特別企画

中一光学の新レンズ「SPEEDMASTER 50mm F0.95 III」を試す

コスパの良さが光る10万円の大口径標準レンズ

中一光学「SPEEDMASTER 50mm F0.95 III」

株式会社焦点工房から、中一光学の⼤⼝径標準レンズ「SPEEDMASTER 50mm F0.95 III」が発売になった。開放F0.95という明るさにも関わらず、希望小売価格は10万円という驚きのプライスも魅力だ。

2014年に登場してレンズ好きを驚かしたSPEEDMASTER 50mm F0.95だが、今年で第3世代に。性能もさることながら対応マウントがグッと増えて、より多くのユーザーが使えるようになっているのも注目のポイントだ。対応マウントはソニーE、ニコンZ、キヤノンRFとなっている。2019年内にはLマウント版(シグマfp、パナソニックLUMIX S1R/S1、ライカSLなどに対応)の登場も予告されている。

今まではソニーのEマウントのみの対応だったが、注目のフルサイズミラーレス機であるニコンZやキヤノンRFマウントに対応している点も魅力だ。

今回は筆者の愛用するNikon Z 7に装着して撮影してみたので、インプレッションをご紹介したいと思う。

Nikon Z 7に装着した状態。

デザインと操作性

全体的な外観はオールドレンズを彷彿とさせるデザインで、クラッシックな印象を受ける。金属製で質量は770g。ずっしりと重い。とはいえNikon Z 7に装着してもバランスは良い印象だ。レンズフードは花形のプラスチック製となっている。

本レンズはAF(オートフォーカス)レンズではなくMF(マニュアルフォーカス)レンズだ。MFレンズで重要なのは、フォーカスリングの操作性だろう。本レンズのフォーカスリングは幅が広く、ホールド感に優れている。フォーカスリングの周りには距離指標が細かく印字され、被写界深度スケールもしっかりと印字されているなど本格的だ。

フォーカスリングのスムーズさとトルク感を見てみよう。開放F値F0.95ともなると、ヘリコイドの操作性に少しでもムラがあるとピント合わせが困難になる。が、本レンズは適度な粘りがあり、シビアなピント合わせもスムーズに行えた。トルク感も十分あり、シビアなピント合わせも心地よく行える。

ちなみに、フォーカスリングの回転角は320度と大きい。大きな回転角は速写性能の面で不利だが、シビアなピント合わせに対してメリットがある。

絞りリングはクリックレスなので、事実上無段階の絞り調整が可能だ。ただし、絞りリングに触れたり、カメラバックの中で勝手に動くこともある。撮影前にはしっかりと絞り値を確認して撮影していただきたい。今回はテストしていないが絞りがスムーズに動くので動画撮影でも使い易いはずだ。

描写力

気になるのはやはり描写力だろう。本レンズを選ぶ理由は開放F値の明るさであり、特に重視されるのは絞り開放からF1.4くらいまでの画質になる。

レンズ構成は7群10枚で、超高屈折率のガラスレンズ1枚および高屈折低分散ガラスレンズ5枚という豪華な構成だ。その結果なのか、このクラスのF0.95のレンズとしては描写力が高く、諸収差も少なく感じられる。

絞り開放で近接撮影などした際、等倍で撮影画像を見ると、睫毛などシャープな部分がモヤッとした印象になることがある。しかし、被写体からある程度離れると、F0.95とは思えないほどシャープになる印象。とはいえ、絞り開放時における近接付近の柔らかさについても、十分実用できるレベルだと思う。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/1,600秒・F0.95・+0.3EV) / ISO 64

現代レンズとしてはコントラストが低めで、柔らかくトーンも滑らかな印象。少し物足りないと思う方もいるかもしれないが、ポートレート撮影などでは肌が滑らかに写ることから、良い選択肢のひとつになるだろう。ただし、ハイライトに色収差が目立つこともあるので、確認しながら撮影したい。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/400秒・F0.95・+1.0EV) / ISO 100

