特別企画

CFexpress TypeAカードが引き出すソニー「α1」の本当の実力

ポートレートで検証 高画素×高速連写の世界が一変する瞬間

α1 / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(F1.2・1/1,250秒) / ISO 100

2021年3月に発売されたソニーα1。フルサイズミラーレスαシリーズにおけるフラッグシップ機として、その名にふさわしい圧倒的な性能が大きな話題を呼んだ。α1の注目すべき機能・性能は実に多くあるが、最もわかりやすい指標として、有効約5,010万画素の高画素センサー搭載モデルでありながら、ブラックアウトフリーで最高約30コマ/秒のAF/AE追随高速連写を可能にした、ということが挙げられる。今回は、これらの性能をフルに引き出すと、ポートレート写真の在り方がどのように変わるのか、というのがテーマだ。α1の撮影性能なんて自分には必要ない、と思っている人にこそご覧いただきたい結果が得られているので、ぜひ最後までお読みいただければと思う。

孤高のスペック50MP×30コマ連写

α1は、新開発の有効約5,010万画素メモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSイメージセンサーを採用している。本センサーは高速信号処理回路を大幅に拡張しており、α9 IIから刷新したA/D変換方式との組み合わせにより膨大な出力信号をバッファメモリに一時保管し、信号を滞らせずに高速処理することが可能となっている。結果、5,010万画素での最高約30コマ/秒のAF/AE追随高速連写を実現している、というわけだ。

この約30コマ/秒の高速連写性能は、そのセンサー画素数の高さとともに未だ孤高の頂にある。キヤノンからも同じく秒30コマの連写性能を誇る「EOS R3」が登場するが、α1の50MPセンサーは必要な人にとっては絶対に必要な性能を有しているし、何よりも驚異的なのは、そのピクセル数が生み出す巨大なデータを30コマ/秒で生成・処理し続ける点にある。この事実からだけでもα1の尖りっぷりが想像できることだろう。

しかしながら、いくら約30コマ/秒の撮影性能を誇るといっても、それが実際の運用に適さないものであっては意味がない。同社が公開している最大パフォーマンスを発揮させるための条件を見ていくと、CFexpress Type Aカードによる測定値(同社製カードの場合で30コマ/秒ではJPEGで約165枚、圧縮RAWで約155枚)が公開されていることからも想像できるように、相応のメモリーカードやレンズを用意する必要がある、ということがわかる。

シャッター方式:[オート]もしくは[電子シャッター]に設定
フォーカスモード:AF-S、AF-C、DMF、MFいずれも可能
ドライブモード:連続撮影モード「Hi+」にする
※記録方式を非圧縮RAWまたはロスレス圧縮RAWにした場合は最高約20コマ/秒になる
シャッタースピード:1/125秒以上の場合に有効。AF-Cモードの場合は1/250秒以上
絞り値:F22以下(AF-C時)
対応レンズ:今回使用した3本はいずれも対応。対応状況はソニーのオフィシャルサイトより確認できる

まずレンズだが、約30コマ/秒のAF/AE追随撮影に対応した製品は限られている。ここで詳しく取り上げることはしないが、最新の製品であればまず問題ないと見ていいだろう。今回はFE 35mm F1.4 GM、FE 50mm F1.2 GM、FE 135mm F1.8 GMの3本を使用した。ちなみに対応していないレンズの場合は連写速度は20コマ/秒、15コマ/秒になるので注意が必要。このほか記録方式を非圧縮RAWまたはロスレス圧縮RAWとした場合も最高約20コマ/秒になる。

今回テストで使用した3本のGMレンズ

20ないし30コマ/秒で生成される50MPのデータ量は膨大だ。そのため連写運用時には特にデータ処理まわりを固めておくことが重要な役割を果たす。つまり書込速度に優れるメモリーカードを組み合わせる必要がある、ということだ。カメラ側にもある程度のバッファメモリは搭載されているが、メモリーカード側の書込性能によっては想像以上に快適さが左右されることになる。

α1は、CFexpress Type AとSD UHS-IIカードに両対応したスロット構成を採用している。両カードを実際に使い比べてみるとよく分かることだが、大容量かつ速度性能に優れているのは、無論CFexpress Type Aの方である。ということで、今回は国内での販売が始まったばかりのProGrade Digital製CFexpress Type Aカード(160GB)の実力を確かめていった。本カードによる撮影が、α1の快適さをどこまで引き上げてくれたのか、主に筆者が専門としているポートレート撮影の視点から感じたことを伝えていきたい。

