新製品レビュー

SIGMA fp(静止画編)

ベイヤーでも"シグマらしさ"健在 APS-C用ライカレンズも試す

SIGMA初の35mm判フルサイズ機、fp。フルサイズ機とは思えないほどコンパクトなのが印象的だ。どんなカメラなのかは、すでに公開されている「写真で見るSIGMA fp」をご覧いただくこととして、ここでは実際に使用した印象をお届けする。

なおfpはスチールとムービーの撮影モードを瞬時に切り替えられるのも特徴だが、今回はスチール(静止画)に限定して撮影した。レンズは小型の45mm F2.8 DG DN | Contemporaryを中心に使用している。

45mm F2.8 DG DNを装着したfpはフルサイズ機とは思えないほどコンパクト。手にしたホールド感や質感もSIGMAを感じさせる。

四角く、箱のような外観を持つfp。どこかAPS-CコンパクトのDP Merrillシリーズを思い出す。手にすると、全長や全高の割に厚みがあり、ゴツっとした感触。それはdp Quattroシリーズにも近い。とはいえ決して握りにくいわけではなく、SIGMAらしい個性と言える範囲内だ。

フルサイズ機とは思えないほど小さなボディだが、ボタン類などの操作部は大きく、とても使いやすい。SIGMAお馴染みのQSボタンも装備し、使用頻度の高い項目を登録することで、素早い設定が行える。背面モニターはタッチパネル式。特に測距点の選択はタッチ操作が便利だった。EVFは持たないものの、明るい場所でもモニターの視認性は良好。より見やすくしたい人や、安定して構えたい人には、別売の「LCDビューファインダーLVF-11」の装着をおすすめしたい。小型でもとても扱いやすい仕上がりを実感した。

それでは写りはどうだろうか。SIGMA fpの撮像素子は、SIGMAお馴染みのFoveon X3ダイレクトイメージセンサーではなく、一般的なベイヤーセンサーなのも話題となった。画素数は2,460万。Foveonセンサーには独特な色調と深みがあり、熱狂的なファンがいるほどだ。カラーモードを標準のスタンダードに設定したfpの写りは、SIGMAらしい個性がやや薄れたようにも感じるが、重厚感はある仕上がりだ。

カラーモードはスタンダード。画面右側のシャドー部になっている階段がうっすら見えている。そして電灯のハイライトからも、階調が豊かなのがわかる。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F5.6 1/50秒
ガチャガチャや後ろの布がとても鮮やかだったので、色を強調するためにカラーモードをビビッドに設定した。SIGMAといえばRAWのイメージが強いが、fpはJPEG派も楽しめる。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F2.8 1/125秒
fpはTONEボタンとダイヤルでトーンカーブが調節できる。これは木漏れ日と影を強調するために、ハイライトを+2、シャドーを-3に設定した。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 400 F8 1/160秒

AFは49点のコントラスト検出。筆者自身、DP Merrillシリーズやdp Quattroシリーズを使ってきているが、AFは決して速いとは言えなかった。しかしfpは、非常に高速とまではいかないが、必要十分な速度。街を歩きながら撮影するなら全く不満を感じなかった。

さらにホールド性を上げるなら、SIGMA HAND GRIP HG-11の装着がおすすめ。中指や薬指が前面のグリップに、さらに親指は背面にしっかり掛かり、とても持ちやすくなる。このグリップ自体の質感も高く、見た目もfpによく似合う。45mm F2.8のようなコンパクトレンズでも格段にホールドしやすくなるが、85mm F1.4のような大柄で重量級のレンズを使う人にはぜひ欲しいアクセサリーだ。

HG-11を装着。ホールド性が格段に向上するため、イチオシのアクセサリーだ。
大柄な85mm F1.4 DG HSM | Artを装着すると、さすがにレンズが目立つ。重量級レンズを装着した際にもHG-11は有効だ。
85mm F1.4を絞り開放にして撮影。電球は驚くほどシャープに再現され、大口径中望遠レンズらしい大きなボケが味わえる。fpとの見た目はアンバランスだが、意外と扱いやすかった。カラーモードはスタンダード。
SIGMA fp 85mm F1.4 DG HSM ISO 100 F1.4 1/800秒
こちらも85mm F1.4で絞り開放。フルサイズの中望遠レンズならではの遠近感とボケだ。Lマウントはどのレンズを装着するか、システムを広げる楽しさがある。
SIGMA fp 85mm F1.4 DG HSM ISO 100 F1.4 1/640秒

シャッターはメカシャッターを搭載せず、電子シャッターのみなのも特徴的だ。電子シャッターで気になるのは、速い動きの被写体を撮影した際に起きるローリングシャッター現象だ。駅のホームに入ってきた電車を撮ってみたところ、やはりローリングシャッター現象により車体が歪んでいた。スポーツや乗り物などには向いていないカメラだ。とはいえ、スナップやポートレート、風景など速い動きがない撮影なら問題ない。ここでも街を撮り歩いたが、被写体が歪んでしまうことはなかった。逆に電子シャッターのためレンズ駆動以外は無音で撮影でき、狭い路地などの静かな場所でもシャッター音を気にすることがないのはありがたかった。

