PENTAX 100YEARS
いまこそ挑戦!PENTAX KP的オールドレンズの楽しみ方
「MANUAL LENS」設定でレンズの描写特性を活かそう
2019年12月27日 12:00
レンズ交換式のデジタル一眼カメラを使う楽しみのひとつに、すでに生産を終えたレンズを装着しての撮影があります。収差をなくす方向で進化した現行レンズと異なり、そういったオールドレンズには、今のレンズにない描写の癖や、味わいがあると人気を博しています。
今年、旭光学工業合資会社の創業から100年目にあたるPENTAXも、多数の交換レンズを発売してきました。その多くがいくつかの制限はあるものの、現行のPENTAXボディに装着して撮影できます。さらにPENTAX KPにはオールドレンズの描写特性をなるべく素直に活かす設定があり、これを使うことでオールドレンズの素性を楽しむことが可能なのです。
このページでは写真家の大村祐里子さんに5本のオールドレンズをPENTAX KPで試していただき、作品とともにレンズそれぞれの描写の特徴などを説明してもらいました。(編集部)
オールドレンズの魅力とは?
最新のレンズは本当によく写る。ものすごい逆光のシーンでも、フレアやゴーストはほとんど入らないし、ボディ側の機能と連携すれば、周辺光量や色収差、歪曲収差なども補正できてしまう。ときどき最新レンズのレビュー記事を書かせていただくことがあるが、毎回その性能に驚いてばかりだ。
一方、最近ではオールドレンズに魅了される人が増えている。オールドレンズとは、いわゆるフィルムカメラの時代に作られた、古いレンズのことを指す。クラシカルで無骨な造形はさることながら、モノによってはフレアやゴーストが盛大に入ったり、ハイライトがにじんだり、色の乗り方が浅かったり、変わったボケ方をしたりするものがあり、最新のレンズにはないそういった「描写」に惹かれる人が多いようだ。また、最新レンズに比べて安価で手に入る、ということもブームの一翼を担っている。
ただし、オールドレンズという名称ではあるが、昔のレンズだから作りがよくない、という話ではない。それぞれのオールドレンズは、当時のカメラボディに最適化されて作られたものだ。私はフィルムカメラが大好きでいまだに数多くの機種を使っているが、それぞれのボディに合わせて作られたレンズで撮影した写真は、いま見ても「よく写るな」と感心するものがたくさんある。
オールドレンズの特徴として語られることの多い甘めの描写というのは、経年劣化によりレンズのコーティングが剥げてフレアやゴーストが入りやすくなっている、というような場合もあるし、そもそもデジタルカメラに最適化されて作られたものではないので、甘く見えて当然、というところでもある。また、同じレンズでも、描写には相当な個体差があるので注意したい。フレアやゴーストがよく入る、という触れ込みでも、実際ほとんど入らない個体もあったりする。
あえて、現代においてそんなオールドレンズの描写を楽しむ、というのも一興だ。近頃は10代・20代前半といった若い方からカメラやレンズの相談を受けることも多いのだが「フレアやゴーストがたくさん入るレンズがほしい」と言われることがよくある。最新レンズでは悪とされているフレアやゴーストが好きな人もいるのである。
私のように仕事で撮影をしている人間からすると、取材などで状況カットを撮ったときにレンズの描写が甘すぎて状況が伝わらない、といったことは許されない。ゆえに、最新レンズを使い、すみずみまできちんと写す必要がある。しかし「表現」として写真を楽しむのであれば、自分の好きな描写をするレンズを使えば良いと思う。たとえそれが最新のレンズでなかったとしても。
オールドレンズの大半はマニュアルフォーカスなので、自分でピントリングを回してピントを合わせる必要がある。AFレンズに比べて撮影のテンポはやや悪くなるが、それと引き換えに、被写体とじっくり向かい合い、一枚一枚を大切に撮る、という感覚を得られるように思う。また、ピントの位置を必ず自分で決めなければならないので「私は何を表現したいのか」をより明確に意識できるようになる。
今回はPENTAX KPに何本かのオールドレンズを装着して撮影を行った。PENTAX KPの無骨な雰囲気のボディに、クラシカルなレンズがよく似合う。不思議と違和感はひとつもない。手に持ったときのサイズも、女性にはちょうどよい。