ProGrade Digital CFexpress Type Aのスペック

本題に入る前にProGrade Digital製CFexpress Type Aカードの基本スペックをおさらいしておきたい。

本カードの最大転送速度は、読込が800MB/s、書込700MB/sとなっている。SD UHS-IIカードの場合、RW両性能に優れるタイプでも読込は300MB/s、書込では250MB/sであることを考えると、歴然とした差があることが改めて分かる。

高速連写でポートレートを撮る意義

α1(だけではなく、デジタルカメラ全般)は、まずバッファメモリにデータを保管し、順次メモリーカードに書き込んでいく仕組みを採用している。そのため、バッファメモリからメモリーカードへ書き込みが遅いと、一時的に蓄えたデータをカード側に受け渡すのに必要な処理時間が長くなってしまう、というのはよく耳にされていることだろう。

当然高画素になるほど画像1枚あたりのデータ量は大きくなる。そのため、α1のように高画素センサーを搭載し、かつ高速連写にも対応したカメラの場合、なおさらバッファメモリとメモリーカードの重要性が増してくる。

つまり単写メインでもそれなりの枚数を連続して撮影すれば、相応のデータがバッファメモリに蓄積されることになる。この貯め込まれたデータを迅速に移動させることができなければ、次のアクションに移るまでの待ち時間が長くなる。これまでであれば高画素機は連写性能が控えめだったために目立たなかったが、α1ではこれまで高画素機だからとガマンを強いられていた、この相反する要素からくるジレンマが見事に解決されている。この事実がα1の大きな魅力となっていることは間違いない。

パターン1:表情の違いを狙う

例えば有名タレントの撮影では撮影時間が数分しかもらえないことがある。そんな時でも、クライアントからは「多くの表情のパターンが欲しい」「他のバリエーションも見せてほしい」と注文を受けることがある。そうした要望に応えるためには段取りと状況判断のスピードがものを言うが、絶対的なカメラ性能が結果に与える影響も決して小さくはない。

そういった意味でも30コマ/秒でポートレートが撮れるというのはかなりの朗報だ。短時間でも撮れ高を最大限に引き上げることができるため、より多くの選択肢を提供する大きな助けとなってくれる。

そこで今回は広めのスタジオを用いて、モデルに動きまわってもらうことにした。こうした「動きのあるシーン」は、ただでさえ使えるカットが激減しがち。α1の高速なAF制御と精度、そして記録性能のアドバンテージを引き出せるのではないか、と考えたのが本テストのシチュエーションとして設定した背景だ。

では、さっそく実写結果から紹介していこう。モデルとメイクの雰囲気が大人っぽいと感じたので、かっこよさを感じさせるライティングを組んだ。1カットごとに、表情に微妙な違いが出てくる様子を収めたいと思ったので、モデルにゆっくりと感情を循環させてもらうようにお願いした。

決めカット
α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F2.8・1/125秒) / ISO 100

撮影のセッティングについても紹介しておこう。30コマ/秒だとストロボはついてこられないので自然光+LEDライトで組み立てている。これ以外にも、細かく絵を変動させるためにブロワーで髪の毛をなびかせるなどの調整も加えている。

撮影中はレリーズボタンを押しっぱなしにしていたのだが、正直なところ、数秒でレリーズが止まるものと思っていた。しかし、いつまで経っても止まる気配がないので、逆に不安に。RAW+JPEG(エクストラファイン)で2枚のカードに同時記録する設定としているが、これまでの感覚とは全く別次元のハンドリングに様変わりしていた。

思わず「え、こんなに撮れて大丈夫……?」と声が漏れてしまうほど(笑)。以下に撮影カットから抜き出した30コマ分を並べた。表情の違いにぜひ注目してほしい。

共通撮影データ:α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F2.8・1/125秒) / ISO 100

パターン1の成果を考える

撮影した写真は、クライアントに提出することを想定して、メインカット・サブカット・アザーカットに分けた。

共通撮影データ:α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F2.8・1/125秒) / ISO 100

