伊達淳一のレンズが欲しいッ!

LAOWA 7.5mm F2 MFT

周辺まで点像もしっかり写る マイクロフォーサーズ用超広角レンズ

星だけでなく地上の風景も入れて写す“星景撮影”に適しているのは、高感度に強いカメラと明るいレンズの組み合わせだ。星は日周運動で動いているので、赤道儀で星を追尾しない固定撮影では、レンズの画角や鑑賞倍率にもよるが、露光時間をおおよそ15~30秒以内に抑えないと星が動いてしまって点像に写らない。

センサーサイズが大きな最新の35mmフルサイズ機なら、強引なノイズリダクションに頼らなくても高感度特性に優れているので、開放F4程度のズームレンズでもISO6400以上に感度を上げて撮影すれば、30秒前後の露出でなんとか天の川まで写せてしまう。

一方、センサーサイズが小さなマイクロフォーサーズ機は、フルサイズ機ほど高感度には強くないので、感度はISO3200以下、できればISO1600以下に抑えたいところ。そのためには、必然的に明るいレンズが必要となってくる。

小型軽量の超広角レンズが登場

そんな星景撮影向きのレンズとして、ボクがいまもっとも注目しているのが「LAOWA 7.5mm F2 MFT」だ。35mm判換算15mm相当の画角をカバーするマイクロフォーサーズ規格のMFレンズで、開放F値がF2.0と明るいにもかかわらず、最大径50×全長55mmと手の中にスッポリと収まってしまうほどコンパクト、重量も約170gと軽量なのが特徴だ。

OLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIに装着したところ

鏡筒はエンジニアリングプラスチックではなく金属素材で作られていて、手に持つとヒンヤリとした金属特有の触感と重さが感じられ、表面仕上げも実に美しく高級感がある。フードは着脱式で、逆付け収納も可能だが、付属のレンズキャップを装着したままだとキャップが引っかかってフードの着脱が行えないのはちょっと残念な仕様だ。

左からLAOWA 7.5mm F2 MFT、パナソニックLEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm/F2.8-4.0 ASPH.、オリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO。それぞれフード装着状態。15mm相当でF2と明るいLAOWA 7.5mm F2 MFTの小ささが際立っている。
フード収納状態。オリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROはフード固定で、円形フィルターも装着不可。パナソニックのLEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.は67mm径のフィルターが使用可能だが、ワイド端の画角は並。
着脱式の花形フードが同梱。逆付け収納も可能だ。

最短撮影距離は12cmで、撮大撮影倍率は0.2倍。フォーカスリングはややトルクが重めではあるが、品位に欠けるギスギスとした動きではなく、グリスによる自然な粘りによるものだ。フォーカスリングに軽く触れただけで不用意にピントがずれる心配はないので、むしろ星景撮影などには好都合だ。

絞りリングは1EVステップのクリックストップ付き(動画撮影用のデクリック機構はなし)で、小絞りになるにつれ、クリックの間隔は次第に狭くなっていく。絞り羽根は7枚構成で、角張っているというほどではないが、円形絞りほど丸みは帯びていない。

青色の化粧リングがデザイン上のアクセントとなっている。絞りリングの間隔は小絞りになるほど密になっていく。

フィルター溝を装備

また、46mm径のフィルター溝も備えているのも、このレンズの大きな特徴だ。マイクロフォーサーズ規格の明るい超広角レンズとしてはM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROやM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROがあるが、いずれも前玉が突出している“出目金レンズ”なので円形フィルターは装着できず、星景撮影でソフトフィルターを使いたい場合には、シートタイプのソフトフィルターを適当にカットして後玉に貼り付けるなどの工夫が必要となる。

その点、このレンズなら、46mm径のフィルター溝を備えているので、市販のレンズ保護フィルターやPLフィルター、そして、星景撮影で明るい星を肥大化するためにソフトフィルターが簡単に使用できるのが魅力だ。

ただし、電子接点は装備していないので、使用可能な撮影モードは絞り優先オートかマニュアル露出、ピント合わせはもちろんマニュアルフォーカスで、フォーカスリングを回しても自動的にライブビュー表示は拡大されないので、これも手動操作で拡大表示に切り替える必要がある。

レンズ情報もボディに伝達されないので、Exif情報にはレンズの焦点距離や絞り値などは記録されないし、周辺光量補正や倍率色収差補正、歪曲収差補正といった「レンズ補正」も動作しない。

今回、掲載した作例のExif情報には、レンズ名や撮影絞り値が記録されているが、これはOLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIやOLYMPUS PENに搭載されている「レンズ情報登録」という機能を利用していて、あらかじめカメラ内で設定しておいたレンズを選択するだけで、レンズ名や焦点距離、絞り値をExif情報に残すことができるほか、ボディ内手ブレ補正に必要な焦点距離も自動的にセットしてくれる。電子接点のないMFレンズを使う場合は、ぜひ活用して欲しい機能だ。

