交換レンズレビュー
EF24-105mm F4 L IS II USM
長崎〜軍艦島の冬旅を、新しくなった「王道スタンダードズーム」とともに
2017年1月26日 07:00
2005年の発売以来、キヤノンEFレンズの中でも中心的な存在の標準ズームレンズとして人気だったEF24-105mm F4L IS USMだが、昨年冬ついに11年ぶりのモデルチェンジとなり発売されたのが後継機のEF24-105mm F4L IS II USMである。発売から3カ月以上が経ったのですでに入手して使っているユーザーも多いことだろう。
前モデルからリニューアルされた特徴的な部分をいくつか挙げてみると、まず第一には手ブレ補正機構(IS)の補正効果が約4段分へと向上。その他、フレア、ゴーストを低減するAir Sphere Cortingの採用、ガラスモールド非球面レンズが3枚から4枚へと増加、絞り羽根は8枚から10枚になった。また、新採用のズームリングロックレバーも便利な機能である。
今回は、同じく新型のボディー「EOS 5D Mark IV」とともに冬の長崎を旅しながら実写をしてきた。
発売日 | 2016年11月3日 |
実勢価格 | 税込14万9,140円前後 |
マウント | EF |
最短撮影距離 | 0.45m |
フィルター径 | 77mm |
外形寸法 | 83.5mm×118mm |
重量 | 約795g |
デザインと操作性
旧モデルに比べて全長が11mm長くなったが、ズームリングやフォーカスリングのゴム部分の仕上げや鏡胴そのもののデザインが良くなったせいか、大きさをそれほど感じさせない。
またAF/MF切替スイッチやISスイッチの他に、勝手にレンズが延びないようにするズームリングロックレバーを設けたことで左右にスイッチ部分の突起が加わったのだが、鏡胴本体部分の直径やフィルター径は変わっていない。ただし125gの重量アップはやはりボディーに装着した状態で持ってみるとズシリとくる重量感がある。
レンズ前玉側を上から見たところ。フィルター径は77mmで以前と変わっていない。
レンズ裏、マウント側から。内面反射防止の構造になっている。
レンズ側面から見た全体像。鏡胴部分にAF/MFのフォーカス切替スイッチ、ズームロックのスイッチが見える。
焦点距離を望遠端の側105mmまで繰り出したところ。ズームリングを回して繰り出す時の印象は旧型に比べてやや重くなった印象だが、確実に操作できる。
鏡胴左側にはこれまでどおりに、AF/MF切替スイッチとISスイッチが縦に並んで配置されている。
鏡胴右側にはズームリング用のロックスイッチが新しく備わった。広角端のみでロックでき、これによって持ち運ぶ途中など不意にズームリングが動いてしまうことが防げるようになった。
付属のレンズフードを装着したところ。旧式の裏面はフェルトのような起毛加工だったが新型フードEW-83Mはマット塗装仕上げになった。ロック機構もしっかりとした構造だ。
作品
50mmでF8。メーカー発表のMTF曲線にもよく表れているが、実際に撮影したマテリアルの克明な描写を確認して、解像力はかなり向上しているのを感じる。
拾いモノをかき集めて“アーヴィング・ペンごっこ”で撮影してみた。焦点距離85mmで絞りはF8。ビシッとした描写は高い解像力の証明。コントラストも良好だ。
背景のシャドー部はギリギリまで黒潰れがない程度に締まりも良い。陽射しは強いものの風が強い日だったのでうまく風を遮りながらも太陽を浴びている。ネコたちは日向ぼっこをする場所をよく知っている(笑)。
望遠側の焦点距離105mm、F4開放で季節外れのコスモスを半逆光で近接撮影。かなり風が強く、近接では合焦が難しい条件だったがAFもちゃんと捉えてくれた。
同じく焦点距離105mm、絞り開放で後ピンにして撮影。ボケている手前の花びらから後方の草木までは約50~60cm。前ボケもやわらかい描写だ。
焦点距離24mm、絞り開放F4。レンズから70~80㎝向こうにあるロープ留めにフォーカス(左)。合焦部分はしっかりとコンクリートやロープの質感が出ているが桟橋先端から奥にかけては自然にボケていく。右はフォーカス位置を背景の海面に合わせて撮影。開放F4なので浅いとはいえない被写界深度でのボケ具合はまあまあだが、四隅に周辺光量落ちが若干見受けられる。
目にするとついついシャッターを切ってしまう好物の被写体だ(笑)。周辺光量落ちも2段ほど絞ると気にならなくなる。F8でも1mくらいの距離で撮影すると背景の線路などは十分ボケている。
広角端24mmではやはり若干の歪曲収差はあるものの、耐逆光性能と解像力はズームレンズとしてはかなり良くなっている。
