交換レンズレビュー

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

驚くべき手ブレ補正能力 “高倍率万能ズームレンズ”の誕生

オリンパスのマイクロフォーサーズレンズ「M.ZUIKO DIGITAL」において、広角から望遠までをカバーする高倍率ズームレンズとしてはこれまで「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6 II」があった。10.7倍のズーム比でコンパクトながらも防塵・防滴の高倍率ズームレンズだが開放絞り値が可変式であった。

そこに待望のPROシリーズ初となる高倍率ズームレンズが誕生した。本レンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROである。ズーム比8.3倍、35mm判換算で24-200mmという一般的な撮影で多用する焦点距離を1本でまかなっている便利なレンズだ。

大きな特徴としてはワイド端12mmから望遠端100mmまでの全焦点距離において開放絞り値が変わらないF4通しで使えること。これは開放F値によってボケ味が変化するのをきらうフォトグラファーにとっては大事なポイントだ。

そして「5軸シンクロ手ぶれ補正」に対応したことで、OLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIとの併用では約6.5段分の補正が可能になったことも大きな特徴であろう。6.5段の補正効果はメーカーも“世界最強”とうたっているだけあり、様々なシーンで大活躍することは間違いないといっても良い強い味方となる。

他にもたくさんの新機能の搭載やスペックアップがあるが個人的にもう1つ挙げるなら超近接撮影が可能になったことだ。ワイド側での最短撮影距離15㎝、レンズ先端からのワーキングディスタンスは1.5㎝。望遠側はワーキングディスタンスが27㎝なので、手ブレ防止機能との併用では、例えば片手でカメラを構えてもう一方の手でレフ板を使用するなどの作業もしながらの近接撮影も容易にできる。

デザインと操作性

外観をパッと見て思ったのはこれまでオリンパスのレンズで筆者が最も多用していた同じPROシリーズの M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROがそのまま少し膨らんだという印象。後から背が高い弟が生まれてきたという感じである(笑)。

ただし重量は約1.5倍となったのでズシリとくるが、今回使用したE-M1 Mark IIとの組合せはジャストフィットと呼んでも良いくらいデザイン的にもとても似合っているし、実際に使ってみて様々な場面での撮影時の使い勝手も同じく気持ちよい操作ができた。最初からE-M1 Mark IIとのコンビネーションを想定して開発したのかと思うほどだ。

レンズ前玉側からだと、大きさを比較するモノが無ければパッと見ではM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROと見違えるくらい同一化したデザインである。

マウント側から見るとレンズ鏡胴の長さや膨らみなどM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROとはサイズ差が感じられるがデザインに違和感はない。

鏡胴左側にあるISスイッチとファンクションボタン。この強力な手ブレ補正機構のおかげで悪条件下でも安心して撮影に取り込むことができる。

PROレンズシリーズのシンプルで使いやすく機能的かつコンパクトなデザインを引き継ぐ。また金属製の鏡胴ならではの高級感と信頼性が感じられる。

鏡胴を繰り出した状態。最大45mm程度(筆者調べ)の繰り出し量だがボディーに装着しての使用時には左手にしっくり馴染んでホールディングできる。

付属のレンズフードは12-40mmと比べて外れにくく改良された。フードを付けた状態でE-M1 Mark IIボディーに装着。見た目もキリッと精悍になる。

作品

ワイド側12mmは最短撮影距離15㎝。広角レンズでも絞り開放だと背景をボケさせることが可能だ。昔の煙草屋にあった1枚が2㎝角位のモザイクタイル。

E-M1 Mark II / 1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

焦点距離100mm、絞り開放。レンズから1m半くらいの距離にある赤い梅の花にフォーカスを合わせて撮影。約3~4m後方にある庭先風景は素直なボケ味である。

E-M1 Mark II / 1/400秒 / F4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 100mm

絞り開放、同じ位置からフォーカスだけ変えて後方にある真ん中の鉢に合焦させて撮影。花や幹の前ボケも自然な柔らかさが感じられる描写だ。

E-M1 Mark II / 1/400秒 / F4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 100mm

5軸シンクロ手ぶれ補正に対応した効果を発揮。手持ちでシャッター速度は0.3秒、通行人はブレているが背景の建物などは静止している。

E-M1 Mark II / 1/3秒 / F4 / +0.3EV / ISO1600 / 絞り優先AE / 12mm

有名な夜景スポット、稲佐山から見る長崎市内。ワイド側だけではズームレンズの手ブレ効果実証にならないので100mmでの手持ち夜景撮影。手摺りに肘をついての撮影だが三脚なしでシャッター速度は1/2秒でもブレない事には驚いた。

E-M1 Mark II / 1/2秒 / F4 / 0EV / ISO800 / マニュアル露出 / 100mm

同じ場所から焦点距離を変えて中間値付近の44mmで撮影。いろいろな焦点距離やシャッター速度で試してみたが、1/2秒の手持ちでも半分以上がブレていなかった。これにはボディのホールディングの良さも関係していると思われる。

