特別企画

EOS Webcam Utility Betaで高品質なWeb会議システムをつくってみよう

レンズ選びのポイント、ライティングを楽しむヒントも

前回はキヤノンの一眼レフカメラや、ミラーレスカメラをパソコンと接続するだけでWebカメラとして使用できる「EOS Webcam Utility Beta」の導入方法や基本的な使い方を紹介した。

本ソフトはキヤノンUSAが公開するベータ版ソフトであるが、接続も安定しており多くのEOSユーザーがZoomなどのWeb会議に導入している。今回は、このEOS Webcam Utility Betaをもっと使いこなしていくアイデアやコツについて、さらに掘り下げて紹介していこうと思う。

EOS Webcam Utility Betaとは

まずはじめにEOS Webcam Utility Betaについて、簡単におさらいしておきたい。通常、一眼レフカメラやミラーレスカメラは、パソコンとUSBケーブルで繋いだだけではWebカメラとして認識されることはなく、Web会議に自分のカメラを使いたい場合はキャプチャーボードなど専用の機器を用意しなければならなかった。

しかし、キヤノンUSAが4月末に公開したEOS Webcam Utility Betaは、パソコンにインストールするだけで、対応するカメラ(EOSシリーズおよびキヤノン製レンズ一体型デジタルカメラの一部機種)を、USBケーブル経由でパソコンに繋げるだけでWebカメラ化でき、センサーサイズやレンズ選択で有利なカメラ製品の高画質な映像を、そのままWeb会議で使えるという優れたソフトだ。

現在(2020年5月時点)のところ、EOS Webcam Utility Betaは、キヤノンUSAのみの配布、かつWndows専用のベータ版のみの展開となっており、国内では配布されていない。そのため国内でのサポートは受けられない状況ではあるものの、私が試した限りでは日本語環境でも問題なく使用できている。導入から設定までの流れは、前回記事(記事はこちら)をご参照いただければと思う。

キヤノンUSAが公開している情報によると、対応するカメラは入門機から上級機までと幅広く、対応リストにないEOSについても問題なく使えたという情報も見かけるようになってきている。

ソフトの性質上、実際に使う場合は自己責任にて試してもらうことにはなるが、手軽に導入できる優れたソフトであることは、あらためて強調しておきたい。

MacでEOS Webcam Utility Betaを使うには

EOS Webcam Utility Betaは、現在の所Windows専用のみのリリースで、今後Mac版が用意されるというようなアナウンスはみられない。従ってMacユーザーは使う事ができない、ということになるのだが、どうしてもMacで使いたいと言う場合もあるだろう。その場合、実はまだ道が残されている。そう、「Boot Camp」でMacにWindows環境を構築することだ。

Boot CampはAppleが公式に配布しているソフトであり、これを使う事でMacにWindowsをインストールすることができるようになる。正確には、macOS上で動かすのではなく、起動時にmacOSかWindowsを選べるようになるだけなのだが、Windowsのライセンスだけ購入すればMacでもWindows環境内でEOS Webcam Utility Betaを使う事ができる。

実際、手持ちのMacBook Pro(Late2016)のBoot Camp環境でEOS RをWebカメラとして使う事ができた。どうしてもMacで使いたい人は、AppleのBoot Campサポートページ(公式サイト:https://support.apple.com/ja-jp/boot-camp)をチェックしてみよう。

AppleのBoot Campサポートページを開いたところ

EOSをWEB会議に使うためのポイント

EOS Webcam Utility Betaを使えばカメラを繋いだだけで通常のWebカメラとは比較にならないほどの高画質な映像をWeb会議で使えるようになるわけだが、より高品質な映像を快適に使うためにはいくつかの押さえておくべきポイントがある。ここからはこれらのポイントについて一つずつ紹介していきたい。

ポイント1:レンズの選びかた

最初のポイントはレンズの選び方についてだ。Web会議でよく使われるパソコンやタブレットのインカメラはかなり広角に設定されていることが多いが、近距離から広角で撮影してしまうと顔に歪みが生じやすくなってしまうのだ。

EOSをWebカメラとして使用する場合は35mm判換算で35~50mmくらいの画角がスッキリ映るのでおすすめだ。35mmだとカメラと顔の距離が40~50cmくらい離れるくらいの距離をとると、程よい映り具合になる。デスクにもうすこし余裕があるなら、さらにカメラを離して、焦点距離50mmくらいのレンズを使用すると、背景の映る範囲も限定され、ボケ感も大きくなるので、より一眼カメラらしい映像になるはずだ。

EOS R+35mm F1.8の場合
一般的なインカメラより少し画角が狭めでノートPCの画面と同じ位置にカメラを置くならちょうど良い画角だ
EOS R+50mm F1.8の場合
35mmよりも背景の写る範囲が狭まり、ボケ感も強くなった。ノートPCの画面の後方15〜20cmくらいの位置にカメラを設置するとちょうど良い

ポイント2:フォーカスブリージングに気をつけよう

レンズ選びでもう一つ気をつけたいのが、フォーカスブリージングという現象だ。写真(静止画)撮影用レンズの焦点距離は、無限遠にピントを合わせた時が基準になっているため、レンズによっては同じ焦点距離でも近景と遠景で画角が変わってしまうことがある。これがフォーカスブリージングという現象だ。

静止画を撮る場合は露光中にピントを変えることはないため、フォーカスブリージングがあったとしてもほとんど気にならないが、動画の場合は撮影中にピントを変える場合があるため、フォーカスブリージングが大きいとAFに連動して画角が変わってしまい、違和感が出てくる場合があるのだ。

