インタビュー

いま、「LAOWA」の交換レンズが注目される理由

新進気鋭の個性派メーカーに、伊達淳一が聞く

聞き手の伊達淳一氏(左)と、Venus Opticsの社長であり"LAOWA"こと李大勇氏(右)。

2016年の日本上陸以来、小型の超広角レンズ、高倍率マクロレンズなど、ライバル不在の個性派ラインナップで独走する交換レンズブランド「LAOWA」(ラオワ。Venus Optics)。その創業者である社長の李大勇氏に話を聞いた。聞き手は、早くからLAOWAの超広角レンズを購入・使用している伊達淳一氏にお願いした。

アイデア勝負の面白いレンズを作りたい

——LAOWA(ラオワ)という名前の由来を教えてください。

レンズブランド「LAOWA」の名前は、私がインターネットで使用しているハンドルネーム(ユーザーID)が由来です。中国では「老蛙(老いた蛙)」を意味していて、自身の知識は少ない(光学しかない)けれど、夢や志は高く持ちたい。そういった意味が込められています。

Venus Opticsの社長、"LAOWA"こと李大勇氏。

また、数年前にレンズを作った時に、私(LAOWA)が作ったレンズだから、これはLAOWAレンズだとユーザーに言われました。本当はレンズブランドとして「Venus(長庚)」という星の名前を考えていましたが、一般的なので他社と被るため使えない。そこで、LAOWAというブランドにしました。

——現在一番の売れ筋レンズは何でしょうか?

ソニーEマウントのフルサイズ対応超広角レンズ「10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoom」に、海外では2か月足らずで約2,000本の予約が入りました(日本では12月21日に発売)。あとは同じEマウント用の15mm F2 Zero-Dが徐々に売れてきていて、マイクロフォーサーズの7.5mmもよく売れていますし、一眼レフカメラ対応の12mm F2.8 Zero-Dもそうです。広角レンズの方が本数は出ていますね。

10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoom(ソニーEマウント用)
15mm F2 Zero-D(ソニーEマウント用)
7.5mm F2 MFT(マイクロフォーサーズ用)

——そもそも、ご自身でレンズを作ろうとしたきっかけは何なんでしょうか?

皆さんも知っていると思いますが、中国の光学産業はあまり強くありません。強いのは日本とドイツです。中国の光学産業はいわば"夕方"のような状態にあり、強い星(日本やドイツ)が輝いているのを見ている状況です。

しかし、今の環境に耐えて中国で良いレンズを作ることで、Venus(金星のこと)が宵の明星から明けの明星へと必ず変わります。この決意が、創業して5年の社名にもなっているのです。LAOWAは私自身の仕事に対する姿勢や夢であり、社名のVenus Opticsはチームの夢を表しています。

——強いという日本やドイツのレンズを使うのではダメなのですか? やはり中国のレンズでないと?

我々はユーザーの目線を大事にしていて、実用性やレンズの特性、新しいアイデアを組み込んだ面白いレンズを開発しています。これが、我々がレンズを作る価値であり意味です。

レンズは解像力だけではなくて、サイズだったり、歪曲や色収差など色々な要素があります。多くのレンズメーカーは特に解像力を求めがちで、結果としてレンズ自体が大きくなって、重くなります。我々はそういった解像力を求められるような同じ土俵に立つのではなく、アイデアで勝負したいと考えています。

私はLAOWA(老蛙)ですから、仕事の姿勢やアイデアではトップでありたい。我々のチームはまだ弱いですが、姿勢は決して弱くない。発想力は持っていると思っています。良い写真というのもスキルではなくアイデアによるものだと思っていますから、我々が作るレンズもそうだと思っています。

15mmシフトレンズと60mmマクロレンズからスタート

——私が最初LAOWAのレンズを知ったのは、15mmのシフトレンズと60mmのマクロレンズでした。

日本では、15mmのシフトレンズ(15mm F4 Wide Angle Macro with Shift)と60mmのマクロレンズ(60mm F2.8 Ultra-Macro)の2本をまず発売しました。これと105mm(105mm F2 "Bokeh Dreamer")と合わせた一眼レフカメラ対応の3本は最初の挑戦で、まずは様子見のレンズといえるものです。

15mm F4 Wide Angle Macro with Shift
60mm F2.8 Ultra-Macro
105mm F2 "Bokeh Dreamer"

