ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証

【風景編】FE 16-35mm F2.8 GM × α7 III

広角ズームならではの表現と豊かな階調が生み出す雪景色

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 35mm / マニュアル露出(1/250秒・F16) / ISO 100

フルサイズミラーレスカメラ「α7 III」とソニー製Eマウントレンズの世界を紹介するこの連載。

今回は北海道在住の風景写真家・安彦嘉浩さんに登場いただいた。使用レンズは「FE 16-35mm F2.8 GM」。G Masterの称号を持つ大口径広角ズームレンズとα7 IIIの組み合わせが作り出す、美しい風景写真の数々を観ていただきたい(編集部)

安彦嘉浩(あびこ・よしひろ)

1989年山形県生まれ。2016年北海道千歳市への移住をきっかけに写真の世界に本格的にのめり込む。全ての心を包み込むような大自然と逞しく生きる野生動物が美しい光とともに紡ぎ出す物語を追い求め、道内を駆け巡る。一方で、観光ポスター、観光パンフレットへの写真提供など、北海道の魅力を世界に発信する活動にも力を入れている。東京カメラ部10選2019選出。

FE 16-35mm F2.8 GM
α7 III

風景写真におけるフルサイズセンサーと広角ズームレンズの相性とは

一言に風景写真と言っても、訪れる季節や時刻、その時の天気や風向きなど、同じ場所に立っていても数多のシチュエーションが存在する。風景写真を撮る時の共通点をあえてあげるとしたら、しっかりと絞って撮ることだ。目の前に広がる景色全体にピントを合わせ、解像感にほれぼれするシャープな作品を目指したい。それがいわゆる風景写真の基本とも言えるパンフォーカスだ。個人的にはF8〜F16の範囲をよく使うが必要だと思えばF22だって使用する。

一日の中でも特に光の美しい時間帯の日の出と日の入りの時刻での撮影では、光量が足りずシャッタースピードが長くなる傾向がある。少しでもシャープな解像感を目指す以上、ブレは絶対に防ぎたいので三脚を使用する。一方で日中はシャッタースピードが稼げるので、手持ちでも撮影できる。α7 IIIは、最大5.0段分の光学式5軸ボディ内手ブレ補正があり、快適な撮影を実現してくれている。

FE 16-35mm F2.8 GMは、16mmから35mmという風景撮影で欠かせない領域をカバーし、全域で妥協を許さない鮮鋭な写りを誇る。北海道の広大な自然を最大限活かし、ダイナミックに表現したい私にとっては不可欠なレンズだ。ワイド端ではパースを効かせて遠近感を楽しめるし、テレ端ではシンプルな構図で被写体そのものが持つ魅力を引き出すことが出来る。

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1点目の作品の撮影地は、ライフワークとして撮影している支笏湖。そこは僕にとって「原点」とも言うべき場所。北海道へ移住し、初めてのドライブしたのが支笏湖だった。温泉街を走り抜けると突如として湖全体の広大な景色が目の前に飛び込んできた。今にして思えば、その時の感動で北海道が大好きになり、北海道の様々な姿を撮りたいと思うようになったのだ。

早朝、自分の背中側から太陽が姿を見せ始めた時を狙ってシャッターを切った。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 16mm / マニュアル露出(91秒・F16) / ISO 50

支笏湖に足を運ぶ時には、フィルターワークを駆使して長時間露光や画角内の露出調整、被写体の反射の制御をすることが多い。今回の撮影で90秒という長時間露光を選択したのは、湖の水面をフラットにすること、雲の動きを出すこと、そして恵庭岳を照らしている太陽の光を効率的に拾うことを目的としたからだ。水面の「静」、空の「動」の動きの対比に加え、光の当たる部分と当たらない部分の対比を1枚に収めることが出来た。

湖岸に流れ着いた流木を前景にし、遠景には恵庭岳を配置。このレンズのワイド端16mmの特徴を生かしている。写真という2次元の作品の中で奥行きを感じさせる3次元的表現を試みた。前景の流木に注目すると流木の表面が薄氷で覆われていて、更に雪の結晶がぱらぱらと付いているのだが、α7 IIIの解像力は見えたままの様子を克明に映し出してくれた。

