惑った。風景撮影ではほぼ使わないので気にならないが、インタビューや鳥の撮影などで使っているとせっかくの高精細なEVFがもったいない気がする。また瞳AFの食いつきでは他社機に負ける場合がある。これは今後のボディの改良でもう一歩高みへと登りつめてほしいところだ。今も相当の高みにいるのだから、ブラッシュアップされればどれだけ魅力的なシステムになることだろう。

そして目玉でもあるボディ内手ブレ補正とレンズでの補正が協調する「Dual I.S.」は圧倒的だ。これまでの補正4~5段分のレンズと、このレンズの補正7段分を使い比べてみると雲泥の差がある。例えば作例で2倍テレコンバーターをつけた400mmでのミナミトビハゼの写真があるが、手持ちで80分の1秒で撮っている。三脚に頼らずガンガン迫っていけるのは非常に強力な利点だ。

対候性と耐久性

機材は使い分けだと常々思っている。軽く小さくなくてはいけない場所には小さいシステムを持っていくし、最高の絵を求めるときにはLUMIX S1Rのようなカメラとこのようなレンズを持ち込むことになる。スタジオカメラや中判・大判カメラには重さも画質的にもまだまだ上の存在がいるから、“35mmフルサイズ”は実は元々はコンパクトなシステムだったと認識している。

高校時代山岳部だった僕が影響を受けた写真家のお一人に新妻喜永さんという方がいる。それまで大判カメラの独壇場だった山岳写真の世界で彼が35mm判のカメラを使い始めたのは衝撃だった。山の中で小さな風景を探し出す新妻さんのスタイルは今でも古びず、新鮮さに満ちている。今思うとライカが始めた35mm判フルフレームは、野外で取り回せる機材としてサイズと画質のバランスがとても優れていると思わせるのである。

さて、LUMIX Sシリーズの特徴はなんといっても対候性と耐久性だろう。開発段階ではボディにつけた状態で何度も落下させ、壊れたらそのウィークポイントを埋めていく方法で設計が進められたという。その姿勢は家電メーカーというイメージを突き破り、「本物のカメラシステムを創りあげる」という気迫に満ちている。僕がLUMIXにマウントを変えた大きな理由のひとつだ。

S PRO 70-200mm F2.8 O.I.Sについてもそのタフさは受け継がれているだろう。その証として「S」の赤いエンブレムがついている。スポーツカーでも「R」「RS」などの赤いエンブレムは、特別な製品だというメーカーの自負をあらわす。一定以上の性能があることは当然の話なのだ。赤いエンブレムを嫌う方もいるようだが、僕はこのくらいメーカーの主張があってもいいと楽しんでいる。どこか創り手の顔が見えるような気がするからだ。これは道具としては案外大事なことでもある気がしている。

画質

画質については単焦点と比べられることが多いズームだが、その差は昔に比べるとずいぶん縮まってきた。後ほど紹介する作例では、なるべく絞り開放での描写を選んでいる。絞ればシャープなのは当たり前だからだ。しかしこのレンズの特徴は、じつは絞ったときの柔らかさにある。前述のようにマングローブの森内は木々が密集して立ち並んでおり、その隙間を縫って撮影をすることになる。前ボケも後ボケも入りまくるのだ。しかも木々の肌はとにかくボコボコしていて、ボケのうるさいレンズでは途方にくれることになる。

その点このS PRO 70-200mmF2.8 O.I.Sは、アポダイゼーション効果を使ったレンズ以外では最高の部類に入ると思う。絞り羽根に11枚の円形形状を採用したうえで、収差の残し方と解像力のバランスをよほど実写で追い込んだのだろう。開放から完全に実用になる解像力と、とてもやわらかなボケを見せてくれる。「とろけるようなボケ」は誇張ではない。

メーカーでは非球面レンズ加工の経験値の高さをコメントしていて、確かに非球面レンズの登場で指摘されるようになった「玉ねぎボケ」はほとんど見当たらない。これは安心できる。

昔、あるメガネメーカーのレンズ研磨の現場で働いていたことがあるが、レンズは研磨剤と水を注ぎながら樹脂やガラスをひたすら回転させて磨いていくというシンプルな方法で作られる。その基本は機械が多くの作業をこなすようになった今も変わらない。ベースとなるレンズ金型の表面をいかに滑らかにするかも重要だから、ボケを見ていると製造現場の技術力の高さが想像できるのだ。

