Canon EOS R5/R6 “REAL FOCUS”
描写性能は?モノクロの階調表現は?…写真家・GOTO AKIさんに「EOS R5」「RF50mm F1.8 STM」のあれこれを聞く
2020年12月25日 17:00
キヤノンの「EOS R」シリーズは、キヤノンの一眼レフカメラ「EOS」のノウハウが盛り込まれたフルサイズミラーレスカメラだ。今年発売された「EOS R5」「EOS R6」ではより「EOS」のフィロソフィーが感じられ、その魅力は様々なジャンルのフォトグラファーの心を捉えた。
交換レンズの「RFレンズ」も多種多様な製品が揃ってきた。中でも新製品の「RF50mm F1.8 STM」は、EOSの定番レンズとして以前から人気の「EF50mm F1.8」系列をRFレンズとしてラインナップしたかのような製品。小型軽量なお求めやすい単焦点レンズとして期待を集めている。
この連載、Canon EOS R5/R6 “REAL FOCUS”では、EOS R5/R6をお使いの写真家に、その印象や実際の使い勝手などをうかがう。
今回は風景写真家・GOTO AKIさんに、「EOS R5」と「デジタルカメラマガジン2021年1月号」の記事で試用いただいた「RF50mm F1.8 STM」の話を聞いた。
インタビューをまとめた動画も用意したので、「EOS R5」や「RF50mm F1.8 STM」の購入を考えている方はぜひご覧いただきたい。
GOTO AKI
1972年川崎市生まれ。1993年上智大学経済学部経営学科卒業。1999年東京綜合写真専門学校写真芸術第二学科卒業。武蔵野美術大学造形構想学部映像学科非常勤講師。1993年の世界一周の旅から現在まで56カ国を巡る。1999年より写真家としての活動を開始。
主な個展に「LAND ESCAPES」(キヤノンギャラリ ー 2010年)、「LAND x FACE」(キヤノンギャラリ ー 2015年)、「terra」(キヤノンギャラリーS 2019年)等。写真集に「LAND ESCAPES」(traviaggio publishing 2012年)、「LAND ESCAPES -FACE-」(traviaggio publishing 2015年)、「terra」(赤々舎 2019年)がある。
日本橋高島屋新館4Fにて、写真展「テラ(地球)の声」を2021年1月17日〜1月31日にかけて開催。
◇ ◇ ◇
撮影スタイルについて
——ミラーレスカメラへの切り替えはいつごろでしたか?
2018年の夏くらい、「EOS R」が出たときからです。「EOS R」が初めてのミラーレスカメラですね。
——最初の印象はいかがでしたか?
それまでは「EOS 5D Mark IV」がメインのカメラでした。電子ビューファインダー(EVF)に慣れるまで1、2日かかりましたが、慣れてしまえば問題なかったですね。むしろ、ピクチャースタイルの設定をそのまま見られるなど、作品に近いものをファインダー内で見ることができます。自分自身にとっても大きなアドバンテージになるのではないかと前向きに捉えるようになりました。
——ピクチャースタイルの設定など、撮影時によく変えるものなのですか?
フィルムの時代はリバーサルフィルムを使っていました。なので撮影後の後処理はなるべくおこなわず、撮ったそのときが勝負という撮影スタイルです。フィルムからデジタルに変わっても同じですね。そのときの発見や感動をその場でとらえていくという撮影方法ですので、それにあわせたピクチャースタイルもその場で変えています。モノクロも現像時ではなく、あらかじめ設定してから撮ります。
——モノクロもですか。ミラーレスカメラだとファインダーを覗いた世界もモノクロですよね。
そうですね。明暗の差や光についての発見があったときはモノクロで撮ることが多いです。その状況がファインダー内で見えている、その場で完成に近いものが見えているというのは、とても良いことだと感じています。映画館で映像を見ているような、より撮ったものが何であったのかということが見やすくなりましたね。
——三脚を使うときもファインダーを使用されるのですか?
