特別企画

急成長する中国レンズブランド「LAOWA」の本拠地に潜入!

個性派レンズはどのように生まれるのか? 世界最広角「9mm F5.6」の試作品も

他に類を見ない個性派ラインナップでファンを増やす「LAOWA」(ラオワ)の交換レンズ。中国・安徽省の合肥(ごうひ/がっぴ)に所在する、その本拠地の内部をレポートする。

中国国内には高速鉄道網が張り巡らされていて、上海から合肥までは約2時間の距離。上海虹橋駅には高速鉄道だけで30ものホームがあり、初めて中国を訪れた筆者はその規模に圧倒された。

上海虹橋駅の構内

LAOWAブランドを擁するVenus Optics(安徽長庚光学)は2013年に設立。会社全体で150人のスタッフがいて、そのうち60人が合肥で働いている。今回訪れた合肥に本社および研究開発施設を持ち、設計と試作のほかに構造がシンプルな製品の組み立てもここで行っている。合肥の新施設は2018年10月に稼働してきたばかりで、まだ作業者のトレーニングを行っている段階だそうだ。シネレンズなどの複雑な製品については、上海の新工場で生産されている。

合肥のLAOWA研究開発施設。約3億円の投資で設立された。
ショールームやホールとして使われる部屋。
LAOWAレンズラインナップが並ぶ。
このビルは1階から5階まで、まるごとLAOWAの施設だ。

早速、施設内を見ていこう。ここでは上海工場で扱わない製品の量産と、将来の製品の試作が並行している。最初に覗いた部屋では、電子部品の取り付けと電磁絞りの組み込みを行っていた。LAOWAレンズはこれまでマニュアル絞りのみだったが、8月に日本でも発売された2倍マクロレンズ「100mm F2.8 2× Ultra Macro APO」からカメラと連動した自動絞りに対応。現在はキヤノンEFマウント用のみだが、今後は他のマウントでも自動絞りを実現していくとのこと。

電気部品の試験室。
基板にパーツを置いていく機械。
カメラ側のプレビューボタンを押して、絞りの動作をチェックしている。
コンピューターが並ぶ部屋。ここではCADで鏡筒のメカデザインを行っていた。

この新しい施設では、非球面を含むレンズ加工も内部で行えるよう準備されていた。まだ本格稼働はしておらず、機械を搬入したばかりという真新しい状態だ。日本製の検査機器もあった。

ガラス加工室の様子。
稼働前の研磨機を見たのは初めて。これはガラスを指定のカーブに加工する機械で、研磨材が飛び散らないようにドアがついている。
これは平面ガラスを研磨する機械。上下から研磨パッドで挟み、土台が回転することにより加工が進む。
こちらは検査工程。レンズを回転させ、中心が正しく出ているかをチェックする。
ニュートンリング(干渉縞)を見て面精度を確認する工程。

1階では鏡筒パーツなどの機械加工が行われている。金属加工用の大きな機械が並ぶ様子は工場そのものだが、この上階にはレンズの設計を行っているオフィスがある。このビル内で設計から試作までをスピーディに完了し、上海もしくは合肥の量産ラインに移行するという流れができている。

マシニングセンターと呼ばれる金属加工用の工作機械が並ぶ。
材料をセットすると、コンピューターで指定した通りに自動で加工が行われる。
レンズ鏡筒内部のカム筒と呼ばれる部品。
今後登場する「何らかのレンズの、何らかの機能に用いられる」という秘密のリング。まさに試作品を作っているところだった。
加工用に様々な形状のドリルがある。

さらに別のフロアでは、レンズ鏡筒の文字や指標をレーザー刻印している様子を見ることができた。これらを組み合わせた鏡筒に、このあとレンズの光学部品が組み込まれていく。

被写界深度目盛りをレーザー刻印しているところ。

鏡筒の組み立て部門。
刻印済みのストックパーツが並ぶ。
「100mm F2.8 2× Ultra Macro APO」は、合肥で量産されている製品のひとつ。
自動絞りのパーツ。バネの力で閉じている絞りを、連動レバーで機械的に開く。

