特別企画
外だけじゃもったいない! RICOH GR IIIを家でも楽しもう
撮影の思考を鍛える、ひと味違った機能やコツを紹介
2020年5月9日 06:00
RICOH GRシリーズといえば、“最強のスナップシューター”として名高いが、昨年3月に発売になったGR IIIは、その性能の高さを「スナップ撮影だけにとどめておくのはもったいない」というのが正直なところだ。既知のことだと思うが、APS-Cセンサーを搭載するレンズ一体型のデジカメで小さな昆虫から星空の天の川まで撮影可能とあれば、撮影領域のスケール感がわかるはずだ。
心の感度をきたえよう
2020年春。撮影会やツアーに出かけられないもどかしさの中、外は新緑になり、爽やかな風が吹く季節になってきた。ポケットサイズのカメラなら、買い物の行き帰りにごく近所をスナップするのも良い気晴らしになるが、家の中でも撮影は楽しめる。ここは「心の感度アップ」と「思考の筋トレ」をするチャンスと捉えよう。
使用機材はRICOH GR IIIのみ。様々な機能を使うことで電池を消耗するため、予備電池を用意しておくと安心だ。
今回はGR IIIの多重露出とマクロモードを使った、家の中やごく近所で楽しめる撮影方法を紹介したい。また、視点を変えた被写体の観察についても紹介しているので、今後被写体を探す際のヒントにもしてもらえれば、と思う。
家の中での撮影となればテーブルフォトが代表的だが、小物や花をわざわざ買う必要はない。被写体探しに悩んだら、まず発想を変えることからはじめてみたい。まずは「思考の筋トレ」だ。身近なものの中から被写体を探してみよう。
キッチンで被写体を発見
家で目にしたのは色鮮やかで形もユニークなプチトマトとデコポン。野菜や果物はとても個性的でフォトジェニックなのである。キッチンを探ればきっと何かあるはずだ。
ストロボやスタジオセットを用いない、自然光を活かしたテーブルフォトは、窓際にテーブルを設置して撮影する。被写体に直接光が当たらないようにレースのカーテンを引き、窓際から離して柔らかい光で撮影を行おう。たまたま家に黒いガラスのテーブルがあったのでそのまま撮影をしているが、テーブルに布や背景紙を敷いてもよい。反射も抑えられるので撮影がしやすくなる。
まずはカメラの設定をしよう。今回は、多重露出とマクロモードでひと味違うテーブルフォトを体験してもらいたい。
カメラの設定
[1]背面のコントロールダイヤル右部にあるドライブモードから「多重露出」を選ぶ。合成方法、途中経過保存はデフォルトのままで構わない。
[2]撮影後カメラ内RAW現像してイメージを作り上げるために記録形式は「RAW+」で撮影を行おう。
[3]テーブルフォトはクロップ機能を使い被写体に向かって正対で撮影する。メニューボタンから記録設定に入り、「クロップ」で50mmを選ぶ。
[4]背面のコントロールダイヤル上部にあるチューリップマークを押してマクロモードにする。GR IIIのマクロモードは無限遠が出せないので近接ではない場合は都度切り替えながら撮影をしよう。
撮影モードはプログラムAE、ホワイトバランスは「マルチパターンオート」(あるいは「太陽光」)、イメージコントロールは「Std」にしておく。ISO感度は三脚を使用しないのでオートがよい。また、SR(手ぶれ補正)も忘れずにオンにしよう。あとは、被写体のレイアウトを考えて並べて撮影スタートだ。
多重露出で撮ってみよう
多重露出撮影は、複数回にわけて撮影したカットを重ね合わせて1枚のカットに仕上げる撮影方法・機能だ。1枚目、2枚目と画像を重ねていくのだが、1枚目を撮影すると、背面モニター画面に、その1枚目の画像が残像の様に見えるので、その上に2枚目となる画の位置を決めてシャッターを切る。重ねる画の枚数は2〜3枚が適切だ。
テーブルフォトのコツは、カメラの背面モニター画面を見ながら被写体を動かす(レイアウトを変える)という点と、カメラのアングルとディスタンスがポイントになる。「被写体を動かし、自分も動く」ということを忘れないでほしい。
撮影画像比率を1:1にしているのは、画面の間延びを防ぎ、周囲の生活感を出さないためである。そうすることでお洒落なイメージにまとめられる。また、正対で撮影しやすくなる。
