新製品レビュー
キヤノンEOS-1D X Mark II(実写編)
進化したAFシステムと連写性能をフィールドテスト
Reported by 礒村浩一(2016/5/27 07:00)
2012年に発売された「EOS-1D X」以来4年ぶりとなる、キヤノンのフラッグシップデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark II」が発売された。前機となったEOS-1D Xでさえ、すでに完成形に近かったカメラであったが、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックを目前に更なる進化を遂げた、新次元のプロフェッショナルユースのカメラとしての登場となった。
前回のレポートでは、主にEOS-1D X Mark IIの機能および外観レイアウトについてお伝えした。そこで今回は、EOS-1D X Mark IIが持つ高速連写とAFのハイレベルな連携を、自転車ロードレースの撮影で検証したい。またそれ以外にも様々な被写体を撮影を通じて、EOS-1D X Mark IIの画質を確かめていくことにする。
EOS-1D X Mark IIに搭載された撮像素子は、約2,020万画素の35mm判フルサイズ相当CMOSセンサーである。またキヤノンのフルサイズセンサー搭載機として初めてデュアルピクセルCMOSセンサーを採用することで、ライブビュー撮影時のAFを高速化している。
前機のEOS-1D Xのセンサーは約1,810万画素であったことを考えると決して大幅な解像度アップとは言えないが、報道やスポーツのプロの現場では撮影した画像をトリミングして使用するケースも珍しくはないため、画像の解像度は高いに越したことはない。
ただし解像度が高くなればそれに伴いファイルサイズも増えるため、カメラのレスポンス低下や撮影画像の総ファイルサイズの増大につながる。これらのバランスを考えて、EOS-1D X Mark IIでは約2,020万画素という解像度に落ち着いたと考えられる。
遠景描写をチェック
EOS-1D X Mark IIにEF70-200mm F2.8L IS II USMを装着して遠景を撮影。その描写をチェックする。焦点距離はズームワイド端の70mm。画面全体の描写を均一化するため絞りはF8まで絞っている。ピクチャースタイルはデフォルトのスタンダード。
すでに廃墟となってしまった建物のコンクリート壁や柱、屋根のトタンの質感もしっかりと解像されているのがわかる。川岸の岩場の立体感も申し分ない。日が差す壁面と影側の壁面の階調も自然で、床下のシャドウ部も黒つぶれしていない。カメラ内の周辺光量補正と色収差補正はデフォルトでオンになっていることもあり、画像周辺部のにじみも少なく周辺光量落ちもほとんど見当たらない。総合的な画質は非常に高いレベルにあるといえる。
ISO感度の違いによる画質をチェック
画像処理エンジンにはEOS-1D XのデュアルDIGIC5+に代わり、デュアルDIGIC6+が採用された。これに伴い高感度撮影時のノイズ処理も向上。高感度でもクオリティの高い撮影が可能だ。通常の感度設定域はISO100~51200、拡張ISO感度はL(ISO50相当)、H1(ISO102400相当)、H2(ISO204800相当)、H3(ISO409600相当)となる。ちなみにEOS-1D XはH2(ISO204800相当)までとなっていた。
以下で、通常感度域のISO100~51200までを各1段ごとと、拡張感度のL、H1、H2、H3で撮影した画像を比較する。「高感度撮影時のノイズ低減」はデフォルトの「標準」で撮影した。
ISO100~800までの間は、ほとんど差を見出せないほど高感度ノイズが少ない。橋下の暗部でさえノイズは見られないほどだ。ISO1600でほんのわずかに色ノイズが見られるようになるが、それも目を皿のようにして見てはじめて判別できる程度。 ISO3200を超えると暗部にざらつきを感じるようになるが、色ノイズの量はほとんど変わらず、ISO6400でノイズ処理によるディテールの緩さが見受けられるようになる。
さらに通常感度域の上限となっているISO51200では、ISO25600までの画像と比較するとノイズが遥かに多くなっており、常用するにはすこし無理を感じるレベルだ。ただ、これまでの一般的なデジタルカメラのノイズリダクション処理とくらべ、ディテール処理に違いを感じる。画像全面が均一に緩くなるのではなく、橋の筐体や手すりなど直線部分のエッジのシャープネスは高く保ったまま、平面部などを中心的にノイズリダクションをかけている印象だ。結果、画像全体のクリアな印象が保たれている。