レンズの組み込み

同じビル内でも、ホコリを嫌うレンズの組み込み工程だけは特別扱いだ。防塵服を着てエアシャワーを浴び、クリーンルームの中に入る。

レンズエレメントの目視検査と清掃を行っているところ。
これまで筆者が見学したどの製造現場でも、こうした検査は女性が担当していた。
作業スペースは基本的に暗くなっている。
ここで組み立てているのは「25mm F2.8 2.5-5X ULTRA MACRO」。
特徴的な前玉はマイクロフォーサーズ用の「4mm F2.8 Fisheye MFT」。
4mm F2.8 Fisheye MFT

組み上がったレンズは検査工程に進む。レンズのマウント側から光を通し、壁に映ったチャートを見て性能に問題がないかをチェックしていく。ここで性能に問題が見つかれば再度調整となる。

投影試験。四隅を見て片ボケ(組み込んだレンズの傾き)がないかなど、細かくチェックする。
魚眼レンズの検査は、湾曲したスクリーンに投影する。

組み立て〜梱包

こうして交換レンズが完成すると、キャップなどの付属品を取り付けて梱包されていく。同じフロアにはパーツストック用の倉庫もあった。

レンズ外装部分を清掃しているところ。
アクセサリーの箱詰め工程。
パーツ倉庫。鏡筒の部品やレンズエレメントがストックされている。
調整用のシム。
加工済みのレンズ。

LAOWAの商品コンセプトとは

「New Idea, New Fun.」(新しいアイデア、新しい楽しみ)を合い言葉に、彼らはユーザーの求めるレンズを製品化している。今後もユーザーの声を聞きながら、35mmフルサイズ、APS-C、マイクロフォーサーズの各フォーマットに対してレンズラインナップを充実させていくという。

歪曲の少なさを追求した「Zero-D」シリーズや、等倍を超えるマクロレンズ、"虫の目レンズ"と呼ばれる特殊レンズもその一例だ。あまりに珍しいスペックゆえに、これまで本誌がLAOWAレンズを取り上げた際には「このスペック、誤植じゃないの?」と思った方もいるかもしれない。

GFX用の超広角レンズ「17mm F4 Ultra-Wide GFX Zero-D」
"虫の目レンズ"と呼ばれる「24mm F14 2×MACRO PROBE」

また個性派のみならず、「実用的」なラインナップもひとつの柱になっている。これはレンズ本体のサイズや価格などユーザー目線でのバランスを意識したもので、カメラメーカー純正レンズのような"高性能を追求した重量級のレンズ"とは異なる選択肢として提供する。

今後の商品計画の中には、ショートフランジバックを活かして小型化したAPS-Cミラーレス用マクロレンズや、これまで多くのLAOWAレンズに盛り込まれてきた"世界初"の要素をまた新たに更新するレンズがあるという。

ちなみに、現在のベストセラーはマイクロフォーサーズ用の「7.5mm F2 MFT」で、2番目が同じくマイクロフォーサーズ用の「9mm F2.8 Zero-D」。どちらもレンズ本体がとても小型軽量にまとまっており、超広角レンズながら前面にフィルターを取り付けられるのが特徴だ。

マイクロフォーサーズ用の「7.5mm F2 MFT」。35mm判換算15mm相当の画角を得られるが、フィルター径は46mm、重量は約170gというコンパクトさ。

LAOWA初、M型ライカ用の試作レンズを発見

ライカMマウント用の9mm F5.6(試作品)

そんな中で、LAOWA初となるライカMマウント用の試作レンズを見せてもらった。この個体は「9mm F5.6」というスペックで、距離計に連動する。魚眼を除く35mmフルサイズ用レンズで焦点距離9mmは、筆者の知るかぎり初だ。

今のところ9mmの画角に対応する外付けビューファインダーを用意する予定はないらしく、基本的にはライブビュー撮影を想定している。ライカM10には距離計コロの動きを検知して自動的に拡大表示する機能があるため、ライブビューであっても距離計連動カムは無駄にならない。

ライカM10に取り付けてみた。最短撮影距離は30cmぐらいで、70cmまではカメラの距離計に連動した。

試写してみると、四隅は引っ張られるものの、直線部分の歪曲はタル型で素直な印象。超広角レンズにありがちな周辺部の色被りが気になると軽く伝えると、その場にいたスタッフは大きな問題と感じたようで、すぐさま日本にいる光学設計者(=LAOWAの李大勇社長。日本語を話せる)に電話を掛け、筆者が直接話をすることになった。

