特別企画

ライカC-LUXとバンコクを旅する

1型センサー+光学15倍ズームで切り取る、旅先の日常

スマートフォンの普及に伴い、市場規模が縮小しているコンパクトデジタルカメラ。その中で奮闘し、注目されているのが“1型センサー+高倍率ズームレンズ”の機種だ。スマホカメラより画質的余裕がある撮像素子と、広角から望遠まで幅広くカバーする高倍率ズームレンズは、スマホでは得られない写真が楽しめる。そして上着のポケットにも入る大きさで、コンパクトカメラらしい携帯性にも優れている。その1型高倍率コンパクトが、ライカからも登場した。それが「ライカC-LUX」だ。

上着のポケットに入るサイズをキープ

ライカC-LUXは、1/1.7型CMOSセンサーを搭載したコンパクトカメラ「ライカC」の進化版といえる存在だ。画質の基本となる撮像素子が1型と大きくなったためカメラ本体もライカCよりは大柄だが、それでもバッグや上着のポケットに入るほどの小型を維持している。

ボディカラーはライカCを踏襲するライトゴールドと、新しいミッドナイトブルーの2色。今回はミッドナイトブルーを使用した。黒に近い深い青と、シルバーのコントロールリングとのコントラストが美しい。そして質感の高さもライカらしい。グリップを握った瞬間、手にフィットする感触の良さが伝わってくる。ライカカメラ社の製品にはどれもプレミアム感があるが、それはコンパクトデジタルのライカC-LUXでも同じ。ライカを手にする悦びが味わえる仕上がりだ。

ライカC-LUX(ライトゴールド)
ライカC-LUX(ミッドナイトブルー)

レンズは「LEICA DC VARIO-ELMAR F3.3-6.4/8.8-132mm ASPH.」。35mm判に換算すると24-360mm相当の光学15倍ズームだ。本格的な広角から、超望遠に迫る画角が得られる。小さなボディで、これだけのズーム比があるのには驚いた。

コンパクトデジタルカメラの最大のメリットは携帯性だ。いつも持ち歩いて、撮りたいシーンに出会ったらすぐ構えられる。日常を撮るのにも向いているが、ライカC-LUXを手にしたとき「旅に適しているのでは?」と思った。広角から望遠までカバーしつつ、スマホより余裕ある画質とコンパクトなボディは、旅の撮影でも必ず活躍するはず。そこで急いで旅の計画を立てた。行き先はタイの首都バンコクだ。

ラーマ3世記念公園にて。これが今回の撮影機材のすべてだ。ライカMシステムは、ライカM(Typ240)と28mm、35mm、50mmのレンズ3本のみ。1型高倍率コンパクトのライカC-LUXでライカMの苦手なシーンをカバーする、という組み合わせでバンコクを旅した。

バンコクへ持っていく機材は、ライカC-LUX以外に自前のライカMと「ライカ エルマリートM 28mm F2.8 ASPH.」、「ライカ ズミクロンM 35mm F2 ASPH.」、「ライカ ズミルックスM 50mm F1.4 ASPH.」のレンズ3本。以上だ。望遠レンズは持っていかず、広角も28mmまで。レンジファインダーカメラなので、近接も得意ではない。

そうしたM型ライカのウィークポイントを、ライカC-LUXは見事にカバーする。逆にライカC-LUXは大きなボケは得意ではないので、そうした状況ではライカMが威力を発揮する。これは一眼レフカメラやミラーレスカメラとの組み合わせでも有効だろう。システムを最小限にして、それでカバーできないシーンをライカC-LUXで抑える、という使い方が可能だ。

インプレッションと実写画像

8月のタイは雨季。それでも滞在中に雨に降られることはほとんどなく、ほぼ曇天だった。ルンピニー公園に建つラーマ6世像とバンコクの街並みを24mm相当で撮影。解像力や空の階調は申し分ない。バンコクは高層ビルが次々と建設されている。奥に通る高架鉄道はBTSスカイトレイン。物価を考えれば運賃は決して安くはないが、いつも多くの乗客でにぎわい、発展の勢いを感じる。