長崎市内にある長崎市旧香港上海銀行記念館の一室。貴重な歴史的資料とともに美しい調度品が往時を偲ばせる。
猫足の椅子が置かれている廊下で赤い絨毯に刺繍を施された座面部分にピントを合わせて質感をリアルに描写。色乗りも良い感じだ。
向上した手ブレ補正機構の手助けもあって、暗い場所で望遠側の焦点距離を使用しても1/25秒でも余裕で手持ち撮影できる。
望遠側の至近距離撮影では手ブレ補正を使っているからと過信しないで、しっかりとホールディングしないと手ブレだけではなくフォーカス位置までも変わってしまうので注意が必要。(長崎市旧香港上海銀行長崎支店記念館で撮影)
ここからは、近年橋が開通して車で渡れるようになったが自然が多く残っていて、隠れキリシタンの島としても有名な長崎の端、伊王島での撮影。
鉄造洋式灯台としては日本一古く、明治4年からの歴史がある伊王島灯台。記念館の建物の壁面も厳しい自然の潮風に晒されてすぐにペンキが剥がれてしまう。
24mm側、至近距離でハイビスカスに合焦させて開放で撮影。後方に見える建物は完全にボケているが開放で至近距離撮影だと周辺減光が気になる場合がある。
宿舎で実際に使われてきたフック。クラシックな形状に歴史を感じる。奥のフックにフォーカスしたので前後のボケ味のやわらかさが伝わるだろうか。
帆船模型のフラッグを開放でマクロ的に撮影。11枚絞りになったことで、背景には女性モデルを撮りたくなるような美しいボケ味を醸し出している。
伊王島灯台記念館にある灯台の模型が西日を浴びて壁に金色の影を創り出していた。まるでおとぎ話に出てくる不思議な切り絵のように見えた。
この旅のメインイベントである世界遺産「軍艦島」に向かったのだが、高波でなかなか上陸できず。チャンスを待っている時に105mmで撮影。ヒザ立ちさえ不可能な激しい揺れで、手ブレ補正に頼らなければ無理な撮影条件でのカット。
浮遊する大型ボートで刻一刻と変化する悪天候の中、雲間から射し込む光線を狙う。シャッター速度は速いけれど荒れ狂う波の上では手ブレ補正に救われた。
中央部の建物は1916年(大正5年)に、我が国初の鉄筋コンクリート造りのアパートとして建てられた30号棟と呼ばれる建造物である。
最も古いものは建造から1世紀が過ぎた建造物群の上空では、いまはこの島の主となった鳶たちがボクたち侵入者を見下し警戒しながら旋回している。
1974年の閉山後から40数年間が経ったがその間も風雨や海から吹きつける潮に晒されてきて崩壊した姿といまも残されているコンクリート建造物の堅い質感を約3,040万画素になったEOS 5D Mark IVが克明に描写。
離島の頃、雲間から西日が射し込んできたが逆光耐性も良くなっているのでゴースト、フレアもそれほど気にならない。学生時代から40年近くここへ来る機会を待っていたが滞在時間は僅か45分間だった。またいつか違う季節に来てみたいなあ。
軍艦島の正式名称は端島(はしま)であるが、こうして離れてみると海上に浮かぶホンモノの軍艦に見える。
男子高校生たちの集団と一緒の行動だったが、彼らは係員の説明を真剣に聞いていたのが何だか嬉しかった。ボクは説明を無視し撮影していて叱られてしまった(笑)。
日本中、いや世界中の何処の土地へ旅しても漁師町や市場、旧市街などが好きでよく立ち寄るのだが、この町の漁師小屋はカラフルでかわいい光景だった。
閑散とした午後には人っ子ひとり居なかったので何も情報を得られなかったのだが、この漁港ではどんなモノが水揚げされるのだろうか?
漁師小屋の周りにはさまざまな漁具が干してあったりオブジェが転がっている。写真を撮る者にとってそこはおもちゃ箱のような場所だ。
背景に置かれている金属パイプが反射しているが滲みもなくてボケ味も悪くない。それにしても今回の旅ではいろんな場所でいろんなネコに出会ったニャー♪
まとめ
以前からのキヤノンユーザーの多くは今回のモデルチェンジをどんなにか首を長くして待ち望んでいたことだろう。
特徴的な新しい機能やスペック的な向上など変化のいくつかは冒頭や作品写真のキャプションに書いたが、それ以外にもモデルチェンジによってユーザー側の化学変化もあるのではないだろうか。
新しい機材を使うと気分まで入れ替わって新しい写真やもっと素敵な写真が撮れるような気がすることも多いと思う。いや実際に新鮮な気持ちで撮影すればきっと良い写真が撮れるはずだ。そういった意味では今回のモデルチェンジは機能やスペック以上の要素をたくさん隠し味に含んでいるのではないだろうか。
撮影協力:長崎市旧香港上海銀行長崎支店記念館