【緊急連載】新メモリーカードCFexpressを徹底理解する

第1回:なぜ今新しいメモリーカードが求められているのか

規格の概要とメリットについて解説

2019年12月、サンディスクよりCFexpressカード(Type B)が発売された。これを皮切りとして、ProGrade Digitalからも同規格カードが発売。2020年1月末にはソニーからの発売も控えるなど、次世代メモリーカードの使用が現実化した。

CFexpressカードは、2019年2月末に仕様が策定された次世代規格のメモリーカードだ。ニコンがZシリーズで対応を表明、パナソニックもSシリーズカメラで採用、キヤノンも開発発表を報じたEOS-1D X Mark IIIで同規格カードを採用するなど、各社フラッグシップカメラでの採用が相次いでいる。

この新しく登場したメモリーカードについて、立役者のひとりであるProGrade Digitalの大木和彦氏に、その特徴や注意点について解説してもらった。解説第1回目はCFexpressカードの概要について。本連載を通じて、新しく登場したメモリーカードの特性理解に役立てていただきたい。

連載スタートにあたって

いま、カメラ系のメディアやブログなどではCFexpressの名前が当たり前のように聞かれるようになっている。

だが、そもそもCFexpressって何なの? なぜ必要なの? と思っている方も多いことだろう。そこで「CFexpressのなぜなに?」を数回に分けて特集する。本企画を読まれた全ての方々にCFexpressを理解していただき、今後の購入や利用の参考になればと思っている。できるだけ分かりやすく解説するつもりだ。詳しい方にとっては、当たり前のことと思われるかもしれないし、説明が簡略過ぎると思われるかもしれない。そこで、最終回は、読者の皆様が感じたであろう疑問に答えるような内容にしたいと考えている。

CFexpressは更なる高速性能を求められたメモリーカードの新規格

CFexpressは、センサーサイズの大型化や高解像度化、4Kなど高画質ビデオ記録の標準化など、カメラ性能の向上に伴い、XQDやCFastの限界速度(500MB/秒〜600MB/秒)では対応できなくなることが見越されたために、コンパクトフラッシュ協会:Compact Flash Association(以下CFAと表記)が新たに提唱した高速メモリーカードの規格(Type Bの限界速度は2,000MB/秒)である。

CFepxressカード規格には、カードサイズによって「Type A」「Type B」「Type C」の3種類がある。ここで全てを説明すると、逆に混乱してしまう可能性があるので、今回は、メモリーカードメーカー各社から現時点で発表・発売されている「Type B」に的を絞って解説していきたい。

まず、カメラ側の状況を整理すると、昨年(2019年)末、パナソニックがLUMIX S1および同S1R(DC-S1/S1R)に、ニコンがZ 6/Z 7に、CFexpress対応ファームウェアをリリース。キヤノンはEOS-1D X Mark IIIにCFexpressデュアルスロット採用を発表し、同じくデュアルスロット搭載のシネマカメラEOS C500 Mark IIを発売している。

これらのカメラでは全て「CFexpress Type B」スロットを採用している。他のTypeについては、CFexpress規格策定の経緯と合わせて次回以降に紹介する。

ニコンZ 7

CFexpress Type BはXQDと全く同じ形状

CFexpressは、同じPCIe接続のXQDをベースに、より高速インターフェース(PCIe Gen3 NVMeプロトコル、以下「NVMe接続」)に対応させる発展形として生まれた。したがって形状はXQDと全く同じである(38.5×29.8×3.8mm)。

XQD(左)、CFexpress Type B(右)

XQD対応カメラがファームウェアのアップデートでCFexpressを使えるようにできるメリットを活かすためである。逆に、XQDカードはCFexpressのみ対応のカメラには使用できないので注意が必要だ。以下にXQDとCFexpress対応状況をまとめているので、適宜参照して欲しい。

CFexpress対応カメラ(予定含む。2020年1月7日時点)

これまでに発売または発売予定が発表されたCFexpressカードを一覧化した。XQDと並べてみると、パッとみただけでは全く同じにしか見えないと思う。今後両方の製品を使用することになる人もいるだろうことをふまえ、敢えて見分け方を明記した。

CFexpressカードとXQDカードの見分け方。CFexpressカードは日本で既に発売もしくは発売予定としてメーカーから発表されている製品、XQDは主な製品を掲載した

メモリーカードの高速化=“タイムラグの短縮”と考えよう

高速メモリーカードの話を進める前に、高速化がなぜ必要なのか、という点について共通認識を持っておきたい。

まず、カメラに限らずスマホでもパソコンでもインターネット回線でも、デジタル機器・サービスは、共通して「サクサク動くこと=タイムラグの短縮」を課題に抱えている。理想はこのタイムラグがゼロになることだが、現状では達成されているとは言えない状況にある。