拡張感度域となるH1、H2、H3はノイズもディテールの緩さも顕著となり、いずれも緊急的な使用領域となる。ただそれでもISO409600という、これまで未知の領域であった超高感度撮影を行えるカメラが登場したことは驚きに価する。今回テスト撮影を行ったのはほとんど周囲に灯りのない深夜の海岸であったが、そのような状況下でも絞りF2.8で1/125秒での撮影が可能であった。これはカメラを三脚に据えることなく手持ちでの撮影さえも可能なレベルだ。報道の現場など極端に暗い場所での撮影までも可能としてくれるカメラであることは間違いない。
高速連写とAF追従撮影を自転車ロードレース撮影で検証
大きく進化したEOS-1D X Mark IIの高速連写とそれに追従するAFシステムを検証するべく、自転車ロードレースにおいてフィールド撮影テストを行った。ここでは光学ファインダーを使用しドライブモードは高速連写に、AFはAIサーボを選択して向かって来るロードレーサーを撮影した。
レンズはプロの撮影現場においても使用頻度の高いEF70-200mm F2.8L IS II USMを使用。シャッタースピード1/1,000秒、絞りは開放F2.8となるようにISO感度で明るさを調整。被写体をAFで捉えた後シャッターボタンON、そのまま被写体を選択したAFエリアで捉え続けるようカメラを振り、被写体がカメラに近づいた後にフレームアウトするまで連写を行う。AIサーボの特性を設定する「AFカスタム設定」は標準の「Case1」に設定する。
テスト1
車列集団から離れて向かってくる単独レーサーをゾーンAF(中央)で捉えつつ撮影。中央9つのAF測距点を乗り換えながら29コマ目までは向かってくる選手にAFが追随しインフォーカス。30コマ目で一瞬背景にフォーカスが抜けるも、31、32コマで復帰。しかし33コマ目はフォーカスが大きく外れ、34コマ目で後ピンとなり選手の太腿にインフォーカス。その後フォーカスは復帰できないまま選手がフレームアウトした。
以下は、DPPでAFフレームを表示させた画面をコマ送りムービーにしたもの。
テスト2
集団の車列先頭を走るレーサーをゾーンAF(中央)で捉えつつ撮影。中央9つのAF測距点を乗り換えながら向かってくる先頭の選手を23コマ目まではほぼインフォーカス。シャッターの切り始めから11、12コマ目くらいまでは選手の顔が見えない状態だったためか、主にジャージの形と色に追随しているようだ。24コマ目で前ピンになりいったんアウトフォーカスに、26コマ目で選手の顔に再度フォーカスが復帰し、27、28コマ目までフォーカスゾーンを外れながらもおおよそ追随している。なお若干、像が緩いのは至近距離となったことによる被写体ブレと思われる。
テスト3
カメラとほぼ平行移動するレーサーを追いかける。ラージゾーンAFで左側AFゾーンを選択。先頭のレーサーにフォーカスを合わせる。途中4回、被写体との間に障害物を挟むも、フォーカスは障害物に移ることなくレーサーを捉え続けている。使用レンズのIS用ジャイロの加速度センサー情報から、カメラの動きが被写体を追いかけているものと判断した結果、障害物を無視したものと思われる。
この3パターンのテスト結果から導き出せるのは、AFの追従率がとても高いということである。ここで取り上げた全コマ数79コマのうち、完全なアウトフォーカスだったのはたったの8コマであった。つまり71コマはほぼAFによるフォーカスが追従しているという結果となった。これは実に9割近くの追従率となる。
もっとも、シンプルな直線コースでの撮影であるうえに、サンプル数も少ないが、これまでロードレースを撮影した経験からすると、EOS-1D Xと比較してもEOS-1D X Mark IIのAFの追随率は高く感じる。何よりも連写コマ数が増えたことで、1回のシャッターチャンスにおける撮影コマ数が増え、さらにそのほとんどのコマにフォーカスが合っているとなると、スポーツ撮影はもちろん報道や動きの激しさを表現するダンスの撮影などには、現時点において最強の武器となり得るカメラである。
純正レンズとのマッチング
今回のレビュー撮影ではEOS-1D X Mark IIを実戦的な撮影に投入するなかでその実力を測った。使用するレンズもプロの撮影現場で使用頻度の高いLレンズを、広角から望遠に至るまでのズームレンズで揃えた。特にEF24-70mm F2.8L II USMとEF70-200mm F2.8L IS II USMはプロカメラマンのなかでも使用している人が多く撮影頻度も高いレンズだ。
これらのキヤノン純正レンズをEOS-1D X Mark IIで使用すると、カメラ内にて周辺光量補正、色収差補正、歪曲収差補正、回折補正が有効となる(設定で補正オフも可能)。もちろんキヤノン純正以外のレンズも使用可能だが、これらを使用する場合には光学補正機能はオフが推奨だ。誤作動により撮影画像に不必要な補正がかかってしまうことがあるからだ。
