イベントレポート

シグマ、ユーザーイベント「fpフェス 2020春」を開催

fp開発エピソードを披露 ファームウェアVer.2.0の予告も

株式会社シグマは2月8日、「fpフェス 2020春」と題して都内で同社製カメラユーザー向けのイベントを開催した。会場にはイベントタイトルともなっている「SIGMA fp」のほか、Foveonセンサー搭載カメラユーザーなど、多くのファンが詰めかけた。

35mm判Foveonセンサー搭載機が白紙に

イベントの開催にあたり、株式会社シグマの代表取締役社長である山木和人氏が登壇。35mm判フルサイズFoveonセンサーを搭載するミラーレスカメラの開発状況について説明があった。

山木和人氏(株式会社シグマ代表取締役社長)

フォトキナ2018で開発を発表、昨年のCP+2019で2020年の発売をアナウンスしていた、フルサイズFoveonセンサー搭載カメラについて、その開発を事実上白紙に戻すことが発表された。詳細は既報のとおりだが、その最大の理由はセンサー開発の遅れにある、と山木氏は説明した。

ボディやAFなどの要素開発自体は進行していたものの、フルサイズFoveonセンサーは、その製造を旧来の工場ではなく、別工場に移していたことなども、開発の遅れにつながっているのだという。

同社のカメラユーザーが多数集まるイベントであることもあり、この場で伝えるべきと考えて今回の発表に至ったという山木氏は、この機会にFoveonセンサーの開発をさらに深め、その特性をいかすカメラとして、フルサイズFoveon搭載機の開発を進めていく、と続けた。

また、Foveonセンサーの開発リセットにあたり、1:1:1の各層20Mピクセル、計60Mピクセルとする既報のスペックに変更はないと、その内容に言及した。ただし、カメラ自体は開発スタート時から時間が経過していることをふまえ、市況を鑑みつつ調整をかけていく可能性を示した。

このほど、白紙に戻されたフルサイズFoveonセンサー搭載カメラだが、会場では開発途中のフルサイズFoveonセンサーが初めて披露された。あくまでも開発の中断ではなく、カメラの発売についてコミットできる状況ではないとのことだ。

初めて披露された開発中のフルサイズFoveonセンサー

fpの開発コンセプトを示す山木社長のメモが披露

続けて、同社商品企画部商品企画課長の畳家久志氏が登壇。あらためて「fpフェス 2020春」の開催が宣言された。

畳家久志氏(株式会社シグマ商品企画部商品企画課長)

SIGMA fpの開発でプロジェクトリーダーを務めたという畳家氏。まず開発のはじめに山木氏より示された資料として、そのコンセプトが記されたメモを披露した。

SIGMA fp

スライドにて示された山木氏のメモには、「世界最小最軽量」といった、35mm判センサー搭載ミラーレスカメラ機として製品化されたSIGMA fpならではのポイントとなっている内容が記されている。

シグマとしてのカメラづくりについて言及した畳家氏は、fpの開発ではFoveonセンサー搭載カメラとベイヤーセンサー機との違いを明確化することからはじめていったと話す。山木氏のメモにある「大手カメラメーカーと同じ戦略を取ることはできない」や「現在のカメラに不満を持っている層へのアプローチ」といった内容にふれつつ、fpの開発状況について振り返った。

ベイヤータイプのセンサーが採用されたSIGMA fpだが、このセンサーの特性をいかしたカメラをつくっていくことが、シグマとしてのカメラづくりの方向性にあったと話す畳家氏。同カメラの特徴ともなっている電子シャッターのみとしたシャッター機構について、当初はメカニカルシャッターを搭載する案もあったことを明かした。

だが、メカニカルシャッターも搭載した場合、現今のミラーレス機と同じようなカタチになってしまうため、“シグマがやる意味があるのか”という疑問があったのだという。電子シャッターのみとする場合にもフリッカーや、シンクロ速度の低下といった問題もあった、と現在のカタチに至るまでの葛藤が語られた。

SIGMA fpでは動画撮影性能もトピックのひとつとなっているが、静止画撮影性能との力の配分について、50:50のバランスにすることを目標にしていたのだという。外観デザインの特徴ともなっているヒートシンクの配置についても、当初は発熱部のみの搭載を考えていたものの、静止画と同じように動画でもRAWによる記録・展開ができる撮影性能をもたせるため、最終的に現在のカタチになっていったのだと明かした。