ホームに入ってきた電車。電子シャッターなのでローリングシャッター現象で歪んでしまった。動体にはあまり向かないカメラだ。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 400 F2.8 1/2,500秒

カラーモードをFOVクラシックブルーやFOVクラシックイエローにすると、Foveon X3の色調を再現できる。またハリウッドで人気が高いカラーグレーディング方法で、人の肌などのオレンジ系や、その反対のシアン系を強調するティール&オレンジを搭載しているのも注目だ。またSIGMAはモノクロの階調にも定評があるが、もちろんそれも受け継がれている。

カラーモードをFOVクラシックイエローに設定。馬の遊具の黄色みが深くなり、その他は渋い色調だ。Foveon X3を思わせる重厚な仕上がりになる。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F4 1/100秒
カラーモードをシネマに設定した。温かみのある色調で、やや柔らかい階調になり、レトロな雰囲気になった。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 400 F4 1/250秒
カラーモードには定評のあるモノクロも搭載。本格的なモノクロが楽しめるのもfpの魅力だ。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F4 1/50秒
fpのRAWはDNG形式を採用。Adobe Photoshop CCやLightroomなどでも現像でき、もちろん純正のSIGMA Photo Proも対応。各種調整のほか、カラーモードの変更も行える。しかし動作が重く、決して快適とはいえない。サクサク動くように改善してほしい。
DNGからSIGMA Photo ProでJPEGに現像した。カラーモードをティール&オレンジに設定した以外は無調整。木や籠の色が濃く、強調されているのがわかる。
SIGMA fp 85mm F1.4 DG HSM ISO 100 F1.4 1/400秒

驚いたのは高感度の強さだ。ベイヤーセンサーのフルサイズだから、当然といえば当然なのだが、Foveon X3ではISO 400でギリギリ常用できるか、というレベルだった。fpは常用ISO 100~25600、拡張の最高感度はISO 102400。今までのSIGMAでは見たことない数字だ。また連写合成により、ISO 6までの低感度にも拡張できる。好みにもよるが、筆者の印象ではISO 12800でも実用的な画質だ。

ISO 12800で撮影した。拡大すると高感度らしさはあるものの、実用的な写り。これまでのSIGMAではあり得なかった仕上がりだ。暗所もSIGMAで撮影できる。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 12800 F2.8 1/640秒

そして撮影後の書き込みの速さからも、ベイヤーセンサーであることを感じさせられる。これまでは1回シャッターを切って、画像を確認するまでの時間が長いため、一瞬のチャンスは一発必中の気持ちで臨む感覚だった。しかしfpはサクサク撮れて実に快適。従来の緊張感のある撮影もSIGMAらしいが、fpのレスポンスはやはり嬉しい。

SIGMA fpはご存じの通り、ライカLマウントを採用している。そのため同じLマウントのライカカメラ社製のレンズや、パナソニック製のレンズも装着可能だ。ここではfpの小ささを活かすため、LマウントでAPS-CサイズのライカCLやライカTL2用のパンケーキレンズ「ELMARIT-TL f2.8/18mm APSH.」を装着してみた。自動でAPS-Cにクロップされ、約900万画素になる。こうした使い方ができるのもLマウントの楽しさだし、今後のLマウントレンズの広がりが期待できる。

ライカのELMARIT-TL f2.8/18mm ASPH.を装着。APS-Cにクロップされるが、薄型パンケーキレンズもよく似合う。
ライカのELMARIT-TL f2.8/18mm ASPH.で撮影。薄型レンズなので軽快に持ち歩けた。APS-Cサイズにクロップされるため約900万画素になるが、それでもA3クラスのプリントには耐えられる。機動力を重視した場合は、こうした使い方もできる。
SIGMA fp ELMARIT-TL f2.8/18mm ASPH. ISO 100 F8 1/400秒

SIGMA fpはまさにポケッタブルなフルサイズ機。フルサイズを感じさせない機動力で高画質が手に入る。ムービーにも力が入っているが、スチールだけでもとても楽しい。ベイヤーセンサーでもSIGMAらしさが堪能できるカメラだ。

ピントを合わせたい葉にタッチで測距点を重ねた。AFはスムーズに駆動して、ストレスなく撮影できた。カラーモードはスタンダード。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F4 1/125秒
絞りはF5.6。非常にシャープで、高い解像力が得られている。ベイヤーセンサーではあるが、SIGMAを感じさせる写りだ。カラーモードはスタンダード。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F5.6 1/100秒
45mm F2.8の絞り開放は、背景の雰囲気が伝わりながら、ピントを合わせた部分が浮き上がるように描写する。強い逆光なので柔らかい仕上がりになるように、カラーモードをニュートラルに設定した。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN ISO 100 F2.8 1/800秒

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。