逆光での描写に関しては感じ方に個人差があるだろう。僕としては他社製品を含めてみても、このレンズは仕事で使えるレベルだと思う。ヌケは非常によく、センサーの実力もあって実際にその場にいるような感じに写ってくれる。ゴーストは時に大きく出るけれど、レンズ枚数の多い望遠ズームとして現時点では高いレベルにある。もちろんまだ向上の余地はあるから、これからの技術力の発展に期待したい。

唯一このレンズの「弱点」をあげるとするなら口径食かもしれない。相当がんばっているが200mm最近接での描写ではどうしてもボケはレモン型になってしまっている。もちろんこれは他社レンズでも同じであることに留意しておくべきで、メーカーでも最大限努力したことをカタログに明記している。これ以上を求めると野外では使いづらい大きさ重さになってしまうから、現時点では使う者各自が按配を判断するほかないだろう。

また開放付近での周辺光量落ちは「周辺光量補正」がONの状態ではわかりづらい。僕自身は周辺減光を味として使いたいほうなので、実は普段ボディの「周辺光量補正」はOFFにしている。均一な描写が必要な場合には設定をONにするか、2段以上絞ればよい。このあたりを目的に合わせて選べるのは写真家としてありがたい。ちなみにシネマ用途の場合は断然OFFにする。

絞り開放時の描写

非常に柔らかい描写だ。あえて逆光ぎみにし、200mm最近接で撮っている。口径食は出ているが現在持っている同クラスの他社レンズよりその形は穏やか。フィルター径82mmの力だ。

F2.8(200mm)
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F2.8、1/8秒) / ISO 1250
F5(200mm)
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F5.0、1/3秒) / ISO 1250

絞り込んだ時の描写の変化

マングローブの森(ヒルギ林)の地面は砂利と泥で出来ている。さまざまな形の砂粒が重なり合うため、ボケのよくないレンズではぐちゃぐちゃになってしまう。背景のボケがスムーズなことはこのクラスのレンズでは当たり前だが、開放でも絞っても手前にあるものがちゃんと分かる描写は見事だ。トーンをVIVIDにして硬めにしているが、細部を見ると光が当たったヒルギの稚樹の濡れた葉の階調も、樹々のシャドウ部の陰影の違いも確実に描き分けている。

F2.8(100mm)
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 100mm / マニュアル露出(F2.8、1/80秒) / ISO 1250
F8(100mm)
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 100mm / マニュアル露出(F8、1/10秒) / ISO 1250

中央部の画質と周辺部の画質

70mm域も200mm域も開放から安定して四隅まで高解像な描写をする。周辺画質の安定感を見てほしい。写真を整理しているとき、どれが開放か分からなくなった。絞り開放から安心して使えるため、微妙なボケを活かした絵作りが可能だ。

70mm

F2.8
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F2.8、1/500秒) / ISO 400
中央部
周辺部
F5.6
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F5.6、1/200秒) / ISO 400
中央部
周辺部

200mm

F2.8
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F2.8、1/500秒) / ISO 400
中央部
周辺部
F5.6
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F5.6、1/160秒) / ISO 400
中央部
周辺部

ボケ味

毎日水に浸かるマングローブの森は湿気に満ちている。地味なキクラゲも光に透けると存在感が増す。昔STFレンズを使っていたことがあるが、やはり僕は玉ボケが好きだ。木漏れ日が地面に描くのも丸い玉だから。最短撮影距離でもピント面はシャープなのでマクロ的に使える。あとは中間リングが発売されれば200mmマクロにもなるだろう。背景の玉ボケの位置を三脚なしの手持ちで調整できるのは非常に助かる。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 169mm / マニュアル露出(F2.8、1/20秒) / ISO 800 / 手持ち

この場所は、マングローブの若木が台風で折れたまま並ぶ場所。森の常でそこには光が入り、次の世代がチャンスを得る場所でもある。非常に煩雑な背景で、並みのレンズではここまでの自然さは出せない。背景のヒルギの樹の根が何本かまでわかる。RAWに比べ情報量では劣るJPEGだが、LUMIX S1Rの画像処理がよい仕事をしている。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F7.1、0.6秒) / ISO 1250 / 三脚使用

