ニコンZ × NKKOR Zレンズ 写真家インタビュー
ポートレート作品に合う濃密な色表現…大村祐里子さん
2019年10月31日 07:20
ニコン初のフルサイズミラーレスカメラ「Z 7」が発表され、およそ1年が経った。その間、予告されていたNIKKOR Zレンズが次々と発売され、瞳AFを実装するなど大規模なファームウェアアップデートも行われた。この10月には弟分とも言える「Z 50」も発表。ますますNikon Zの世界が盛り上がりを見せている。
この連載は、Nikon Zを使いこなす写真家に登場いただき、Nikon Zに惹かれた理由や、そのきっかけなどを聞くインタビュー企画だ。
今回は大村祐里子さんに、愛用するZ 7とNIKKOR Z 85mm f/1.8Sについて聞いた。(聞き手:中村僚、作品キャプション:大村祐里子)
大村祐里子
1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。
写真店のアルバイトがプロになるきっかけ
——写真家になったきっかけを教えてください。
もともとは「写真家になろう」とは考えていなくて、大学を卒業してフリーのWebデザイナーとして働いていました。ただWebページを作る中で自分でも写真を撮る必要が出てきて、そこで初めて一眼レフカメラを買い、学校に通ったり、知り合いが店長を務める写真店にアルバイトさせてもらったりして、本格的に写真を教わりました。
その写真店は中判やフィルムカメラの取り扱いが多くて、お客さんもフィルムの現像に来るんですよね。そこで素敵な写真をたくさん見ているうちにフィルムカメラにハマっていきました。
その時もまだ写真家になろうとは思っていませんでしたが、バイトをしていたカメラ屋さんがお店を畳むことになり、その後の人生を考えたとき、「写真がすごく楽しいし、これを仕事にしたい」と思いました。
その後会社員として1年間働いたあと、写真家のアシスタントとして2年間教えてもらい、独立して今に至ります。
——現在、仕事でよく撮影している被写体はなんでしょう。
人物撮影です。対談やインタビュー、宣材写真も撮ります。最近は旅の写真やスナップの仕事も増えています。
——人物撮影の際、男女でポイントは違うのでしょうか。
個人的な感触ですけど、男性の方が光の自由度が高いです。ストロボの光を直接強く当てても絵になることが多くて、意外と様になります。
一方で、女性の場合はライティングに気を使います。肌をきれいに見せたり、髪の毛をキラキラさせたり、メイクも見せたりしないといけないので、やはり自由度は下がる気がします。顔に影ができるのもあまり好まれないですね。
——大村さんの写真に影響を与えている他の芸術はありますか?
わたしの写真の色は絵画から影響されている部分もあります。一方で小説も好きです。物語の中の心に響いた一文を絵にするとどんな感じだろうかとイメージするのが楽しいです。
肌色のノリの良さ、リアルな奥行き感
——大村さんがカメラに求めることはなんですか?
「これを使えば自分の思い通りの絵が撮れる」でしょうか。信頼できるかどうか。その意味でZ 7の絵はスッと自分の中に入ってきました。他のカメラだと、撮影した写真をPCで見た時に「あれ?」と思う色やボケ方があるんですよね。Z 7はそれがない。自然な描写で、写真に奥行きが生まれるような表現になります。
——Z 7はいつ導入されました? 最初の印象は?
Z 7は発売直後に手にしました。いざ使ってみると自分の中に絵作りがスッと入ってくるので、とても気に入っています。特に人物に関しては抜群です。肌色のノリがよく、奥行きが出てよりリアルなんです。深さを感じるというか、こってりして被写体の存在感が出ます。
シャドウ部の粘りもいい感じです。今回はほぼ自然光で撮影して、かなり暗い中で撮ったものもありますが、シャドウの階調がしっかり残ってくれます。これはZ以前からのニコンのカメラの特徴だと思いますね。髪の毛の一本一本の描写や肌の奥行きは、ニコンのシャドウ描写力の賜物だと思います。
——なるほど。では操作感はどうでしょうか?
問題ありません。私は手が小さい方なので、男性はもう少し大きい方がいいかもしれませんね。ボタンがすべて右側に寄っているのも、私にとってありがたいところです。
すべて右手で操作できるのは右利きですしやりやすいです。それと、手は右利きですけど利き目は左なので、なおさら右手側に集中しているのはありがたいです。
表現をアシストする「瞳AF」
——ファームウェアアップデートで瞳AFが使えるようになりました。人物を撮影する上ではかなり大きな助けになるのでは?
