新製品レビュー

Canon EOS R5(後編:連写など編)

ローリング歪みやサーボAFの食いつきを検証 CFexpressとSDでの違いも

キヤノンのミラーレスカメラEOS R5レビューの後編です。前編は、単写編として主に使用感のレビューを中心に構成していました。今回は連写や動物AFなど高速性を活かした撮影をしてみたインプレッションをお伝えしたいと思います。

サーボAFの食いつきは

前編でAF性能はEOS R5のほうがいくぶんか上だとお伝えしていました。そこで、EOS R6と比較したいという気持ちがあったので、前回と同じ場所で同様の条件でテストを行いました。レンズの焦点距離が足りなかったので、EOS R6のテスト時と同様に1.6倍クロップで撮影しています。

動体撮影時のサーボAFの感触は単写時にも感じた通り、基本的なAFの特性はEOS R6と同じ。電車の撮影では顔+追尾優先AFで撮影するのが最もAFの追従性が安定していて、かつピント精度についても明らかに高精度でした。ゾーンやワイドゾーンではEOS R6同様、背景にAFさせたがる傾向が強く、少なくとも今回の撮影条件に適しているとは感じられませんでした。

撮影データ:EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8〜F3.2・-0.3EV) / ISO 200〜ISO 250

連写中のズーミング操作で合焦率は変わるか

ただ、これだけでは物足りなかったので連写中のズーム操作についてもトライしてみたところ、ズーム操作なしと比べると合焦率は若干下がるものの、接近する被写体・遠ざかる被写体のどちらに対しても満足出来るレベルのAF精度がありました。

被写体の動きが大きかったり、ズーム操作とパンニングが重なるったりすると、プレビュー連写によるEVF表示のちょっとしたラグが一眼レフと比べて気になるけど「慣れ」である程度は解決できるとは思います。

撮影データ:EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(128mm〜200mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8〜F3.2・-0.3EV) / ISO 100〜ISO 125

やはりEOS R5/R6のAF性能は非常に優秀で、かなりのポテンシャルを感じます。と、いいますか、このAFに慣れちゃうと“マジで危険”。写真が上手くなったように感じるくらいにスコスコ合っちゃうし、得手不得手が少ないから何でも楽に撮れちゃう。並の一眼レフとは比較にならないほどの歩留まりが誰でも得られます。

動体撮影シーンではEOS-1D X Mark IIIとEOS R5を比較した際、R5を選んだほうがAFの「結果だけ」で言えば恐らく上だと思います。大袈裟だと思うでしょ? でも結果だけだからね。撮りやすさとかまで含めるとEOS-1D X Mark IIIに圧倒的な優位性があるシーンも勿論あるので勘違いしないで下さいね。そのくらいEOS R5はミラーレス機としてハイレベルだ、ってことを表現したかったのです。

EOS R6と比べると、今回の個体と撮影シーンで言えば動体に関してはEOS R6の方が歩留まり(ピントがOKなカットの率)がちょっとだけ良かったです。単写だとEOS R5の方が印象良かったんだけどね。

動物AF

相変わらず驚かされたのが動物AF。適用条件が広すぎて感激しっぱなしでした。この性能にはしばらく慣れることがないかもしれません。ペンギンを含め、鳥類はほぼ完璧に瞳にAFします。やってる事は多分テンプレートマッチングっていう、予め用意された代表画像に対して近似するパターンを検出していくっていう手法に類する技術を、高度な機械学習によって精度を高めているのだろうと思います。

それにしても角度を問わず瞳を画面内に捉えるとガンガン検出するんだよね。犬猫や鳥以外にもタヌキやウマ、キリンといった動物相手でもかなり安定して瞳を検出できました。ちなみに、テストした中ではワニとカエル、亀に対しては瞳の検出は安定しませんでした。爬虫類系は難しいのかもしれません。ともかく、EOS R6の時にも感じたことですが、動物写真の撮影スタイルをガラリと変えるカメラであることは確かでしょう。

