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対談:メモリーカードの20年……UDMAからCFexpressまでを振り返る
カメラの進化の裏にメモリーカードあり
- 提供:
- ProGrade Digital
2024年11月19日 07:00
デジタルカメラに欠かせないアイテムであるメモリーカード。当サイト「デジカメ Watch」の開設20周年にちなみ、メモリーカードに焦点を当てた対談企画をお届けします。題して「メモリーカードの20年」です。
参加者は、ProGrade Digital Inc.日本代表の大木和彦さんと、フォトグラファーの中原一雄さん。20年間(2004年〜2024年)を俯瞰しつつ、デジタルカメラとメモリーカードの関係性について振り返りました。
容量だけでないメモリーカードの役割
中原一雄さん(以下、中原): 2004年からの20年ということですが、大木さんがメモリーカード業界に携わっていらしたのはいつからでしょうか。
大木和彦さん(以下、大木): 2006年にSanDiskに入社しましたから、約18年間ですね。その後は2013年から2017年までLexar、2018年から現在までがProGrade Digitalになります。
編集部: それぞれの企業で、CF系カード規格を主宰するCompactFlash Association(以下CFA)や、SDカード規格を主宰するSD Associationの活動にも関わっていらっしゃいます。ということで、今日はCF系(CF、XQD、CFast、CFexpress)とSD系(SDXC/SDHC/SDメモリーカード)の変遷について見ていきたいと思います。
大木さんから見て、メモリーカードの規格の変遷にはどういったポイントがあるとお考えでしょうか。
大木: メモリーカードの変遷は、高容量化、高速化の二つのキーワードの影響を大きく受けています。高容量化にはファイルシステムの、高速化にはインターフェイスの進化が不可欠で、それに伴いメモリーカードの形状も変化しています。
メモリーカードはカメラの進化に欠かせない重要なデバイスのひとつですので、それぞれの次代に注目されたカメラは、メモリーカードの進化と結びついていることが多いです。メモリーメディアはイメージセンサーや画像エンジンなどと同じく、デジタルデバイスのキーパーツの1つですから、当たり前かもしれません。個人的には、その時々のメモリーカードをうまく利用してカメラの高性能化を図ったカメラメーカーが、そのとき話題となったカメラを世に出したという印象が強くありますね。
2005年〜2006年:高速カード登場前夜
編集部: デジカメ Watchがはじまったのは2004年9月。次の年の2005年には、キヤノンEOS 5Dが発表されています。コンシューマー向けのデジタル一眼レフカメラとして、初めての35mmフルサイズセンサーを搭載したカメラとして話題になりました。
大木: 高速メモリーカードの元祖はSanDiskが2002年に発売したSanDisk Ultra CFです。最高速度2.8MB/sですが(笑)。これでもカメラメーカー各社のエンジニアは大いに喜んだと聞いています。“高速”メモリーカードの登場でデジタルカメラの性能進化が可能になり、その代表的なカメラがEOS 5Dだと思います。そういえば、この頃Canonは自社ブランドCFを販売していましたね。
ちなみに、当時の最高速カードはCFの20MB/秒でしたが、まだまだプロ用で、一般向けは速度表示のないスタンダードカードでした。
編集部: つまり容量と価格が購入のキーだったと。とはいえ、メモリーカードはすでに重要な撮影アクセサリーの1つになっていましたね。
大木: ええ、その頃のフラッシュメモリーの最大市場はメモリーカードとUSBメモリーでした。SanDiskもこの二つの市場にフォーカスしていました。例えば当時話題になった折り曲げ式のUSBコネクタ内蔵のSDメモリーカードも、SanDiskの製品です。こうしたアイデアをいろいろ出して製品化していましたね。
編集部: 2006年にはSDHCの話題がでています。
大木: SDHCはSDのファイルシステムをFAT16からFAT32にすることで、容量2GBの壁を超えました。この壁を超えなかったxDピクチャーカードはその歴史を2GBで終えたことになります。