はい、その場合もファインダーで撮影しています。実はほぼ手持ちで撮影していますが(笑)。もともとストリートスナップを撮っていましたので、ファインダーを通して被写体を見つけたり、また偶然的な要素が入ってくるのも写真の醍醐味ですので、そういう部分を大事にしてファインダーを使って撮ることが多いですね。
——そうなんですか。精緻な構図の作品が多いため、個人的には三脚が多いのではないかと思ってました。
三脚でじっくり撮る場合もあれば、またスナップで反応しながら撮っていく場合もあります。目の前の光景に反応して一枚撮ったとしてもそれがすべてではなく、そこから自分自身が動くわけです。じっと見つめていると見えてくるものがあるときは三脚で撮りますね。
——そういう意味ではカメラ機材は軽い方が良いのでしょうね。
軽い方がありがたいというのが本音ですね。ただ軽すぎるとしっくりこないという不思議な部分もあります。手にしっかりホールドできる、ある程度の大きさと重さが大事だと感じています。とはいえ重すぎると山中を歩くとき厳しいので、そこはトレードオフの関係になりますね。もちろん「レンズを何本持って行こうか」など、そういう葛藤も出てきます。
——撮影には何本くらいのレンズを持っていくのですか?
山の中を長く歩くときは3本、4本ですね。「RF15-35mm F2.8 L IS USM」「RF28-70mm F2 L USM」「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」の3本が基本になっています。ボディは作品撮りの際は1台、仕事のときは2台です。
——望遠ズームレンズは「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」ですか。意外にも「RF70-200mm F2.8 L IS USM」ではないのですね。
200mmでは足りないシーンがあるのです。風景撮影では広角レンズを使うことが多いと思うのですが、私は逆に広いところほど切り取る、洞窟など狭いところほど広角で広く撮ります。なので、200mmでは足りないことがあり、「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」を使っています。
——RFレンズも増えてきましたよね。
画質もそうですが、機能面でもEFレンズよりよくなった点もあります。例えば測距した距離数がファインダーに表示されるところ。月夜に風景を撮るときなど、明るい時にロケハンで山の稜線などにピントを合わせておき、無限遠のときの距離の数値を控えておく。夜になってそれを再現すれば、ぴったり遠景にぴったりとピントが合います。
——テープでピントリングを留めるテクニックの現代版ですね。ミラーレスカメラと一眼レフカメラとは併用されていますか?
作品撮りはミラーレスカメラに移行しました。ただし「EOS 5D Mark IV」はいまも持っています。ハウジングを「EOS 5D Mark IV」用に作っていることもあり、いまは水中で活躍しています。
EOS R5の画素数について
——EOS R5は約4,500万画素になりましたが、作品を作る上で何か変わりましたか?
個展では大きく展示しますので、画素数が多いほど細部のディテールを損なわずプリントできますね。3,000万画素クラスの場合、プリントは横1.5m程度まででしょうか。横1.8mになると少し線がにじんでくるような印象が出てきます。4,500万画素だとそれを超えて2mでも大丈夫かもしれません。
画素数が多いとクロップ機能も実用的になりますね。4,500万画素から1.6倍クロップでおよそ1,730万画素。これなら十分なシーンもありますね。レンズを2本しか持っていけないような場合でも、クロップ機能が実用的に使えるのではないでしょうか。
※記事初出自にクロップ時の画素数を誤っていましたので、正しい内容に修正しました。
ボディ内手ブレ補正機構について
——ボディ内手ブレ補正の効果を実感されていますか?
私がメインで使っているレンズのひとつ「RF28-70mm F2 L USM」には手ブレ補正機構が搭載されていません。そのためボディ内手ブレ補正機構がないカメラのときは、大判カメラでの撮影するかのように三脚を使って慎重に撮っていました。「EOS R5」はボディ内手ブレ補正機構が搭載され、とても撮りやすくなりました。
すべてのRFレンズに手ブレ補正機構が入っているわけではありません。ボディ内に手ブレ補正機構が入ったことで、レンズには手ブレ補正機構がなければいけない、という縛りからも解放されたのではないかと思います。
画質・絵作りについて
——「EOS R5」で、ここは良くなったという絵作り面での実感はありますか?
「EOS R」でもRFレンズとのマッチングの良さを感じていましたが、「EOS R5」では画素数が増えたことで、より細部や線の描写が綺麗になりました。レンズのバリエーションも増えていますし、表現力は高まっていると感じます。
——フルサイズということで重視されてる方も多いかと思いますが、ダイナミックレンジについてはいかがですか?
広いですね。基本は白飛びさせないというのを守りつつ、シャドウ部もしっかり粘るというのでしょうか。感度はISO 800程度でとどめてますが、現像時にシャドウを上げてもカラーノイズも出ませんね。
この作品は奥日光のさらに奥で撮影した男体山を撮ったものです。輝度差のある光景ですが、しっかりとシャドウのトーンが残っているのがわかるでしょうか。
操作性について
——操作系が一眼レフの「EOS 5D」系に近くなりました。
「EOS R」だけでなく、「EOS 5D Mark IV」の良さも入っている印象です。やはり背面のサブ電子ダイヤル2での操作には馴染みがありますし、マルチコントローラーもよくぞ戻ってきてくれたと思います(笑)。「EOS」からの移行もこれがあるととてもスムーズではないでしょうか。直感的な操作性で誤作動もないので使いやすいです。
——その他のダイヤルやボタンの配置はいかがですか?