実際に撮影したカットを見てほしい。1枚目はマクロモード+50mmクロップで近接撮影をしたもので、2枚目はマクロモードを切り、被写体から少し離れて俯瞰にて全体像を撮影している。
この2枚が重なり合うと、次のような画を作ることができる。
プチトマトでも撮影をしてみた。ここでは、露出補正をマイナスにして背景を黒に近づけた。
1枚目、2枚目ともにマクロモードにして、50mmクロップで撮影した。1枚目は少し離れて被写体の全体像を撮影している。2枚目は近づいて一つだけをクローズアップ。背面モニター画面を見ながら、被写体を動かしてレイアウトし、画作りを楽しもう。
カメラ内現像でモノクロームにしてみるのも面白い。モノトーンになったことで、陰影の階調が引き立ち、よりアート的になった。
カトラリーを印象的に表現
野菜や果物のほかに、キッチンには食器やカトラリーがある。これらも用途からは想像できないほどフォトジェニックなので撮影してみることをおススメしたい。
コルクボードの上に並べ、露出補正をマイナスにして撮影。そうすることでハイライト部分の光が強調される。ここではマクロモードを使っていない。
カメラ内RAW現像の手順
撮影したら、カメラ内でRAW現像してみよう。多重露出でカメラ内現像ができるのはGR IIIの特徴でもある。積極的に試してみよう。
ホワイトバランス、イメージコントロールなどの変更・調整する項目を選ぶ。イメージコントロールは、背面ボタンの「Fn」ボタンから、さらに詳細設定が行える。ここでパラメーターを調整する。モニター画面を見ながら好みに仕上げよう。
実は、あえてレフ板を使用しなかった。これもシャドー補正機能が補完してくれるからだ。シャドー部が暗いと感じたら、カメラ内現像時に調整してみるとよい。
このように撮影後に調整内容を追い込むことで、撮影内容がどんどん自分の求めているイメージに近づいていく。ほんの少しの調整が、被写体にふさわしい色や好みの色になるので、一度はカメラ内現像を試してみてほしい。
普段見慣れているもの+カメラの設定で、テーブルフォトのイメージが少し変わったと感じていただければ「心の感度アップ」に繋がっているはずだ。
これらの撮影方法は、少し気にしてみるだけでも効果的だ。買い物に出かける際などに被写体を見る目を養うという点でも活用してもらいたい。
ボケを作り、多重露出撮影をする
目の前のお宅にある鉢植えをお借りして撮ってみた。季節柄、色とりどりの花がたくさん見られると思うので、撮らせてもらってもいいだろう。挨拶を交わすことや、コミュニケーションを楽しむことも撮影者として大事なこと。もちろん、その場合は適切な距離や対策をとっておくことをお忘れなく。
いつもスナップ撮影ばかりの方も、花の撮影にトライしてみてはどうだろうか。
花を撮影する際にはボケを活かしたい。GR IIIでボケをつくるには、やはりマクロモードを使うことになるが、実はちょっとしたコツがある。
1枚目はマクロモードで近接撮影し、2枚目の撮影前にまず手元でピントを合わせている。被写体には近づかず、距離をおくことでボケを作ることができる、というわけだ。
公園では足元に咲く小さなシロツメクサを被写体に、ここでもマクロモードが活躍する。遠景の木漏れ陽はきれいな玉ボケとなった。
ポジフィルム調やクロスプロセス、ブリーチバイパスはGR IIIならではの独特な色設定であり、それぞれの色でパラメーターも詳細に設定が可能だ。そのうえ、ホワイトバランスと掛け合わせれば表現域は無数になる。気に入った色ができたら、イメージコントロール内の「カスタム」に割り当てておくことで、撮影時に呼び出すことができる。自宅内でのカスタマイズを楽しんでもいいだろう。
まとめ
GR IIIは機動性・携行性がよく、スナップ撮影に最適なカメラだが、その基本性能は様々なシーンで発揮できることをわかってもらえたと思う。こうした撮影操作を通じてカメラと向き合うことで、カメラに新たな可能性を引き出せるうえ、今後の撮影で操作に戸惑うことも少なくなる。
被写体探しもだが、限られた条件の中で今まで使っていなかった機能をプラスオンしながら自分らしいカメラの使い方を見つける絶好のチャンスにしてもらいたい。
「心の感度アップ」と「思考の筋トレ」は日常の中で鍛えられるからだ。