形状データを公開するなど、外部パーツの取り付け自由度の拡大など、拡張性の高さに触れつつ、動画向けの画づくりとして搭載した「Teal and Orange」が静止画でも反響を得ていると続けつつ、最新のファームウェア開発状況に関するアナウンスもあった。

左下「シネマグラフ」にV2.0の文言が見える

メジャーバージョンアップとなるVer2.00では非常に多くの機能が盛り込まれることが明かされた。リリース時期は2020年初夏を目指しているという。中程にあるSDKの対応は、任意のアプリケーションでカメラのコントロールをしたい、といった要望に応えたものなのだという。

CP+の後でリリースが予告されたVer1.02は、不具合への対応のほか、カードエラーへの対応が含まれているという。これは、低速なカードを使用した場合に発生がみられた不具合への対応が含まれることになるのだそうだ。

fpが変える撮影体験とは

続けて自身もSIGMA fpを愛用しているユーザーとして、THE GUILD共同創業者・YAMAP CXOの安藤剛氏が登壇。アプリなどのUX/UIデザインを手がけているデザイナーとしての視点から、SIGMA fpの魅力を紐解いていった。

自身も多数のカメラを使用してきたと話す安藤氏。いま、テクノロジーやネットワークの進化に支えられるようにして、“体験の共有”が価値を大きくしていきているとし、アプリやWebサービスなどのメディアのクオリティーが、人の心を動かすようになってきているのだと指摘した。そうした状況の中で、使用する機材の選択では、いつでも持って歩ける携帯性と、アウトプットのクオリティを重視しているのだと続けた。

安藤剛氏(THE GUILD共同創業者、YAMAP CXO)
安藤氏が使用してきたカメラ機材の変遷

登山アプリ「YAMAP」との関係から登山では荷物を軽くしたいと続ける安藤氏。「fpがカメラの体験をどう変えるか」と題して、SIGMA fpが自身に与えた変化を軸に話題を展開していった。

まず安藤氏が提示したポイントは、アウトドア、旅行、シネマスコープの3つだ。まずアウトドアでは秋の山とカラーモード「Teal and Orange」の組み合わせが好相性だったという。同モードで撮影した写真はSNSなどでの反響も大きいのだという。また山頂などでのテント泊といった外気温が低い状況でもSIGMA fpはしっかりと動作したと、その信頼性の高さもポイントだと続ける。

2番目にあげた旅行では、ライカMマウント互換レンズなどと組み合わせて使用した際の使い勝手について言及。スナップでの作品を披露。3番目のシネマスコープでは、21:9の画面比率やTeal and Orangeによる画づくりなど、映画的な作品づくりの楽しさがあると続けた。

続けてSIGMA fpのデザインポイントに触れ、「佇まい」、「一貫性」、「透明感」の3点のポイントを挙げた。

多くのカメラが前面側に社名やブランドロゴを配しているのに対して、SIGMA fpでは「fp」の文字しかない、と安藤氏。このロゴもグリップ時に隠れてしまうため、撮られる側の視界に余計な情報が入ってこないのだと指摘した。こうしたデザインへのアプローチから、そのメーカーがどのようなモノづくりをしているのかが分かると続けた。

続けて「一貫性」という点からは、シグマの製品で使用されているタイプフェイスについて言及した。ボディやレンズ、カメラ内のメニュー、Webサイトなど、様々な場所で使用されている書体(シグマ フォント)について、自社内でも美しいという感想が聞かれたとして、徹底した世界観が表現されていると指摘した。

「透明感」については、1番目にあげた「佇まい」に関連した内容に。ロゴなどの余計な情報要素が撮られる側に見えないことは、“撮られる側にとってノイズがない状態”だと指摘する安藤氏。それは撮影時のコミュニケーションが変わるということでもあると続ける。SIGMA fpではファインダーが設けられていないが、そのことでかえって撮影者の顔がカメラに隠れてしまわないため、お互いの表情が見えるようになることが大きいのだと話す。

そうしたSIGMA fpのデザインは、ディーター・ラムス(ドイツのインダストリアルデザイナー)のデザイン哲学と符合すると続ける安藤氏。デザイン上の足し算と引き算のバランスにふれて「Less, but better」(控えめに、しかしより良く)と、そのデザインを評した。また、数多くカメラ製品を使用してきた中で、いまSIGMA fpはつねに防湿庫の外にあり、自身のデスクの上で“感情的なつながりを感じる”カメラとしてあるのだと続けた。

自身の周囲にもSIGMA fpを購入する女性が増えてきていることにふれて、実は女性にとっても使いやすい、はじめてのフルサイズカメラなのではないか、と述べた。

本誌:宮澤孝周