作品集
今回のレビューでは限りなく実戦に近い撮影にEOS-1D X Mark IIを投入して、その実力を実感することができた。以下にそれらの撮影で得られた作品を掲載する。写真をじっくりとご覧いただき、その高い性能を読み解いていただきたい。
自転車ロードレースにてブラインドコーナーから飛び出してきた集団の選手をとっさにフレームに収めレリーズオン。AFカスタム設定をCase3(急に現れた被写体に素早くピントを合わせたいとき)にすることで、AFの挙動も敏感に反応させることができた。
ゴールスプリントを制し、飛び込んでくる選手をゴールラインの数十メートル先より待ち受ける。ゴール手前数mからレリーズオン。高速連写で選手がゴールラインを通過する瞬間を捉える。AFカスタム設定はCase1(汎用性の高い基本的な設定)、決定的瞬間を狙うと同時にラージゾーンAFの余裕ある測距点を活かし構図にもこだわる。
自分の前を通過し離れていく車列を追いかけるようにして、高速連写で追尾撮影。一般的にコンティニュアスAFは向かってくるものには強く離れていくものは少し苦手なのだが、EOS-1D X Mark IIのAIサーボAFは離れるものもしっかりと追いかけてくれる。
ゴールゲートを通過する選手達を広角11mmの強いパースを活かしてダイナミックに捉えた。AFはワンショットとし、ゲート上部に固定。シャッタースピードを1/400秒まで落とし、通過する車列が流れるようにした。あらかじめライビビューで構図を決めておき、撮影時にはライブビューは終了させノーファインダーでシャッターを切った。
屋外での女性ポートレート。EOS-1D X Mark IIの軽快なAFとレリーズは人物撮影においても、そのわずかな目の動きや唇の開き具合の変化にも瞬時に反応することができる。高速連写モードの軽やかなシャッター音は被写体であるモデルの表情までテンポよく盛り上げる効果もある。撮る側もつい撮りすぎてしまいがちだが、高速書き込みが可能なCFast 2.0カードのおかげで、RAW+JPEG記録でも待たされることなく撮影に集中できた。このカットのためだけに約390ショットを3分弱の間で撮影。
日の沈んだ屋外にて周囲の地明かりだけで撮影。ISO6400まで上げ焦点距離を約50mmにセット。レンズの絞りをF2.8にすることで背景をぼかしながらも、周囲が夕闇につつまれる直前のシチュエーションを捉えた。
すっかりと日の沈んだ港町にて、ISO感度を25600まで上げて遊歩道の街灯の明かりのみで人物を夜景と一緒に撮影した。手ブレ補正の付いていないレンズだが、シャッタースピード1/60秒で手ブレを起こすこともなく手持ち撮影ができた。さすがに高感度ノイズも発生しディテールも緩くなっているが、ほとんど光が届かない場所でも撮影できたこと自体が驚きだ。
老舗ジャズクラブでのライブ撮影。落ち着いた雰囲気のステージ上でプレイするミュージシャンを、ISO12800の高感度で捉える。ホワイトバランス設定をオート(雰囲気優先)にしていることで、スポットライトのタングステン光の色を残した雰囲気のある光となっている。ドライブモードの「ソフト動作」を利用した。(テナーサックス右近茂、シンガー野村佳乃子)
ジャズクラブの撮影は演奏を楽しみにしている観客のすぐ近くで行うため、ドライブモードをソフト動作にして極力シャッター音が響かないように気をつける。EOS-1D X Mark IIのシャッター音はフルサイズ一眼レフのなかでも比較的静かだ。(ベース ジャンボ小野)
まとめ:究極性能を求める一般ユーザーにも、待望の1台
今回の実写編では、EOS-1D X Mark IIで様々なシーンの被写体の撮影を行った。その結果には、まさに驚くほど高いポテンシャルを見せ付けられた。それは現時点において、最も戦闘的なカメラのひとつであることの裏付けでもある。それだけにその価格は70万円オーバーという、たとえプロであってもやすやすと手に入れられる価格ではない。
だが、今現在このEOS-1D X Mark IIと同等な性能を得られるカメラはニコンのD5しか存在しない。きっと今年のオリンピック・パラリンピックの会場においても、白い望遠レンズと黒い望遠レンズの静かなせめぎ合いが展開されることであろう。
このように世界のトップアスリートを撮影することさえ可能なデジタル一眼レフカメラではあるが、それは決してプロカメラマンのためだけのものではない。究極の性能を求める一般ユーザーにとってもまさに待ち望んだカメラである。このEOS-1D X Mark IIを手にすることができた者は、きっとその完成度の高さにしばし酔いしれることだろう。
撮影協力:JBCF 群馬CSCロードレース Day-1
モデル:夏弥