鳥類はかなり高精度に瞳を検出します。しかも種類を問わず、いけました。オリや金網といった障害物があってもヘッチャラ。他のAFモードでは障害物にAFしてしまうようなシーンでも、動物AFならビシバシ合焦します。動物AF目当てでEOS R5/R6を買うっていうのは、全面的に納得できる仕上がりです。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / プログラムAE(F2.8・1/320秒・-0.7EV) / ISO 400
EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / プログラムAE(F3.5・1/400秒・+0.7EV) / ISO 200
EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / プログラムAE(F3.2・1/320秒・-0.7EV) / ISO 500

驚いたのがコレ。瞳検出「出来た」のか、「出来ちゃった」のかは不明ですが、撮影時には魚の瞳を検出してAF枠が魚を追いかけ回していました。動くモノに眼のような模様があるとそこをターゲットとしているのか? と制御に対する興味は尽きません。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(100mm) / プログラムAE(F2.8・1/100秒・-0.3EV) / ISO 500
AFポイントを表示。眼の部分に赤枠がでています

眼の近くに障害物を置いてみましたが全く問題ナシ。AFが全く迷わないから本当に快適です。クロップしていますがそれでも1,700万画素あるので、EOS R6と比べて心の余裕が違います。こうした選択の自由度がEOS R5の強みでしょう。乱暴な意見だけど「画素数はあるだけで正義」って思っちゃうよね。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / プログラムAE(F3.2・1/320秒・-1.3EV) / ISO 1000

ローリングシャッター歪み

EOS R6と同様に電車で歪みをチェックしました。レンズの都合で環境が異なっています。車速はおよそ時速45~50km程度と、前回よりも少し速く感じました。シャッター速度はEOS R6の時と同様に1/1,000秒としています。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(100mm) / シャッター優先AE(1/1,000秒・F6.3・-0.3EV) / ISO 100

ローリングシャッターによる歪みの程度は、EOS R6と比べても同程度かな? という感じ。EOS Rやソニーのα7R IVに比べると半分程度に見えますし、フルサイズで4,500万画素というスペックを考えるとかなり優秀である、という評価ですが、筆者の希望する用途、流し撮り等には不適当なので、歪みの程度が最低でもあと半分くらいにならないと個人的には積極的な運用はしないでしょう。でもこのくらいなら結構実用的なんじゃないかな。

バッファ

バッファ性能についても検証してみました。UHS-II対応のSDカードとCFexpressカードでどれほどの違いがあるのか? 皆さんも興味のある部分だと思います。

テスト条件は、EOS R6のレビューと同様にISO 2000、絞りF2.8、シャッタースピード1/1,000秒で、記録形式はRAW+JPEG L / C RAW+JPEG L / JPEG Lの3種類。この設定で、メカシャッター(約12コマ/秒)と電子シャッター(約20コマ/秒)を、それぞれテストしました。

データ量は1コマあたりJPEGが平均で12.6MB、RAWが52.7MB、C RAWが26.7MBのシーンでした。使用したメディアはSDが前回同様に筆者私物のSanDisk Extreme Pro UHS-II 32GB(Read:300MB/s・Write:260MB/s)。CFexpressは同じくSanDisk(旧バージョン)の64GB(Read:1,500MB/s・Write:800MB/s)と512GB(Read:1,700MB/s・Write:1,400MB/s)です。

EOS R6では可能だったJPEG L記録時のメカシャッター時の無限連写は最速のCFexpressカードをもってしてもEOS R5では不可能でした。270ショット目に0.1~0.2秒程度の空白時間があり、その後320ショット(プラス50ショット)まで連続撮影が出来ましたが、その時点でシッカリと撮影がストップ。CFexpressでは一瞬の空白があったJPEG連写でしたが、UHS-IIでは305コマまでラグなく撮影が進み、そのままストップとなりました。