その後発売した12mm(12mm F2.8 Zero-D)からが本番・本気のレンズです。非球面レンズも取り入れて、スペック的にも満足できるものになりました。

12mm F2.8 Zero-D

それからは、「7.5mm F2 MFT」や「15mm F2 Zero-D」と本気のレンズが続きます。最近では、フルサイズの世界最広角ズームとなる10-18mm(10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoom)も出しました。

——最初の3本は様子見だったとのことですが、15mmのシフトレンズや60mmマクロレンズを作ったのはアイデア勝負によるものなのか、それともニーズを察したものなのか、どちらでしょうか?

レンズを作る前に、昔は中国の写真家、今は世界中の写真家とよくコミュニケーションをとっています。「今どんなレンズが欲しいですか?」と聞くんです。

2倍マクロの60mm F2.8 Ultra-Macroを出した時は、「マクロレンズ=等倍(1倍)である」という固定観念がありました。撮影倍率を2倍にするためにはアダプターを付ける必要があり、全体的に長くなってしまい、交換は不便で、ゴミも入りやすい。初めから2倍マクロだったら運用しやすいですよね。なので外観は少し悪かったのですが、作ることにしました。その時は売れるかどうかが分からなかったので、様子見のレンズというわけです。

日本で初お目見えした60mm F2.8 Ultra-Macroの内側。鏡筒の構造が丸見えなところにも、スペック同様の突き抜け具合が感じられた。(CP+2016で撮影)

——面白いレンズを作れるメーカーがあるぞ!ということをアピールしたわけですね。

そうですね。例えばワイドのマクロレンズを作った時は、従来のマクロレンズというのは、ボケは柔らかいけど焦点距離が長いため、背景がボケてしまって見えません。昆虫の視点で見るような、ピント面も背景もキレイに写る広角マクロが求められていますが、市場にはありませんでした。

——15mmにはマクロに加えて、シフト機構も付いていますよね。

はい。シフトレンズというと建築撮影のイメージがありますが、低い位置で撮る昆虫撮影でも有効です。ですから、マクロとシフトを両立させています。

——個人的にLAOWAのレンズで不満なのは、レンズフードです。ロックした後にどうしても緩んでしまう。だから、使用する時はテープで留めています。

その問題は改善します。これからの新バージョン、新機種で対応したいです。

伊達氏の機材。

ユーザーの声を製品化

——昆虫撮影の話が出ましたが、やはり写真家からの要望があったレンズなのでしょうか?

最初はユーザーがDIYレンズで撮った写真(虫と山とが両方キレイに写っている)を見て、面白さを感じたところがスタートです。だから、同じようなレンズを作ったら、皆が喜んでくれるのではないかというのが根底にあります。

だから、このレンズは私のアイデアではなくて、ユーザーのアイデアなんです。1人のアイデアは少なくても、ユーザーの意見を取り入れることでたくさんのアイデアを得ることができます。

——どうやって写真家やユーザーの声を集めるのですか?

作品が集まる中国のSNS、LINEみたいな発表の場ですね。どんなレンズが欲しいかと聞くと、色々なアイデアが届きます。ですから、私の仕事としては、どのアイデアが技術的に解決できるか判断することです。そして、どのくらいの値段なら買ってもらえるかを調査して、総合的に合えば商品として作るといった感じです。

我々のチームは小さいですが、その分多くのユーザーがいます。ユーザーがいるからレンズが作れるんです。ユーザーが要らないといったらそれは商品になりません。そこに技術は関係ありません。アイデアなんです。

中国では、ユーザーとメーカーと地位は同じくらいか、もしくはメーカーの地位がちょっと低いぐらいなんです。なので要求やアイデアがドンドン届く。そういった声から市場を調べて、ユーザーが本当に必要ものが作れるというわけです。

私は日本で10年ぐらい仕事していましたが、日本では真逆のやり方でした。アンケートで意見を求めても、それが本当に市場が求めているモノなのかがわかりませんでした。

LAOWAのファンには、6種類のレンズを出したら、5種類も買ってくれる人がいます。なぜかというと、それは自分が意見を出したから、一番欲しいレンズだというのですね。

なぜマクロにこだわる?

——LAOWAのラインナップで全体的にマクロが強いというのは、マクロが好きなユーザーが多いからでしょうか?

