特別企画
静止画メインの写真家が映像制作に挑戦(前編:解説編)
Adobe Premiere Proではじめる動画編集
2020年9月17日 12:00
この夏、キヤノンから8KRAW動画撮影に対応したミラーレスカメラEOS R5が発売された。いくつかの制約があるとはいえ、その動画撮影性能は大きなトピックとしてユーザーに迎えられた。またソニーやパナソニックからもVlog撮影向けとした機種が登場するなど、動画制作がより身近になってきている。インフラ面でも動画を楽しみやすくなってきていることもふまえ、これまで静止画しか撮影してこなかったけれども、映像制作に挑戦してみたいと考えている人も多いのではないだろうか。
そこで、今回アドビ協力のもと、同社のプロ向け映像制作ソフト「Adobe Premiere Pro」の基本的な操作方法をレクチャーしていただいた。レクチャーはアドビの田中玲子さん。記事の解説はEOS R5導入を機に映像制作をはじめていきたいと考えていた矢先だったという写真家の大浦タケシさんだ。(編集部)
静止画カメラに第二の動画ムーブメントが到来か
レンズ交換式のデジタルカメラに動画撮影機能が搭載されたのは、2008年のニコン「D90」からであった。なかでも同じ年に発売されたキヤノン「EOS 5D Mark II」は多くの映像関係者の注目を浴び、デジタル一眼レフカメラによる動画撮影を広く認知させるきっかけともなった。
以来多くの、いやほとんどのデジタル一眼レフカメラ、ミラーレスカメラに動画機能が搭載されるようになってきているが、写真愛好家の中には動画機能が搭載されていることは知っているものの利用したことはない、という人も未だ少なくないと聞く。理由は静止画撮影に集中したいなど様々なようであるが、動画を撮影しても編集作業の方法や手順などが分からない、ということも、動画を敬遠してしまう要因のひとつとなっているようだ。事実、このテキストを執筆している私自身も動画編集は得意とはしておらず、わずかにドローンで撮影した映像をYouTubeなどへアップするために、iMovie(Macに標準で付属する映像編集ソフト)を使っているにすぎなかった。
そのような折、新たにEOS R5を導入したこともあり、8Kや4Kの編集にも対応するソフトの導入を検討していた。筆頭にあったのは「Adobe Premiere Pro」だ。動画編集に不慣れということもあり、拙い部分が多々あるかと思うが、これから本格的な映像制作をはじめていきたいと考えている静止画ユーザーの皆さんと同じスタートラインからAdobe Premiere Proでどのようなことができるのかを紐解いていきたい。今回は、基本的な操作方法を紹介していく解説編だ。
そもそもAdobe Premiere Proとは?
Adobe Premiere Proは、映画などを含めた映像制作の現場でプロ・アマ問わず使用されている本格的な映像編集ソフトだ。多彩な表現が可能で、プロダクションの制作現場はもちろん、YouTuberのような映像表現者、アマチュア映像作家など、幅広いユーザーから支持されている。
“本格的な”と書くと敷居が高いと感じてしまうかもしれないが、できることが多彩な分、入り口も柔軟に用意されている点もポイントだ。基本的な操作や作法を覚えてしまえば、PhotoshopやLightroomのように使用者にとって強力な編集ツールとなる。この意味でも、映像初心者だからと敬遠せずに、ぜひ一度触れてみることをおススメする。筆者自身も最初は“難しいかも”と感じていたが、要は慣れ。編集画面の役割さえ知ってしまえば、あとはiMovieなどと大きな違いはなく、スムーズに理解できた。
まずワークスペースを理解しよう
具体的な操作解説を進めていくにあたって、基本となるホーム画面とワークスペース画面の役割をつかんでおこう。
ホーム画面(スタート画面)は、Adobe Premiere Proを立ち上げた直後に表示されることになる画面だ。この画面は編集作業を行うものではなく、以前につくったプロジェクトか、新しく編集作業を行うかを選ぶものである。以前に編集作業を行ったプロジェクトを選ぶ場合は、そのプロジェクトをクリック。新しく編集作業を行う場合は、ホーム画面内の「新規プロジェクト」をクリックする。今回は新規プロジェクトの作成で進めていく。
プロジェクト
ワークスペース画面は、文字通り編集作業を行うための画面だ。画面は大きく5つのパネルに区切られている。
まず編集する映像、いわゆる素材(クリップ)をプールして管理するパネルが、下段左にある「プロジェクト」だ。ここに一旦必要なクリップをプールしておき、作業内容に応じて他のパネルで開き、プレビューなど行う。クリップをプロジェクトに入れるには、フォルダーなどからドラッグ&ドロップするだけでOKだ。ただし、条件によっては入らないこともあるので、おすすめは、このパネル上部にある「メディアブラウザー」から取り込む方法。ドラッグ&ドロップよりも手間はかかるが、確実にプロジェクトに素材を入れることができる。