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雪が降った翌日の晴れ間を狙いスノーシューを履き、ふわふわな雪の感触を楽しみながらエゾマツの樹林帯を散策した。ユキウサギ、キタキツネの足跡以外は見渡す限り何もない。まっさらな大地に足跡をひとつひとつつけていくのは、まるで野生動物になったような気分だった。

そこで目に止まったのは雪原に伸びるエゾマツの大きな影。自分の足跡で写真を台無しにしないよう細心の注意を払いながら遠回り気味に近づいた。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 16mm / マニュアル露出(1/60秒・F16) / ISO 100

このような強烈な逆光状態では、露出をアンダー気味に設定し白飛びを抑制する。現像でシャドウ部分の補正をすると、暗く写っていた部分の階調が鮮明に蘇ってきた。α7Ⅲのフルサイズセンサーの高感度耐性と階調の豊かさは、我々の表現活動をいつも大きく手助けしてくれる。

逆光の撮影においては、ゴーストやフレアに悩まされるのではないかという心配をお持ちの方もいるかと思うが、FE 16-35mm F2.8 GMが持つソニー独自のナノARコーティング技術は、致命的なフレアやゴーストを大幅に抑制してくれている。

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北海道最高峰の旭岳が西日に照らされ、上品なピンク色に染まった。その美しさをシンプルに表現したかったため、FE 16-35mm F2.8 GMの望遠端35mmにセットし撮影した。山頂から裾野までバランス良く配置している。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 35mm / マニュアル露出(1/50秒・F10) / ISO 200

この写真で伝えようとしたことは他にもある。自然と人の対比だ。山頂方面へ向かって歩を進める人が10人弱写り込んでいる。夜の気配がすぐそこまで迫っているこの時間に冬山へ向かっていくなんて、どんな楽しいことをするのだろうかと想像しながら、ソニーの35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーならではの集光効率の良さと感度耐性を生かした描写力で、自然の雄大さとそれ対する人の存在の小ささを1枚に詰め込んだ。

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FE 16-35mm F2.8 GMの実力

FE 16-35mm F2.8 GMは「G Master」称号の大口径のレンズなだけあり、圧倒的な解像力を有する。画角の手前から奥まで、綺麗に描画され、画面を通して見ても、現場で感じたことが鮮明に思い出されるだけでなく、撮影時には気がつかなかった被写体の魅力を新たに発見させてくれることもある。画面の隅々までの描写も素晴らしい。歪曲に困ることもなく、周辺減光に悩まされることもない。見たままの光景を再現してくれる心強い相棒のような存在だ。

カメラボディとレンズを合わせたシステムとしての防塵・防滴に配慮された設計も信頼している。吹雪の中の撮影で、カメラもレンズもおまけに人もみな、雪まみれになりながら撮影することだって何度もあった。そういった環境下でもカメラに不具合が生じたことはない。過酷な環境でこそ傑作に出会うチャンスだ。

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再び支笏湖の写真で、α7IIIとFE 16-35mm F2.8 GMの魅力に迫る。支笏湖は、日本最北の不凍湖として知られる。湖は凍らないが、気温は氷点下になる。厳冬期には、波しぶきを受けた流木の表面は薄い氷を張り、水が垂れながら凍りついて出来る可愛らしい飛沫氷も見られる。

三脚の脚を開ききり、ローポジションで構える。風不死岳へ向かって伸びている流木は、実際にはそれほど大きくないのだが、画面上では大迫力で捉えられている。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 17mm / マニュアル露出(75秒・F16) / ISO 80

最短撮影距離が28cmというFE 16-35mm F2.8 GMのスペックを活かし被写体に接近して撮影することで遠近感が強調され、ダイナミックな風景写真となる。バリアングル液晶モニターにより、楽な姿勢のままで構図を確認できるのもα7 IIIの便利なところだ。

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次の写真は、同じ日に撮影した別カット。先述の写真ではローポジションで構え、被写体に近づいて遠近感を利用したが、この写真は、支笏湖の透明感を切り取ろうと試みている。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 17mm / マニュアル露出(1/64秒・F14) / ISO 100

ほぼアイレベルでカメラを三脚に固定し、PLフィルターを効かせて水面の余分な反射を抑制する。すると切り株付近の透明感が強調されイメージ通りの写りが完成した。

余談ではあるが、支笏湖は11年連続で水質日本一の湖に認定されており、透明感のある水が写真愛好家の中で人気になっている。湖の畔では温泉街が栄え、毎年たくさんの観光客が訪れるが、人と自然の関わり方がうまく行っているモデルケースと言って良いのだろう。