使いやすさは段違いで変わりました。もちろん「顔認識」はアップデート前からあって、十分にピントが合っていましたが、それでも瞳AFのおかげでより安心できるようになりましたね。
大きく変わったのは、絞り開放を使えるようになったことです。瞳AFがばっちり目にピントを合わせてくれるので、F1.8などの開放絞り値でも安心してAFに任せられます。心配事が減るのは撮影ではものすごく大事です。かなり暗い中でも動いてくれますし、開放にしないとできないボケの描写もあるので、瞳AFはピントだけでなく表現のアシストにもなるんです。
——撮影の時はEVFですか? それともライブビュー?
フィルムカメラはファインダーで、ミラーレスカメラはライブビュー……特に意識はしなかったのですが、気づいたらそう使い分けをしていました。ライブビューならまわりの状況も見ながら撮れるので、視野が広くなって臨機応変に対応できるんです。
ただ、Z 7のEVFはきれいなので、本当に自分の世界に集中したい時はファンダーを除きます。長時間見ていても疲れませんからね。ライブビューならチルト式液晶を使ってハイアングルまで持ち上げて、瞳AFで合わせながらタッチシャッターも使えます。
——ピクチャーコントロールは使いますか?
意外と写真ごとに設定するのが好きなんです。基本は「スタンダード」ですけど、少し淡くしたいときに「ニュートラル」、鮮やかにしたいときに「ビビッド」に合わせるのも悪くないです。Zシリーズから追加された「クリエイティブピクチャーコントロール」はスナップの時に使ったりします。
——ボディ内手ぶれ補正の効果は実感できますか?
かなりの実力があると思います。今回、夕方以降のかなり暗い中で「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」を使ったのですが、1/20秒を手持ち撮影できました。高感度耐性が上がったとはいえ、手ぶれ補正できちんと止まるのは助かります。
——バッテリーのもちはどうですか?
今回は朝から晩まで撮影しましたが、1回も交換しませんでした。D850とも同じ電池なので、使い回しができるのも便利です。
——ミラーレスになって使うようになった機能はありますか?
サイレント撮影モードです。これはミラーレスならではの利点です。例えばライブや舞台の撮影では、音を出したら一巻の終わりです。先日は禅の撮影があって、足音すら立ててはいけないような現場でした。ミラーレスが出る前はカメラにタオルを巻いてシャッター音を消していたりしましたから。
ポートレートはこの1本で
——今回使用した「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」の感触はいかがですか?
とてもよかったです。「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」「NIKKOR Z 50mm f/1.8S」と性能の高い単焦点レンズが来て、その系譜を裏切らない描写でした。極論を言えばポートレートならこの1本があれば問題ないです。奥行きが深い感じの描写ができて気持ちよかったですね。
このレンズは大きくボケる方で、でも主張しすぎずに自然と馴染んでいます。うまく被写体を立体的に表現して引き立ててくれるボケです。
——被写体を前にして焦点距離や構図で迷う人もいらっしゃいますが、大村さんは迷わないですか?
レンズの焦点距離と画角は大体把握しているので、モデルとの距離で迷うことはないですね。逆に撮影場所の広さに合わせてレンズを選ぶ感じです。ただ、基本的には85mmを使うことが多いです。
85mmはわたしの好きな焦点距離で、50mmだとボケが弱い、135mmだと背景がわからない、となってしまいますが、85mmは背景を伝えつつちょうどよいボケができる画角です。ポートレートでは背景の雰囲気がとても大切なので、85mmの「説明しつつうるさくない」という画角がとても好きなんです。
シャープさも、十分なキレがありつつわざとらしくない、という絶妙な描写だと思います。まれに後付けシャープネスをかけたようなキレすぎるレンズもありますが、このレンズはそういったわざとらしさはありませんでした。絞り開放にしても問題ありません。
——今後登場を期待するNIKKOR Zレンズはなんでしょうか?
自分の都合で言えば135mmです。あと、70-200mmF2.8もほしいですね。わたしの仕事にはこの2本は必須です。その後に50mmのマイクロレンズなどもあると楽しくなります。
——Z 7とZレンズの組み合わせは、今後も人物撮影に有効活用できそうですか?
わたしは使い続けると思いますし、まわりのカメラマンにもおすすめしたいです。絵としては違和感なく入って、スムーズに馴染めると思います。特に肌は重厚で奥行きが表現されるので、色にこだわりがある方にこそZを使ってほしいですね。