特別企画

ファッションフォトグラファーが伝えるライティング自主トレーニング

ルックブックのような衣装写真を撮るためのアプローチも紹介

ルックブックのようにネクタイを撮影してみた
PENTAX K-70 / HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F8・1/10秒・±0EV) / ISO 100

政府および各市区町村による外出の自粛要請に伴い、自宅で過ごす時間が増えるようになったが、これを機会にクローゼットの整理をするようになった、という話を聞く機会が多くなった。最近ではフリマアプリやSNSを通じて個人でも洋服やアクセサリーの写真を見たり公開することも多い。ブツ撮り的な観点でいえば、スマートフォンのカメラ性能も向上して撮影からアップまでの流れをシームレスに行うことができるが、よりリアリティがあり素材感や高級感の伝わる写真の方が説得力があって相手にも伝わりやすいのも事実。今回は、アパレルの分野でルックブックやファッション撮影をしている筆者の経験をもとに、LEDライトを1灯加えるだけで、そうした写真がぐっとレベルアップするライティングテクニックを紹介していきたいと思う。

使用した機材と環境について

今回使用したカメラは筆者が普段使いもしているPENTAX K-70とHD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limitedの組み合わせ。あわせて、ケーブルスイッチ「CS-310」も使って、三脚を併用したローアングル構図やスローシャッターでも撮影できるようにしている。

LEDライトは、小型で取りまわしのよいLitraPro(リトラプロ)を1灯用意。色々な角度から照射して、陰影を出した表現の仕方についても解説していきたい。

基本の1灯:スニーカーを魅力的に写す

では、さっそく撮っていこう。最初に紹介するのは、コレクターも多いスニーカーの撮影方法だ。

今回用意したのは、ホワイトレザーのハイカットスニカー。まず、フロントからカメラの光軸上にLEDライトをセットして、フラットな光が回るように調整。影もなく、全体の質感やフォルムまで確認できるカットに仕上げた。ちなみに、くるぶし辺りのパッドの辺りもちゃんと確認できるように、あえて紐は結ばずに中に収めている。

完成カット
PENTAX K-70 / HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F8・1/8秒・±0EV) / ISO 100

全体にしっかりと光をまわしているが、このライティングをつくる時のコツは、スニーカーのつま先側に白カポックを置いて、光が均一にまわるようにすることだ。このとき、部屋の照明を消してLEDライトのみの照射で、どれくらい光がまわっているのかを確認しながら調整するのがポイント。光源が複数あると、かえって調整が難しくなることがあるので、まずはこの方法で試してみてほしい。


◇   ◇   ◇[COLUMN]◇   ◇   ◇

今回は背景としてバックペーパーやカポックも併用しているが、これらは身近な100円均一ショップやネット通販などで手に入るもので自作している。

作り方はとても簡単だ。まず用意する道具は、白の模造紙とスチレンボードだけ。加工に使う道具もハサミやカッター、固定用のテープがあれば問題ない。

まず、バックペーパーから作っていこう。今回は厚手の模造紙を使っているが、もし薄手のものしかなかった場合は、2枚をはり合わせるようにして重ねるだけで、しっかりと反射が得られるようになる。丸めて販売されていることが多いので、しっかりと伸ばしてロール癖をとっておくこともポイントだ。

次に、カポック。これもスチレンボードに模造紙を貼り付けるだけと、ごく単純な工作でつくることができる。レフ板としても使うことができるので、ポートレート撮影をしていて、市販のレフ板では好みの反射率が得られないと感じている人は、このように自作してみるのもいいだろう。白い紙にも白色度の違いで寒色から暖色まで様々な種類がある。紙の目のつまり方や厚さでも反射率は変わってくるので、つきつめて考え始めるとキリがないけれども、それだけバリエーションをつけられる余地があるということは覚えておいて損はない。

