新製品レビュー

EOS M6

シンプルな見た目とは裏腹!上級機譲りの豊富な機能

4月20日に発売されたキヤノンのミラーレスカメラ「EOS M6」。クラシックでかっこいい見た目と、本格的な撮影が手軽に楽しめる点でも注目を集めている。

先に発売された上級機「EOS M5」の弟のような位置づけだが、性能に遜色のないパワーや小型ゆえの勢いを感じる描画力を紹介したい。一瞬手にした感じはEOS M3に近いものを感じるかもしれないが、基本性能が向上し、使い手の本気に対してきちんと返してくれる誠実なカメラなのだ。

デザイン

ボデイカラーはブラックとシルバーの2種。デザインは非常にスマートで男性的な堅いカメラという雰囲気がある一方、クラシックな趣きで柔らかく、女性が持っても可愛らしく感じる、どこかジェンダーレスなところが魅力。

さらに、2段ダイヤルや、343g(本体のみ)という軽さ、チルト機構搭載の液晶モニターなど、外観だけでも楽しい工夫がある。またポップアップストロボも付き、表現に広がりがでるだろう。

ボタン類

上部右にあるダイヤルは、モードダイヤル、メイン電子ダイヤル、露出補正ダイヤル、その下にはサブ電子ダイヤル。EOS M3よりも使い手に寄り添い、狭い範囲で全てが調整できる。細かいところでは、電源ボタンがレバー式になったのがとても使いやすい。

よくマニュアル撮影をする筆者としては、操作部がコンパクトになったことに注目。慣れればスピードを持って撮影を楽しむことができそうだ。

小さなボディだが大きく液晶モニターを確保し、背面ボタンは控えめ。非常に整理されたEOS M5のボタン配置と変わらないがやや小さくなった印象だ。

撮像素子

ざっくりといえば、小さいながらも高性能を積んだのがEOS M6。EOS M5に搭載されたデュアルピクセルCMOSセンサーを搭載し、センサーサイズはAPS-Cサイズとなる。有効画素数は約2,420万画素だ。

画像処理エンジンもEOS M5と同じDIGIC 7で、大判プリントや大画面でのプレビューを楽しむためのアイテムは整っている。見た目や、売り出し方のカジュアルさと中身のギャップは、このカメラを手にするものだけが感じる優越感だろう。

EOS M3にくらべて特に大きく進化した注目ポイントは、やはり画像処理エンジンがDIGIC 7になったこと。高感度で非常にノイズの少ない美しい写真が撮影可能となった。

感度は、常用がISO100~25600!! ここまで幅があるということは、従来高感度と呼ばれた数値で撮影ができるということではないだろうか。自分がいままで使用していた感度よりも、大分伸び代があることはとても安心できる。

AFシステム

そして先にも少し触れたが、注目すべき点はデュアルピクセルCMOS AF! どのような条件下の撮影にも安定して高速合焦を行うことが可能。実はフラッグシップモデルのEOS-1D X Mark IIにも搭載されているのだ。

デュアルピクセルCMOS AFとは2,420万画素の全てが二役を演じるもので、撮像画素としているだけではなく、位相差AFセンサーとしても機能する。このキヤノン独自の仕組により、動きの速い被写体や色味が捕まえにくい被写体でも高速合焦で捉えることができるようになった。

また、デュアルピクセルCMOS AFでは画面の約80×80%の範囲において測距可能。このハイレベルな機能をEOS M6の小さなボディにねじ込んでいるのだ。

AF方式は、従来の「顔+追尾優先AF」と「1点AF」に加えてEOS M5で加わった「スムーズゾーンAF」(動きが速く予測しづらい被写体に向く)がセレクトできるようになっている。

外付けファインダー

従来のものよりも29g軽量化され、改良された外付けEVF「EVF-DC2」(別売)も用意されている。ミラーレスカメラのコンパクトさは好きだが、ファインダーを覗いて撮りたいと思っていたファンには非常に嬉しいアイテムだ。

約236万ドットの有機ELパネルで被写体の細部まで確認可能。これからのシーズン、特に強い光の環境では液晶モニターだけでは心細い部分もあるが、そんな不安を解消するアイテムがグッドタイミングで登場となった。

液晶モニター

液晶モニターは3型約104万ドットのチルト式。上約180度、下約45度の範囲で可動し、様々な体勢での撮影をサポートする。ボディが軽量なことから、片手で持っての自分撮りも楽しめる。

なおこの機種は、EOS M5にあった「タッチ&ドラッグAF」が非搭載となっている。

記録メディアとバッテリー

バッテリーパックはLP-E17。

撮影可能枚数は295枚。記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードで、UHS-Iに対応している。

