PENTAX 100YEARS

PENTAX画作り機能の深淵と使いこなし

瀬尾拓慶&山写 そのマニアックさに惚れ込む2人が対談

PENTAXを世に送り出した旭光学工業合資会社の設立から100年を記念した本連載。今回は、PENTAX一眼レフカメラの画作り機能をフル活用して作品を制作する瀬尾拓慶さんと、各社の最新カメラを深く使いこなしながらも目下PENTAX機の独特の使い勝手に惚れ込んでいるという山写さんに、PENTAX一眼レフカメラの画作り機能について対談してもらった。

2人はいずれも「画作りは現場で完結させる」というスタイルでPENTAX機を愛用しており、カスタムイメージやホワイトバランスといった全てのパラメーターは、その場の状況ごとにカメラで設定を変更し、シャッターを切る前に画作りが完了している。”こういったシーンにはこういった色味”というプリセット的な画作りを行っていないという旨を確実にお伝えすべく、今回は一部作品を除いて具体的なパラメーターは非公開とした。PENTAX機を手にした際には、そんな2人の画作りスタイルを追体験しつつ、その画作り機能の深みを感じてほしい。

瀬尾拓慶
多摩美術大学卒。株式会社エス・イー・オー所属。幼少期より、音楽、自然、デザイン制作環境に囲まれ育つ。自ら撮影した写真を用い、様々な広告媒体のデザインを手がける。写真に合わせた作曲活動、個展ではピアノの即興演奏なども行う。森の中で寝泊まりし美しい光を追いかけ、現場での画作りを追求している。横浜日吉のImaging Gallery GLEAMで常設展示を実施。
使用機材:PENTAX K-1 Mark II・PENTAX 645Z・PENTAX KP J limited
https://www.takumichi-seo.com
山写
山岳写真専門のネイチャーフォトグラファー。ヒマラヤ、ヨーロッパアルプスなどに登り山岳写真に没頭。現在は日本の北アルプスと八ヶ岳で活動しつつ自然の魅力を発信したい地方自治体の支援を写真で行う。
https://photographmt.com/tag/pentax/

積極的に画作りしやすいPENTAX機

PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited

山写 :多くのカメラでは画作り設定がメニュー階層の深い部分にあるけれど、PENTAXはそれをワンボタンで呼び出せるのが独特で、積極的に画作りのパラメーターを触ってほしいという作り手の意思を感じます。

特に、直前に撮った写真やプレビューを見ながらカスタムイメージとホワイトバランスを使って色を乗せられる仕組みには、「色は自分で作るんだぞ!」という強いメッセージ性が感じられます。実際のところPENTAXは、カメラの画作りをどれぐらいユーザーに任せているのでしょう?

十字キー右ボタンが、カスタムイメージに割り当てられている
カスタムイメージの画面を呼び出したところ
INFOボタンを押すと詳細設定の画面に移行する

瀬尾 :カスタムイメージはPENTAXユーザーにとって無くてはならないものです。カスタムイメージを選択するだけで、パラメーターがデフォルトの状態でも特徴的な変化を与えることができるように設計されています。なかなか細かいところまで撮影時に考えるのは大変ですので、これは嬉しいですね。

でもやはり、カスタムイメージの真骨頂は、その更に先のオリジナリティーを求める方々が自身のイメージの下でパラメーターを調整し、作り込むことができるというところです。しかも設計上、やりすぎて破綻してしまうということも無いので、不自然にならず、自然で美しい作品として完成させることができます。

開発の方が「創造力を掻き立てるカメラにしたい」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思いました。とにかく、現場での画作りが楽しいのです。

山写 :私の場合、写真の色味は現場で作らないと、帰ってパソコンの前に座るころには正確な色味を忘れてしまいます。そのため、カメラ内の画作り機能が限定的で、パソコンでのレタッチが前提となる機種を使う時には、作品1枚ずつに「ディープトーン」などといったキーワードを脳内で紐付けておいて、レタッチ時にそのキーワードを頼りに現場の雰囲気を思い出すようにしています。実際に、現在のワークフローはそれがメインになっています。

山写さんの設定風景

瀬尾 :私がはじめて持ったカメラはPENTAX K-3でした。その当時は周りにカメラをやっている人がおらず、レタッチという作業のことすら知らなかったので「これだけカメラの中で設定できるのだから、色は撮影時に設定するものなのだろう」と思い込んでいました。なので、ひたすらカメラ内でカスタムイメージの設定画面をいじり倒していたんです。今思うとだいぶ遠回りはしましたが、無知が味方をしてくれましたね。