……話を戻そう。どちらもごく簡単な工作で用意できるので、このほかにも室内撮影に挑戦しようと考えている人は、ぜひ参考にしてもらいたい。


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同じセッティングでバリエーションをつくってみよう

スニーカーのブツ撮りでは、ソールのエンボスパターンもポイントだ。先ほどの全体を写したセッティングのまま、ソール裏側のロゴにフォーカスした。

PENTAX K-70 / HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F3.2・1/80秒・±0EV) / ISO 100

ロゴとエンボスパターンを強調するため、LEDライトを左側にセットし、ハイライト側の階調が飛ぶ一歩手前に調整。画面上側の側面部は影がおちるようにしてメリハリをつけている。

このカットではソールのラウンド(そり具合)も重要なところなので、あえて絞りをF3.2に留め、中央のロゴエンボスから左にかけてなだらかにボカして立体感のあるディテールを強調した。

スニーカーの表情を引き出した例として、2つのカットを紹介した。どちらもモノとしての存在感やレザーやゴムの質感が伝わったのではないかと思う。では、次のような撮り方だと、どのように感じるだろうか。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F22・0.6秒・±0EV) / ISO 100

2足一揃えで並べて、真正面から捉えたカットだ。ベロ辺りのロゴやトゥ(つま先)周りのディティールは分かりやすいが、肝心のサイドから見たノーズの長さであったり、かかと辺りのデザインフィニッシュが分かりにくいカットになってしまった。「このスニーカーがどこのブランドのもので、何色か」だけを伝えたいのであれば、これでも問題ないけれども、ちょっと物足りなさを感じてしまうのではないだろうか。

最初に見てもらった完成カットのように、つま先から、かかとまでのデザインの繋がりをみて取れるようなアングルが、このスニーカーの場合は理想的だと思う。立体物であればこそ、光と影の具合で質感やサイズ感の出方が大きく変わってくる、というわけだ。

衣装の素材感を引き出す

衣装のファブリック(素材)は各ファッションメーカーが1番に重要視しているところでもあり、その素材や特性によって全体のシルエットに影響を与える部分でもある。その提案をいかに受け取り、自分なりの撮影方法で写真に収めていくかを考えるだけでも、イメージトレーニングになるし、写真撮影のスキルアップにもつながる。

例えていうなら綺麗にたたんだ状態だけではなく、軽くしわを寄せてドレープ感を出したり大きく影をつけてより立体感のある演出をするのも面白いだろう。

ここでは、ファッションフォトグラファーの視点からテキスタイル表現のコツを紹介していく。まずは、完成カットを見てほしい。

完成カット
PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F4・ 1/30秒・±0EV) / ISO 100

ここでのコツは、カメラの測光のクセや傾向をしっかり把握しておくことだ。ミラーレスカメラの場合は、背面モニターに露出具合が反映されて表示されるが、一眼レフカメラでファインダー撮影する場合、ある程度仕上がりを想像しながら進めていくことになるからだ(もちろん、ライブビューを利用するという手もあるが……)。

次のカットはOKカットとNGカットの例だ。見比べてもらえれば一目瞭然だが、黒の出方が全く違う内容となっている。これはカメラの評価測光が18%グレーになるようにプログラムされているため。そのため、黒系統の衣装の場合、オート任せで撮影するとこの様に露出がオーバー気味になってしまうのだ。

ここで覚えておきたいのは、「明るいものは暗く」、逆に「暗いものは明るく」露出を補正すると、バランスがとれる、ということ。ここでは、適正な「黒」を引き出すために露出を「−2」まで補正している。これが白系の場合だと逆で+側に補正することになる、というわけだ。

OKカット(左)、NGカット(右)
PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F4・1/30秒) / ISO 100
OKカットは-2EVの露出補正。NGカットは±0EV

また、こうした暗めの色合いの衣装撮影ではブロアーでとばない埃を最初に粘着クリーナーなどで綺麗にしておくと効率的だ。後処理でPhotoshopなどを利用してスポッテイングで埃を消すこともできるが、作業時間は正直言って膨大なものになる。仕上がりの美しさにもつながるポイントなので、事前準備はしっかりしておこう。