結果、本レンズはまだファーストサンプルであり、色被りは光学系の調整(射出瞳を前に出すなど)で改善するだろうという見解で一致した。広角なら色被りは仕方ないとの見方もあったが、すでに他社から出ている"10mm F5.6"はソニーαでも一切色被りが出ない旨を伝えて、更なる改良に期待することとした。ちなみにこの超広角レンズシリーズは、9mmのほかに11mmと14mmも予定しているそうだ。

9mm F5.6の試作品。前面にフィルターはつかない。
距離計連動のカムがある。反対側には6bitコード用の溝もあった。

さらにLAOWAの商品展開はシネレンズにも広がっている。2018年のフォトキナに参考展示されていたシネマレンズは2019年中に出荷開始となり、それに組み合わせるアダプターも試作されていた。

スーパー35対応の25-100mm T2.9。2019年中に出荷開始予定という。ズーミングしてもピントが動かないことを重要視し、その中で小型化を目指した。
25-100mm T2.9などのLAOWAシネレンズに使えるアナモフィックアダプターの試作品。
こちらはイメージサークルをスーパー35から35mmフルフレームに拡大するエクスパンダー。

また、既存の写真用レンズをムービー対応に作り替え、シネマやドローンといった用途に向けて発売する流れもある。

写真用の12mm Zero-Dレンズをベースにシネレンズ化したモデル。
マイクロフォーサーズ用の7.5mm F2 Zero-D(左)をシネマ用にしたもの(右)。軽量なためドローン搭載用として人気のレンズをベースにしている。

LAOWA流の物作りとは?

今回施設を見学して印象に残ったのは、この物作りのスピード感だ。製品に問題が見つかればすぐに解決策を探し、同じビル内の設計部隊に素早くフィードバックできる。カメラメーカーでも、生産と修理を同じ拠点に置いているところは同様の利点を謳っている。

光学製品は長らく日本とドイツのブランドが強かったが、近年の中国メーカーの勢いは決して侮れない。2013年に創業したLAOWAのレンズ出荷本数は、最初の製品を出荷した2014年に年間4,000本だったところから、2018年には4万本を超え、2019年は8万本を見込んでいる。新しい工場での生産も始めたものの、引き続き需要に対して生産キャパシティが足りていない状態だそうだ。

各国のディスプレイ。販売の7割が中国以外で、50か国以上に出荷されているという。

会社の創始者であり主任光学設計者である李大勇社長(本誌での対談記事はこちら)は、現在43歳。北京理工大学を卒業後、日系光学メーカーで20年に渡り光学設計を担当し、撮影レンズをはじめとして40以上の国際特許に関わっているという。設計したレンズは写真用に限らず、シネマ用、監視用、産業用など多岐にわたる。

この取材で行動を共にしたLAOWA関係者の話を総合すると、LAOWAというレンズブランドの個性は、李社長の「自分の光学設計スキルを活かして、ユーザーが求める製品を作り、喜んでもらいたい」というパーソナリティに由来していることがわかった。

李大勇社長。2018年の本誌取材時に撮影。

今回現地での同行は叶わなかったが、李社長に関するエピソードには事欠かない。李社長は日本在住で日本語を話せるため、日本国内の展示会でも自ら来場者に応対している。あるとき来場者に「こんなレンズが欲しい」と言われると、その場で少し考えて「それならできますから、作ります」と即答。周りを驚かせたそうだ。根っからレンズ設計が好きで、四六時中ずっとレンズ設計のことを考えているような人なのだとか。SNSでユーザーから得たアイデアを製品化してきたLAOWAらしいエピソードだ。

日本でLAOWAレンズを取り扱うサイトロンジャパンの渡邉社長も、そんな李社長の姿勢と、その人柄に惹かれて集まったスタッフ達の生み出す製品に惚れたのが、販売代理店になった最大のきっかけだという。急成長の中国企業ということで、ドライなビジネス話が飛び出すのではと思い込んでいた部分もあったが、意外や意外、そこには実にユーザー本位で人間的な物作りの風土があった。

協力:株式会社サイトロンジャパン

本誌:鈴木誠