高速化を「タイムラグを短縮する」ための方法論だと考えたら、分かりやすくなると思う。むろんメモリーカードも例外ではない。カメラのバッファがすぐにフルになり、連写やビデオ撮影が止まってしまうのも、バッファ解放までに時間がかかり次のアクションを起こせないのも、パソコンの操作・使用時に待たされてイライラするのも、データ転送にかかる時間=タイムラグが長過ぎるからである。その意味では、高速メモリーカードはプロやマニアたちだけのものではない。4Gや5Gが全てのスマホユーザーにメリットをもたらすように、メモリーカードの高速化は全てのカメラユーザーにメリットをもたらすものなのだ。もちろんメモリーカードの高速化がもたらす効果は、カメラやパソコンが本来持つ仕様・性能を上限として可能である、ということを付け加えておきたい。

「MB/秒」と「Mbps」の違いについて

いま高速化がもたらす効果について簡単に触れた。続けて速度の話に進む前に、一点追加しておきたい。

多くの場合、カメラのカタログなどに記載されているビデオ転送レートでは単位として「Mbps」が使われている。メモリーカードやSSDの転送速度としてよく使われるのが「MB/秒」であるが、これは単位が違うので同列には比較できない。「Mb(Megabit)」は「MB(Megabyte)」の8倍なので、「Mbps」を8で割って「MB/秒」に換算する必要がある。個人的にはどちらかにまとめて欲しいと思うのだが……。

転送速度について

・Mbps(Megabit per second)
→インターネット通信速度やビデオ転送速度によく使われる
・MB/s(Megabyte per second)
→メモリーカード、SSDなど記録メディアの速度単位としてよく使われる。「8Mb=1MB」なので、Mbpsを8で割るとMB/s
例1)ビデオ転送レート 400Mbps=50MB/s
例2)5G速度10Gbps(10,000Mbps)=1.25GB/s(1,250MB/s)

さて、本題に入ろう。CFexpressが、「今求められる」大きな理由を3つ挙げたい。

CFexpressが今求められる理由[1]

理由その1は、“高性能カメラの登場に伴いファイルサイズが巨大化しているから”だ。

特に、プロやハイエンド用カメラの高性能化が進んでいる。大型センサーは当たり前になり、そのセンサーを活かしたビデオ撮影のニーズも生まれている。これによりカメラ内部では巨大なファイル群が毎秒生成されることになった。もしメモリーカードが高速に進化しなかったら? ……バッファはあっという間にフルになり、連写もビデオも止まってしまうことだろう。バッファの解放までに時間がかかり過ぎれば、目の前の撮影チャンスを逃すことになってしまうかもしれない。

ファイルサイズの巨大化によりメモリーカードの高速化が不可欠

CFexpressを採用すれば、バッファからカードへのデータ転送を速くすることできる。バッファはフルになりにくくなり、またフルになったとしてもバッファ解放までの時間が短くなる。これにより、大きなファイルサイズのデータ転送が扱いやすくなる、というわけだ。

記録に際してカメラがいちいち止まることが少なくなるため、操作性が向上するのである。その恩恵は操作面だけのことではない。高解像度センサーでもRAWで連続連写枚数を増やすことができるだろうし、4K動画記録でもRAWで記録することができるだろう。その意味では、[a]高解像度大型センサーを持つカメラ、[b]高速連続写性能を求めるカメラ、[c]高精細ビデオ録画機能を求めるカメラが、CFexpressを必要としていることが納得いただけることだろう。冒頭で紹介したCFexpress対応カメラは全てこのカテゴリーである。

最近、ファイルサイズがRAWで200MB、JPEGでも50MBを超える1億画素のミラーレスカメラも登場した。RAW+JPEGの同時記録で秒間5コマの連写をすると、単純計算で毎秒1.25GBのデータが吐き出されることになる。

カメラ本体の性能は早くもCFexpressの限界性能に迫りつつある。デジタルカメラが今後も最先端の写真・ビデオ撮影機器である以上、その進化は今後も止まることはないだろう。メモリーカードは、カメラの進化を支える一つの重要な構成要素となっている。繰り返しになるが、この意味でCFexpressはその役割を果たすために生まれたメモリーカード規格なのである。

CFexpressが今求められる理由[2]

理由その2は、“パソコン用SSDが劇的に進化しているから”だ。

最新のMacBook Proへの転送速度を見て欲しい。2〜3年前にXQDやCFastで「データ転送はやっ!」と驚いた人たちも、一度CFexpressを使ったらもう元には戻れないだろう。CFexpress導入当初に最も分かりやすい成果は、パソコンへのデータ転送の圧倒的な速さにある。