親指で届く部分に主要な操作部材が揃っているのがいいですね。しかも私の手の大きさにしっくりきます。触っていて楽しいカメラです(笑)。カメラマニアではない私でもこのカメラはずっと触っていられます。
覚えてしまえばファインダーを覗いたまま操作ができるのも良い点だと思います。私の場合、ヒストグラムや水準器などをファインダー内に表示したままなので、そこから目を離さず取れるのはメリットです。無駄なシャッターを切る必要がなくなりますので。
——カスタマイズはどの程度されていますか?
カスタマイズというほどではないのですが、マイメニューはピクチャースタイル、クロップの設定、ホワイトバランスなどよく変更する基本的なものを設定しています。普段の操作ではマイメニューだけを見て撮影していますね。
あとはC1、C2、C3に、スローシャッターやバルブでの撮影設定を登録しています。季節ごとやシーンごとに設定しておくととてもラクです。
各ボタンもかなり自由にカスタムできますし、「自分のカメラ」だという感覚が強いです。
電子ビューファインダーについて
——「EOS R5」の電子ビューファインダーには高性能なデバイスが奢られていますが、そのあたりはいかがですか?
見え方がナチュラルになったと思います。「EOS R」では光学ファインダーとの差を感じましたが、「EOS R5」だと光学ファインダーで見る像にピクチャースタイルが載ってくるような感覚ですね。とても自然だと思います。
バリアングル液晶モニターについて
——手持ちでの撮影が多いとのことですが、バリアングル液晶モニターは使用されますか?
高い位置や低い位置からアングルを変えて撮ることが多く、よく使っています。
AFについて
——AFの設定はどうされていますか?
基本的には1点AFです。測距位置を動かすときは、液晶モニターをタッチしています。反応もいいし、ファインダーを見ながらできるので簡単です。森のようなシーンで大きくラフに撮る際には、ラージゾーンAFを使うこともあります。1点AFだけ使っていると似たような写真になってしまうこともあるので、使い分けています。
RF50mm F1.8 STMについて
——今回の企画のために「RF50mm F1.8 STM」を「EOS R5」に装着して使っていただきましたが、いかがでしたか?
RFレンズでお求めやすい価格のレンズが出たと聞いていたのですが、チープな感じはなく、「EOS R5」と合わせても悪くないですね。
そして実際に撮影をして感じたのが「やはりRFレンズだな」ということ。ピントがバシっときたときの線の出方の細やかさなどにびっくりです。手頃な価格でこの写りというのは驚きですね。若干逆光に弱い面もあるなど、すべてがパーフェクトというわけではありませんが、ここまで描写が良く、しかも軽いとなれば、メリットの方が大きいのではないでしょうか。
「RF50mm F1.8 STM」の焦点距離50mmは、愛用している「RF28-70mm F2 L USM」に含まれ、さらに明るさも似ています。そのため、個人的にこのレンズにそれほど興味を持てなかったのは事実です。でも使ってみるとこれが面白かった。50mmという制約の中、自分の体を動かして撮るという、撮影の原点に戻ったような感覚を楽しめました。
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——GOTOさんが感じられている、「EOS R」システムだからできることとはなんでしょう。
「EOS R5」とRFレンズを使って撮影、帰宅したらこれもキヤノン純正のDPP(Digital Photo Professional)で現像、PPL(Professional Print & Layout=PRO-G1やPRO-S1などに付属するプリントソフト)でプリント。PRO-G1、PRO-S1の画質も良くなっていますし、新しいキヤノンのインクジェット用紙「光沢プロ[クリスタルグレード]」も高品質です。カメラボディ、レンズ、プリンターと一貫して色を出す作業をおこなえることに、純正の良さを感じています。
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3名の写真家が「EOS Rシステム」のリアルを解説!
デジタルカメラマガジン2021年1月号の企画「REAL FOCUS」では、このページに登場いただいたGOTO AKIさん(風景)をはじめ、竹見脩吾さん(スポーツ)、舘野愛さん(ポートレート)の3名が登場。「EOS R5/R6」で撮影した作品とインプレッションを掲載しています。ぜひご覧ください。
協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社