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解説:EOS R5・EOS R6で"最大8.0段"の手ブレ補正

仕組みの基本を解説 ボディ内/レンズ内補正の使い分けは?

新フルサイズミラーレスEOSで注目したいのは、ボディ内手ブレ補正機構が内蔵されたことという人もいるだろう。キヤノンはこれまで光学式の手ブレ補正機構はレンズ側だけでやってきたが、他社を見れば近年ではほぼ唯一、ボディ内手ブレ補正を採用しないメーカーになっていた。待望という人も多かったのではないだろうか。

EOS R5/R6ともに、最高でシャッタースピード8.0段分の補正効果が得られる5軸シフト式で、レンズ側も手ブレ補正機構を持っている場合は協調して補正動作が行われる。後発ということもあるのだろうか、求められる機能・性能は一通り満たしているといえる。

ここではEOS R5/R6の手ブレ補正機能に関する仕様紹介と、手ブレ補正の一般的な仕組みの解説をお届けしたい。

レンズによって異なる補正方式

EOS R5/R6における手ブレ補正の分担(制止画)

ピッチ/ヨーシフト回転
RFレンズIS非搭載ボディ側ボディ側ボディ側
光学IS協調ボディ側ボディ側
ハイブリッドIS協調レンズ側ボディ側
EFレンズIS非搭載ボディ側ボディ側ボディ側
光学ISレンズ側ボディ側ボディ側
ハイブリッドISレンズ側レンズ側ボディ側

ここで手ブレ補正の"5軸"について簡単におさらいしておきたい。手ブレは大きく3つの要素に分けられる。

まず、ピッチとヨーの2軸。角度ブレなどともいわれ、カメラを軸にレンズ先端が上下左右に振れるような動きだ。手ブレの要素としては支配的で、特に遠景で影響が大きく、長い間カメラ/レンズメーカーはこの補正を中心にしていた。

次にシフトブレ。これは、並進(平行移動)ブレなどともいわれ、カメラとレンズが上下左右に動くブレだ。主にマクロ域のような撮影倍率が高い状況で発生しやすいといわれており、マクロレンズでは、このシフトブレに対応したものがある。キヤノンでいえば、ハイブリッドISと呼ばれるものが、通常のピッチ/ヨーに加えて、このシフトブレにも対応した補正機構だ。

角度ブレとシフトブレの概念図

ハイブリッドISの予告(2009年7月)→キヤノン、2種類の手ブレを補正する「ハイブリッドIS」を開発

そして、もう1軸の回転ブレは、低速シャッターの影響を受けやすいブレだ。像の動きが回転方向なので、レンズ側では補正できないブレであり、ボディ内手ブレ補正ならではの効果ともいえる。2012年にオリンパスがOM-D E-M5で搭載して以降、各社が採用している。手ブレ補正効果が大きくなるということは、つまりシャッター速度が遅くなるということであり、この回転ブレの効果は無視できない。

今回のEOS R5とR6はこれらの5軸の補正に対応しているが、装着するレンズによって、ボディ側とレンズ側で、ピッチ/ヨーとシフト、回転をどのように補正するかが異なる。

まず基本となる、EOS Rシステム用のRFレンズの場合。手ブレ補正を非搭載のレンズは、当然すべてボディ側で補正することになる。そして、通常の手ブレ補正が搭載された(名前にISがつく)レンズでは、ピッチ/ヨーは協調補正となる。協調補正は、ボディ側とレンズ側のセンサーから得た情報を互いに組み合わせて、レンズとボディの補正機構を制御して高い補正効果を得るもので、他社でも採用が多く効果の高い方式だ。

そして、シフトブレの補正が可能なハイブリッドISのレンズでは、ピッチ/ヨーは協調補正しつつ、シフト補正はレンズ側を使うという。レンズを大きく動かす必要があるシフトブレは、レンズで対応した方がいいということだろう。回転ブレは前述のとおり、レンズでは補正できないブレなので、すべてボディ側で補正を行う。

一眼レフ用のEFレンズをマウントアダプターで装着したときは、レンズ側で補正できるならレンズで行い、それ以外をボディ側で行う、いわゆる「分担」になる。ISのレンズならピッチ/ヨーはレンズで、ハイブリッドISのレンズであればピッチ/ヨーとシフトをレンズで補正し、残りはボディ側で補正することになる。EFレンズでも協調補正を期待したいところだったが、これはRFレンズが新しいマウントで、新しい通信方式を採用しているからこそできるということだろう。