2007年:D3が示唆したメモリーカードの重要性
編集部: そして2007年、ニコンから「D3」が発表されました。
大木: ニコンF6がバッテリーパック付きで実現した約8コマ/秒を、ボディ単体で約9コマ/秒を実現し、さらにフルサイズJPEG FINEで50コマ以上の連続撮影を可能とした衝撃的なカメラでした。暗所撮影に強い常用感度ISO6400もあって、複数のプロカメラマンが「D3でデジタル一眼への移行に踏ん切りが付いた」と話していたことを記憶しています。
D3のスペックを実現したカードがUDMA(Ultra Direct Access)4、最高速度45MB/秒のCFです。デジタルカメラの歴史で、メモリーカードの性能進化を戦略的に有効活用して成功した最初のカメラと言っても良いのではないかと思います。同時発表のD300とあわせ、デジタルカメラの高速性能が本格的に着目されるようになったのはこの製品からでしょう。
D3, D300の設計課長は、ニコンで初めての電気系出身課長とのことで、カメラのバッファ開放時間を短縮させるため、メモリーカードの高速性能を有効活用することに熱心でした。この伝統は、Z 9、Z 8など現行機種にも生きていると思います。
編集部: その45MB/秒を実現したUDMA 5製品の1つが、SanDiskのDucati Editionでした。今見ても斬新なラベルですよね。
大木: もうこれは完全にウェス(ウェス・ブリュワー氏。SanDisk元副社長、Lexar経営責任者を歴任。現在はProGrade Digital CEO)の趣味です(笑)。バイクや自動車レースが大好きなので。今はWRC(Rally)にスポンサーしています。
2008年:動画対応が始まりSDも高速化
編集部: 2008年のニコンD90は、初めて動画を撮れるようになったデジタル一眼レフカメラでした。これはD80の後継ということもあり、CFではなくSDHC/SDメモリーカードを採用していました。
大木: D90の約4.5コマ/秒や720p動画記録といったスペックを実現していたのが、SanDisk「Extreme III 30MB/s エディション」です。SDのオプションエリアを活用して25MB/秒の壁を破ったSDになります。
実はD90の発表に合わせ、日本のSanDiskオフィスで30MB/s エディションの発表会を開きました。もちろん会場にD90を用意して。ニコンがD90の発表会を開催しなかったこともあり、多くのメディアの方に来場いただいたのを覚えています。
2009年:“JPEG無限連写”の衝撃
編集部: 2009年にはSDXCが策定されました。とはいえその後、数年間はSDHCも並行して新製品が発表されていた記憶があります。
大木: ファイルシステムがexFATとなり、容量64GBの製品が可能になりました。ただそれほどの大容量はSDでまだ必要とされていませんでした。
編集部: その2009年に登場したのが「EOS 7D」です。
大木: UDMA 5対応のCFに対応し、約8コマ/秒の連写性能。しかもこのとき、いわゆる「JPEG無限連写」を実現しています。子どもやペットなども含め、一般ユーザーがこころおきなく連写できるようになった初めてのカメラだったのではないでしょうか。
中原: キャッチコピーが「イメージモンスター」でした。爆発的に売れましたよね。自分も2010年に購入しています。
大木: その頃、ハイエンドのCFはUDMA5の90MB/秒でした。もちろんSLC(Single Level Cell)です。EOS 7Dはもう、めちゃくちゃ速いカメラの印象でした。JPEGで無限連写が可能になったということで、プロカメラマンの皆さんと「次はRAWで無限連写を実現したいね」と話していたのを覚えています。10年後に実現するのですが(笑)。
一方、速度的にCFが採用するパラレルATAはインターフェイスの限界で速度の頭打ち(UDMA7で167MB/秒)が見えてきました。SDはHS(High Speedハイスピード)規格で最大速度25MB/秒。デジタルカメラの更なる進化のためには、メモリーカードの理論速度をさらに大きく向上させる必要性がありました。
2010年:UHS-Iが始動
編集部: 2010年、SDにUHS(Ultra High Speed)-I規格が生まれています。2011年発表のニコンD5100が最初の対応機だったかと思います。