これは、ここ数年のパソコン側で採用されている内蔵ストレージの速度進化が著しいからだ。3年ほど前は、パソコンの内蔵メディアはまだHDDが主流だった。それがSATA接続SSD(限界速度600MB/秒)になり、最近ではPCIe SSD(NVMe接続・限界速度は4〜8GB/秒)が標準になりはじめている。また、接続端子もUSB3.1 Gen2(10Gbps=1.25GB/秒)は当たり前になり、Macでは既に当たり前のThunderbolt 3(40Gbps=5GB/秒)が、ハイエンドのWindowsパソコンにも搭載されはじめている。

【2020年1月9日修正】記事初出時にUSB3.1 Gen2(10Mbps=1.25GB/秒)、Thunderbolt 3(40Mbps=5GB/秒)と記載しておりましたが、それぞれGbpsの誤りでした。お詫びして訂正いたします。

計測条件

<使用メモリーカード>
SD UHS-II:ProGrade Digital V90 300R 128GB
XQD:Nikon XQD 120GB
CFast:ProGrade Digital CFast 128GB
CFexpress:ProGrade Digital CFexpress GOLD 120GB
<計測>
32GBデータ:32,273MB(RAWファイル・JPEGファイル各924枚)
転送時間:手動計測、小数点以下切り上げ
パソコン:MacBook Pro 16-inch, 2019 2.6GHz 6コア Intel i7
UHS-II, CFast, CFexpressリーダー:ProGrade Digital USB3.1 Gen2リーダー
XGDリーダー:ソニーMRW-E90(USB3.0)
Thunderbolt 3リーダー:ProGrade Digital プロトタイプ

パソコン用SSDの進化によるデータ転送の圧倒的な速さ

カメラも進化しているけれど、パソコンも進化しているのである。パソコンの性能を十分に活かすメモリーカードを使えば、それだけで撮影後のワークフローは劇的に改善する。カメラとパソコンの間を取り持つメモリーカードが、ワークフローのボトルネックになってはならない。HDDシステムに最適化されたメモリーカードの時代は一気に過去のものになろうとしている。CFexpressは、カメラ・パソコンと三位一体で高速連携システムを実現する存在となる。

カメラ・メモリーカード・パソコンの高速連携システム

CFexpressが今求められる理由[3]

理由その3は、“主流の技術を適用しスケールメリットを拡大する”ことだ。

CFexpressはパソコン用のメインストレージとして主流になっているSSDと同じNVMe接続のメモリーカードである。パソコンとの親和性の高さは、その強みのひとつだと言える。このことは、もちろん偶然ではない。

CFexpress規格の目的は、デジタルカメラ市場の縮小が進む中で、メモリーカード規格の進化と統一を同時に起こすことによって、ホスト・カードともに多くの参入を促すことにあった。そのために、パソコンで主流になっている接続規格であるNVMeを採用することによって、ホスト(カメラ機器およびパソコン)とカードにおける開発生産性のスケールメリットが得られるようにと企図したのだ。

第1回目のまとめ

現時点で、インターネットで検索すると10社以上のブランドのCFexpressカード画像が現れる。多くのカードが市場に流通すれば、ニコン、パナソニック、キヤノンだけでなく、より多くのカメラに、そしてより広範囲のホストに採用される可能性が高まるだろう。一連の選択肢の多様化は、結果的に大きなユーザーメリットをもたらすことにつながっていく。

CFexpressは、過去の規格乱立による混乱の反省から、無駄な規格競争を避けることにより、その結果として、「ユーザーには、安心して買える・使える環境」を、「販売店には、安心して仕入れる・売れる状況」を、そして「メーカーには、汎用技術の適用によって、より生産性の高い開発環境」を実現することを目的として生まれたのである。

デジタルカメラ市場の危機が本格化した2013年頃、理由[3]のコンセプトとともにCFexpress規格提唱の活動が始まった。もちろんその時点では「CFexpress」という名前は決まっていなかったけれど。「今求められるCFexpress」は、実は6〜7年前から既に求められていた。しかし、理由[1]と[2]に挙げた技術的進化との同期を考えれば、結果として「今」最高のタイミングで生まれたともいえるのではないか。

大木和彦

おおきかずひこ:プログレードデジタル日本代表。ソニー、マイクロソフトなど数社を経て2006年サンディスク入社、2013年マイクロンに移りレキサーを担当。その後現職。13年以上に渡りフラッシュメモリービジネスに従事。「イメージング業界をメモリーカードから盛り上げる」がモットー。