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フルサイズならではの階調・色再現

ソニーのフルサイズミラーレスαのラインアップ中ではベーシックモデルに位置付けられるα7 IIIだが、裏面照射型のCMOSセンサーにより実現された最大約15ストップのワイドダイナミックレンジで描かれる階調の豊かさは、上位機種に匹敵すると言っても良い。RAWでの撮影時のナチュラルな色再現はソニーの特徴であり、後のデジタル処理を考えたときの最高の素材を提供してくれている。

操作性の面では、カスタムボタンの割当の豊富さが気に入っている。頻繁に使う機能を自分好みのボタンに割り当て配置することができ、一瞬たりとも無駄にしたくない撮影をスムーズに進められる。

ミラーレスカメラの特徴のひとつであるEVFはここ最近、急激なスピード感で浸透してきているように思う。EVFネイティブの僕にとっては、当たり前の存在だったわけだが、絞りや露出の設定変更がリアルタイムでファインダーに反映されることの意味の大きさを噛みしめる日々である。

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春から秋にかけて使用されている桟橋と恵庭岳が望める場所を夜明けの時間に訪れた。狙いはビーナスベルト。冬によく見られ、太陽とは反対側のスカイラインに見られる淡いピンク色の帯だ。桟橋にびっしり張り付いた飛沫氷から、まさに「極寒」と言える寒さをお分かりいただけるのではないかと思う。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / マニュアル露出(1/100秒・F3.2) / ISO 100

まだ薄暗い時間帯なので、桟橋部分は光が十分ではないが、α7 IIIのAFは狙った位置に迷うことなくピントをすっと合わせてくれた。この写真では、桟橋の手前から二番目右側のポールの真ん中辺りにピントを合わせている。フォーカスエリアはフレキシブルスポットのMを使った。AFエリアは画面の約93%をカバーしているので、思い通りの場所へ簡単にピントを合わせることが可能だ。

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様々な角度から支笏湖界隈を撮りたいと思い、久しぶりに登山を再開した。というのも本州に住んでいた頃は、定期的に山に登っていたが、北海道に来て以来、地上で出会う景色の楽しさのあまり、山から遠ざかってしまっていたのだ。

今回登ったのは風不死岳、先程の写真でも遠景として登場した山だ。5合目付近延々と続く急登を気合と期待で登りきった。そこで待っていたのは、新たな世界だった。

α7 III / FE 16-35mm F2.8 GM / 23mm / マニュアル露出(1/282秒・F11) / ISO 100

荷物は極力軽量にしたい。でも、高画質で写真を残したい。それは当たり前であり、わがままなでもある撮影者の思いに完璧に答えてくれるのがα7 IIIのシステムである。今後もαを背負い様々な場所を自分の足で訪れたい。

山頂の東側に見える樽前山の山頂一帯の雪にだけあたるスポットライトに注目した。強い光のコントラストだけを切り取りたかったので、ND32000の高濃度NDフィルターを使って超長時間で露光した。ハイライト部もシャドウ部もきっちりと解像していた。

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まとめ

風景を被写体にするなら、FE 16-35mm F2.8 GMは是が非でも手に入れたい1本だ。すべての焦点距離において高い解像力で描写してくれ、期待値通りの作品が完成する。同スペックのレンズの中でも軽量な方で、コンパクトなα7Ⅲのボディにもバランス良く馴染む。風景写真を撮る楽しさを極限までアップさせてくれる優秀なレンズだ。

α7 IIIは、広ダイナミックレンジ、高精度AF性能、かゆいところに手が届いた快適な操作性など、作品作りに自信を持って投入できる1台だと感じた。厳冬期の北海道での撮影だったのでバッテリーの消耗が心配だったが、朝から夕方までバッテリーが切れることなく撮影ができ、非常に寒い日でも正常に動作し続けてくれた。有効約2,420万画素というスタンダード的な画素数は、パソコンでのデジタル処理をサクサクと熟していける。

今回の作品では言及できなかったが、最高約10コマ/秒の高速連写が可能であり、被写体を選ばない撮影が可能だ。ベーシックモデルと括ってしまうのは勿体ない。フルサイズミラーレスカメラの扉を開けようとする全ての人に、まず一番にお勧めしたいカメラだ。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社

安彦嘉浩