大木: UHS-IはSDの下位互換性を維持しながら、転送速度を最大104MB/秒まで向上させた規格です。CFAの主宰するCFが最大100MB/秒を実現していましたから、SDAも負けじと同等速度を実現する規格を提唱したのです。CFはサイズも大きく、小型のカメラには向かない規格となっていましたので、UHS-IによるSDの高速化は、カメラメーカーにも歓迎されたと思います。UHS-Iカードは、とても早く浸透していきました。2010年に発表された規格にも関わらず、2011年4月に発売されたD5100で採用されています。
編集部: メモリーカードの進化が著しかったのですが、当時の価格戦略はどのようなものだったのでしょうか。
大木: 大手量販店で10%ポイントが一般的だったこともあり、カメラ本体価格の10%を目処として価格付けしていました。実際に、EOS 7D発売時には、高速連写に最適なSanDisk Extreme Pro CF 16GBをカメラ本体価格の丁度10%に設定して販売したところ、とてもよく売れたのを記憶しています。
中原: 地方のお店にっても、メモリーカードの売り場が大きくとってありまたよね。
2012年:XQDが目覚める
編集部: 続く2012年、約10コマ/秒のニコンD4が発表されました。初のXQDメモリーカード採用モデルです。LexarがXQDメモリーカードに参入を表明するなど、CFから次世代が見えてきた時期ではないでしょうか。
大木: CFの能力を引き出したD3/D3Sをさらに進化させるためには、より高速なXQDが必要だったのだと思います。フルサイズRAWでも約100コマ、JPEGであれば200コマの連続撮影が可能でした。
とはいえ、「プロ用カメラはCF」と定着していた頃でしたので、新メモリーカード規格XQDは、プロカメラマンの方々やマスメディアなど、既にCFでシステムを組んでいた方々には戸惑いもあったようです。全てXQDに変えなければいけないのか?と。XQD/CFのデュアルスロットだったことも、その戸惑いのひとつであったかもしれません。
編集部: といいますと?
大木: その後すぐ、ニコンはD800/D800Eを発表しています。有効3,600万画素の当時としては破格の画素数で、価格も破格値だったので大ヒットしました。
大木: 当然データ量も大きいわけですが、CFとSDのデュアルスロットが採用されました。大ヒット製品のD800とD4のメインカードは異なる規格だったのです。プロ用カメラD4だけが採用するXQDでは、市場の拡大には時間がかかることが予想され、参入メーカーもソニーとレキサーにとどまりました。もしD800がXQDを採用していたとしたら、XQD市場は大きく拡大し、その後のメモリーカード規格はCFexpressを含め、違った方向へ向かっていた可能性もあります。
XQDには開発上の難しさもあったのですが、いずれにしてもD4の性能を支えたのがXQDだったのは間違いありません。いち早くXQDに対応したD4を見て、他のカメラメーカーもポストCFの必要性を感じたのではないでしょうか。
編集部: この年、キヤノンは2012年にCFデュアルスロット採用のEOS-1D Xを発売しています。
大木: EOS-1D XはUDMA7(最大転送速度167MB/秒)に対応することで、約12コマ/秒でJPEG約180枚の連続撮影を可能としました。CFの能力を最大限に活かし「CFカメラの頂点」を極めたと思います。だからこそ、次期モデルには次世代メモリーカードを採用すると予感させるものがありました。
2013年:CFast 2.0策定
編集部: 一方2013年に、XQDの対抗馬ともいえるCFast 2.0をCFAが発表しました。製品化は2014年からですね。
大木: CFast 2.0はXQDと同じくカメラ性能を高める目的をもって、CFの後継メモリーカードとして規格されました。最大転送速度は600MB/秒です。この時点で4K動画の記録が視野に入ってきたこともあり、求められるものが200MB/秒や300MB/秒レベルではないこともはっきりしていました。
中原: CFast 2.0が採用したインターフェイスはSATA3ですよね。600MB/秒は当時として良い数値なのでしょうが、この後もSATAが進化を続けていくと考えられていたのですか?