レタッチという作業を知った後に色々パソコンで試してはみたのですが、結果的にはそれまで通り、シャッターを切る前にカメラ側で画作りを決めるというスタイルが自分には合っていたようです。どうしても撮影後に微調整が必要な場合も、カメラ内でTIFFデータに書き出して、それをベースにほんの塩ひとつまみ分程度の調整で完了します。

自身の個展でトーク中の瀬尾さん。カメラに詳しい来場者に対しては、具体的な画作り過程も踏まえて作品解説を行っていた。

PENTAXは色調整の幅が広く、そして光量を細かく調整できますが、特に重要なのが「キー」(中間光量)という項目ですね。私の撮影のプロセスは、まず目が光を認識したと同時に、その光量を頭の中で測ります。そしてその光をより印象的に表現するために、周りの環境から光の構図を頭の中でシミュレーションし、一例としては「露出→キー→コントラスト・ハイライト・シャドー→色味」といった順で設定していきます。

これらを撮影シーンやカットごとに変更することで現場に合わせた設定となり、その場の空気をより深く切り取ることができます。

瀬尾さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+HD PENTAX-D FA★70-200mmF2.8ED DC AW ISO 400・露出補正-1.3 AVモード・F3.5・1/500秒 銀残し ホワイトバランス5700k

瀬尾 :この写真は奥多摩で出会ったカモシカです。遭遇した際に、どうしたらこの緊張感を、そして彼の存在感を引き立たせることができるかと考えた末に、このような作品となりました。

動物などを撮る際も、最初は"被写体"としてではなく、光として認識します。被写体の中の陰影と周囲の陰影を混ぜて一つの塊として捉え、その光が際立ち、そしてその中の被写体がより美しく見えるように構図を取ります。被写体をただアップで撮るよりも、空気感が得られることで存在感が増していると思います。

Takumichi Seo × PENTAX(画作り操作中の映像あり。0:53〜)

関連Webページ:Takumichi Seo×PENTAX「光の記憶」

2人が愛用するカスタムイメージ「銀残し」

山写 :瀬尾さんも「銀残し」の愛用者ですが、「銀残し」と「フラット」の画作りは、他のメーカーと別物ですよね。高彩度系の画作りは他社にもありますが、この2つは独特。そもそも「銀残し」はどういう撮影シーンを想定して作られたんでしょう?

瀬尾 :「銀残し」は映画などで使われていた手法の画作りを元に、ローキーで渋い独特の世界観をイメージして作られているとのことです。こう言われると少し現実から離れたようなカスタムイメージと思うかもしれませんが、霧に覆われた森や曇りの日なんかはまさにこの「銀残し」の世界そのものなんですよね。高彩度だとそういった空気感は表現できませんが、渋く色も落ち着いているこの「銀残し」は、その世界をしっかりと表現することができます。

山写 :それまでカメラ本体内の画作り機能には、あくまで"微調整"というイメージを持っていたのですけど、PENTAXの「銀残し」に限っては設定次第で全体の露出が2段くらい変わるので、マニュアルで露出が取れてこそ使いこなせるというマニアックさを感じます。

山写さん撮影:カメラ内JPEGとRAWの比較
「銀残し」を使ってカメラ内で画作りしたJPEG
同時記録のRAWデータをストレート現像

瀬尾 :確かに、「銀残し」は慣れないと扱いが難しいカスタムイメージです。風景を銀残しで撮るというのも最近では見かけますが、以前はあまりなかったと思います。色味が独特なので、そのため自然風景撮影には向いていないと捉えられていたみたいですね。光を操りやすいので、私は撮影時にメインで使用しています。

「銀残し」と「ほのか」にのみ入っている調色(色のフィルター)を使いこなして色を混ぜることにより、作品に立体感を持たせることができます。彩度の上げ下げでもかなり印象が変わってくるので、実は「銀残し」で得られる作品のバリエーションはとても豊かなのです。

瀬尾さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited ISO 200・露出補正-1.7 AVモード・F6.3・1/100秒 銀残し ホワイトバランス5000k

画作り解説(瀬尾拓慶さん)

PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited Avモード・F2.8・1/160秒 銀残し(調色ブルー・キー1・コントラスト4・ハイライト4・シャドー2・ファインシャープネス1) ホワイトバランス7200k(Amber3・Green1)