なお、あらかじめクリップをチェックしておき、編集に必要なものだけプロジェクトに入れておくか、プロジェクトに入れたクリップでもプレビューで不要と思ったら速やかに削除しておくと、後々混乱することが少ないように思える。
ソース
次に、上段左にあるパネルが「ソース」。プロジェクトからひとつの映像を選択しダブルクリックすると、このパネルでのプレビューが可能となる。
このパネルの主な機能としては、次に説明する「タイムライン」で編集作業を行う前に、こちらで映像の確認と必要な部分のおおまかな切り出しが行えることだろう。後の編集作業の手間が軽減するので、積極的に活用したいパネルである。なお、このパネルで行うクリップの切り出しは、あくまでもプレビューの画面上としており、オリジナルのクリップが切り出されているわけではないので、いつでも元に戻すことが可能。また、切り出したクリップは、その状態のままドラッグ&ドロップで次に説明する「タイムライン」のパネルに移動させることができる。
タイムライン
下段右にあるパネルはタイムラインだ。Adobe Premiere Proのメイン作業台だと言える。ここで後に説明するクリップの正確な切り出しや配列、トランジションなどの効果、音声などの編集ができる。
編集時のプレビュー映像は、前述のとおり上段右のプログラムパネルに表示される。編集中はこの画面で確認しながら行っていくのが基本の編集スタイルとなる。
ツール
最後に紹介するパネルが、タイムラインとプロジェクトの間にある縦長の細いパネルで「ツール」。その名のとおりタイムラインにある映像を編集するためのツールである。フォトショップのツールパネルと同様の機能と述べてよい。
・選択ツール
クリップを選択するツール。クリップを移動させるときもこの選択ツールを使い、ドラッグ&ドロップで行う。使用頻度の高いツールのひとつだ。キャプチャーでは選択して青色になっている矢印が選択ツール。
・トラック前方選択ツール
その名のとおりトラックの前方を選択するツール。設定でトラック後方の選択もできる。
・リップルツール
クリップ間の隙間をつくらずにカット編集のできるリップルツール、複数のクリップの編集点を同時に選択できるローリングツール、クリップの再生スピードを調整するレート調整ツールから選ぶことができる。なかでもリップルツールは編集作業では最も出番の多いツールといえる。
・レーザーツール
クリップをカットおよび分割するときに使用する。分割したクリップを選択し、「delete」キーを押せば、そのクリップを消去することができる。
・スリップツール
クリップの長さを変えずに、再生の開始と終了の位置をずらすことができる。
・ペンツール
図形を描くためのほか、テロップなどの透明度を調整するときに使用するツール。
・手のひらツール
主にタイムラインの位置調整を行うときに使用する。タイムラインのクリップの拡大縮小ができるズームツールに切り替えることが可能。
・文字ツール
テロップをクリップに入れるときなどに使用するツール。横書き用と縦書き用が選べる。
映像編集の実際の流れ
それでは実際に編集作業を行いながら、基本的な編集手順と操作方法を説明していこう。なお、先のパネルに関する説明と繰り返しとなる点もあるがご容赦いただきたい。
STEP1:新規プロジェクトの作成〜素材の用意まで
まずは新規プロジェクトを設定する。ホーム画面内の「新規プロジェクト」をクリックすると設定画面が表示されるので、プロジェクトの「名前」と保存する「場所」を設定する。そのほかの部分は初期設定のままで大丈夫だ。「OK」ボタンをクリックするとワークスペースの画面に表示が切り替わり、編集作業が可能となる。
編集作業をはじめる準備が整ったので、続けて素材の読み込みに進む。プロジェクトパネルに編集で使うクリップを集めてみよう。
前述しているとおり、素材(クリップ)はプロジェクトパネル上部にある「メディアブラウザー」から読み込むことができる。読み込みたいクリップを選択したら「control」キーを押しながらクリック。「読み込み」を選択し、プロジェクトパネルにクリップを集めていく。作業を進めていくにしたがい、次第にどのような映像に仕上がるのかを楽しみにしはじめている自分がいることに気づくはずだ。
なお、編集に使うクリップはあらかじめ確認しておくと後々の作業がやりやすくなる。ファイルの整理も動画編集ではポイントになる。
STEP2:タイムライン上の素材を整理
プロジェクトパネルにクリップを読み込んだら、次は具体的にタイムラインパネル上にクリップを配置していこう。クリップの配置はドラッグ&ドロップするだけでOKだ。クリップの順番は入れ替えができるので、位置関係はさほど気にしなくてよい。まずは、どんどんタイムライン上に並べていってみよう。
タイムラインには映像のほかにも音声トラックも表示されている。タイムラインに配置したクリップ上の「再生ヘッド」の位置を調整すると、すぐ上のプログラムパネル上に該当する部分のプレビューが表示される。
なお、タイムラインパネルにクリップを落とし込む前に、ソースパネルで大まかに不要な部分をカットしておくこともできる。このあたりは作業者の好みで使い分ければいいだろう。目的に対して、アプローチの方法が複数用意されている点も、Adobe Premiere Proの魅力だといえよう。