大木: そこなんですよね……。HDD用に設計されたSATAの限界は既に見えており、次にはPCIe(PCI-Express、Peripheral Component Interconnect-Express)に移行することが予想されていました。2013年に、PCIeでフラッシュメモリーに最適化したNVMe仕様が公開され、次世代のフラッシュメモリーベース記録メディアの方向性が見えてきました。ただその頃、PCストレージはまだHDDが全盛で、SATA SSDの市場は拡大の一途だったのです。NVMe SSDがメインになり始めるのは2020年頃からではないかと思います。
編集部: この年、中原さんはEOS 5D Mark IIIを購入していますよね。
中原: 約2,230万画素でデータが大きかったのに約6コマ/秒ということで驚きました。ウエディングフォトでブーケトスを撮るとき、これまでの約5コマ/秒から確度が上がりました。
大木: 名機でした。EOS-1D Xと同様にUDMA 7を生かし切ったカメラだと思います。
中原: 業界的にUDMAの後ろの数字(モード)を意識しだしたのは、UDMA 7の頃からでしょうか。メモリーカードのラベルにも「UDMA」だけでなく、「UDMA 7」と書かれるようになった記憶があります。
2014年〜2015年:UHS II採用カメラが登場
編集部: 2014年1月に発表された「FUJIFILM X-T1」で、初めてUHS-IIの採用が確認できました。
大木: 富士フイルム、オリンパスなどCF系ではなくSD系を採用するカメラメーカーにとって、最高速度312MB/秒のUHS-IIは上位モデルを高速化できる手段ということで、いち早く採用したのではないでしょうか。
編集部: 2015年、キヤノンからはEOS 5Ds/5DsRが発表されました。約5,060万画素という35mmフルサイズとしては超高画素のカメラです。これについてはいかがですか?
大木: CFとSD UHS-Iのデュアルスロットでした。1枚あたりのファイルサイズが大きかったこともあり、CFでも書込に時間がかかり、メモリーカードの書込速度がカメラの性能に与える影響を実感した記憶があります。
2016年:D5/EOS-1D X Mark II/E-M1 Mark II
編集部: そして2016年、ニコンからD5とD500が発表されました。
大木: D5ではデュアルスロットをXQDもしくはCFのどちらかを選択できる仕様でした。CFを継続して使用したいというニーズに応えるためだったと思います。しかし、XQDはRAWの12コマ/秒でも上限の200コマ連続撮影ができ、82コマのCFよりも圧倒的に高速でした。LexarはXQDの普及を一気に進めるため半額に値下げしました。XQDベースの次世代統合規格(後のCFexpress)を実現させるためにも、XQDを絶対に成功させる必要があったのです。
中原: ああ、「XQD事件」ですね(笑)CFより安くなったのですから、確かにあれはインパクトがありました。プロ機ではなくハイアマ向けモデルのD500でXQDが使えたのも、XQD普及のために良かったのだと思います。
編集部: 一方キヤノンはEOS-1D X Mark IIで、CFast 2.0を採用しました。
大木: SLCメモリーを採用したLexar CFast 2.0を使えば「RAWで無限連写ができる」ということで、大きなインパクトがありました。キヤノンのエンジニアの方が「全然止まらないよ!」と大喜びしていたのを記憶しています。このとき既に「XQD、CFast 2.0の次世代統合規格もSLCで……」と考えていました。
中原: それがProGrade DigitalのCFexpress「COBALT」につながるわけですか。
大木: はい。キヤノンの大喜びを目にした後、Lexarのエンジニアと「次もSLCだね」「当然でしょう。任せてくれ!」と盛り上がっていましたから(笑)。でも翌年Lexarブランドがロンシスに買収されてしまい……その後ウェスの誘いで合流したProGrade Digitalで、結局、SLCのCFexpressはCOBALTとして日の目を見たというわけです。
編集部: SD側の動きとしては、オリンパスがUHS-IIを採用したE-M1 Mark IIをこの年に発表しています。
大木: 小さなSDでもUHS-IIで高速化すれば、プロ機にも負けない約18コマ/秒の連写性能を実現できることを示した画期的なカメラでした。こういうカメラの成功があったからこそ、SDはまだまだメインカードの位置づけを維持できているのだと思います。
2017年〜2018年:増えるXQD採用モデル
編集部: 2017年にはニコンD850が発表されました。約7コマ/秒で有効約4,575万画素、XQDを採用しています。
大木: このカメラの大成功によって、XQDの成功が確実となりました。同時に次世代統合規格CFexpressへの可能性を確実にしたと言えます。翌年の2018年にはZ 7とZ 6も正式発表され、こちらもXQDを採用ですが、ニコンの中でXQDからCFexpressへの移行をハッキリと示すことになりました。
編集部: そうです、2018年頃からのミラーレスカメラへの移行を機に、CFが姿を見せなくなった印象がありますね。