E-M1 Mark II / 1/2秒 / F4 / 0EV / ISO800 / マニュアル露出 / 44mm

長崎市内から陸続きで行ける伊王島にて。絞り開放でハイビスカスの先っちょ、柱頭に合焦。このようなシチュエーションではマニュアルフォーカスが動きもスムースで便利。美しいボケだ。

E-M1 Mark II / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 100mm

ボケ味は前後ともにナチュラルなトーン描写だ。この白いネコに出会いついて行ったらたくさんの撮影ポイントや被写体に出会うことができた。まさに招き猫だったのかもしれない。

E-M1 Mark II / 1/1,000秒 / F4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 100mm

三脚が使えないような暗い室内撮影でも強力な手ブレ補正機能が救ってくれた。手ブレ補正でブレが防げれば、その分やや暗めの開放F値であっても無理の無い設計で描写性能が優れている。

E-M1 Mark II / 1/5秒 / F4 / +0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 17mm

暗い場所での撮影時、暗部のトーンも潰れることなく明るい部分の白トビも充分に抑えられていて色再現性も良い。長崎市旧香港上海銀行長崎支店記念館にて撮影。

E-M1 Mark II / 1/50秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 12mm

高倍率ズームのワイド端ということを差し引いても、後処理が簡単にできる事も含めれば若干の周辺光量落ちや歪みは無視しても良い程度の範疇である。伊達にPROという名称を付けていないところにホンキ度をを感じる造りだ。

E-M1 Mark II / 1/250秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

焦点距離やシチュエーションで若干の違いはあるが、克明な描写を求めるときには絞り値をF5.6~F8半くらいがピークで解像力が発揮できる印象だ。

E-M1 Mark II / 1/800秒 / F8 / -1EV / ISO400 / 絞り優先AE / 34mm

世界遺産の通称「軍艦島」へ向かうフェリーから。悪天候下、ものすごい高波で上陸が危ぶまれたがギリギリ到着。頭をぶつけそうな程の激しい揺れなので、強力な手ブレ補正がなければブラさないで撮るのは本当に無理だったろう。

E-M1 Mark II / 1/1,250秒 / F8 / -1EV / ISO400 / 絞り優先AE / 12mm

大好きだった俳優、高倉健さんの遺作「あなたへ」の撮影に登場した伊王島灯台。色乗りも良くてカメラ側の仕上がり設定をVividなどにするとボクの好きな高めの彩度の絵柄も創れる。

E-M1 Mark II / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

伊王島灯台記念館にて。灯台守が実際に使っていた時計のガラスに映る裸電球。今は動いていないけど、チックタックと針の音が聞こえてきそうな気がした。

E-M1 Mark II / 1/100秒 / F8 / +0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 92mm

旅も終わりに近づいた夕暮れの大村湾でのカット。完全に逆光だが思ったほどのハレーションやゴースト、フレアも見られない。中間トーンもよく再現されている。

E-M1 Mark II / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 12mm

まとめ

これまで発売されたオリンパスのマイクロフォーサーズ用レンズは超望遠レンズやフィッシュアイといった特殊なモノを除いてほとんど所有もしくは試しに使ってきた筆者だが、2016年秋まではその中でも使用頻度の6割以上はM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROだった。

今回、本レンズの登場によってどうやら選手交代になるのは必至だ。いやそれ以上に7割とか8割とかを占めるかも知れない。PROレンズはF値が2.8などがメインだったのだがF4まで1段分暗くなったとしても、それを凌駕してお釣りが来るくらいのメリットが多い。

比較的コンパクトでありながらE-M1 Mark IIなどとの併用で約6.5段分の手ブレ補正が使えてマクロ撮影にも強い。そして何と言っても多用する焦点距離をカバーしているということだ。

以上の要素だけでもこれまでのレンズラインナップにはなかった特徴で、これらが加わったことで撮影の可能性が大きく広がったことはうれしい。このレンズに明るい単焦点レンズを加えれば旅が多いフォトグラファーにとっては鬼に金棒である。

撮影協力:長崎市旧香港上海銀行長崎支店記念館

HARUKI

(はるき)1959年広島生まれ。写真家。ビジュアルディレクター。九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、上京しフリーランスで世界各国でのスナップショットやポートレートを中心に活動。第35回・朝日広告賞・表現技術賞、100 Japanese Photographers、パルコ ”第3回・期待される若手写真家展” などに選出。プリント作品は国内外の美術館などに収蔵。著書に写真集 「The Human Portraits ~普通の人びと ~1987-2007~ 」、「遠い記憶。」、「Automóvil Americanos “Cuba Cuba Cuba”」。 個展、グループ展多数参加。長岡造形大学非常勤講師。日本写真家協会(JPS)会員。

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