フォーカスブリージングのあり/なしについては、残念ながらカタログスペックで調べることができないため、実際に試してみるかクチコミを探してみるしかないのが現状だ。

一般的に言って、静止画用途のカメラで動画を撮ることが少なかった古い時代のレンズや安価なレンズにAF時に画角が大きく変化するものが多い。一方、最近の新しいレンズは動画を撮影することを想定して設計されているものが多く、フォーカスブリージングもかなり抑えられている場合が多い(すべてではない)。

たとえば手持ちのレンズだとEF-S15-85mm F3.5-5.6 IS USM(2009年発売)は、大きめのブリージングが発生するが、最新のRFマウント用RF24-105mm F4 L IS USMは、ほとんどブリージングが発生しない優秀なレンズだ。フォーカスブリージングの例を動画にまとめてみたので確認してみて欲しい。背景の端の方の変化を見るのが分かりやすい。

手持ちのレンズを使用する場合は、焦点距離やF値に加えてフォーカスブリージングの大きさについても気に留めておくと良いだろう。もし、レンズのフォーカスブリージングが気になる場合は、思い切ってMFにしてピントを固定してしまうことも考えよう。

また、AF動作音についても古いレンズは駆動時の音が大きめに出るため、マイクで音を拾っていないかチェックすると良い。これも動画を意識した最近のレンズは静かで動きも滑らかだ。

ポイント3:カメラの設置

続いてはカメラの設置位置についてだ。これは前回の記事でも紹介したように、顔の正面に来るように設置するのが基本だ。カメラの高さは自分の目線と同じくらいに揃えると、画面越しでも相手に対して、面と向かって会話している印象を与えることができる。低い位置から煽るように撮ってしまうと顔が歪んで見えるだけでなく、見下すような印象を与えかねないので、注意したい。

では、どのような位置に設置するのがいいのかというと、例えば机上でカメラを設置する場合は、高さ30cm程度のミニ三脚を使用するのがおすすめだ。この高さなら、ちょうど顔と同じくらいのレベルにカメラを設置することができる。

35mmならこのくらいの位置関係でカメラを置くとちょうど良い

ノートPCを利用している場合は、ディスプレイの後ろにカメラを設置するのが良いだろう。ディスプレイとカメラの位置が離れていると、画面越しに目が合っていると感じなくなるため、ノートPC自体も10~15cm程度の高さに設置すると良いだろう。デスクトップPCの場合にも、モニターの後ろから画面上部に設置できればベストだが、難しい場合はモニター前方の、左右いずれかに設置して使うのでも良い。

ノートPCであれば、箱や台に置いて手軽に高さを調整できるので、友人同士でZoom飲みをするような場合は、思い切ってカメラ位置を変えて楽しむのも面白そうだ。

ポイント4:構図を決めよう

カメラが設置できたら、次は構図決めだ。通常のWeb会議なら顔を中心にセットするだけなので特に難しい事はないが、EOS Rのように、背面モニターがバリアングル式のカメラだと、背面モニターを前面側に反転させるだけで、映り具合を簡単に確認できる。

また、パソコンには表示されないカメラ側の設定内容も常に確認する事ができる。バリアングル式のモニターを備えていないカメラの場合は、少し感覚が掴みづらいがZoomの画面を見ながら画角を調整してもOKだ。

背面モニターとケーブルが干渉してしまうが、構図調整くらいならあまり問題にならない

ポイント5:音声にも気を配ろう

EOS Webcam Utility BetaではEOSの内蔵マイクの音声は使えないため、デスクトップPCの場合の場合は、別途マイクを用意することも忘れずに。これで超高画質なWeb会議システムの完成だ。

さらに高い画質を目指すために

さらに高品位な映像をもとめるなら、ライティングにも気を配ろう。

昼間であれば窓際の柔らかな光が差し込む場所が最も手軽に良い光を得られるポイントとなる。パソコンのインカメラを使った場合は、窓際は露出の制御が難しくなるものの、EOSを使うなら静止画と同じように露出補正すればOKだ。

自然光が得られない夜間での使用や、窓のない部屋で導入する場合は、LED照明を導入すると一気に質感が向上する。最近は撮影用のLED照明も安価に入手できるようになってきたので検討してみるのも良いだろう。

私は室内で使うときはGodoxのSL-60Wにソフトボックスなど組み合わせて使用することが多い。特に狭い室内で使うなら、直径40cm程度のビューティーディッシュを使うのがおすすめだ。ソフトボックスよりもずっと省スペースになりメリハリのあるライティングができる。

モディファイヤーの厚みが小さいので狭い室内でも取り回しがしやすく、手軽に面光源を得られる。このクラスなら本格的な撮影にも使えるため一つ持っていていても悪くない

また、背景が寂しい場合はアクセントライトを入れるのもおすすめだ。背景にカラーLEDでアクセントカラーを足すだけで印象がガラッと変わってくる。

画面左側にカラーLEDライトを仕込んで背景を照らしている

また、一眼ならではの大きな背景ボケを活かして、イルミネーションを設置するとキラキラした玉ボケを配置できるため、かなり背景を盛ることができる。フォーマルな場では使いにくいかもしれないが、友人同士で使うような場合はこのような工夫をするのも楽しいと思う。

電球色のイルミネーションを仕込んでみた。F2.8以下のレンズで大きな玉ボケを作ろう

まとめ

以上、EOS Webcam Utility Betaを使った高品位なWeb会議システムを構築する方法について紹介した。カメラの接続と設置さえできてしまえばあとは通常の写真撮影と同じ考え方をすればOKなので、ここからさらに工夫しながら使ってみるのも面白い。

こんな時だからこそ、Web会議システムの撮影を極めてみるのも一つの写真の楽しみ方だと思う。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。