2019年:CFexpressが舞台へ
大木: 2019年のLUMIX S1R/S1もXQDでしたね。SDの旗振り役のパナソニックがXQDを採用した意義は大きかったと思います。兄弟機のLUMIX S1HがSDだったのは少し残念でしたが。
編集部: Z7/Z6、LUMIX S1R/S1はその後、ファームウェアでXQDスロットのままCFexpressに対応するアップグレードもありましたね。
大木: そしてこの年、初めてCFexpressにネイティブ対応した製品が開発発表されました。キヤノンEOS-1D X Mark IIIです。約16コマ秒でRAW+JPEGラージでの無限連写、加えて5.5K 60P RAW動画のカード記録にも対応と、とにかく画期的なカメラでした。
中原: デジカメ Watchで連写性能を検証する記事を書いたのですが、本当に連写が終わらず大変でした(笑)。とにかくアクセスランプがすぐ消えるのが衝撃的で、CFexressの実力を感じたものです。使用したのCFexpressはProGrade DigitalのCOBALTでした。
大木: デジタルカメラの究極的な目標は「タイムラグを限りなくゼロにする」ではないかと考えています。本当にゼロにすることは不可能かもしれませんが、EOS-1DX Mark IIIは、その点でデジタル一眼レフとしての完成形を見せてくれたのではないかと思います。SLCを採用したCOBALTが、その一助となったのはうれしい限りです。
編集部: ミラーレスカメラの時代がすでに見えていたこともあり、スペックの割に印象が薄かった読者も多いかもしれません。
大木: EOS-1D X Mark IIIは、「CFexpressを使えばここまでできる」という可能性の大きさを示したと思います。その後、各メーカーから高速連写かつRAWなどの高精細動画に対応するCFexpressカメラが次々と発売されることになりました。もしEOS-1D X Mark IIIとSLC搭載CFexpressがなかったら、その後のデジタルカメラの進化はずいぶん違った形になっていたのではないかと思います。
編集部: 話が前後しますが、XQDがCFexpressへと置き換わった理由は何でしょうか。
大木: XQDの最大の問題は専用コントローラーを開発する必要があったことです。デジタルカメラ市場が縮小している中で、メモリーカードメーカーなどがカメラ専用のコントローラーを開発することは、ビジネスとして合わなくなっていました。
そこで、CFAは、PC業界のメインストリームになっているPCIe NVMeをCFexpressのインターフェイスとして採用し、カメラ専用のコントローラーを開発せずとも、PC業界に追随して進化を続ける方法を選択したのです。XQDは専用コントローラーでしたが、同じPCIeですので、カメラのファームウェアアップデートでCFexpressに対応することができました。
編集部: 中上級のミラーレスカメラは徐々にCFexpressへと移行していきますが、EOS-1D X Mark IIのあと、他にトピックはありますか?
大木: ソニーは2020年に発表したα7S IIIで、CFexpress Type Aを採用しました。これまでSD UHS-II対応で進化してきたソニーがCFexpress規格を採用したことは大きな出来事だったと思います。
中原: CFexpress Type A/UHS-II両対応のメディアスロットでしたね。
大木: その後もソニーはエントリーモデル以外Type Aを採用しています。これはType Aがサイズの小さいカメラの進化に応えたと見ることができます。このソニーの英断で「CFexpress Type AがSD UHS-IIの後継」という道筋を作ったと思います。Type AとSD両対応スロットは、SDからType Aへの移行の架け橋と言えるのではないでしょうか。
中原: ソニーユーザーも多くがすでにCFexpressに移った印象ですね。
大木: 2.0 Type AでもSD UHS-IIよりも2倍以上高速ですし、価格も下がっています。そんなに遠くない将来に、ソニーのカメラではType Aが当たり前になっているのではないかと思います。
メモリーカードの未来は?
編集部: というわけで、現在はCFexpressが高速なメモリーカードとして広がりを見せています。さらには次の規格であるCFexpress 4.0を採用した製品が流通していますが、これについてはいかがですか?
大木: メモリーカードはカメラ開発には欠かせないアイテムの一つです。したがって、常にカメラより先に進化している必要があります。CFexpress 4.0は、カメラの次の進化の一つの要因としての役割を果たすでしょう。
同時に、CFexpress 4.0には後方互換性がありますので、CFexpress 2.0対応カメラをご利用の方でも、パソコンへの転送などで4.0の速度メリットを受けることができます。その意味では、CFexpress 4.0対応カメラの登場がなくとも、2.0から4.0への移行は加速していくと思います。
編集部: 先ほど話に出てきたSLCを採用するCFexpress Type BのCOBALTが、生産完了とのことですが、SLCは必要がないということでしょうか?
