Canon EOS R5/R6 “REAL FOCUS”

ボディとのバランスは?スナップでどう使う?…写真家・鶴巻育子さんに「EOS R6」「RF600mm F11 IS STM」のあれこれを聞く

車の往来の激しい都心の風景。光の反射と街の映り込みが車体に浮かび上がる。超望遠レンズならではの圧縮効果で、その分が強調される。感度を気にせず上げられる高感度画質の優秀さも撮影を助けてくれる(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/640秒・-0.3EV) / ISO 1600 / WB:日陰

キヤノンの新しいフルサイズミラーレスカメラ「EOS R5」と「EOS R6」。そのうち「EOS R6」は、有効約2,010万画素CMOSセンサーをベースに、映像エンジン「DIGIC X」や約8段分のボディ内手ブレ補正機構、デュアルピクセルCMOS AF IIなど、最新の装備を誇るフルサイズカメラです。上位モデル「EOS R5」との大きな違いは画素数ですが、その分、高感度に強く、画像データも扱いやすくなっています。撮影ジャンルによっては十分に高い基本性能を手にすることができるでしょう。

また、同時発表の「RF600mm F11 IS STM」は、焦点距離600mmという軽さの超望遠レンズにして、質量約930gという今までにない存在の製品。F11絞り固定という思い切った仕様で手に入れた軽快さが話題を呼びました。

この記事では「EOS R6」と「RF600mm F11 IS STM」をお使いの写真家の鶴巻育子さんに、そのインプレッションをお聞きしました。特に鶴巻さんが取り組まれている“超望遠スナップ術”について語っていただいています。

インタビューをまとめた動画も用意しましたので、「EOS R6」「RF600mm F11 IS STM」に興味のある方はぜひご覧ください。

鶴巻育子

撮影:加藤丈博

1972年東京は葛飾生まれ。広告代理店勤務中に写真を学び始める。その後ブライダル写真事務所に所属、カメラマンアシスタントを経て、2007年独立。目黒にて写真ギャラリーJam Photo Galleryを主宰。今年10月15日から11月25日にかけてキヤノンギャラリー銀座&大阪で写真展「PERFECT DAY」を開催。

EOS R6
RF600mm F11 IS STM

ミラーレスカメラについて

—— 鶴巻さんはEOS Mシリーズ(APS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載するキヤノンのミラーレスモデル)を使われていて、その後はフルサイズの「EOS R」、そして現在は「EOS R6」を使用されています。そもそも一眼レフからの移行はスムースでしたか?

鶴巻:最初は違和感があったというか、私の中でなんとなく信頼度が低かったんです。本当に大丈夫なのかなって。でも、いまはそこの差はまったく感じないですし、一眼レフにこだわる必要もなくなってきました。もちろん被写体による部分はありますが、ミラーレスカメラで何も困ることはないですね。

—— 「EOS R」も使われていましたが、「EOS R6」は「EOS R」より起動が速くなっています。そのあたりはどうですか?

すぐに電源が入って撮影できることで、とっさのシーンも逃さず撮れるようになります。一眼レフカメラでは当たり前でしたから、これまでのミラーレスだとみんなそこにストレスを感じていたと思います。とはいえ、カメラの電源を入れっぱなしにはできないですからね……。その点、起動が速い「EOS R6」はとてもスムースな流れで撮ることができます。

—— 「EOS R6」は上位モデルの「EOS R5」とよく比較されます。その上で「EOS R6」はどのような人にフィットするカメラだと思いますか?

鶴巻:質量約680gと軽量なので、よりスナップ向きのカメラなのでしょう。スナップを撮るなら「EOS R6」+「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」のセットがベストでしょうね。私はいつも携行しています。忘れると取りに帰るくらいです。

「EOS R6」のキットレンズ「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」もいいですね。以前の私はズームレンズを使うことに抵抗がありました。でも最近はズームの利便性を活用することを素直に受け入れてみようと思えるようになりました。実際に使ってみると、描写もとてもよかったです。

絵作りについて

—— 「EOS R6」の絵づくりについてどのように感じましたか?

鶴巻:「EOS R」と同じように、複雑な後処理をすることなく見映えのよい画ができます。高感度での撮影でも十分な画質を得られますね。個人的にはISO 6400までと決めています。

—— 「EOS R5」と比べて約2,010万画素はやや控えめかと思いますが、そのあたりはどうでしょうか。

鶴巻:先日RFレンズの企画展に出展しましたが、長辺1,000mmのサイズにプリントしても、ものすごく美しく仕上がっていましたから、画素数は十分だと思います。

ハチ公の壁画と手前の通行人に光が当たったタイミングを狙い、手持ちでフットワーク良くシャッターを切ることができた。ぼけているがマスクをしている女性たちから「今」がうかがえる(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/660秒・-0.3EV) / ISO 1600 / WB:日陰

電子ビューファインダーについて

—— 「EOS R6」は約369万ドットの電子ビューファインダーを搭載しています。フレームレートを含め、撮影時にEVFの見えはいかがでしたか?