逆光時の描写

逆光での写りを確かめようと強い日中の太陽にしつこくレンズを向けると、角度によって青や赤のゴーストが出る。これは他社フラッグシップレンズと同程度だが、今後のコーティング改良にも期待している。海の作例では上下にレンズを振ってゴーストの出方を見た。午前十時くらいの南国の太陽は、少し雲を被っているのに肉眼ではとても注視できない眩しさだ。だがフレアも少なく暗部の情報量がすごい。ちなみにフードは外して撮っている。こうした撮影はレフ機では眩しくてほぼ勘頼りだったが、ミラーレスではとことん追い込める。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F3.5、1/4,000秒) / ISO 400
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F2.8、1/16,000秒) / ISO 100
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F2.8、1/16,000秒) / ISO 100

焦点距離ごとの描写

雨の日の夕暮れ、森はゆっくりと夜の準備を始める。今日の満潮は真夜中だから、カニたちにとってはまだしばらく食事ができることになる。芸術的な樹肌のテクスチャーを不足なく再現できるレンズだ。このレンズの70mm域は歪みも少ない。フルサイズ4,730万画素は大伸ばしする写真展で活きてくる。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F14、15秒) / ISO 320 / 中型三脚使用

海の潮が置いていった流木。次の満潮にはトビハゼたちの休み場になる。木の繊維の中では虫たちの食事会が開かれていることだろう。背後で見守る樹々の視線を感じながら、70mmで彼らの無言の声を再現できるように絞りを確かめていく。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 70mm / マニュアル露出(F5.6、0.6秒) / ISO 1250 / 小型三脚使用

畑と違って間引きなど誰もしない。なんとも狭そうだ。けれどもやがて自然の力がひとつひとつ試練を与え、いつかこの中の数本だけが残っていく。100mmは客観的に物事を見せるのに向いている。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 100mm / マニュアル露出(F7.1、1/6秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用

水のないときのマングローブの世界は足の踏み場がない。オヒルギの膝根(しっこん)が縦横に張り巡らされて、樹々の呼吸を助けている。その合間に小さな生きものたちがうごめいている。何かに集中したときの僕らの視野にも近い100mmがしっくりきた。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 100mm / マニュアル露出(F7.1、2秒) / ISO 1250 / 小型三脚使用

ヒカゲヘゴの幹の一部が流れ着いていた。じっくり見てみるとヒルギの根っこにも似て、水の通り道が複雑に絡み合っている。植物という生命の秘密を垣間見る。森の中では135mmは寄りで使うことが多い。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 135mm / マニュアル露出(F11、0.6秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用

紅葉のない沖縄だが、ヒルギの森の中にはささやかな彩りがある。ヒルギの葉たちはやがて落ちた枝と一緒に水に溶け、海の魚を育てる。それぞれの葉のストーリーを丁寧に掬いあげたくて、足元の世界を淡白に切り取れる135mmを選んだ。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 135mm / マニュアル露出(F14、0.5秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用・回折補正ON

うすくコケの生えたヒルギ。だがフサフサとした苔はない。やはりここは海の上になる場所なのだ。過酷な環境で生きる姿に感じ入る。背後にある大きな樹に参加してもらうために165mmを選択。マングローブの森はすべてにおいて足場が悪く、もう一歩を踏み出せないことも多いからズームレンズが活躍する。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 165mm / マニュアル露出(F7.1、1.3秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用

ウラシマミミガイは干潮時には樹に登っていることが多い。休んでいるようだが小雨がまた降ってくると殻の中から2本の小さな触覚が出てきた。樹肌が前ボケに入っているが、その滑らかさに驚く。見通しのよくない森の中では165mmは専らアップ専用になる。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 165mm / マニュアル露出(F3.5、1/6秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用

大雨のなか、ヒルギの幹を伝って樹冠流が流れ落ちている。樹液も混ざっているのか根元では泡になっている。樹の生き様は動物にも負けず艶かしい。地面にカメラを押し付け、このレンズの最大倍率でのぞきこんだ。ひと段落してふと見ると借りたレンズが泥まみれになっている。やや焦ったが、すぐに来た次の大雨できれいになった。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F2.8、1/20秒) / ISO 1600 / 手持ち

マングローブの外縁には照葉樹の森がある。木性シダのヒカゲヘゴは荒地に最初に進出していく「パイオニア植物」。原生林の象徴ではない。ススキからヘゴ、森の奥へと時間の連なりが見える。200mmは多くの人が見慣れている焦点域だからこそ、何を見ているかが問われる。僕にとってはススキがなければ撮らなかった風景だ。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 200mm / マニュアル露出(F9.0、1/60秒) / ISO 320 / 手持ち

