新製品レビュー
SONY FE 35mm F1.8
Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAとの描写比較も
2019年11月27日 12:00
35mm判フルサイズセンサーのイメージサークルに対応したEマウント用の3本目の35mm単焦点レンズとしてFE 35mm F1.8が、2019年8月末に発売された。
フルサイズ用のEマウント35mmレンズは、これまでSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAとDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAがラインアップしていたが、どちらもカールツァイス仕様であった。これに対して、本レンズはソニー銘となっており、開放F値も前出ツァイス銘レンズのF2.8とF1.4の中間値となるF1.8となっている。またF1.8単焦点レンズシリーズとしてみると、FE 50mm F1.8、FE 85mm F1.8につづき3本目のレンズという位置付けとなる。
最大の特徴は開放値F1.8の明るさでありながらフィルター径55mm、重量280gとコンパクトな構造であること。また、最短撮影距離が22cmであるので、動植物やテーブルフォトなどのクローズアップ撮影も可能だ。
非球面レンズ1枚を含む9群11枚構成による諸収差の抑制で高解像度を実現。9枚羽根の円形絞りによる美しいボケ味が得られる。
好みの機能を割り当てられるフォーカスホールドボタンやAF/MF切替スイッチの搭載など、操作性にも配慮されている。このほか、マニュアル操作時にレスポンス良く反応するリニア・レスポンスMFを採用しており、動画撮影などにも性能発揮する静粛作動のリニアモーター搭載と相まって高速かつ高精度なAF制御が実現されている。防塵・防滴にも配慮された設計もポイントだ。
外観デザイン
フォーカスホールドボタンとフォーカスのAF/MF切替スイッチ以外の余計なモノが目立たないシンプルなデザインだ。フォーカスホールドボタンとAF/MF切り替えスイッチは左側面に配されている。
カメラ側から見た右側は「SONY」のロゴがあるだけのシンプルなデザインである。
操作性
デザイン自体はごくシンプルなものだが、操作面の利便性はしっかり確保されている。フォーカスリングが幅広な設計となっており、マニュアルフォーカス操作時のピント調整がやりやすい。アナログ時代を思わせる使い易い設計だ。
また、リニア・レスポンスMFの採用でマニュアル撮影の利便性向上が図られているほか、AF制御もリニアモーターの搭載により静粛かつ高速・高精度なものとなっている。
さらにインナーフォーカスなので最短撮影距離が短く、クローズアップ撮影も可能。画角変動が少ない点もうれしい。
デジタルカメラになってからの大きめの一眼レフカメラに慣れてしまったので、比較的小さな構造であるソニーのミラーレスカメラに装着するとついつい指先がはみ出てしまいそうになるが、レンズフードを装着することでホールディングもしっかりして見た目にも引き締まってくる。
付属のレンズフード「ALC-SH159」を装着した状態。レンズ自体が小さいのでフードを装着すると指先がフィットして見た目にもキリッと締まる。
作例
雨上がりの夕暮れ、陽が沈む直前の数分間だけ赤く染まった太陽が建物に美しく反射していたのを捉えた。コンパクトなレンズは携行製が良いのでいつでも持ち歩けるので、チャンスに出会っても瞬時に撮影態勢に入れる。
雨の日、商店街の軒先で小さな花が咲いている鉢植えを見つけた。クローズアップでも前後のボケが美しいのでカメラを覗いていて飽きない。
やわらかな前ボケのレースのカーテン越しに雨模様の風景をホテルの窓ガラスから眺める。
本レンズの最短撮影距離は22cmで、準マクロと呼べるほどのクローズアップ撮影が可能だ。
西陽に透ける小さな南天の実と葉に近づいてみたが逆光耐性も強く、9枚羽根の円形絞りの効果もあって、美しい丸ボケが表現できた。
日が沈む20分前くらいの港で撮影した。筆者は日没の頃の風景が好きなのだが、防波堤で釣りをする人たちを逆光で撮影してもフレアを感じない描写が得られた。
待ち望んでいた夕焼けにはなりそうもないが、ブルーグレーの空も悪くない。ちょうど家路につこうと飛行する鳥たちの姿が見られたので、すかさず狙いを定めた。周囲は暗くなり始めていたが、AFはしっかりと動作。絞りは開放のF1.8だったが、的確に鳥たちの姿を捉えてくれた。
夕焼けはあきらめていたのだが、日没後に空が急激に赤く染まってくれた。奇跡的とも感じた美しい日本海の空。状況はさらに暗くなってきていたが、開放絞りF1.8での撮影でも細部まで解像している。
奉納された絵馬の「縁」という文字にフォーカスして格子状の桟越しに撮影。前後のボケも良好だ。
神社の境内を散策中に颯爽と駆け抜けていく巫女さんを後ろから撮らせてもらった。開放絞りF.18だが、素早い動きにもAFは正確な合焦をしてくれる。
F8まで絞ると解像感はフルに発揮され、被写体の細部ディティールまでしっかりと描写される。
半逆光状態での撮影だが、外光の明るい部分から木陰の暗部にいたるまで、グラデーションの描写も良好だ。苔の奥にフォーカスしてクローズアップしてみると、ムーミン谷の住人「ニョロニョロ」みたいな不思議な植物に出会えた(笑)。