バッファフルからバッファ解放までの時間は、512GBのCFexpressが最短で4秒、最長でも6秒と突出していました。64GBモデルでは最短で6秒、最長で14秒とスペック通りの差。UHS-IIのSDでは最短で9秒、最長で15秒とまずまずの数値です。

UHS-IIと64GB CFexpressでは今回検証した個体に限って言えば期待したほどの差はありませんでした。EOS R6ではバッファフル後もそれなりに撮影を継続出来ましたが、EOS R5では諦めた方が良いようです。

カード(容量)JPEGRAW+JPEG(L)C-RAW+JPEG(L)
メカシャッターCFexpress(512GB)320コマ
(270コマで一瞬止まる)
154コマ222コマ
CFexpress(64GB)320コマ
(270コマで一瞬止まる)
70コマ128コマ
UHS-II SD(32GB)305コマ68コマ128コマ
電子シャッターCFexpress(512GB)139コマ55コマ124コマ
CFexpress(64GB)139コマ55コマ110コマ
UHS-II SD(32GB)137コマ55コマ106コマ
バッファ解放までCFexpress(512GB)約6秒約4秒約6秒
CFexpress(64GB)約6秒約14秒約12秒
UHS-II SD(32GB)約9秒約15秒約14秒

ちなみにEOS R6で可能だった1分超の耐久連写撮影(メカシャッターかつRAW+JPEG L記録設定で、5秒連写+2秒インターバルの繰り返し)は難しいだろうことは、ここまでの結果を見て予想していましたが、予想に反して512GBのCFexpressカードでは余裕を持って遂行出来たので、正直驚かされました。CFexpressカードを選ぶ際、スポーティなシーンを撮影したいのであれば書き込み性能が最低でも1,200MB/s以上のものを選択することが重要になるかと思います。

総合的に言えば、UHS-IIのSDカードでも結構イケるぞ! という印象です。もちろんPCへの転送速度では間違いなくCFexpress勢が圧倒していて快適でしたが、おおよそのシーンで「CFexpressじゃないと話にならない」ってことはないと感じました(筆者の使い方の場合ですが)。冗長性の観点から、失敗出来ないシーンではCFexpressカードとSDカードの2枚挿しが基本になると思いますので、容量や転送速度のバランスを考えて必要なスペックのメディアを選ぶ必要があることに変わりはありません。

ということで、“EOS R6ほどではないが、カメラの性格的には必要十分なバッファ性能が確保されている”、というのがここでの結論と評価になります。EOS R6はSDカードでもタガが外れたように連写できる高速機でしたが、EOS R5はメチャンコ連写できる高画素機です。

ところで、バッファの測定をしていて気になったことに、CFexpressカードの発熱がありました。連続した書き込みを行うと相応の温度上昇があります(今回テストしたカードでは60度以上になりました)。相応の発熱があることをふまえると、記録メディアにはしっかりしたブランドの製品を選ぶことが精神衛生的にも良いのではないか、と思えました。

総括

EOS R6に引き続き、第2世代となったEOS Rシステムのレビューをお伝えしてきました。多少感覚的な表現にはなりますけれども、「このカメラを早々に手に入れることが出来た人は前世で一体どれほどの徳を積んだというのだ?」 って思わせられるほどのカメラでした。

いろんな部分の性能に余裕があって、使用環境を選ばない柔軟性がある。そして、十分以上の高速性と高解像性能を両立出来ていて、使用感も上質。まさに新しい世代のEOS 5Dといった具合で、堅実に纏められた本機にはとても好感が持てました。

かつてソニーのα7シリーズが第2世代へと進化した時にも思ったけど、伸びしろがデカすぎるから正直なところ複雑な気持ちでいっぱいです。恐らくニコンのZシリーズも第2世代で一足飛びの進歩・改善を果たすだろうからね。同様のショックが待っているかと思うとユーザーでない筆者でも戦々恐々としてしまいます。

