コラム

各社のCFexpressカード対応状況を整理する

EOS-1D X Mark IIIの“20コマ/秒”に見る必然性

CFexpressカードスロットをデュアルで搭載するEOS-1D X Mark III

2020年1月7日、キヤノンはかねてより開発発表を報じていたフラッグシップ一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark III」の詳細を発表した。

各社フラッグシップ機で採用がつづくCFexpressカードについて理解を深める連載もスタート。ここで各社のCFexpress対応状況を整理し、EOS-1D X Mark IIIのコマ速と記録速度について考えてみた。

ところで、キヤノンは同機のCFexpress対応に関してスペックシート上で「※当社試験基準325GB CFexpressカードを使用」と明記している。現状で325GBのCFexpressを発表しているメーカーは、ProGrade Digital(プログレードデジタル)のみ(製品はコバルトレーベルのもの)。キヤノンでは明言こそしていないものの、同社のカードを検証に使用している公算が大きいといえそうだ。

ProGrade DigitalのCFexpress(Cobalt)カード

連続撮影可能枚数からCFexpress採用の必然性が見えてくる

同社が試験基準カードとしている容量325GBを使用した場合のEOS-1D X Mark IIIの連続撮影可能枚数は「1,000枚以上」となっているが、有効画素数約2,010万画素とはいえ、秒間約20コマ/秒(LV撮影時。ファインダー撮影時は約16コマ/秒)のデータ量が、JPEGだけでなくRAWも含めて蓄積・処理することを考えると、相当量の負荷がかかることは容易に想像できる。キヤノンが「RAW+JPEGでも余裕ある連続撮影可能枚数を実現」した、と表現していることから考えてみても、この高速なデータ処理はCFexpressがあってこそ実現し得ていることは明らかだろう。EOS C500 Mark IIの「Cinema RAW Light」記録は、CFexpressのみの対応となっていることにも留意しておきたいところだ。

さらに細かく見ていくと、EOS-1D X Mark IIIでは「RAW+HEIF時は約350枚」(ファインダー撮影=秒間約16コマ)が連続して撮影できる枚数の上限となっていることが明示されている。仮に1ファイルのデータ量をJPEG15MB+RAW40MB=トータル55MB/枚と仮定して逆算すると、350枚×55MB=19,250MB(約19GB)の計算となる。EOS-1D X Mark IIIのバッファ容量は不明だが、これだけの大容量データをカード側へ移し続けるためには、秒間約300MB(UHS-II)が上限のSDカードでは、処理に限界があることは明らか。対して、CFexpressでは、秒間約1.6GBほどでのデータ転送が可能となっているため、理論値を元にした計算だが、SDカードに比してその速度差にはおよそ5倍ほどの開きがある。

各社のCFexpress対応状況

ここで、現状でCFexpressカードを採用している各カメラの対応状況を整理してみたい。同カードを記録メディアに採用するカメラ製品は、ニコンのZシリーズ(Z 7およびZ 6)、パナソニックのSシリーズ(S1RおよびS1)、このほど発表のあったキヤノンのEOS-1D X Mark III(映像用途として、EOS C500 Mark IIも採用している)となっている。各社アナウンスおよび製品マニュアルをもとに整理すると次のようになる。

・ニコン
ソニー製(未発売)。ただしプログレードデジタルは独自にZ 7およびZ 6への動作対応検証を実施し、対応保証カードとして120GBのカードを発売している。
対応状況はこちら:Z 6Z 7

・パナソニック
サンディスク製(発売済み)。64GB〜512GB
対応状況はこちら:ファームウェアアップデートページ、改訂版のマニュアル内に記載

・キヤノン
EOS C500 Mark II:サンディスク製Extreme PRO(512GB)
対応状況はこちら:Q&A検索(よくあるご質問)ページ
EOS-1D X Mark III:試験基準カード(試験基準325GB CFexpressカード)
対応状況はこちら:製品仕様ページ

以上のようにCFexpressカードに対応しているからといって、現状では各カメラ製品は一概にどのメーカーのCFexpressカードにも完全対応しているとは言い難い状況にある。

CFexpress採用の必然性

各社は明言していないため以下は筆者の推測となるが、それぞれのカメラで正式に対応するメモリーカードが異なることから、正式対応とするメモリーカードを基準にデータ転送まわりの最適化を図っている可能性がありそうだ。

CFexpressカードの最大の特徴は、PC向けメインストレージの接続方式として一般化しつつあるPCIe・NVMe接続の採用による高速なデータ転送速度の達成にあるわけだが、それだけの速度と動作を安定的に維持するためには、カメラ側の制御もより重要性が増してきていることは想像に難くない。

PCIe・NVMe接続は先述のとおりPCで採用・普及しているストレージの接続規格だが、PC製品におけるこれらの記録メディアが内蔵・固定式となっているのに対して、カメラ製品では交換差替が前提となる。つまり電源オンから瞬時に撮影可能状態に移行する必要があるため、カードの取り扱いプロセスが担う役割はPC製品よりも重要度が高くなってくる。通電状態が続き、かつストレージの読み書きを待つことが当たり前となっているPCに対して、カメラでは電源のオンオフが繰り返され、また電源オンと同時に撮影できることが求められる。

各社が単一メーカーのカード製品のみに動作保証をおこなっていることからみていくと、キヤノンの示した「試験基準」なる表現の意味しているところが、おぼろげながら見えてきそうだ。

また、XQDに対応しつつファームウェアのアップデートでCFexpressに対応したニコンおよびパナソニックに対して、EOS-1D X Mark IIIのスペックシートからはXQDの文言が見られない。このことから、EOS-1D X Mark IIIは、CFexpressにネイティブ対応した制御がプログラムされていると考えることもできそうだ。

仮に大容量のバッファ領域を内蔵しているとしても、書き出し先のカードが高速な読み書きに対応していなければ、当然バッファの解放にかかる時間は長くなる。書き込み状態が続いて撮影が続行できない状態が発生するようになれば、カメラもろとも撮影道具としての信頼性を損ないかねない。撮影データの巨大化や連写枚数の増加はもとより、スポーツ報道を見越した高速かつ安定的な撮影性能を担わせる必要があることを考えると、高速連写機や高画素機がこぞってCFexpressの採用に向かう状況は、それが現状で唯一現実的な解となっているからなのだろう。

本誌:宮澤孝周