防塵防滴・階調表現

大雨。梢から滝のように雨水が叩きつける。ヒルギの葉が水に打たれて踊るときの波紋に引き寄せられた。レンズにもボディにも容赦なく泥のしぶきが降りかかるが構っている余裕はない。雨のピークはほんの数十秒だからだ。耐候性の高い機材でなければ被写体への気持ちが途切れてしまう。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 165mm / マニュアル露出(F2.8、1/400秒) / ISO 3200 / 手持ち

ところどころに折れて落ちている枝にどうしても目がいく。この枝はもう半年ここにある。手持ちでも撮れるが、じっくり向かい合いたくて三脚を据えた。よく観るとすでにキノコが菌糸を伸ばしている。このマングローブの森がこの先どうなっていくのかをずっと見届けたいが、それは僕の寿命では叶わない。自然を観るということは、自分の生と死を見つめることでもある。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. / 135mm / マニュアル露出(F5、1/13秒) / ISO 1250 / 中型三脚使用

テレコンバーター使用時の描写

ユウナの花が水に溶け、ミナミトビハゼがそばでじっと休む昼下がり。高い空には旅客機が飛んでいる。Sシリーズにはすでにテレコンバーターも用意されている。頑張って非常に口径の大きい内蔵レンズを組み込んであるのだが、2倍(DMW-STC20)も1.4倍(DMW-STC14)も開放ではにじみが出てボケもリング状になり、僕的には厳しい。

1.4倍のテレコンバーター「DMW-STC14」

カメラ内蔵のEXテレコン(1.4倍クロップとズームクロップ)を用いて1.4倍クロップするほうが描写を維持できる。だがテレコンバーターとはそういうものだと知って使えば活用の場はある。1.5段以上絞って使うと解像感は戻ってくるので、例えば青空バックの鳥などにはいいだろう。AFスピードは1.4倍は体感的に変わらず、2倍ではややスローに感じるものの、総じて使えるレベルだ。

Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.+DMW-STC14 / 280mm / マニュアル露出(F4、1/250秒) / ISO 1250 / 手持ち
Panasonic LUMIX S1R / LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.+DMW-STC20 / 400mm / マニュアル露出(F7.1、1/80秒) / ISO 1600 / 手持ち

気づいた点

AFに関しては意外な盲点があった。これはLUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.でもそうなのだが、雨の日は遠景にAFではピントがあまり合わず、ほとんど手前の雨粒に合ってしまうのだ。ここまで高性能になったAFにも驚くが、こんなときにMFにせずフォーカスリミッターで5m~無限遠にセットしてみるとうまくいく。思わぬ裏技の発見だった。

また書き添えると、約576万ドットのファインダーの見えは非常に優れている。ピーキングをONにしなくてもMFでピントを合わせることにも向いている。同じ有機ELファインダーが新しいライカSL2にも採用されていることがそれを証明している。ライカを使う方はMF使用も多いと思われるからだ。だが一点、MFの注意点としてバイワイヤ駆動(MFでも電気式で動く)であることには留意したい。

LUMIX S1Rでは回転角度まで細かく指定できるので通常使用であれば何の問題もないが、アリを撮るときのような超マクロ域で使う際、MFのピント合わせのコンマ数ミリが決めにくいことがある。できれば今後、機械式でねっとりと超微妙なピント合わせができるレンズの復活も希望したいと個人的には思っているところだ。

僕たちのように366日写真のことを考えている人間は、ああだこうだと機材に手を加えて使いやすくしていく。それは時に不便なレンズやカメラも並行して使っているからこそで、もともと便利さは自分のアイデアや経験も加味して創りあげていくものだと思っている。市場に出ているカメラはある意味その理想的なカメラを創りあげるための素材だという感覚である。

例えば、本レンズは最短撮影距離が0.95mと、かなり頑張っている。倍率は0.21倍だ。だがもう一歩近づけたらいいのは間違いない。ウラシマミミガイの写真の時がそうだった。テレコンバーターを使ってみたが、やはり単体より解像力が落ち、ボケの輪郭が出てきてしまう。この点ではLマウントで薄めの中間リングを早急に用意してほしい。サードパーティでも探しているがまだ見つけられないので、ボディキャップとレンズキャップを背中合わせに合体させた簡易中間リングをDIYで製作中だ。

また最近のカメラならではの方法として、LUMIX S1RにはEXテレコンが内蔵されているので、画素数が必要のない場合には、ボケ味を落とすことなくAPS-Cフォーマット2,350万画素のカメラとして望遠と寄りに使うこともできる。