オールドレンズの魅力は光学ファインダーでこそ生きてくる。目の前の光景をそのままファインダー内で確認できるというのは、とても気持ちの良いことだ。いいなと思ったときにパッと撮れるので、機動力も高まる。ただし、PENTAX KPはライブビュー機能も搭載されているので、より細かいピント合わせに関しては、ライブビュー+ピント拡大機能をあわせて使うと良い。今回もそのようにして撮影している。
ここから先は、PENTAX KPにオールドレンズを装着して撮影した作品をご覧いただきたい。PENTAX KPのイメージセンサーサイズはAPS-C相当である。したがって、実際の画角は、レンズ表記の約1.5倍となるのでご注意いただきたい(例:28mmのレンズであれば、実際の画角は28mm×1.5倍=42mm相当となる)。
KマウントとM42マウント
PENTAXのオールドレンズには大きく分けてKマウント用とM42マウント用があります。例えば今回試用したレンズのうち、「smc-PENTAX-M」から始まるレンズがKマウント用、「SUPER-TAKUMAR」が付いているものがM42マウント用のレンズです。
KマウントレンズはPENTAXのデジタル一眼レフカメラにそのまま装着できます(Kマウントを踏襲したKAF系のマウントを採用しているため)。一方、M42マウント用レンズをKマウントボディに装着するには、M42マウントをKマウントに変換するアダプターが必要。さらにレンズに装備された自動絞りのON/OFF切り替えスイッチをONにすることで撮影が可能です。M42マウント用レンズについてはレンズによって装着や操作の方法が異なるので注意してください。(編集部)
SUPER-TAKUMAR 28mm F3.5
——意外なまでに手堅い画質 コンパクトなスナップシューター
堅牢性を感じる黒い鏡筒は、現代ではなかなかお目にかかれない質感でとても格好良い。
しかも片手にすっぽりおさまるくらいコンパクトで、PENTAX KPに装着すると驚くほどバランスが良い印象。それでいてずっしりとした重量感があるため、操作もしやすい。ピントリングのトルク感も重ためで、絞りリングのクリックはかっちりしている。勝手に絞りリングが動いていた、などの誤操作も起こりづらい。
PENTAX KPに装着すると42mm相当の画角になる。標準よりやや広い画角だ。小型軽量さもあいまって、スナップには最適だと感じた。
写りは、小ささからは想像できないくらいしっかりしている。逆光下でも、フレアやゴーストもほとんど出ない。コントラストは思ったより高く、絞ったときのパリっとシャープな感じはとても気持ちが良い。遠景撮影にも向いている。
ピントの山が見やすい、PENTAX KPの光学ファインダーの良さが生きるのはこういうシーンだ。一瞬で構図が変わってしまうような場合は、機動性の高い光学ファインダーのほうが、ベストな瞬間を切り取れる。
海辺を歩く人を撮影した。夕方、雲の状態や差し込む太陽の光がとても美しく、それをすべて写し撮りたいと思い、F8まで絞った。その場の澄んだ空気感をまるごと写せたように思う。設計の古さを感じさせない、意外にしっかりした描写。
SUPER-TAKUMAR 35mm F3.5
——汎用性の高い画角と優しい表現
現代のレンズにないサイズ感、かっちりした操作性、堅牢性を予感する全体的な質感など、前出のSUPER-TAKUMAR 28mm F3.5とほぼ同じ印象。ひんやりする金属の感覚が、最近のレンズとは異なる期待を抱かせる。
PENTAX KPに装着すると52.5mm相当の画角になる。標準レンズ(50mm)に近い画角となるので、今回使用したレンズの中では、最も汎用性が髙いと感じた。PENTAX KPに装着しっぱなしにするにはこのレンズが最適かもしれない。
色乗りに関しては、現代のレンズに比べると若干彩度が低いように感じるが、ナチュラルな発色が心地よい。
逆光下でチューリップを撮影した。中央にマゼンタ色の光がぼんやりと写ったが、こういうものこそオールドレンズの醍醐味だと思う。チューリップの赤の発色も嫌味がない。
こういった瞬間をパッと切り取れるのが光学ファインダーの嬉しいところ。高すぎないコントラストが、帰り道につく人たちの影を優しく描写している。
smc-PENTAX-M 50mm F1.4
——F1.4のボケを手軽に テーブルフォトにも強い近接撮影能力
開放F1.4の大口径レンズながら、現代の感覚からするとかなり小型軽量。ピントリングに突起(ローレット)がついているのも特徴で、マニュアルフォーカスが当然の時代を彷彿とさせる。おかげでフォーカス操作がかなりやりやすい。
PENTAX KPに装着すると75mm相当の画角になる。寄れるので、絞り開放にして被写体に近づくと、前後を大きくぼかして楽しめる。