森の片隅にオオハンゴンソウが咲いていた。
黄色は明るい色のため、周りの環境によっては浮かび上がらせることが可能。
この写真の場合は花と周りでかなり差があるため、キーを下げ過ぎてしまうと潰れが出てきてしまう。
そのためキーを1に抑え、コントラストで引き締めた。
しかしシャドーを濃くてしまうと潰れるため、現場の光量と露出から計算し、シャドーのパラメータを+2に振っている。
そしてさらに引き締めるため、調色をブルーに設定して全体を重くしてから、ホワイトバランスで色温度を設定。
また、ブルーを入れるとマゼンタが乗ってきてしまうため、それを打ち消すためにグリーンを少し入れている。
この写真は、奥の光を最も意識して撮影している。
そうすることで、主役を引き立たせつつ奥行きと空間を表現した。

山写 :それと、画作りのスライダーの調整範囲をどのように決めているのかも興味があります。例えば±4まで振れるパラメーターがあっても、「銀残し」と「フラット」では効果のかかり方が違う。カスタムイメージごとにパラメーターの効き方までデザインされているような印象を受けます。

瀬尾 :スライダーはそれぞれのカスタムイメージの特徴の中、画像として破綻しない範囲でしっかりと最大限に効果が現れるよう作られているそうです。とは言っても破綻しない範囲なので、変化が少ないように感じられるかもしれません。

しかし、繊細な調整というのも大切なんですよね。パラメーターを触っている内に細かい調整や変化にまで神経を使えるようになり、いつの間にか美しく深い繊細な表現ができるようになっていたりもします。カスタムイメージは、かなり画作りの勉強にもなると思います。

瀬尾さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited ISO 200 AVモード・F8.0・1/500秒 銀残し ホワイトバランス5000k

PENTAXならではの使いこなし「調色×ホワイトバランス」

山写 :「銀残し」や「ほのか」を使う場合、ホワイトバランス選択後の微調整に加えて、カスタムイメージ内の「調色」でも色味を調整できます。例えば銀残しの調色でグリーンを選んで、WB微調整でマゼンタを入れたり、という具合です。個人的にはこの2つのパラメーターの掛け合わせがPENTAXを使いこなす上で避けて通れないと思っていますが、開発者はそれぞれのパラメーターがどう使われることを想定しているんでしょう?

山写さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+ HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR ISO 800 Mモード・F5.0・1/40秒 フラット ホワイトバランス2700k

瀬尾 :ホワイトバランスは色の比率ですが、「銀残し」と「ほのか」に入っている「調色」は、色のオフセットを変えるものです。ホワイトバランスをいじるだけではハイライト・シャドーでの効果がほとんどありませんが、「調色」はこの両者にも色をつけることができるのです。

例えば「調色」のシアンをベースにすることにより、ハイライト部分にも色が乗りますので、このシアンをベースにホワイトバランスで色味を作り込むことにより独特な色と空気感を得ることができます。

瀬尾さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+D FA MACRO 100mmF2.8 WR ISO 400・露出補正−2.7 AVモード・F4.5・1/125秒 銀残し ホワイトバランス8000k

山写 :PENTAXの描写の印象としては、特にグラデーションの出方が綺麗で粘りがあると感じます。例えば「銀残し」だとハイライトが残り、全体的にシャドーが強く出るのですけど、そのシャドーの中が粘り強いグラデーションの表現になります。それでいてハイライトからシャドーに至るまでのグラデーションも途切れない。レンズのおかげか、逆光のシーンでも残念な思いをしたことがありません。

メーカーによっては高級レンズ以外はコーティングがいまいちなものもありますが、現在使用しているPENTAXのレンズに限って言えば、どのレンズでも変なフレアなどは出ません。

画作り解説(山写さん)

PENTAX K-1 Mark II+ HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR  ISO 100・露出補正−0.7・彩度3 AVモード・F10・6秒 銀残し(調色ブルー・キー-4・コントラスト4・ハイライト0・シャドー0・シャープネス-2・ファインシャープネス) ホワイトバランス4000k(Amber7・Magenta4)

薄暗い森の中で輝く川と深い青に美しさを感じた風景。それを表現するために使用したカスタムイメージが銀残しです。この色は彩度と中間調が落ちてシャドーの階調が豊かになるためベースカラーとして選びました。K-1 Mark IIのパラメーターを見ると分かるように、銀残しは低い彩度の中でも青と黄色が少し強く出るように作られています。この特徴を活かして、闇の中でも青が煌めくようにホワイトバランスや彩度、キーのコントロールをはじめすべてのパラメーターを変更し、理想のイメージになるように計算します。カスタムイメージとホワイトバンスの複雑な掛け合いを突き詰めて、暗さの中で川の輝きと青が映える世界を作っています。