LEICA C-LUX / 8.8mm(24mm相当)/ 絞り優先AE(1/800秒 / F5.6 / ±0EV)/ ISO 125

運河を行く水上バスは、バンコク市民の重要な足だ。水しぶきを上げながら水面を走る姿は迫力がある。水面や水上バスの明るさに影響を受けないよう、マニュアルで露出を固定。明るさをやや切り詰めて、ハイライトを活かした。ライカC-LUXはAFも速く、疾走する水上バスを確実に捉えた。

LEICA C-LUX / 14.7mm(40mm相当)/ 絞り優先AE(1/800秒 / F4.5 / ±0EV)/ ISO 400

雨季はフルーツが美味しい季節だ。ライカC-LUXの最短撮影距離は、ワイド側でレンズ先端から3cm。ライカMでは不可能な近接撮影ができる。リヤカーに載せて売っているドラゴンフルーツを、26mm相当でクローズアップ。絞りを開放にすると下に敷いた新聞紙がほどよくボケて、立体感のある仕上がりになった。解像力も高く、フルーツのみずみずしさが伝わる写りだ。

LEICA C-LUX / 9.3mm(26mm相当)/ 絞り優先AE(1/250秒 / F4 / ±0EV)/ ISO 125

商店街で出会ったネコ。驚かせないようにアングルをそっと下げて、背面モニターを見ながらフレーミング。ワイド側24mm相当で衣料品店の雰囲気も出した。ピントは背面モニターでネコの顔にタッチ。タッチパネルは、ローアングルやハイアングルから狙う際にとても有効だ。

LEICA C-LUX / 8.8mm(24mm相当)/ 絞り優先AE(1/160秒 / F3.3 / -0.3EV)/ ISO 125

バンコクの名物といえば、三輪タクシー「トゥクトゥク」だ。市民の足でもあるが、どちらかといえば観光客向けが多い。客待ちをしているトゥクトゥクの列を、望遠側360mm相当で撮影。望遠らしい圧縮効果を活かした写真が撮れた。15倍ズームの望遠側でも描写が甘くならず、シャープな写りが楽しめる。

LEICA C-LUX / 132mm(360mm相当)/ プログラムAE(1/160秒 / F6.4 / -0.7EV)/ ISO 125

海外に行くと、必ずといっていいほど訪れるのが市場だ。市場に行くと、その土地の生活が見えてくる。BTSスカイトレインのトンロー駅近くで開かれていた市場を歩く。コンパクトカメラのライカC-LUXは、その場の空気を乱すことなく、バンコクの日常を撮影できた。

LEICA C-LUX / 13.1mm(36mm相当)/ プログラムAE(1/100秒 / F3.7 / ±0EV)/ ISO 125

ライカはライカMモノクロームをはじめ、モノクロの写りにもこだわりがある。ライカC-LUXのフォトスタイルにある「モノクロームHC」は、豊かな階調と引き締まった黒で本格的なモノクロ作品が得られるモードだ。橋の上からタイ国鉄の操車場と、バンコクのビル群を狙った。モノクロームHCに設定。東南アジアのカラフルなイメージとは異なる、重厚感のある写真に仕上がった。

LEICA C-LUX / 98.9mm(270mm相当)/ 絞り優先AE(1/200秒 / F8 / ±0EV)/ ISO 125

敬虔な仏教徒が多いタイでは、バンコクにも多くの仏教寺院があり、僧侶の姿もよく見かける。道の脇から、突然ほうきを持った僧侶が現れた。これから掃除だろうか。一瞬の出来事だったが、ライカC-LUXはレスポンスが良く、僧侶の後ろ姿を捉えることができた。いつ訪れるからわからないチャンスには、携帯性に優れたコンパクトカメラが便利だ。