はい。マクロを求めるユーザー層は、レンズの外観よりも解像力を重視します。最初が焦点距離60mmの2倍マクロでしたから、世の中になかったレンズとして皆ビックリしていました。値段も安いですし、等倍を超えた2倍の撮影に対応するし、アダプターのような余計なモノは不要。それでマクロ撮影を行うユーザーから注目されました。

あとはシフト機構付きの15mm F4マクロですが、これは虫と山を一緒に撮れます。こうしたレンズを出したことで、マクロ愛好家のLAOWAに対する印象が良くなったのだと思います。

このほか5倍の25mm(25mm F2.8 2.5-5X ULTRA MACRO)も人気がありますが、初めは売れるかどうか自信がありませんでした。どうしても普通のレンズと比べて撮影が難しいですから。

25mm F2.8 2.5-5X ULTRA MACRO

——LEDライトが付いたマクロレンズは、どういった経緯で生まれたのですか?

「24mm f/14 2× Macro Probe」もユーザーのアイデアからですね。虫がいるところは暗いところが多くて、しかも狭い。撮影環境が整った家に虫を連れてくるのではなく、ありのままの虫が撮りたいといった時に、先端にライト(LED)が搭載された細長いレンズがあればいいのではないかとなったわけです。

先端部は防水になっている。(フォトキナ2018で撮影)

——長いレンズですが、持ち運びを考えて分割構造にしなかった理由は?

初めは分割を考えていたのですが、精度が悪くなること、ゴミが入りやすくなること、そしてユーザーからの声もありやめました。

設計のイメージは内視鏡ですが、これは難しいです。対物レンズ、リレーレンズ、マクロレンズを組み合わせるので、レンズ枚数自体も多くなるし、作るのも難しい。要求は理解できますが、作るのにはリスクがありました。2016年のフォトキナで発表したもののすぐに発売できなかったのは、作りにくかったからです。

それに、本当に需要があるかが読めなかった。欲しい人が数百人、数十人しかいなかったらどうしようと。小さなチームとして、このリスクは見逃せませんでした。だから、リスクを抑えるためにクラウドファンディングの「Kickstarter」を利用したんです。そうしたら多くの注文があって、今では生産力が足りていません。

歪曲を抑えた"Zero-D"レンズ

——歪曲へのこだわりについても聞かせてください。他メーカーですと、そもそも電子的に補正することもあるし、歪曲の低減よりは解像力の向上に注力しているところが多く、光学的に歪曲収差を追い込んでいるメーカーは少ないように感じます。

なぜ我々が歪曲を0%に近づけるのにこだわっているかというと、(レンズ補正が適用されていない状態の)RAWファイルを見た時に歪曲が少ないほど、ユーザーは良いレンズだと判断するからです。だから、ユーザーの要求通りに歪曲を抑えた設計を頑張っています。

実を言うと、3%以内の歪曲であれば、そんなに気になるものではありません。周辺性能も十分発揮できます。でも、私自身のプライドとして、1%以下を目指して設計しました。

APS-C用の超広角レンズ「9mm F2.8 Zero-D」

実際、歪曲が0%というのは全体のバランスを考えると良いものではありません。なので、3%以内であればOKです。ただ、世の中には色々な要求がありますから、0%というのはそういった人達に向けた技術力のアピールにもなっています。

15mm F2 Zero-Dでいうと、もう少し歪曲を許せばもっと解像性能が良くなって、サイズも小さくできます。ただし、そうすることでレンズの特徴がなくなってしまうということにもなります。

ソニーEマウント用の超広角レンズ「10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoom」

10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoom

——新発売の10-18mmについて聞かせてください。

一眼レフカメラ向けの広角ズームレンズだと、キヤノンさんの11-24mm(EF11-24mm F4L USM)。ミラーレスカメラ向けだと、ソニーさんの12-24mm(FE 12-24mm F4 G)があります。

設計するうえでのこだわりとしては、すでに世の中にある焦点距離のレンズは作りたくなかったというのがあります。他社の広角ズームレンズは大きいですが、LAOWAのは小さい。ただ、そんなことよりも、もっと広角寄りにすることで違う世界を見られるという方が重要です。

10mmなので画角は130度になります。ですから、もし前玉にフィルターを使うなら100×100mmのモノを使うことになります。レンズに対して大きくなり、不便ですよね。