フードのロックボタンだけはいただけない。ポコンと飛び出していてレンズとのねじ込みも緩くつくってあるので、携帯時にロックボタンが解除されてズレることがある。この点はLUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.も同じ。カメラバックの中でも収納を考えないと外れてしまうのだ。厳寒時の手袋使用を考慮しているからだが、これではロックボタンの意味がないのではないだろうか。僕ならばボタンは飛び出ないように作っておき、ユーザーが嵩増しできるオプション部品を販売するだろう。

またはユーザーが自分で何かを取り付ければいい。凹んでいるぶんにはDIYもしやすい。仕方がないので僕のF4レンズのフードロックボタンは周囲を高くする加工をするか、ボタンを削って低くしようかと思っている。今は仮止め養生テープでズレないように留めているのだ。

まとめ

いろいろと厳しい意見も書いてきたが、写りの素晴らしさで僕はこのS PROシリーズに本当に期待している。次は僕の常用レンズであるマクロが楽しみだ。ぜひライカの銘玉マクロエルマリートを超えてほしい。そして中間リングも野外では必須なのですぐにでも発売してくれるとうれしい。

去年、それまで使用していたカメラメーカーからLUMIXへと変更したのは、パナソニックという企業への関心と期待も大きな理由だった。かの松下幸之助を創業者に持ち、環境問題やSDGsについても早くから率先して取り組んできたのをずっと見てきた。自然環境を撮影対象とする僕にとって、そうした企業の姿勢も選択の理由となる。ただ、カメラに関してはこれまで一歩を踏み出せなかったのも事実だ。

2008年、世界初のミラーレス一眼LUMIX G1が店頭に並んでいたのを覚えている。多くの動画クリエイターに改造対象としても活用されたGH2、防塵防滴となったGH3、ついにダブルスロットになったGH5から多くのカメラマンにとって仕事用としても圏内に入ってきたと思う。仕事として使う場合、ダブルスロットであるとか、電池が一定以上保つかとか、防滴だとかの条件を満たしている必要がある。

僕は沖縄という東京から離れた所にいる関係もあって国内よりも海外の写真・映像界に目が向いてきたが、機材の外見にとらわれない海外のクリエイターが小さいGH5を徹底的に使い込んで素晴らしい作品を生み出していることに影響を受けてきた。徐々に機は熟した、そんな気がする。そして、パナソニックにとってもカメラ事業からの撤退かフルサイズかという一大決断でもあったS1、S1Rの開発があり、僕もその熱意に感銘を受けてLUMIXをメイン機にすることに決めたのだ。

レンズ分野でもパナソニックは長い間ライカと組んでレンズ生産の経験を積み上げてきている。他メーカーのレンズしか使ったことのない方はマイクロフォーサーズのGレンズでもいい、ぜひ一度試してみてほしいと思う。僕もそうだったが、LUMIXはいつのまにか一流の光学ブランドにもなっていた、という嬉しい発見をするだろう。

現代のレンズはいろいろな素材を組み合わせる自由度がある一方、わかりやすいシャープさに目が行きがちだ。だがLUMIXはレンズの味を大切にしようとしている。同じLマウントアライアンスにはシグマもいて、とにかくシャープさに振ったレンズも用意しているから、そちらのニーズにも対応できる。ただし、シグマの誇る高解像力のArtシリーズと比べても、本レンズやLUMIX S PRO 24-70mm F2.8の解像力は互角に近いことを付け加えておきたい。その上でこの独特なボケ味とコントラストを持つところに僕は魅了されてしまうのだ。

見せたいものが浮かび上がる立体感のある絵、と口で言うのは簡単だが、それを17群23枚もあるレンズ構成のなかで実現するにはコーティングも含めて越えるべき幾多のハードルがあり、設計全体のレベルの高さが求められたことだろう。実写での無数のトライ・アンド・エラーの成果も感じさせる見事なレンズである。

今泉真也

写真家。高校から登山と素潜りを始め、沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、撮影活動を始める。シーカヤックから冬山登山までアウトドア全般をこなし、一貫して琉球弧から人と自然のいのちについて発信を続ける。映画・映像分野でも作品を発表、短編映画「Mother」は海外13カ国の映画祭で上映されている。写真集に『ジュゴンに会った日』(高文研)などがある。日本風景写真家協会会員。