悩ましいのはEOS R5とR6、どちらのカメラを使うのが幸せになれるのか、ということでしょう。両者の違いを考えていくと、撮りたい被写体がハッキリしている人であったり、トータルバランスを尊ぶ人にはEOS R6がピッタリだと思います。バッテリーの持ちやデータのハンドリング、速写性などトータルバランスに優れているのがEOS R6。言うなれば「玄人好み」と表現できるのかも知れません。その反面でお買い得感ではハイスペックなEOS R5に軍配が上がります。使用感の良さや画素数の余裕が活きるシーンは多く、例えばクロップやトリミングをする場合に我慢が少ないのは圧倒的にR5です。価格差は大きいけれど、使用感の良さからくる信頼感や満足感、後処理時の柔軟性の高さからくる安心感について、EOS R5が持つアドバンテージは大きく見えます。だからこそEOS R6とEOS R5で“ミドルクラスとハイクラス”みたいなクラス別けが色々なところで施されている現状をみるに、正直な感想を言えば「ちょっと惜しい」となりますが、商売だから仕方ないよね。

さて、このEOS R5。EOS R6と同様に「一眼レフ感覚」のEVF性能と信頼のあるEOS印の操作性・デザインで、撮影はとても快適です。一眼レフの存在意義を正面から問うカメラと評することも出来、非常に完成度も高い。手にしたユーザーを、“このカメラは長く使えそうだ”、という気分にさせてくれますし、撮影性能自体もメチャ素晴らしい。

前後編を踏まえて見てみると使用感の良さや優れた画質性能(と言ってもZ 7やα7R IVみたいなカメラもあるので業界標準というならば、全くもってその通りです)、また高画素機ならではの後処理での自由度や利便度の面からみても、新世代EOS Rは「EOS R5こそが推し」って気持ちが最終的に優勢になりました。日々の相棒としてはEOS R6の方が優れているのでは? という理性的な部分がありつつも、です。誰かに”推す”ならEOS R5です。

たしかに理性に基づいて判断するならばEOS R6を選択し、差額の予算でレンズや撮影旅行等に投資したり、家族や愛する人に還元した方がまず間違いなく良い写真と、満ち足りた時間を得られると断言できます。が、論理性の破綻を理解しつつもカタストロフへと歩みを進めてしまう自身の心を律するのは「写真道」という険しい道を進む者にとって容易ならざる事。そうした背徳感に身を投じることでしか得られない、モチベーシヨンといふものも、きつとあるのでせう。

少しだけ文学してみましたが、スペックに留まらず、ソレ以外の点においても所有欲に訴えかける能力がより高いのはEOS R5でしょう、という意味です。「R6を購入予定だけど、気になるからR5も触ってみようかな?」みたいな人は絶対に踏みとどまるべき。残念ながら、Point of no returnはお家の玄関なので、靴を履いてお天道様を拝んだ時点で手遅れであります。だから理性的でありたいのならば、迷うことなくEOS R6だけを見続けるべきでしょう。

ということで、普段使いで楽しい。撮影が作業にならない、というところにEOS R5/R6の魅力があるように思いました。高性能が楽しさと快適性に繋がっている、というワケ。ハイスペックなカメラは数あれど、そこに楽しさや気持ち良さがあるかどうか? は別問題だからね。

一眼レフキラーという表現も使ってきましたが、その印象どおり、一眼レフ機の上位互換としてのミラーレス機がついに登場した、という感があります。

「EOS R5こそが推し」と先述しましたが、2台のレビューを担当させてもらって散々悩んだ結果、筆者にとっての「コッチが本命」はやはりEOS R6です。使用用途を考えると、どう考えてもトータルバランスに優れた20MPクラスが丁度良いから。

繰り返しになりますが、趣味や道楽ならEOS R5ですよ。というのも下手に悩んでいる人がどちらも選択出来る経済状況でEOS R6を選んでしまうと、心の何処かで「R5にすれば良かった」っていう気持ちがいつの日か必ずコンニチワするから。「無理してでも高い方を買え」とは1ミリも思いませんが、“背伸び”くらいで手が届くなら、背伸びしよっか。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。