対応RFレンズは6.0段分以上の効果

キヤノン発表の補正効果

レンズ測定焦点距離補正効果(段)
RF24-105mm F4 L IS USM105mm8.0
RF35mm F1.8 MACRO IS STM35mm7.0
RF24-70mm F2.8 L IS USM70mm8.0
RF15-35mm F2.8 L IS35mm7.0
RF24-240mm F4-6.3 IS USM240mm6.5
RF70-200mm F2.8 L IS USM200mm7.5
RF24-105mm F4-7.1 IS STM105mm8.0
RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM500mm6.0
RF85mm F2 MACRO IS STM85mm8.0
RF50mm F1.2 L USM50mm7.0
RF28-70mm F2 L USM70mm8.0
RF85mm F1.2 L USM85mm8.0
RF85mm F1.2 L USM DS85mm8.0
RF600mm F11 IS STM600mmレンズ側の補正(5段)
RF800mm F11 IS STM800mmレンズ側の補正(4段)

レンズシフト式の補正と、センサーシフト式の補正では、不得手なところが異なる。一般にレンズシフト式は広角側、センサーシフト式は望遠側で効果が薄い傾向がある。それをお互いに補って高い効果を実現するのが協調補正だ。

RFレンズを装着したときの補正効果も公表されている。ズームレンズは望遠端時の効果のようだ。先述のようにIS付きはピッチ/ヨーが協調補正となる。

補正効果はレンズにより異なるが、ほとんどのレンズで8.0段分としている。最も補正効果が少ないのは、開発発表されており今回発売が決まったRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMだが、それでも500mmで6.0段の効果が得られる。8.0の数字が並ぶ中での6.0は見劣りするが、それでも6.0段である。焦点距離分の1秒を基準に考えれば、8分の1秒でも手ブレを抑えて撮影できるという計算になる。

手ブレ補正機構を内蔵しないでも7.0段もしくは8.0段の効果を得られるレンズがあるのは興味深い。レンズから入った光は円形に像を作るが、その大きさ(イメージサークル)は当然イメージセンサーやフィルムの撮像範囲より少し大きくなっている。ただ、その度合いはレンズによって異なり、製品によっては画質に余裕を持たせるためなどの理由で、イメージサークルが元々大きくなっているものもあるのだろう。すると、イメージセンサーの可動域を最大まで利用でき、結果として最大補正効果が変わってくることが考えられるわけだ。

APS-C用と35mm判フルサイズ用のレンズを考えてみれば分かるように、写す範囲を大きくしようとすればそれだけレンズは大きくなる。実際にキヤノンがどう考えているかは分からないが、これは今後のレンズ開発にも関わってくるのではないだろうか。つまり、手ブレ補正のためにイメージサークルの大きさを考慮して設計するのではないかということだ。手ブレ補正の効果はそこそこで小さいレンズか、手ブレ補正がよく効く大きなレンズという選択肢をキヤノンが得たともいえる。

なお、今回EOS R5やR6と同時に発表されたRF600mm F11 IS STMやRF800mm F11 IS STMにはレンズ内手ブレ補正が搭載されているが、協調ISには非対応なので、レンズ側でのみの補正になる。補正効果はそれぞれ600mmが5段、800mmが4段となっている。

"8.0段"はどれだけ実用的か

EOS R5/R6の補正効果8.0段分は、現在のレンズ交換式カメラの中ではトップクラスだ。同じ35mm判フルサイズ機だと、ソニーα7R IVが5.5段、ニコンのZ 7で約5.0段、パナソニックLUMIX S1シリーズで6段、ライカSL2が5.5段、PENTAX K-1 IIが5段だ。センサーサイズが35mm判より小さいAPS-Cの富士フイルムX-T4が6.5段だし、マイクロフォーサーズのオリンパスOM-D E-M1X/E-M1 Mark IIIで7.5段、パナソニックのLUMIX G9 PROが6.5段となっている。

最新機種ほど補正効果が高い傾向にあるが、それにしてもEOS R5/R6の8.0段は圧倒的だ。2016年にオリンパスOM-D E-M1 Mark II(ボディ5.5段/協調6.5段)が発表された時は、これ以上の補正は地球の自転の影響があり難しいという話だった。しかし、その後オリンパスは自ら後継機種で7.5段まで向上してきたし、キヤノンによればEOS R5/R6も「協調制御により地球の自転影響によるコリオリ力も考慮して補正する」ことで8.0段を実現した。手ブレ補正の効果は、まだまだ向上する余地があるのかもしれない。

ただし、同じ段数分の補正効果を実現していても、カメラやレンズによって、得られる補正効果に差を感じることがある。メーカーの人と話をしていても「あのメーカーの段数は本当なんですか?」などと言われたこともある。たしかに、CIPAの測定は機械的な加振装置を使ったものだから、もちろん人が撮ったときとの差はあるだろう。撮影者による違いもあれば、グリップ形状などの持ちやすさも影響するし、"張り付き具合"などと表現される補正動作の挙動も、メーカーや製品により異なる。EOS R5/R6の手ブレ補正が、いかほどの性能と使い心地なのか楽しみである。

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。