参考:同時記録RAWからのストレート現像。カスタムイメージ「鮮やか」に相当。
現場のイメージを忠実に持ち帰れるよう、シャッターを切る前にカメラ側で色を追い込む。

瀬尾 :確かに、PENTAXのレンズは逆光に強い印象をいつも受けますね。当たり前のように逆光を撮影できるので、気になったこともあまりありませんでした。

瀬尾さんの作品を見ながら。

それと、ISO感度を上げて撮影した際のノイズも美しいですよね。普通はノイズが汚くて作品の邪魔をしてしまうことがあると思いますが、PENTAXはノイズすらも作品の一部として捉えることができるくらいに美しいです。実際に私の作品でもISO 6400で撮影した写真がありますが、気にもなりません。そもそもK-1 Mark IIとKPは最高ISO感度が819200なので、6400程度であれば気にならないのも当たり前なのかもしれませんが。

この鹿の写真はISO 6400で撮影しています、夜になる直前で、手持ち撮影です。何も問題なく、描写も繊細です。開発した方のこだわりがここにも垣間見えますね。

瀬尾さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+ HD PENTAX-D FA★70-200mmF2.8ED DC AW ISO 6400・露出補正-0.7 AVモード・F2.8・1/30秒 銀残し ホワイトバランス6600k

PENTAXって、誰向き?

山写 :私はPENTAX K-1 Mark IIを使ってみて、商業写真よりファインアートに向いていると感じました。業界的にはミラーレスカメラが元気ですが、PENTAXは一眼レフカメラがメインだから、却って落ち着くような感覚です。

私のように山岳写真をメインに撮影していると、カメラには何より堅牢性とバッテリーの持ちが重要視されるため、機種選びの自由度が低いのです。その代わりAFは不要で、露出もマニュアルが基本なので、先進機能の競争ではなく、純粋にカメラの個性で戦える感じがします。撮影からレタッチ開始まで数日も空いてしまうような状況だと、現場で色を追い込めるアドバンテージは大きいです。

山写さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited  ISO 200 Mモード・F2.8・1/80秒 銀残し ホワイトバランス5400k

自分で色を作れる自由度の高さと、露出にまで影響するカスタムイメージの大胆さゆえに、私や瀬尾さんのような、ある意味イレギュラーな使い方をするには、基礎的な色の考えやマニュアル露出の体得が必要になります。その意味では、撮り手を成長させるカメラというイメージがあります。

ミラーレスカメラのEVFは見たままの写真が撮れる強みがある反面、想定外の写真が撮れるという失敗が少ないため、新しい発見をしにくいこともあります。そうしたカメラで表現の行き詰まりを感じている人がPENTAXの一眼レフカメラを手に取ると、たくさんの発見があると思います。

こうした細かな画作り思想を取り入れているPENTAXは、「ゴツいけど繊細なカメラ」という印象です。私は色彩学を学んでいたのですが、その理論に通じるような一種の変態性すら感じます(笑)。一度、メーカー主催で色彩学の勉強会を開いてみたらどうでしょう?

ほかにも、調整項目の絡み合いでトーンカーブがどのように動いているのか、内部的なプロセスなどもとても気になります。開発者の人達に、いずれネチネチと話を聞きに行きたいです。

山写さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+smc PENTAX-FA31mmF1.8AL Limited ISO 100 Mモード・F2.8・1/100秒 銀残し ホワイトバランス7400k
山写さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR  ISO 200 Mモード・F2.8・1/1,000秒 フラット ホワイトバランス5500k
山写さん撮影
PENTAX K-1 Mark II+ HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR ISO 800 Mモード・F8.0・1/60秒 ほのか ホワイトバランス5500k

瀬尾 :きっと使い込むたびに、更なる新しい発見がこのカメラにはあることでしょう。相棒として愛していけるカメラに出会えて、幸せです。

山写さんがPENTAXを使ったらどうなるのかなと、出会った当初からずっと思っていました。山写さんの深い知識と技術、そしてPENTAXのカメラが実現する細かい調整から生みだされた写真は、やはり美しいですね。

自分の撮影方法があまりにも周りの方と違うため、今まではあまりこういったお話ができませんでしたが、山写さんにPENTAXの画作りにかけるマニアックなこだわりを知っていただけたので、これから更にディープなお話をしていけると思うと楽しみです。

対談は瀬尾拓慶さんの常設写真ギャラリー「Imaging Gallery GLEAM」(神奈川県横浜市)で行った。

提供:リコーイメージング株式会社

本誌:鈴木誠