白ボックスをつかってみる

簡易型の白ボックスを使った撮影方法も紹介しよう。最近では低価格で小型の上、折りたためるタイプの製品が手軽に手に入るようになった。ファッションの小物だけでなく、ちょっとしたホビーユースでも重宝する、便利なアイテムだ。

今回は折りたたみ式のタイプを使用した。天地左右背面が畳まれた状態となっているので、それぞれの固定位置をあわせてボックス形状にする。

ボックスの用意ができたら、中央位置に被写体を配置。ここでは、くるくる巻いたネクタイとした。

この時に注意したいポイントは、室内の電気を消して蛍光灯(または室内照明)の色被りを防ぐこと。電気を消す前にフォーカスを合わせておいて、LEDライトのスイッチはONにしておく。ライブビューが利用できるカメラであれば、背面モニター表示を使って光のまわりかたを確認するのが確実だ。

ここでポイント。ISO感度はオートではなく、低感度にセットしておこう。しっかり三脚に据えてケーブルスイッチでシャッターを切ることも重要だ。最近のカメラは高感度性能が高く、手ブレ補正も強力で、三脚いらずでも高画質が得やすくなっているが、こうしたテキスタイルの場合、やはり感度が上がって色ノイズが出たり、ディティールの損失は極力避けたいものだ。

今回使用しているカメラのようにAPS-Cサイズセンサーの被写界深度がある程度かせげる点もブツ撮りでは有効。マイクロフォーサーズ規格のカメラや1型センサー機なども、ブツ撮りでは有効だ。あとは、ディティール再現に求める水準をカメラのダイナミックレンジとの兼ね合いで選んでいけばいいだろう。

照明はLitraPro1灯のみとした。小型なLEDライトだが、充分な光量があり、F8に絞り込んでもシャッタースピードを稼ぐことができた。もし、ケーブルスイッチを持ち合わせていない場合はセルフタイマーモードにして撮影中はカメラ本体には手を触れないようにすればOKだ。「微ブレ」を最小限におさえるべく注意してほしい。

例えば、フリマアプリなどへの投稿で使うのであれば、影が少ない光軸上からの照射でフラットに光をまわしたライティングの方が、自分の好みの物を探している人の目にも留まりやすいであろう。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F11・1/4秒・±0EV) / ISO 100

では、左右からの照射ではどうなるだろうか。光軸上のカットとあわせて見ていただきたい。

LEDライトを左から照射(左)、右からの照射(右)
PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F11・1/4秒・±0EV) / ISO 100

同じく光軸上からのカット。織り方や柄によっても表情が変わってくる。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F8・1/15秒・±0EV) / ISO 100

基本の1灯:デニム生地の演出

デニム生地も人気のあるマテリアルだ。ヴィンテージから最新の染が入ったものまでと幅が広い。

作例に使用したのは“ジャカード織り”のショートデニムジャケットに、ポイントカラーとしてドビー織りのチェックのシャツを合わせて、ポートレート撮影のようなイメージで深い影を入れ込むことで表情の違いを切り取った。

正面やや斜め俯瞰から
PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F4・1/25秒・±0EV) / ISO 100

デニム素材の撮影のコツはより深みを加えることで生きてくるので、ローキーで陰影を意識して撮影することが多い。もちろん、モデルが着用しての撮影では、衣装を着ているモデルの個性によってはハイキーに仕上げることもある。

次のカットでは、あたかもモデルが着用してポージングをし、そこをクロップしたかのような演出を狙った。ライティングは下方向から。深い影を作ることで、エッジ立った躍動感のようなものを強調した。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F8・1/6秒・±0EV) / ISO 100