ユニークなレンズを揃えるLAOWA

ちなみに、LAOWA(ラオワ)とは、中国の「Venus Optics」というメーカーのブランド名で、漢字表記で「老蛙」。国内では、サイトロンジャパンが正規代理店となっていて、CP+2016からLAOWA製品も自社ブース内で出展し始めている。

今回のLAOWA 7.5mm F2 MFTのほかにも、撮影倍率2倍のAPS-C専用マクロで、近接撮影時には35mmフルサイズもカバーする「LAOWA 60mm F2.8 MACRO」や、フルサイズ対応の超広角マクロで、APS-Cではシフトレンズとしても使用可能な「LAOWA 15mm F4 WIDE MACRO」、アポダイゼーションエレメントを組み込んでなめらかなボケ味を実現した「Laowa 105mm F2‘The Bokeh Dreamer'」、歪曲収差を限りなくゼロに近づけた「Laowa 12mm Zero-D(Distortion)」、「Laowa 15mm F2 Zero-D(発売予定)」といった個性的な高性能MFレンズがラインナップされている。

周辺部まで安定した画質

大口径レンズはレンズの明るさが最大の強みだ。特に星景撮影では、絞り開放の画質、それも周辺画質の高さが求められる。周辺の星がコマ収差で流れたり羽根を広げたりすることなく点像に写るのが理想だが、大口径レンズになればなるほど、絞り開放では十分にコマ収差を抑えきれず、周辺や四隅で点が羽根を広げてしまうことが多い。

そのため、周辺の点像性能にこだわるレンズは、非球面レンズや特殊分散ガラスなどを惜しみなく使った贅沢なレンズ構成で、全長も長めの巨大なレンズが多い。

LAOWA 7.5mm F2 MFTも、非球面レンズ2枚、特殊低分散ガラス3枚を含む9群13枚と、それなりにこだわったレンズ構成ではあるが、なにしろあまりにも前玉が小さく、コンパクトなレンズなので、これで本当に周辺まで星が点像に写るのだろうか? と不安を感じてしまう。

しかし、実際に撮影してみると、その高い周辺描写力に驚かされた。周辺光量低下はそれなりにあるものの、15mm相当という超広角、F2という開放F値を考えると、信じられないほど周辺画質が安定している。

さすがに、最周辺部は絞り開放だと少し甘さが残るものの、不快な像の流れはほぼ感じない。F2.8まで絞ると周辺のコントラストも向上してきて、F4~5.6で周辺の解像性能もほぼピークに達する。画質のためにそれ以上絞る必要はなく、F16以上に絞ると明らかに小絞りボケで解像とコントラストが低下してくる。

焦点距離が7.5mmと短く、被写界深度が深めのレンズなので、よほど近景にピントを合わせない限り、F11まで絞れば十分パンフォーカス的な撮影が行える。絞り過ぎには要注意だ。

遠景の描写性能をチェックするため、開放F2から最小絞りのF22まで1段ずつ絞って撮影。ピント位置は画面ほぼ中央で合わせている。

※共通設定:E-M1 Mark II / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm

F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

絞り開放では、周辺部の解像にやや甘さが感じられるものの、超広角レンズにありがちな周辺部の放射状、同心円状の流れや像の乱れはほとんど感じない。画面中央は偽色を生じるほど切れ味鋭く、F2.8、F4と絞っていくと、周辺までシャープネスが向上していく。

周辺光量低下(周辺減光)がほぼ解消するのはF8~F11。ここまでは小絞りボケの影響も軽微なので、積極的に使いたい絞りだ。F16まで絞るとエッジが滲み始め、F22まで絞ると小絞りボケの影響でピクセル等倍ではかなりボケボケの描写になる。

星も期待以上の写りに

さて、問題は「星景撮影に使えるかどうか」だ。梅雨の真っ最中なので、果たして星空、それも天の川が撮れるかどうかは賭けだったが、とりあえず気圧配置と自分の勘を信じて山中湖畔まで遠征。季節が季節なので視程はそれなりだったが、運良く満天の星空で星景撮影を試すことができた。

どこまでの点像性能を求めるかにもよるが、個人的には期待以上の好描写が得られていると思う。ピクセル等倍鑑賞では周辺の星が少しだけ乱れを生じるものの、いわゆる盛大に羽根を広げたコマフレアではなく、淡く短い尾を引く程度。

F2.8まで絞ればもう少し締まった点像が得られそうな感じだが、これ以上、露光時間を長くすると日周運動で星が動いて線になってしまうし、高感度に強いとまではいえないマイクロフォーサーズ機だけにこれ以上感度を上げるのは避けたいところだ。

そのため、コンポジットなど特殊な画像処理なしのお手軽星景撮影では、開放F2の明るさを活かし、できるだけ感度を抑え、露光時間を短くするのが得策なようだ。

ソフトフィルターの活用

そして、星景撮影のもうひとつのポイントであるソフトフィルターの使用だが、事前のテストで手持ちの46mm径のソフトフィルター(ケンコーMC PRO SOFTON[B])を装着すると、フィルターで四隅が暗くなってしまうことが判明。絞り込んでもフィルターのケラレは出ないので、周辺の光束が微妙にケラレてしまうようだ。