一眼レフカメラでの撮影歴が長いのですが、「EOS R6」で電子ビューファインダーを初めて覗いたときは感動しました。そのくらい見えやすいです。

—— 光学ファインダーと違い、電子ビューファインダーは露出などの設定が表示に反映されます。完成形に近い状態が常に確認できることで、それが作品にどう影響するのでしょうか。

鶴巻:撮った後に現像はしますが、撮る時点で完成に近づけておかないと、撮ったときの気持ちが反映しにくいんです。その点、電子ビューファインダーはその場で完成形が確認できます。露出やホワイトバランスを確認して撮れるのは本当にメリットですね。もちろん突然良い場面に遭遇してそのまま撮ってしまうこともあるのですが、天候などによって設定は変えています。

ボディ内手ブレ補正について

—— 「EOS R6」は、レンズ側との協調で最高約8段分の手ブレ補正効果を実現しています。普段撮影される際にどのようなメリットを感じられましたか?

鶴巻:「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」はそこまで開放値が明るくないので、夕方から夜のスナップは暗くなると手ブレが心配になります。そこで効果を感じられるのが手ブレ補正です。

高感度での画質が向上していても、やはりできる限り低感度で撮りたいものです。手ブレ補正があることで、可能な限りISO感度を下げて撮ることができます。私自身はISO 6400くらいを上限と考えて撮影しています。

美しい夕焼けで空が彩られていた。露出補正をマイナスに設定して空の色みとシルエットを強調圧縮効果によって歩道橋や標識、街灯でレイヤーを作ってフォルムが際立つように構成した(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/640秒・-0.3EV) / ISO 1600 / WB:日陰

シャッターについて

—— 「EOS R6」を使用していてシャッタータイムラグは感じられますか?

鶴巻:特にストレスを感じることはありません。これまでのミラーレスカメラではレスポンスが悪かったり、タイムラグを感じるシーンもありましたが、「EOS R6」はかなりレスポンスが良くなったなと感じます。

操作性について

—— 「EOS R」から一眼レフEOSに近い操作系になりました。

サブ電子ダイヤル1(ボディ背面にあるホイール状の操作部)の復活はありがたいですね。撮影画像を再生するときに便利なので。「EOS R」ではなくなってしまって、そのときはもう戻らないかなと思っていたのですが、戻ってきてよかったです(笑)

私自身、撮影時に設定を大きく変更することはなくて、カメラのレスポンスがよくて自分に合えばそれで十分なんですよね。AFエリアを頻繁に操作するような撮影ジャンル、例えばスポーツや動物、乗り物だと、マルチコントローラーやダイヤル類が重宝すると思います。

高層ビルを600mmの焦点域で一部分だけ切り取る。ビルの多種多様なテクスチャーが重なり合い、リズミカルな描写で都心の風景が浮かび上がる(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/800秒・-0.7EV) / ISO 200 / WB:日陰

バッテリーについて

—— バッテリーの持ちはいかがでしょうか。

以前使っていた「EOS RP」のバッテリーは、「EOS M5」と同じバッテリーでしたので、予備として3〜5個のバッテリーを持ち歩いていました。それが「EOS R6」では、1日ひとつで足りるようになりました。

これは撮った後すぐに画像の確認をしないせいもあるかもしれません。私自身は撮ったあとにすぐ見てしまうと、こう撮らなきゃとかいろいろ思ってしまうので、撮影後、背面モニターで確認することはあまりないのです。それでもバッテリーは長持ちするようになりました。

RF600mm F11 IS STMについて

—— 今回、「RF600mm F11 IS STM」を使った作品を見せていただいています。鶴巻さんといえば広角から標準レンズで撮影されたスナップのイメージがありますが……超望遠レンズを使っていたのですか?

鶴巻:これまで200mmの単焦点レンズを仕事や作品撮りで使っていたことはあります。でも、結局出番が少ないですね。さらにこのレンズは600mmです。ここにきて600mmを使うとは思ってもみませんでした(笑)

—— そのきっかけは何だったのですか?

この春に引っ越しをして、環境が変わりました。新居の近くに公園や神社があったことから、前から興味があった鳥の撮影をしたいと思うようになりました。そこで「RF600mm F11 IS USM」を買ったのです。

RF600mmは都市の景観を強調したり、街中にいる鳥に迫ることで、これまでとは違う側面から街を見つめられる。5段分の手ブレ補正や軽量性のおかげで三脚を使用せずに自由な視点で手持ち撮影する方が断然撮りやすいしチャンスが広がる。その点でまさにスナップ的だ。超望遠レンズを装着してることを忘れさせる軽さが、撮影意欲につながる(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/30秒・+0.7EV) / ISO 2000 / WB:太陽光

きっかけは鳥でしたが、それを街に向けてみたらどんな風に撮れるのか……と考え、スナップも行っています。広角レンズだと出会い頭に撮影するので、いろいろなところを歩き回って撮影しますが、600mmだと画角が狭いので、ある程度は絵作りしておく必要があります。手前に何が入るか、どこから光が来るかをかなり計算して撮影するようになりました。広角、標準レンズとは違うアプローチが必要だと思います。「デザイン的」なものの見方も必要ですね。

—— 600mmの圧縮効果は200mmや400mmとは違うものですか?

