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ソニーがクラウドAIに見る未来。個人向け「Creators’ Cloud」について聞く

動画編集の“下地作り”を自動処理 クリエイター同士の繋がり創出も

ソニー株式会社 イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 クラウド・ソリューション室 ゼネラルマネジャーの下川僚子氏(左)、同事業本部 商品企画部門 商品企画2部 2課 統括課長の上田力也氏(右)に話を聞いた。

ソニーは2月22日、クラウド制作プラットフォーム「Creators’ Cloud」を個人向けにも提供開始すると発表。ソニーの担当者に話を聞いた。

今回、提供が始まったのは、2022年9月に法人向けにリリースしたクラウドサービスを、機能やパッケージングなどを個人向けにチューニングしたもの。これまで同社としてはカメラメーカーとして撮影そのものをハードウェア中心にサポートしてきたが、そのサポート範囲を制作活動にまで広げることをコンセプトとしている。ソニーの機材を使っているかに関わらずサインアップでき、クラウドストレージの容量アップ以外は現状無料で使える。

これまで法人向けとしては、放送局の番組制作や、ライブ中継の配信、ハイライト映像を自動生成するようなサービスを提供してきたというCreators’ Cloud。それらを支えるクラウドAIの能力やノウハウが、個人向けサービスでも基本となっている。

現在の個人向けCreators’ Cloudは、主に以下の3要素から構成。今回の提供開始はあくまでスタートラインであり、ユーザーのフィードバックを得ながら一緒に育てていきたいと話す。

・Creators’ App:カメラからクラウドへ写真/動画をアップロードするモバイルアプリ(2月下旬以降公開)
・Master Cut(Beta):クラウドAIで動画編集の“下地作り”を行うWebアプリ
・Discover:コミュニティ機能。クリエイター同士が繋がる場

Introducing Creators' Cloud | Sony

Creators’ App:素材をクラウドへ

クラウドAIサービスを利用するにあたり、まずは素材となる写真/動画をアップロードする必要がある。現時点では、モバイルアプリ「Creators’ App」(クリエイターズ アップ。2月下旬以降公開)もしくは、Webブラウザからアップロード可能。将来的には対応カメラからのダイレクトアップロードも計画しているという。

アップロード先のクラウドストレージは、サインアップした段階で5GB、さらに所有しているソニー製カメラを登録するとボーナスとして20GB増え、合計25GBを無料で使える。ボーナス対象となるソニー製カメラは約50機種だという。

写真データはJPEG、PNG、RAW(ARWのみ)HEIFをアップロード可能(DiscoverはJPEGとPNGのみ)。

「Master Cut(Beta)」:編集前の“下地作り”をサポート

Master Cut(Beta)に動画を取り込んだところ

先の方法でクラウドにアップロードした動画ファイルに対し、他の編集ソフトで作業を始める前の“下地作り”として使われることを想定している。

具体的には「手ブレ補正」と「音声のノイズ除去」をクラウドAIの技術で手助けするもので、補正やノイズ除去の具合を「おすすめ」の初期状態から任意に変更もできる。

手ブレ補正は、動画ファイルに書き込まれているメタ情報(カメラの加速度センサーから得た情報や、使用レンズのデータ)を踏まえ、より自然な仕上がりを得る仕組み。補正の加減も好みに調節できるという。カメラ内ではなくクラウドで処理することで、より高品位な仕上がりを高速に得られるのがポイントとなる。

音声のノイズ除去(音声分離)は、クラウドAIが動画内の音声を「音声」「環境音」「風音」に自動分離。環境音を適度に残す「おすすめ」設定のほか、3つの要素をスライダーを使って、環境音を最低レベル(-∞)にするなど、好みのバランスを調節できる。

動画ファイルの音声を、クラウドAI技術で3要素に分解。それぞれの音量バランスをスライダーで調節できる

この音声分離の精度は、ソニーならではと自信を見せるポイント。ソニーグループでは音楽コンテンツやコンシューマ向けの撮影機材なども扱っているため、AIが学習するための大量のデータがあり、それらで育てられたAIのため高精度であるとのことだ。例えばペットロボットのAiboも、マイクで得た音声の中から「命令」と「動作音」を分離するという処理が行われており、ノウハウの共有があるという。

Master Cutを開発した背景には、昨今は映像コンテンツの消費サイクルが速く、動画1本あたりの制作時間が限られる中で、クリエイターが「個性」や「作り込み」といった本来のクリエイティビティに掛けられる時間を増やしたいというニーズがある。そのため、それ以前の段階である手ブレ補正や音声ノイズ除去といった“下地作り”の負担の多くを、クラウドAIベースの機能で肩代わりするというものだ。

また音声に関しては、複数のクリップ間で均一化することもできる。例えば、片方の動画は話者がマイクに近く声が明瞭で、もう一つの動画は話者が遠いため音声が小さく、相対的に環境音が大きかったとする。これに均一化の自動処理を加えたものを聞いてみると、後者の動画では話者の音声を目立たせつつ、環境音が抑えられていた。単純に音量だけを上げ下げするのではない点が独特で、実作業にとてもありがたいポイントだと感じた。

複数ファイルを同じ音声レベルに最適化する機能も

Webサイトによると、現時点でMaster Cutに対応している機種はFX3、FX30、α1、α7R V、α7S III、α7 IV、α7C、ZV-E10、ZV-1、ZV-1F、RX100 VII、RX0 II。基本的には対応するソニー製品に向けた機能だが、音声のノイズ除去に関しては、対応製品以外のファイルをアップロードしても、サポート外ながら動作するようだ。

ソニーはこうした機能も通じて、カメラ本体はCPU能力や電力に制約があるため“撮像”をメインとし、カメラ本体に収まらない部分をクラウドに任せることで、カメラのユースケースが広がるという未来を見ているそうだ。将来的にはより高速なワークフローを実現するために、プロキシファイルの活用も検討しているという。

Discover:クリエイター同士の繋がりを創出

「Discover」のイメージ
スマートフォンでの利用イメージ

クリエイター同士で繋がることを目的とする「Discover」は、ユーザーを活動拠点や撮影ジャンルなどで検索可能。また、アップロードされた作品も使用カメラやレンズから絞り込める。

同社ではオフラインでもオンラインでも、クリエイター同士が出会う場を提供したいという。投稿した作品はいわばポートフォリオとなり、ユーザー検索は“作品を共同編集する仲間”を探すように使ってもらえることも期待する。Creators’ Cloudでは、共同作業向けのメディアストレージ「Ci Media Cloud」(シーメディアクラウド)も提供している。

処理もエッジからクラウドへ

かつて映像編集がリニアからノンリニアに変化したように、処理もエッジ(ローカル端末)からクラウドに移行していくと予想するソニー。オンラインを通じたチーム作業など、ネットインフラ整備とのバランスではあるが、ストレージを核としたクラウド活用が主流になっていく(下川氏)と見解を語る。

また、Creators’ Cloudというサービスは他社製品を除外こそしないものの、メタデータを使った手ブレ補正など、ソニー機の表現を高められることを最大のメリットとして訴求。“カメラとクラウドの掛け合わせ”に本当の良さがあるため、是非ソニー製品を通じて良さを味わってほしい(上田氏)という。

トップページにアンケート画面へのボタンを設置。フィードバックを通じて、一緒に育ててほしいとのこと

なおソニーはCP+2023において、この「Creators’ Cloud」関連の展示やセミナーを実施。公開前のモバイルアプリも先行体験が可能だという。詳しくはソニーのCP+2023特設ページで確認してほしい。

本誌:鈴木誠