なので、コストは上がりましたが、後玉部に37mm径のフィルターを装着できる仕様にしました。光路長もフィルター(厚さは1.1mm)を使うことを前提に設計しています。

通常時にはUVフィルターを装着していますが、純正オプションとしてNDフィルターも用意しています。NDフィルターは初回特典としても配布します。規格上は、37mm径の1.1mm厚のフィルターであれば他社のものでも装着可能です。

後部にねじ込み式のレンズフィルターが付く。

——せっかくのソニーα用レンズなので、Eマウントのライセンスを受けて電子接点で通信することはできないのでしょうか? 単焦点レンズであればボディ内手ブレ補正の焦点距離をマニュアル入力できますが、ズームでは手ブレ補正を切るか、10mmにセットして他の焦点域での適切な手ブレ補正効果を諦めるかしかない。通信できるようになると、その辺りも有効活用できると思うのですが。

残念ながら、今はそこまでの技術がありません。ソニーさんのライセンスを受けられたら挑戦してみたいです。ただ、新しい100mmのマクロレンズ(100mm f/2.8 2X Ultra-Macro APO)については、自動絞りに対応した電子接点を設けています。

フォトキナ2018に展示していた「100mm f/2.8 2X Ultra-Macro APO」。ソニーEマウントのほか、同じく電子マウントのキヤノンEF用も自動絞りにも対応している。

——ちなみに、10-18mmの歪曲はどのくらいですか?

おそらく4〜5%くらいになると思います。レベルとしては普通ですね。ただ、いわゆる陣笠にはなっていないので、補正はしやすいです。ただ、初代のα7Rなどでは周辺部の色被りが少し心配です。

α7R III+10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoomで試写(撮影:伊達淳一)
2mほどの中距離で撮影。"Zero-D"を謳うレンズではないが、極端な歪曲は感じない。
本レンズの最短撮影距離は15cmと短い。至近距離の白いカメラにピントを置くと、超広角らしいパースを感じる描写になった。

——LAOWAのレンズ、特に10-18mmや15mm F2は光条が出やすいレンズだとは思いますが、もっと出やすくできないものでしょうか? 例えば、3段以上絞ったら円形ではなく光条が出やすくなるとか。いわゆるインスタ映えなどでも光条は好まれていますから。最近のズームレンズで光条を出そうとすると、F11とかF16まで絞る必要があります。

α7R III+15mm F2 Zero-D(撮影:伊達淳一)

仰るとおり、10-18mmはサイズ感もさることながら、光条の美しさも評価されています。

LAOWAのレンズとしては、ズームできるのもポイントです。そういった色々な要素が詰まっているので、皆さんに欲しいと言ってもらえています。

マイクロフォーサーズ超広角「7.5mm F2 MFT」について

——超広角、超望遠、マクロといった“レンズの力”で面白い絵が撮れる。そんなレンズが僕は好きです。寄れるというのは大前提で、明るければなおのこと良い。

LUMIX G9 Pro+7.5mm F2 MFT(撮影:伊達淳一)

——するとLAOWAのレンズは、明るく、寄れて良いレンズですよね。しかも広角で小さいですし。他社のAFレンズと比べると信じられないほどですよね。「15mm F2 Zero-D」も使いましたが、やっぱり小さい。

ミラーレスカメラのフランジバックの短さは、我々が光学設計をする時の自由度を広げています。レンズ自体のサイズもだいぶ小さくできますし。

でも例えば、マイクロフォーサーズ用の「7.5mm F2 MFT」(35mm判換算15mm相当)は、同じ画角になる一眼レフカメラ用の「15mm F2 Zero-D」よりも設計が難しかったです。それはフランジバックと焦点距離の比率が影響しています。レンズ枚数は7.5mmが13枚ですが、15mmは12枚でフルサイズ対応になっています。

普通は逆ですよね。画面の広いフルサイズ用は性能が出しにくいものですから。しかし、フランジバックと焦点距離の関係で、15mmの方が設計上有利なのです。

市場にある多くの広角レンズは、前玉が大きく、フィルターが付けられません。また、サイズ自体も大きくなりますし、歪曲も大きいです。LAOWAがフランジバックが短いミラーレスカメラ用に開発したレンズは、性能とサイズ、スペックでそういった多くの広角レンズよりも優れた設計になっています。