プロジェクトパネル内のクリップをダブルクリックすると、そのクリップがソースパネルに表示される。再生開始部分と終了部分を「スリップツール」で選択し、不要とする部分を切り取る(タイムラインパネルで微調整は行うので、カットする部分は大まかでも構わない)。
その後ドラッグ&ドロップでタイムラインパネルに移動させる。
閑話休題:ショートカットを活用しよう
編集作業の流れは、タイムラインで再生クリップを編集→プロジェクトパネルでプレビュー再生となる。基本的な作業はこれの繰り返しだ。
これら作業のスピードアップに欠かせないのがショートカットキーの活用だ。これはアドビ社のクリエイティブ系ソフト全般に言えることではあるけれども、Adobe Premiere Proも例外ではない。
ショートカットキー設定の一例(標準設定)を挙げると、再生と停止は「スペース」キーで操作が可能だ。
キーボード上の矢印キーでは「←」キーで1フレームバック、「→」では1フレーム進む操作が可能。さらに「↑」キーは1クリップバック、「↓」キーでは1クリップ進む操作となる。
また再生時に「L」キーを押すと早送りに、「J」キーを押すと逆再生、いずれもキーを押す度に再生速度が加速する。停止は「K」キーだ。
これらの操作はもちろんGUI上でも操作できる内容ではあるけれども、あちこちをクリックする必要がないため、より集中して編集作業を進めることができる。特に繰り返しプレビューを再生するような場合に煩わしさを感じる場合は、活用してみるといいだろう。きっと重宝するはずだ。
あらかじめ設定されているショートカットキーは「環境設定」から確認できる。このほか、下記Adobeのサイトで確認することもできる。
URL:https://helpx.adobe.com/jp/premiere-pro/using/keyboard-shortcuts.html
STEP3:トランジションを設定してみよう
編集で是非とも入れたい効果がトランジションだろう。トランジションとは、クリップとクリップとの間に入れて、シーンをスムースに切り替える効果のことだ。
設定方法は思いのほか簡単で、ワークスペース際の上段にあるメニューから「エフェクト」→「ビデオトランジション」を選択。挿入したトランジションをドラッグ&ドロップでタイムラインパネルにある映像トラックのクリップとクリップの間に入れるだけである。
さらにトランジションの長さについては、映像トラック上にあるトランジションにカーソルを置き、「control」キーを押しながらクリック。「トランジションのデュレーションを設定」という項目があるので、そこで時間を調整する。エフェクトメニューにはトランジション以外にも様々な効果があるので、ぜひいろいろ試してもらえればと思う。
スムーズな画面の切り替えを行うトランジションは、ワークスペース際上段にあるメニューから「エフェクト」→「ビデオトランジション」で行う。使いたいトランジションを選択したら、タイムライン上のクリップの間にドラッグ&ドロップで入れるだけだ。
まとめ
動画と静止画の大きな違いとしては、時間軸(タイムライン)に留意する必要がある、という点だろう。また音声という要素もあるなど、撮影はもとより撮影と編集時に配慮すべき要素は多岐に渡る。目指す映像表現にもよるが、簡単なショートムービーであっても表現意図によっては、かなり煩雑な作業が必要となることも少なくない。ただ、Adobe Premiere Proでは、トランジションひとつとっても、様々な演出効果を手軽に利用できるようになっている。その効果はとても数多いので、よほど特殊なことをしようとしない限り、困るというシーンに出くわすことは少なそうだ。
このほかにも、クラウド上のストック素材を利用できるAdobe Stockを利用することで音源素材についても、版権を気にすることなく利用することができる。このあたりもワンオフで映像編集ができる同社ソフトを利用するポイントのひとつとなってくる。PhotoshopやAfter Effectsなど、同社製ソフトとの横の連携性の高さも魅力だ。相互に素材を渡して編集できる点は、クリエイティブに集中できるという点以上の利便性の高さが得られることは言うまでもない。
今回は、基本的なインターフェースの役割と、具体的に1本の映像をまとめていく上で必要となる手順の解説に徹して解説してきた。一見複雑なインターフェースを備えているAdobe Premiere Proだが、意外ととっつきやすいソフトであることや、必要な制作は、実はごくシンプルであるということを知ってもらえたら幸いだ。
もちろん、今回お伝えした内容は初歩の初歩だ。作品としてつくりこんでいく場合には、今回の解説内容だけでは十分ではないというケースもあることだろう。ただし、ここまで解説してきた基本的な使い方を理解しさえすれば、あとは様々な機能を応用していくだけ。何はともあれ、まずは触れてみることがポイントだ。たくさんのパネルが一度に表示されて圧倒されてしまっていた人や、難しそうと尻込みしていた人、とにかく映像作品を作りたいと考えている人の背中を押す手伝いとなれば幸いだ。