全然違いますね。その差は大きいと思います。600mmならではの強力な圧縮効果は、雑多なもので構成された東京を撮るのにとても合っていると感じます。

—— このレンズにはコンパクト化のため、DOレンズが使われているのです。描写はいかがしょうか。

きれいなヌケ感ですね。レンズの描写に求めることのなかで「クリア」さは重要視しています。ピントの合っている部分のシャープさも良いと思いました。人物をシルエットにして写しているようなシーンでは逆光で撮影していますが、フレア、ゴーストも気になりませんでしたね。

—— 撮影時の重量バランスはいかがでしたでしょうか?

鶴巻:とてもよいと思います。高価なレンズでの描写力も魅力ですが、やっぱり撮るときにストレスを感じるのはすごくイヤですよね。重いと持ち歩くのも大変です。男性より力もないですし、重いレンズを持って長時間撮るのは難しいと思いますが、この軽さなら女性でもOKでしょう。1日持ち歩いていても苦にならない程度の重量感です。

—— 絞り値がF11と固定になっていますが、撮影時に工夫したことはありますか?

鶴巻:そこは工夫というより、F11固定ということで割り切っています。背景との距離によってボケは作れるので、そこをコントロールして撮影しました。

自宅屋上からの撮影。カメラを構えてもイヤがらずに撮らせてくれました。このカラスはあまり人がそばにいてもイヤがらないか、無頓着だったのだろう。シルエットにすることで、フォルムの面白さが生まれた(撮影:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/640秒・-0.3EV) / ISO 160 / WB:日陰
カラスと看板との対比。東京はカラスが多く、このレンズを持って東京を歩いてみると、よりその存在を意識するようになる(撮影:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 800mm / 絞り優先AE(F11・1/640秒・-0.3EV) / ISO 3200 / WB:日陰

—— このレンズだとボディ内手ブレ補正が協調しないのですが、そのあたりはいかがでした? とはいえレンズ側だけで5段分の補正効果があるのですが。

鶴巻:超望遠での撮影となるとどうしてもブレが気になります。600mmだと特にですよね。それが「RF600mm F11 IS USM」で撮影後にPCで見てみると、まったくブレずに撮れていました。レンズ内手ブレ補正がしっかり効いてることを感じます。

—— 普段、撮影時に使用するAFの設定を教えてください。

鶴巻:ワンショットAFで、中央1点のシンプルな組み合わせです。ほとんど被写体を中央に置いて撮るスタイルなので、ピントを合わせてからフレーミングをズラすことも少ないですね。日の丸構図が基本で、人物でも何でも中央に置くのが好きです。

—— 「EOS R」のAF測距エリアは最大約100%×100%ですが、「RF600mm F11 IS STM」を使用する際、AF測距エリアが40%×60%となります。不便は感じられませんでしたか?

鶴巻:それが、普段から中央1点でピント合わせをしているので、不便は感じなかったんです。被写体がほぼ中央ですので(笑)

—— 鳥を撮影される際、「EOS R6」に搭載された「動物優先AF」はお使いですか?

はい。カラスのような瞳がわかりにくい鳥でもピントが合います。「RF600mm F11 IS STM」を使い始めた理由の一つが鳥の撮影でしたので、この機能には助けられています。

—— 今回見せていただいた作品は、これまでの鶴巻さんの作品とは大きく違います。「RF600mm F11 IS STM」での撮影は、鶴巻さんにしては新しいチャレンジだったのですね。

はい、まさか自分が600mmの超望遠レンズでスナップをするとは思いませんでした(笑)やってみると新鮮で面白いし、写真を始めた時のワクワク感を思い出しました。ミラーレス時代になり、写真を撮る楽しみを教えてくれるボディとレンズの組み合わせが登場したことに驚いています。

ビルの屋上にあるたくさんの室外機と大きな看板。奥には、歩道橋と首都高速が走っている。超望遠レンズによってカオスな東京を表現することができた(撮影・キャプション:鶴巻育子)
EOS R6 / RF600mm F11 IS STM / 600mm / 絞り優先AE(F11・1/640秒・-1.3EV) / ISO 500 / WB:日陰

3名の写真家が「EOS Rシステム」のリアルを解説!

デジタルカメラマガジン2020年12月号の企画「REAL FOCUS」では、このページに登場いただいた鶴巻育子さん(スナップ)をはじめ、中西祐介さん(馬術)、林祐介さん(動物)の3名が登場。「EOS R5/R6」「FE 600mm F4 GM OSS」「RF800mm F11 IS STM」で撮影した作品とインプレッションを掲載しています。撮影ジャンルの違う3名が、それぞれの切り口で「EOS R5/R6」を紹介するこの企画、ぜひ手にとってご覧ください。

協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

松岡佳枝