日本海に面したビーチにぽつんとたたずむ建物を見つけた。海の家なのか見晴台なのかはわからないが、新しめの建築は潮風を浴びてか既に錆びを含んでいた。画面を拡大すると壁面に“ある生き物”の姿もみられる(笑)。
こちらは水道施設の建物内にある歴史的な実験場。階段や壁面に敷き詰められたタイルのリアルな描写から長い時間を想像させられる。
古い町の路地裏をブラブラ歩くとあちこちで昭和遺産に出会えるのが楽しい。醤油工場の倉庫では、鉄板でカバーされた板壁が、さらにその上から木材や金属板で補強されていた。鉄材や木の朽ちてきている姿をF5.6で捉えた。克明な描写力で再現されている。
晩秋のポカポカした小春日和、公園のベンチの角に絞り開放F1.8でフォーカスを合わせた。誰も居ないけど長閑さを感じられるやわらかな描写だ。
長岡市にある老舗の「機那(きな)サフラン酒本舗」の倉庫内部を見学させてもらった。外からの逆光の中、箱のタイトルの「酒」の字にフォーカス。
「鏝絵(こてえ)蔵」と呼ばれる蔵造りの建物外壁には当時の有名職人による見事な装飾が施されている。
離れの邸宅跡にある座敷部屋内部にも多くのふすま絵や屏風など貴重な芸術作品が飾れている。日陰干しのために外された襖の引き手房にフォーカスしての撮影。背景の暗部も好感が持てるやわらかくて自然なボケ描写だ。
縁側に面した窓辺に置かれた一世紀以上前の太鼓。絞り開放での浅いフォーカスポイントが隣りあった部分のボケ感とのバランスで、太鼓の質感を立体的に写し出す。
フォーカスが浅い、開放絞り側では立体的な切り撮りが充分に楽しめる。路地裏に残された消火栓に時代を感じる。
35mmの焦点距離といえども、いちおうワイド系のレンズなので2段ちょっと絞れば合焦範囲が広がる。ペイントされた金属の質感描写もグッと高まった。
F8まで絞ればブリキやプラスチック、コンクリートなどのそれぞれの個性が克明に。発色に関してはごくごく自然な色味で描写されていると感じる。
開放側ではもちろんだが、絞り込んだ状態でもフォーカスが合っている部分とボケている部分との境界が自然に表現される、素直な描写のレンズだ。
FE 35mm F2.8 ZAとの比較
今回の試用にあたり、編集部からの要請もありEマウント用35mm三兄弟のうち、価格帯が近く直近の比較候補ともなってくるだろうカールツァイス・ゾナー仕様のSonnar T* FE 35mm F2.8 ZA(SEL35F28Z)との比較もおこなった。
ちなみにソニーストアでの販売価格(本稿執筆時点)は、FE 35mm F1.8が税別6万9,630円。対するSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAは税別7万6,000円だ。なお、Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAは税別19万9,880円となっている。
左がFE 35mmF2.8 ZA、右が本レンズFE 35mm F1.8だ。本レンズは全長73mmと比較的コンパクトであるが、パンケーキに近い形状のFE 35mm F2.8 ZAはさらにコンパクトで、ちょうど本レンズの半分くらいの短さとなる36.5mmだった。
両レンズを林立する木々の向こうから陽が差し込む半逆光で、中間絞りのF4.5にして比較撮影してみた。
1枚目がFE 35mm F1.8で、2枚目がFE 35mm F2.8 ZA。このシチュエーションでの結果は本レンズの方が若干コントラストが強くて、FE 35mm F2.8 ZAの方が色のりも良くて彩度が高いように思える。
コンクリートの壁、石造りの階段と床、そして木製のドアなどで、その質感描写力をみた。
撮影時の条件は自然光。まわりの環境光からくる影響もあるので断定は出来ないが、やはりカールツァイスZAレンズの方が全体的に色味が濃く、本レンズの方が若干緑色が強いみたいな印象を受けた。描写は同等のレベルにあると感じる。
まとめ
今回はカールツァイス仕様のレンズ(Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA)との比較撮影をいくつかの条件でしてみたが、ツァイスレンズらしい、やや派手目かつ濃厚な色のりの再現をのぞけば、設計の新しさもあるのだろうFE 35mm F1.8の描写力や耐逆光性能はFE 35mm F2.8 ZAに接近していると感じた。
FE 35mm F1.8は、いわゆる「無印」と呼ばれるレンズだが、開放F値も通常撮影としては充分に明るいF1.8であり、被写体をクローズアップした撮影にも強い、高い描写力と携行性が両立されている。
また、APS-Cセンサーを搭載するEマウントボディに装着しても良好なバランスで使えるという利便性もあるため、ソニーユーザーにとって高い汎用性を備えたレンズだともいえるだろう。何より携行性に富むコンパクト設計は多くのユーザーにメリットをもたらすことだろう。
単焦点であること、またG/GMシリーズやカールツァイスの仕様にしないことで価格が抑えられている点に目がいきがちだが、その描写性能は、決して撒き餌レンズというレベルにとどまるようなものではなく、これ1本で充分に35mmの画角を楽しめる性能を有していると感じた。
他社も含めてこのところF1.2やF1.4などの大口径シリーズと、F2やF1.8くらいのコンパクトシリーズの単焦点が競い合うようにして世に送り出されている。こうした切磋琢磨による新しいレンズの出現に期待と楽しさを感じさせてくれる1本であった。