LUMIX G9 Pro+7.5mm F2 MFT(撮影:伊達淳一)

——7.5mmは軽量タイプ(7.5mm F2 MFT Lightweight Version)を含めて2タイプが用意されていますよね。

はい。約25g軽量化されていて、ドローンでの利用を想定しています。ドローンで使うレンズは重すぎても軽すぎてもダメで、重量のバランスが極めて重要です。DJIのドローンでテストを行い、外装の肉抜き(軽量化)やマウントの材料を変えるなどして重量バランスが真ん中に来るよう追求しました。なので、コスト面では少し上がっています。

これはあくまでドローンユーザーの声に応えた特別仕様なので、一般的なカメラで利用するなら通常モデルを選んだ方が良いですね。

——7.5mmにはフィルターが付けられますが、もう少しフィルター径が大きくてもよかったかなと思います。このレンズだと星を撮る人も多いですから、そうするとソフトフィルターを付けたい。ただ46mmという小径では選択肢が少ないので、結果としてシートフィルターを後部に貼ることになります。

ソフトフィルターの使用例(15mm F2 Zero-D+SOFTONフィルター。撮影:伊達淳一)

——また、フィルター枠の厚みで四隅がケラレるのが気になります。49mmのステップアップリングを噛ませても、やっぱりケラレてしまう。結局、72mmのステップアップリングでようやくケラレが解消されました。

フィルター径を46mmにした理由は、マイクロフォーサーズの純正レンズに46mmのものが多かったからです。しかし、市場的なニーズがあれば49mm径の新バージョンを作っても良いかもしれませんね。

まずはMFでも使いやすいレンズから

——LAOWAはAFのレンズは作らないのですか?

チームはまだ、電子技術を苦手としています。なので、AFや手ブレ補正といった技術を組み込んだレンズは作れません。MFレンズを作っているのにはそんな理由があります。

例えば、マクロ撮影は被写界深度が浅いので、AFを利用しても結局は手動でピントを微調節するシーンが増えてきます。風景などの遠景ならAFでも十分ですが、昆虫などはどうしてもMFに頼ることになる。なので、電子技術を苦手としている我々でも、マクロレンズであれば十分にユーザーにとって良いものが出せます。

また、広角レンズの場合は被写界深度が深いですから、MFがやりやすい。するとAFもそれほど必要ないですよね。星を撮影する時にもAFは使いにくいので、MFで操作することになります。

チームとして苦手なポイントを把握していますから、AFを必要としないジャンルのレンズということで、今は広角とマクロを作っています。

——光学設計の技術的に考えると、ズームレンズは難しそうに感じますが?

確かにズームレンズは単焦点レンズより設計が難しいですが、私はズームレンズを手がけた経験があるので設計できます。とはいえ最初は、絞りやフォーカス、ズームといった複数のリング操作を必要とするズームレンズは、あまり市場的に受け入れられないだろうと判断しました。

10-18mm f/4.5-5.6 FE Zoomは、LAOWA初の写真用ズームレンズ。

また、MFレンズを使う人は操作感も含めた性能を優先します。なので、そうした性能を出しやすい単焦点から作ることに決めました。しかし、今後はどんどんズームレンズが増えていくと思います。

——LAOWAのレンズには、今のAFレンズにはない滑らかな操作感があります。1980年代のMFレンズと同じぐらいだと感じます。これは高いレベルのヘリコイドや加工技術が要求されると思いますが、そうした技術も最初から持っていたのでしょうか?

中国にも「海鴎(シーガル)」や「鳳凰(フェニックス)」といったメーカーがありますから、日本の1980年代に近い技術は持っています。

AFレンズの操作感が良くないという話ですが、AFレンズの場合はAF速度を重視しているのが原因として考えられます。今のAFレンズのフォーカスリングは回転角がだいたい70度前後だと思います。角度が少ないため、要求される精度も高くなり、高い技術が必要です。

また、利用されている素材(プラスチック)も原因でしょう。MFレンズは金属部品を使っていますし、そもそもの回転角が大きく精度が出やすいため、トルクの感触が良くなります。LAOWAのレンズはAFなどの機能面では他社より劣っているかもしれませんが、こうした理由から操作感は良いと思います。

シネマレンズにも挑戦

——ほかに今後発売されるレンズでイチオシはありますか?