色味はとてもナチュラル。輝度差のある箇所にはフリンジが盛大に出るがそれも味だ。F1.4の大口径がどんな被写体でも絵にしてくれるような感覚がした。
背景を大きくぼかすのがとにかく楽しくなるレンズだ。ナチュラルの設定で、ご覧の通りの発色である。椅子に座ったままこの距離感で撮影できるので、テーブルフォトにも向いている。
池に浮かんだ葉にピントを合わせ、絞り開放で撮影した。ちょっと甘めの描写が、水面をにじむようにぼかし、絵のような一枚に仕上げてくれた。
smc-PENTAX-M 50mm F1.7
——薄さと明るさを両立 見た目も格好良いハイパフォーマー
今回ご紹介しているレンズの中で最もコンパクトだ。F1.4ではなくF1.7とはいえ、この小ささは衝撃的。思わず「薄い」とつぶやいてしまった。小さすぎるように見えるが、このレンズのピントリングには突起(ローレット)がついており、操作は非常にやりやすい。
PENTAX KPに装着すると75mm相当の画角になる。F1.7の大きなボケ味と、コンパクトさを生かした機動力の高さで、どんなところにも連れて行きたくなる。ありふれた場所を、面白い絵に変えてくれるレンズだと感じた。
魚が泳ぐ水槽を撮影した。漂う泡や別の魚が大きくぼけ、模様のようになった。KPのカスタムイメージを「ポップチューン」に設定し、ビビッドな色合いに変えてみた。オールドレンズとカスタムイメージを組み合わせて撮影すると、カットごとに新鮮な驚きが味わえる。
イルミネーションの電飾の中を覗き込むようにして撮影した。一見何なのかわからないが、イルミネーションの電飾部と、背景に見える別のイルミネーションが大きくぼけて、面白い一枚になった。よく見ると色にじみがすごいが、この場合は味と呼びたい。
smc-PENTAX-M マクロ100mm F4
——マクロにも柔らかな描写を
今回唯一のマクロレンズだ。鏡筒がやや長く見えるが、他のレンズが小さすぎただけで、現代のレンズと比べれば小さい方だ。ただし、繰り出し式なので、被写体に寄ろうとすると鏡筒は相当長くなる。
PENTAX KPに装着すると150mm相当の画角になる。完全に望遠レンズであり、中途半端な距離にある被写体には使いづらい。思い切ってグッと寄るか、遠くにあるものを写すのに向いていると感じた。描写は非常に柔らか。
マクロレンズらしい使い方をしてみた。カスタムイメージ=ナチュラルでこの発色である。
遠くに富士山が見えたので撮影してみた。100mmの望遠レンズの圧縮効果が、富士山をこちらにぐっと引き寄せてくれた。見たままの色味だと味気なかったので、カスタムイメージをカットごとにランダムに変化させる「クロスプロセスのシャッフル」を使用してみた。偶然だが、赤く不思議な印象となったこの一枚がお気に入りだ。
まとめ
私はフィルムカメラの愛好家であり、フィルムカメラにレンズを装着して撮影するのが好きだ。ゆえに、デジタルカメラにオールドレンズを装着する、ということは、実はほとんどなかった。
今回、PENTAX KPというデジタル一眼レフにオールドレンズを付けて使ってみた上での素直な感想だが「より自由に写真を楽しむことができた」と思った。
古いレンズだから必ず古いボディに装着しなければいけないわけではない。実際のレンズの色乗りを確かめるために、デジタルカメラを必ずナチュラルに発色するよう設定しなければいけないわけではない。私は仕事をしていく中で、知らずしらずのうちにそういった制約に縛られていたのだと、この記事を通じて感じた。
オールドレンズの柔らかい描写を楽しみながらも、PENTAX KPの光学ファインダーを覗き、瞬発力を生かした撮影をする。「あ、これ気持ち良い」と感じる自分の心にひたすら忠実にシャッターを切る。状況に合わせてカスタムイメージを使い、その場で好きな色味に調整していく。思考がどんどん自由になっていくのが快感だった。そして何よりも、大好きだと言い切れるような作品がたくさん撮れたのが一番うれしかった。
また、マニュアルレンズを使うと、一枚一枚に想いがこもる。不思議なもので、マニュアルレンズで撮ったあとは、何を撮ったか克明に思い出せる。今回撮影した作品は、どれも思い入れが深い。
結論として、PENTAX KP+オールドレンズは、表現のひとつとして大いにアリだと感じた。新たな個性として自分に刻まれたので、使用可能な現場であれば、仕事でも使ってみたいと思った。
表現は自由である、ということを改めて教えてくれたこの企画に感謝したい。
提供:リコーイメージング
機材 状況撮影:武石修