モデルの髪をなびかせる撮影では、表情は良いが髪がおかしかったり、使えるカットが少なくなることが多い。しかし、ここまで大量に撮れると、良い表情と良い髪型の組み合わせが多数あり、その中から更に良いカットを選べるので、圧倒的に「選択肢が増えた」という実感を得た。

また、連写でなければ撮り逃していたであろう微妙な表情の移ろいも捉えることができており、「表情のバリエーションが撮れた」という手ごたえも十分。

予想外に嬉しいメリットも見出すことができた。レリーズボタンから手を離した瞬間、カメラ側の残り書き込み枚数は60枚ほどと表示されていたが、数メートル先に座っているモデルに「こんなの撮れました」を見せに行く2秒ほどのあいだに書き込みが終わっていたのだ。信じられないほどカードへの書き込みが速い。

書き込み速度の遅いカードを使用すると「いま書き込んでいるからちょっと待ってね~」という、いわゆる書き込み待ち時間が発生してしまうが、今回は一度もそんな時間が訪れることがなかった。

それに今回の撮影ではスタジオを利用しているが、もちろん利用時間には制限があるし、光も刻々と変化し続けている。「限られた時間の中でどれだけ多くのバリエーションをつくることができるか」はカメラマンの腕にかかっているし、筆者自身もそれを痛感しているが、それはカメラも同じだ。そうした意味でもメモリーカードひとつで、こうも大きな変化が生まれるというのには新鮮な印象と驚きを覚えた。常に高速連写が必要なシーンばかりとは限らないが、それでも次の撮影にすぐにチャレンジできる足回りの良さはカメラマンの強い味方になってくれる。

パターン2:動きのあるシーンを捉える

メイクと衣装をチェンジして、今度は動きのあるシーンを撮影することにした。モデルはダンスが得意なので、ある程度ひらけた空間で踊ってもらい、それを連写でおさめていくことにした。記録まわりの設定は基本的にパターン1と同様としている。

通常、ダンスシーンは使えるカットを選ぶことがとても難しい。目線や表情、手指足先のしぐさ、ポージングの状態など、各要素が複雑にからみあうため、下手をすれば1枚も使えるカットが得られないことすらある。しかし、今回はたった数秒のあいだではあったがたくさん良いカットが撮れたので、どれを使おうか迷ってしまうほどであった。動きのあるシーンから組み写真を作るのには最高の撮影方法かもしれない。

決めカット
α1 / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(F2.8・1/200秒) / ISO 400
共通撮影データ:α1 / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(F2.8・1/200秒) / ISO 400

何度もお伝えしている通り、書込待ちの時間がほとんどないので連写した直後にも関わらず数秒後からまたすぐに撮影することができた。モデルがふと窓辺に移動したときの瞬間が良かったので、すかさずカメラを構えた。連写による撮影を終えた直後だったが、書込処理が速いためバッファクリアに必要とする時間もとても短い。タイミングを逃すことなく一瞬を捉えることができた。

α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F2・1/400秒) / ISO 200

α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F2・1/400秒) / ISO 200

結果として、より多くのバリエーションを撮ることができたのは、間違いなくCFexpress Type Aカードの力だ。カードの速度性能が撮影全体の撮れ高に直結してくる事実を、ここでも実感させられた。シングルショットで複数枚をおさえていくといった使い方でも、この書込速度は撮影の流れを大きく変えてくれることが期待できる。

共通撮影データ:α1 / FE 135mm F1.8 GM / マニュアル露出(F1.8・1/320秒) / ISO 200
α1 / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(F1.2・1/2,000秒) / ISO 200

SD UHS-IIカードとの違いとは

衣装を変えてパターン2と同じくダンスを踊ってもらった。メモリーカードは引き続きCFexpress Type Aを使用している。連写の具合がわかるように全カットをつなげた動画を作成したのでご覧いただきたい。

α1の動体捕捉性能と瞳認識性能は非常に強力だ。これはパターン1で示した各カットからも納得いただけたことだろう。この高いAF精度とコマ速度が撮影の可能性を拡大してくれているわけだが、これを下支えする要素としてのメモリーカード性能に注目してきた。では、SDカードではどこまで撮影できるのだろうか。読者の皆さんも気になっていることだろう。

この素朴な疑問をさっそく現場で実験してみた。使用したSDカードはUHS-IIタイプの読込300MB/s・書込250MB/sを使用。条件はCFexpress Type Aカードを使用した時にそろえている。