無線機能

近年のSNSなどへの対応も考慮しており、Wi-FiおよびBluetoothでスマートフォンとの接続が可能。通信にはスマートフォン側に専用のアプリのインストールが必要。NFCによるペアリングも可能だ。

作品

前述したとおり、光の少ない薄暗い場所でもノイズが従来よりもずっと少なく撮影できる。作例はISO1600で撮った「深夜のキッチンの誘惑」。薄暗い環境下であるが、しかしノイズに邪魔されることなくお菓子や硝子のディティールもしっかり出ている。

EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM / 1/25秒 / F5 / 0EV / ISO1600 / マニュアル露出 / WB:ストロボ(B9、G8)/ 30mm

動きの速いものへの高速合焦を見て欲しい。予測不能な動物などに対して構える時、心は常にシャッターボタンへ集中している。そこでタイムラグがあってはストレスになってしまう。だが、どうだろう。作例は偶然カラスがジャンプしたところ。こんなコミカルな冗談めいた写真もとれてしまう。

EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM / 1/800秒 / F5.6 / 0EV / ISO320 / マニュアル露出 / WB:太陽光(B9、G8)/ 135mm

手前の風に揺れる布は日陰になっている。その向こうの車道は晴天の空の下だ。どちらかの露出に合わせてしまうと空気感が壊れてしまいそうなギリギリのせめぎ合いだが。ピントを合わせた布の背景も白トビぜず、きちんとそれもまた被写体として映し出している。

EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM / 1/250秒 / F5 / 0EV / ISO320 / マニュアル露出 / WB:太陽光(B9、G8)/ 27mm

通常、デジタルカメラ特有の弱さとして特に黄色系の色味に対してのっぺりとしてしまう気がする。しかし、この春色全開の景色を前にしても動じない立体感。

EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:ストロボ(B9、G8)/ 15mm

コンパクトなボディならではの撮影方法がある。例えば、浜辺に置いてかわりゆく波の表面を狙う。そんな時、手にすっぽりと収まるようなカメラの気軽さが、機材への意識よりも被写体への集中に向かわせてくれる気がするのだ。

EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM / 1/1,000秒 / F6.3 / 0EV / ISO250 / マニュアル露出 / WB:太陽光(B9、G8)/ 200mm

部屋の中はしっとりと暗く、外の明るさが漏れている部屋で、ああこの空間が好きだなと素直に感じた時に。この感覚を大切にするために必要なのはスピード。仰々しくなく、スマートな撮影を心がけると、場所の空気を変えずにすむだろう。

EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM / 1/400秒 / F3.5 / 0EV / ISO800 / マニュアル露出 / WB:太陽光(B9、G8)/ 16mm

HDR(ハイダイナミックレンジ)機能はクリエイティブフィルターの1つとして選択が可能。作例はグラフィック調を選択。夕暮れの空と、海岸へ続く道。空のハイライトをいい塩梅で保ちつつ、シャドーのディティールを活かしてくれる。ほかにナチュラル、グラフィック調、絵画調標準、油彩調、ビンテージ調の5つの仕上がりから選択できる。記録はJPEGのみ。

EF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM / 1/200秒 / F8 / -1.3EV / ISO100 / HDR / 15mm

まとめ

正直、このカメラに対してはため息が出てしまった。今まで全てのEOS Mシリーズを手にしてきた筆者は、入門機にはその対象に合った機能を見てきたし、また主力となるEOS M5にはパフォーマンスに対して力が入っている威風堂々としたカメラという印象があった。

だが、今回のEOS M6に関しては今までとは違う感覚がある。スマートなのだ。まるで、その高い性能を隠しているようなボディとのコントラストもカッコイイと思ってしまう。

ミラーレス機がサブ機として手元にある時代は終わろうとしているのかもしれない。技術のすべてを詰め込んで小さなカメラとレンズに託している。

小ささは、見ようによっては優しさに感じるのだ。力の強くない、どんな人でも常にカメラと共に世界を見ることができる。このEOS M6が登場したことにより、いよいよキヤノンのミラーレスカメラで本気の一歩が踏み出されたような気がしてならないのは、きっと私だけでは無いことだろう。

鈴木さや香

(すずきさやか)写真家。山岸伸に師事の後、2012年2月独立。写真雑誌のほか、CDジャケットや広告写真をメインに活動の幅を広げている他、カメラメーカーなどのワークショップの講師を担当。鎌倉での旅のフォトエッセイを連載中。Webサイト:かまくらかたおもい