クローズアップすると、また違った表情を見せるのもデニムの面白さだ。陰影の付け方ひとつで、全く違った印象になるのが面白い。マテリアル自体のしなやかさと相った硬質な金属感のあるメタルボタンに着眼点を置き、レンズの絞り値も控えめにしてメタルボタンから後ろをボカす事で全体的なシルエットを想像させるカットとした。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F3.5・1/125秒・±0EV) / ISO 100

応用編

今回は衣装撮影のみにクローズアップして、演出の仕方や撮影時の注意点をお伝えしているが、たたんだ状態だけではなく、寄ったり引いたり一部分を切り抜いたりして、様々なイメージを表現できることが分かったのではないだろうか。

最後に応用編として、全くポートレートと変わりのないルックブック的な演出を意識して撮影した例を紹介しよう。いずれもライティングはLitraPro1灯のみだ。

1つ目は、シワ感をつくってロゴにフォーカスした例。刺繍で形づくられた質感を引き出すようにして表現した。柔らかめのマテリアルは着用しないと立体感に乏しくなる傾向にあるので、くしゃっと巻いた状態でドレープ感を出し、前ボケと右斜め上方からのライティングにすることで影を出し、ロゴが際立つカットとした。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F8・1/13秒・±0EV) / ISO 100

2つ目は、デニムのハードな印象を強調した例。あえて暗部を落としてコントラストを強めている。一方で、金属パーツの硬さや冷たさを引き出すために、ライトをあてて光沢感をわずかにプラス。金属ならではの質感と布地の差を描き分けることで、印象深いルックに仕上げた。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F11・1/4秒・±0EV) / ISO 100

レザー製品も明暗の付け方で印象が大きく変わるアイテムだ。ここでは、LEDライトを左からあててベルト裏面の箔押しと皮革の表情を強調した。陰影を強めにつけることで、ハードな印象を強調した、まさにメンズアイテムなイメージ。

注意したいのは、クロームメッキされた金属部分のハイライトがとんでしまわないように、LEDライトの出力を調整すること。絞りを調整すれば、リジッドな質感とディティールの描き分けもできるだろう。

PENTAX K-70 /HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited / 絞り優先AE(F11・2.0秒・±0EV) / ISO 100

まとめ

筆者は街歩きする時はいつもショーウィンドウを覗いて歩くように心がけている。昔は平置きだったディスプレイも、今ではガラス越しにはためいている様に飾られていて、見ているだけでも楽しい。自宅にいる時でもウェブページをチェックして、どのように撮影しているのか、ということであったり、どう撮ると魅力的に表現できるか、などなど様々な手法をシュミレーションしたりもしている。

ファッションフォトを生業としている面もあるので、当然といえば当然なのだが、そうしたメーカーや販売店、ショップスタッフこだわりの着こなしや素材感の見せ方、衣装の雰囲気からは、こういう感じで自分も撮りたいとモチベーションがあがるのだ。

これまで紹介してきたように、ファッションアイテムは、単にモノとしてきれいに撮るほかにも、ブランドの哲学や自身の衣装に対するイメージをのせて表現することができる。そうしたアプローチの結晶となっているのが、ルックブックというわけだ。

ロゴをみせたり、しわを寄せたり、影を大きく落として陰影を誇張したり、様々なアプローチが可能なファッションアイテムの世界。それぞれのいちばんよく見えるところを探していくアプローチは、ポートレート写真にも通じるところがある。シャツ一枚、ニット一枚でも様々な作品表現が可能なので、ファッションだけに限らず、ご自身のコレクターズアイテムや愛着のある物を撮ったり新しい手法にチャレンジしてみてはいかがだろうか。

岡本尚也

東京都渋谷区生まれ。アパレル会社、広告代理店勤務ののち、フォトスタジオアシスタントを経て独立。ポートレートを主体に撮影をこなす。現在、主にアパレル、ファッション分野のフォトグラファーとして活躍中。カラーマネージメント関係の講師も務める。ペンタックスリコーフォトスクール講師。