結果は驚くべき内容だった。撮影開始後、約2秒ほどでシャッターが切れなくなり、書込待ちの状態になってしまった。直前までCFexpress Type Aカードを使用していたこともあってか、メモリーカードを変えただけでこんなにも差が生まれるものなのかとショックを受けた。モデルはしばらくそのまま踊り続けてくれたのだが、良い表情やタイミングをみすみす撮り逃している状況に、ここでType Aカードならば、と悔しい思いをさせられた。

ちなみにカメラ側のバッファクリアに要する時間もCFexpress Type AとSD UHS-IIカード使用時とでは大きな差があったこともお伝えしておきたい。「こんなの撮れました」をモデルに見せようとした際にも、SD UHS-IIでも高速な部類のカードを使っているにも関わらず「ちょっと待ってね」の状態になってしまったのだ。現場進行をスムーズに運んでいくためにも、α1ではCFexpress Type Aカードを用いる必然性をここでも実感することになった。

ワークフローも変わってくる

高画素のカメラで高速連写をすると、1ファイルのデータ量もさることながら猛烈なカット数となるため、PCに撮影分を取り込むだけでも一苦労だ。たくさんいい写真が撮れても、取り込みに数時間かかるようでは効率が悪すぎる。

本カードは、SD UHS-IIおよびCFexpress Type A両対応のカードリーダーを使えば読込800MB/sの速さを十分に感じられる。今回も、それぞれの撮影データのコピーはものの数秒で終了した。

今回使用したカードは容量が160GBのタイプだが、これくらいの容量だとカードリーダーによってはコピーに数時間かかることもありえる。もしカードからの読み込み速度に遅さを感じているようなら、リーダーそのものを見直してみるといいかもしれない。記録メディアはもちろん大切だが、カードリーダーもデータの橋渡し役として重要な役割を担っているからだ。せっかく高速な記録メディアを用意したのであれば、その性能をしっかりと発揮できるリーダーも用意したい。

ちなみにプログレードデジタルのカードリーダーはSD UHS IIのデュアルスロットタイプやCFexpress Type BとSD UHS-II両対応タイプなど様々にラインアップされているが、いずれのリーダーも底面にマグネットが仕込まれていて、使用時にノートPCなどのディスプレイ裏面などに貼り付けておくことができる。

ケーブルも着脱式で収納性にも優れるため、撮影機材にプラスして持ち歩いても苦にならない。CFexpress Type Aカードリーダーは、カードそれ自体と同様に選択肢が狭いのが現状だ。本リーダーはSD UHS-IIカードの読み書きにも対応しているので、まさに一挙了得。α1やα7S IIIユーザーであればベストマッチなカードリーダーだろう。

まとめ

今回の撮影を通じて、カメラの性能を最大限に引き出すためには、速度性能の高いメモリーカードを組み合わせる必要があると、改めて痛感させられることになった。数値上CFexpress Type AとSDカード(今回はUHS-IIを使用した)では、その読み書き速度に歴然とした差があることは認識していたが、撮影の流れを変えるほどの違いがあることは正直予想外だった。

合間で撮影したカットより。カメラのハンドリングが変わると、モデルの動きにも良い影響が出てくる。
α1 / FE 50mm F1.2 GM / マニュアル露出(F1.2・1/1,250秒) / ISO 100

ここまで見てきたように、α1の性能をフルに発揮させたいのならCFexpress Type Aカードを使わない手はない。SDカードに比べれば割高であることは事実だが、撮れるものが撮れなくなるのに比べれば、必要な投資と割り切ることができるメリットがたくさんある。少なくともバッファクリアに関わる時間が大きく短縮されるメリットは、SDカードに戻れないくらいのインパクトがある。

αシリーズをポートレート撮影で使用しているユーザーを見かけることがあるが、高画素と高速な撮影性能、そしてAF精度を高次元で両立させているα1は、ポートレートシーンでの強い味方になってくれる。そして、その撮影性能を支えるためのCFexpress Type Aカード。作品制作の自由度を大きく広げてくれるだけでなく、撮影者の可能性も引き出してくれるように感じた。

モデル:松本真央
ヘアメイク:齊藤沙織
協力:ProGrade Digital

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。