ただ、星景撮影では、周辺光量低下もそれなりにあるので、超広角の星景であれば四隅が暗く落ちてもさほど不自然さは感じない。ただ、天の川を強調するような強引な階調補正を加えたり、日中の撮影でレンズ保護フィルターやPLフィルターを装着する場合も、相当、薄枠のフィルターでないと四隅の光量落ちが目立ってしまう危険性は高いと思う。

もっとも、46mm径のソフトフィルターはすでに生産完了していて、現在、確実に入手できるソフトフィルターは49mm径以上だ。そこで、ステップアップリングを使えば四隅の光量落ちも回避できるのではないかと試してみたところ、46-52mmのステップアップリングではステップアップリングだけでも陰りが生じ、46-58mmのステップアップリングにすると陰りは解消するものの、装着するフィルターによってはまだ光束がケラレる恐れがある。

仕方がないので、46mmからのステップアップリングの最大径である46-72mmのステップアップリングと72mmのソフトフィルター(ケンコーPRO1D PRO SOFTON-Aワイド)を装着してみると、フィルターの有無による周辺光量の差がようやくなくなった。小さなレンズに巨大フィルターを装着するというアンバランスな状態となってしまうが、それでもソフトフィルターを使った星景撮影ができるのはありがたい。

できるだけコンパクトに、という場合は、46-58mmのステップアップリングに、「LEEポリエステルフィルターSOFT3」などシート状のソフトフィルターを切って貼るという手もあるが、取り扱いに注意しないとフィルターにキズやホコリが付いたり、曲がってしまうこともある。

何を隠そう、このテスト撮影の後、うっかりステップアップリングに貼ったフィルターに折り癖を付けて台無しにしてしまったのはこのボクだったりする(汗)。なので、シートフィルターではなく、58mm径のソフトフィルターを枠から外し、46-58mmのステップアップリングに接着する、というのが、取り扱いの容易さを考えると無難かも。

※共通設定:E-M1 Mark II / 20秒 / F2 / 0EV / ISO800 / マニュアル露出 / 7.5mm

フィルター無し。
46mmケンコーMC PRO SOFTON[B]。
46-72mmステップアップリングに72mm PRO1D PRO SOFTON-Aワイド。
46-58mmステップアップリングにLEEポリエステルフィルターSOFT3。

作品

15mm相当の画角でフィルターが装着できる、というのは、星景撮影以外でもメリットがある。夕景の田園風景を背景にしたアジサイ(神奈川県開成町)の横位置の作例はハーフNDフィルターを使用して撮影したもので、46-72mmのステップアップリングで「NiSi 100 Square filter holder set V5-PRO」と「NiSi Hard nano Grad ND 0.6」を装着している。

46-72mmのステップアップリングで「NiSi 100 Square filter holder set V5-PRO」と「Hard nano Grad ND 0.6」を装着したところ。

小さなレンズにこんなに巨大なフィルターホルダーを取り付けたのでは、レンズに負荷がかって、光軸がずれたりガタが生じないかと心配するかも知れないが、このレンズはインナーフォーカスを採用しているので、フィルター溝は外側の鏡筒と一体で、フォーカスに伴う繰り出しもない。よほど強い力を加えない限り、レンズ性能に悪影響は及ぼさないと思われる。こんな撮影も楽しめるのも、LAOWA 7.5mm F2 MFTの魅力だ。

E-M1 Mark II / 1/2,500秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/6,400秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/1,600秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/3,200秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/5,000秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/6,400秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/4,000秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/4,000秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/500秒 / F11 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/1,600秒 / F4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/320秒 / F4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/80秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm
E-M1 Mark II / 1/3秒 / F2.8 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/160秒 / F2 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 7.5mm
E-M1 Mark II / 1/8秒 / F8 / +0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 7.5mm / NiSi Hard nano Grad ND 0.6
E-M1 Mark II / 50秒 / F2 / 0EV / ISO320 / マニュアル露出 / 7.5mm / ケンコーPRO1D PRO SOFTON-Aワイド / ポータブル赤道儀の星景モードで簡易追尾
E-M1 Mark II / 20秒 / F2 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出 / 7.5mm / ケンコーPRO1D PRO SOFTON-Aワイド / NiSi Natural Night Filter
E-M1 Mark II / 20秒 / F2 / 0EV / ISO6400 / マニュアル露出 / 7.5mm / ケンコーPRO1D PRO SOFTON-Aワイド / NiSi Natural Night Filter

伊達淳一

(だてじゅんいち):1962年広島県生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。写真誌などでカメラマンとして活動する一方、専門知識を活かしてライターとしても活躍。黎明期からデジカメに強く、カメラマンよりライター業が多くなる。