今、シネマレンズに力を入れています。来年の6〜7月には製品を発表できそうです。なぜシネマレンズかというと、シネマレンズはMFが主流である点、そして中国製でコストを抑えた生産が可能であるということが挙げられます。

我々が予定しているのが、ズームレンズの「25-100mm T2.9」です。フォーカスを動かしても画角変動が起こりにくいのが特徴で、そうしたプロ仕様の光学系を採用しています。

25-100mm T2.9(フォトキナ2018で撮影)

ヨーロッパや日本の純正メーカーでシネマレンズを買うとすると数百万円します。だから、学生達は買えないし、小規模現場でもレンタルレンズが利用されています。

我々はそんな状況に着目し、市場を変えたいという思いで、シネマレンズを作っています。

——シネマレンズはその先も予定が?

中国、台湾、韓国市場に向けて、単焦点レンズをたくさん出す予定です。なぜ単焦点レンズから出さないかというと、ドラマなどを撮影する場合には、広角から望遠まで5種類以上のレンズが必要になるからです。

シネマレンズは、どの焦点距離のレンズに対しても同じ操作感覚を求められます。サイズ、色、外観、操作感を全て揃えるのは難しいです。我々は有名なシネマブランドではないため、市場に受け入れられるかもまだわかりません。

また、単焦点レンズの場合はズームレンズと比べて技術力を必要としないため、他社と競合することが考えられます。ズームレンズを設計できることも我々の強みですから、単焦点レンズしか作れないメーカーと競合するのではなく、まずはズームレンズでキヤノン、カールツァイス、アンジェニュー、アリのような一流メーカーを目標にプロスペックのレンズを出します。

あとは、ハンドジンバルを想定したシネマレンズとして、既存製品をベースにした3本(7.5mm T2.1 MFT Cine、9mm f/2.8 Zero-D Cine、12mm f/2.8 Zero-D Cine)の単焦点レンズを用意しています。

購入後のサポートなどは?

——LAOWAレンズの生産やサポート体制はどうなっていますか?

こうして複数の新製品を発表していますが、生産力は足りなくなってきています。そのため新しい工場を用意しているところです。建物は既に完成していて、来年の春節以降の稼働を目指して工員の研修を進めています。これで生産量が2倍になります。

簡単な修理については、日本総代理のサイトロンジャパンで受け付けています。中国に送って対応することになりますが、レンズの状態によっては新品に交換するという対応になりますね。

まだ修理のケースは少ないですが、これから増えていくと考えていますので、将来的には日本でLAOWA認定の修理会社を見つけて一緒にやる可能性もあります。

——長く使うことによる経年変化を考慮すると、メンテナンスも重要だと思います。修理によって長い間手元にレンズが無くなるのは辛いですから。

はい。これは日本以外の国でも同じだと思いますので、考えます。

——簡単な修理はサイトロンジャパンで受け付けるとのことですが、そういった意味では、レンズの調整に余地はあるものなのですか?

はい。調整機構を備えているので、メンテナンスが可能です。しかし単焦点レンズにしてもズームレンズにしても広角寄りなので、調整はかなりシビアです。修理には設備が必要となるため、現状では修理のためには中国に送る必要があり、日本でできる対応は新品交換です。

日本の修理会社でLAOWAのレンズに対応できているところがあれば、そこと一緒にやりたいですが、まだそこまでには至っていません。

今後の計画について

——ニコンやキヤノンがフルサイズミラーレスカメラを出しましたが、マウント径がソニーEマウントよりも大きいです。それらに対応する場合、Eマウントに合わせて設計するのか、大口径の新マウント向けに専用設計するのか、どちらなのでしょうか?

サードパーティーの交換レンズの場合、全てに対応した光学系を設計します。我々の場合はソニーのEマウントを優先します。というのも、Eマウントに対応しておけば、キヤノンさんやニコンさんのマウントにも対応できるからです。

——発売済みのレンズについて、新マウントへの展開はどのように考えていますか?

10-18mmと15mm F2 Zero-Dに関しては、キヤノンのEOS R、ニコンのZ、ライカのL(パナソニック/シグマ)への対応を予定しています。

制作協力:サイトロンジャパン

デジカメ Watch編集部