またF0.95の明るさは、夜のストリートスナップで非常に助かった。シャッタースピードを稼ぐことができ、暗いシーンも手持ちで問題なく撮影できた。

被写体まで少し距離のあるシーンなども撮影したがF0.95とは思えないほどシャープに写っている。お店のメニュー看板などの文字も滲むことなく解像しており、しっかり読むことができる。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/60秒・F0.95・-0.3EV) / ISO 200

F1.4まで絞るとしっかりと芯が出てきてピントの山も掴みやすくなる。実写画像を見てもF0.95の時に比べコントラストも上がりカッチリと写る印象だ。

F0.95
撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/60秒・F1.4・+0.3EV) / ISO 360
F5.6
撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/60秒・F1.4・±0.0EV) / ISO 2000

F5.6まで絞ると驚くほどシャープになり、モデルの髪の毛1本1本まで描写する。Nikon Z 7の高画素センサーの良さもしっかりと引き出せている印象だ。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/200秒・F5.6・+1.3EV) / ISO 64

近年のレンズは絞り開放からシャープなレンズが多いので、レンズの味わいをF値を変えることで楽しむことができるのも本レンズの魅力かもしれない。

ボケ味

絞り開放時のボケは非常に大きく、被写界深度をとても薄い。ピント合わせは至難の業だ。例えばF0.95の場合、モデルの目にピントを合わせると鼻や口はボケてしまう。ウエストアップくらいのでモデル撮影でも、背景は大きく綺麗にボケてくれる。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/1,000秒・F0.95・+0.3EV) / ISO 64

ボケの質は素直でとても好印象だ。オールドレンズにみられるようなうるさいグルグルボケになるかと思っていたが、素直にスッとボケてくれるので、とても使いやすい。

いわゆる円形絞りの機構は持たないものの、絞り羽が11枚もあるため、綺麗な丸ボケが楽しめる。細かく見ると丸ボケの輪線に色づきが見られるが、撮影距離と被写体と背景との距離で大きく変わる印象だ。F0.95だということを考えれば優秀だと言えるだろう。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/3,200秒・F0.95・+0.3EV) / ISO 64

最短撮影距離

最短撮影距離は50cm。大口径標準レンズとしては一般的なものだ。最短撮影距離まで近寄ると、人物であれば胸元から顔全体を入れられる。人物撮影する方であれば問題ないだろう。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/100秒・F0.95・+1.0EV) / ISO 100

近接域の撮影はとてもシビアでピント面も数cmしかない。ライブビューを拡大しながらピントを合わせると良いだろう。

逆光

逆光耐性に関しては少し弱い印象。絞り開放の場合、軽く逆光気味のシーンでフレアが発生することがあった。ただ、筆者としてはとても好みのフレア感だ。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/1,600秒・F0.95・+1.0EV) / ISO 100

今のレンズは優秀で、逆光性能についても申し分ない。しかし、ポートレートや花を写す時など、あえてフレアが欲しいときなどに困ることがある。本レンズはフレア感を演出できるので前向きに使える。絞り開放の時が最もフレアが出る印象なので、癖を掴んでコントロールする必要はあるだろう。フードを外すと発生しやすくなるようだ。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/1,600秒・F0.95・+1.0EV) / ISO 100

まとめ

今回はポートレートを中心に作例を撮影したが、思いのほか本レンズの良さを体感することができた。正直、「10万円前後のF0.95レンズなど使えるはずがない」と思っていたのだから、その性能に正直驚いた。

また、こうした大口径レンズはピント合わせに苦労するものだ。しかし、ミラーレス機用の本レンズは、ピント位置を拡大しながら撮影できるのがありがたい。シビアなピント合わせが行えることで、レンズのポテンシャルを引き出せるのだ。

撮影:上田晃司
Z 7 / SPEEDMASTER 50mm F0.95 III / 絞り優先AE(1/60秒・F0.95・+1.0EV) / ISO 64

F0.95という世界は特別であり想像を遙かに超える大きなボケ感を楽しめたり、ローライトシーンでシャッタースピードを稼げたりとメリットがある。本レンズはコストパフォーマンスも高く、描写力もしっかりしている。大口径レンズファンの方はもちろんのこと、明るいレンズで写真を楽しみたい方に、ぜひ使ってもらいたい1本だ。

提供:焦点工房
モデル:川端紗也加

上田晃司

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。