大木: TLCの技術革新により、持続書込速度をSLCレベルに速くすることができるようになったからです。カメラの高速性能を十分に発揮できるCFexpressをTLCで作ることができれば、3倍のコストがかかるSLCを採用する必要がなくなってしまいます。その意味合いでSLCベースのCFexpress Type B COBALTは生産完了となりました。しかし、SLCの速度や特性を必要とするカメラが登場するときには、またSLCの出番があるかもしれません。
中原: SDの今後についてはどう考えますか?
大木: CFexpressの進化は早く、4.0 Type B では3,000MB/秒、4.0 Type Aでも1,400MB/秒を超えています。SD UHS-IIは理論値最大312MB/秒ですから、その差は5-10倍程度まで拡がっています。ハイエンドカメラがCFexpressの性能を踏まえて進化するとすれば、エントリーカメラでもType Aを採用するタイミングはすぐそこまで来ていると思います。
1999年に発表されたSD規格は、今年で誕生25年になります。記録メディアの歴史の中で25年以上主役を張った製品はないのではないでしょうか。
中原: この企画のため、過去に購入して気に入ったカメラを思い返してみたら、どれも新しいメモリーカードの規格を採用した製品でした。メモリーカードの進化が満足度につながっていることになります。ところで、CFexpressも約5年が経っていますが、今後はどうなっていくのでしょうか。
大木: CFexpressはPC業界のメインストリームであるPCIeを採用しました。これはPC業界がPCIeを採用する限り、進化を遂げることができることを意味します。PCIeは6.0まで既に策定され、来年には7.0も策定される予定です。4.0のCFexpressはまだまだ進化の余地がありますね。
もしPC業界が全く別のインターフェイスを採用することになったときは、CFexpressもそれに追随することになるかもしれませんし、ポータブルなデジタル機器であるカメラとしては、メモリーカードの速度はある一定の速度で十分であるとなれば、CFexpress X.Xでとどまるということもあるかもしれません。
編集部: メモリーカードがなくなり、クラウドへのアップロードだけになるという未来は考えられませんか?
大木: この質問は10年以上前から受けています(笑)。その時からずっと考え続けて、結果的にいつも同じ回答が浮かびます。カメラは、持ち歩いて利用するデジタル機器ですので、サイズも消費電力にも制限があります。価格にも一定の制限があります。その制約を踏まえて考えると、記録メディアをメモリーカードとして切り離すというのは、カメラにとって最もリーズナブルな方法だと思います。
その1番大きな理由は、インターネットで流通するデータの中で、カメラで撮影したデータは静止画も動画も破格に大きいからです。これは過去20年の歴史の中でも常にそうでした。インターネット環境で少数の大容量ユーザーに合わせてインフラ構築するのは非効率です。カメラのファイルサイズは今後も大きくなっていくでしょう。その点で、インターネットインフラは多くのカメラマンが同時に大容量のデータをアップロードするほどのキャパシティを用意することは難しいと考えています。
中原: なるほど、そこまでしてインフラが整うのを待つより、メモリーカードを進化させた方が効率的ですよね。
大木: はい。「では内蔵メモリーにしてはどうか」という意見もありますが、カメラが仮に10TBなど大容量の内蔵メモリーを持ったとしても、いつか満タンになります。そしてその容量が大きくなればなるほど、クラウドや外付けSSDへの転送には手間と時間がかかります。必要な電力量も膨大になります。
編集部: 結局、今のシステムが1番ちょうど良いと。
大木: カメラユーザーが自分の利用方法や予算に応じて利用するメモリーカードを選択するシステムは、最もリーズナブルな価格で高性能なカメラを利用できるエコシステムになっていると思います。インターネットおよびクラウドの世界でよほどの大革命が起こらない限り、このエコシステムは有効ではないかと考えています。ちなみに、私も各社のプロ用カメラを利用するカメラ大好き人間です(笑)。
中原: そうした進化の途上にあるのがメモリーカードということですね。これからもカメラの進化を促すような、メモリーカードの飛躍に期待します。