LEICA C-LUX / 19.8mm(54mm相当)/ 絞り優先AE(1/200秒 / F5.6 / ±0EV)/ ISO 125

バンコクを流れるチャオプラヤー川。小さなボートからフェリーまで、様々な船が行き交う。15倍ズームの望遠端360mm相当でボートを撮影。ライカC-LUXはコンティニュアスAFや10コマ/秒の連写が可能で、動体にも強いコンパクトカメラだ。また233万ドットのEVF(電子ビューファインダー)も装備しているので、超望遠域でも安定して構えられる。

LEICA C-LUX / 132mm(360mm相当)/ 絞り優先AE(1/250秒 / F6.4 / -0.7EV)/ ISO 125

王宮、ワット・プラケオの夕暮れ。曇り空ばかりだったのが、このときだけは晴れ間が覗き、夕方らしいオレンジ色の光が現れた。敷地の外から狙っているため、ズーミングで周囲の塀をカットした。明暗差が大きいシーンだが、シャドーには潰れずトーンが残り、ハイライトもトーンが出ている。豊かな階調と適度なコントラストを持った写りだ。

LEICA C-LUX / 50.5mm(138mm相当)/ プログラムAE(1/400秒 / F5.7 / ±0EV)/ ISO 125

日が落ちると、ナイトマーケットが活気づいてくる。人が歩けば揺れる歩道橋から撮影しているため、三脚でもブレてしまう条件。しかしライカC-LUXは5軸手ブレ補正を内蔵しているおかげで、日没直後のナイトマーケットもブレずに撮れた。また街灯の強い光が画面に入っているが、フレアやゴーストはほとんど出ていない。ライカレンズの優秀さがわかる。

LEICA C-LUX / 12.2mm(33mm相当)/ 絞り優先AE(1/15秒 / F4 / ±0EV)/ ISO 125

バンコクの街中を歩くと、屋台をたくさん見かける。市民が気軽に立ち寄って小腹を満たす。夜の屋台を高感度ISO 1600に設定して撮影。ノイズ感が少なく、大きなプリントも耐える画質だ。昼間はもちろん、夜でも快適に撮り歩ける。

LEICA C-LUX / 17.1mm(47mm相当)/ 絞り優先AE(1/50秒 / F4 / ±0EV)/ ISO 1600

常に持ち歩きたくなるコンパクトカメラ

1型センサーと15倍ズームレンズを搭載したライカC-LUXは、様々なバンコクの日常を捉えることができた。バンコクの最高気温は連日30度を超え、湿度は約80%の蒸し暑さ。その中を毎日2万5,000歩から3万歩も歩きながら撮影するので、機材はできるだけコンパクトにしたい。小型のカメラバッグに収まるライカMとライカC-LUXの組み合わせは、ベストといえる機材だった。

ホテルの朝食。せっかくなら旅先での食事も記録したい。そのために、わざわざ大きなカメラを持ち出すのは抵抗がある。またホテル内や食事に出るときでも、もしかしたら撮りたい瞬間に出会うかもしれない。携帯性と画質に優れたコンパクトカメラがあれば、いつでも作品を撮る準備ができる。

35mmフルサイズのライカMと1型センサーのライカC-LUXを比べると、画質はもちろんライカMが上だ。とはいえ実用上は十分併用できるレベルだと感じた。今や1型センサー搭載の高倍率コンパクトカメラは、それだけの性能を持っているのだ。しかもライカMでは苦手な望遠撮影や近接撮影ができ、手ブレ補正も内蔵している。初めはライカMのサブ機という意識でバンコクへ向かったが、撮影しているとそれぞれ得意な表現があるため、結局両方がメインとして活躍した。

日常の目として、さらに旅の作品撮りにも、ライカC-LUXは満足できるカメラだと実感した。しかもライカらしいデザインと質感も味わえる。ライカC-LUXを手にしたら、必ず常に持ち歩いて、作品を狙いたくなるだろう。

協力:ライカカメラジャパン株式会社

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。