新製品レビュー

FUJIFILM GFX100Sはポートレート撮影でどのような世界を見せてくれるのか。GFX 50Sユーザーからみた魅力も紹介

プライベートな距離感の演出でも80mmが大いに活躍してくれた。
GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/125秒・±0EV)/ ISO 400

2021年2月、富士フイルムのGFXシリーズに4機種目となる「FUJIFILM GFX100S」が加わった。小型軽量ボディにGFX100と同じ1億画素のセンサーを搭載し、さらにボディ内手ブレ補正機構も備えるなど、まさに小さいながらも羊の皮を被ったモンスター機に仕上がっている。前回はGFX100でポートレート撮影を試みたが、今回はポートレート本命レンズとして登場したGF80mmF1.7 R WRとともに、軽量になった1億画素機の実力を確かめていった。

作例(前半)

風に舞う桜の花びらを前景に添えた。キリッとフォーカスした顔周辺とは対照的に、大きくボカした手前の花びらと背景の植物に見られる玉ボケがソフトフォーカスレンズで捉えたような柔らかい溶け感がある。大型センサー+大口径80mmの組合せは中望遠レンズのような効果を醸し出しながらも、標準焦点域の自然な画角で表現出来る。センサーサイズがもたらす空気感をまず実感することができた。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/1,250秒・±0EV)/ ISO 100

今年の春は実に足早だった。今回のロケは山奥へと春の色を探しに向かったわけだが、その甲斐もあり、最後の力を振り絞るようにして咲いている大きな桜の樹に出会うことができた。モデルとともに歩きながら自然体で撮影してみたが、顔認識の食いつきも良く、手持ち+常に動きながらの撮影にもかかわらず、連写で捉えたコマはだいたい合焦していた。ボクはGFX 50Sを愛用しているが、その撮影感覚と比較すると明らかな進化があると実感できる。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.2・1/950秒・±0EV)/ ISO 100

山道で見つけた懐かしい木造のバス停は今でも使われているようだ。ガラスがなくなってしまった窓枠の外から撮影。暗いバス停の中でも有利なF1.7の明るいレンズは手持ち撮影も余裕である。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/400秒・±0EV)/ ISO 100

GF80mmF1.7 R WRは35mm判に換算すると63mm相当の画角となる。背景のバイクとの距離は実際にはもう少しあるが、程よい圧縮効果で画面に動感を与えてくれている。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.2・1/1,700秒・±0EV)/ ISO 100

被写体との距離はおよそ1m半〜2mくらい。これくらいの距離でも人物とアウトフォーカス部とが見事に分離する。ボケ量よりも立体感に注目してもらいたい。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2・1/1250秒・±0EV)/ ISO 100

初夏のような日射しの中、逆光となる条件でAFの動きを確かめた。GFX 50SやGFX 50Rはコントラスト式のみのため、こうした輝度差のある条件ではAFが迷いやすい点がネックだった。GFX 100とGFX100Sでは像面位相差方式を採用しているため、AFスピードも速くなっている。これくらいの輝度差であれば、ストレスを感じることはないだろう。

それにしても実感されるのが、GF80mmF1.7 R WRの逆光耐性の高さだ。モデル後方の樹の葉が美しい玉ボケとなっていることからも、現場の照り返しの強さを想像してもらうことができると思う。拡大画像はいずれも等倍で表示されるので、データ量は大きいけれども、細部までじっくりと確認してみて欲しい。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/550秒・+0.7EV)/ ISO 100

GF80mmF1.7 R WRの最短焦点距離は70cmだ。パーツアップを狙うのでもない限り、これだけ寄れれば十分だろう。フォーカスポイントは両方の目と唇に合うように調整したが、前髪がすでにボケている。被写界深度の浅さをどうコントロールするかが、こうした大型センサー機に大口径レンズを装着した際のポイントだが、それにしても前後ボケの柔らかく、とろけるような印象は美しいの一言だ。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/250秒・+0.7EV)/ ISO 100

昨夜までの雨を想わせる湿り気を残した土の小径に、雨風にさらわれた花びらが落ちている。モデルだけを浮かび上がらせたいというイメージどおり、しっかりと彼女の周りを切り離してくれた。ボケのつながりとスムーズさは、柔らかさを重視したという本レンズの真骨頂ともいえるだろう。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/600秒・+0.7EV)/ ISO 100

ロケ日は快晴で、散り際の桜が風に花びらを舞わせていた。人物撮影では開放付近の絞りを多用しているが、ここでは絞りをF5.6にして遠景描写をチェックした。フォーカスポイントは手前側の樹の幹。開放絞りの描写の軟らかさとは打って変わって、キリッと締まる印象で、花や枝がきめ細やかに描き出されている。緑の深さ・鮮やかさと白飛びしそうで、ねばっている淡いピンクの再現性も高い。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F5.6・1/150秒・+2/3 EV)/ ISO100

手への収まりがよい大きさまでサイズダウンしたボディ

上がGFX100Sで下が筆者私物のGFX 50Sだ。本体部分の奥行きが明らかに短くなっていることがお分かりいただけると思う。バッテリーにしても、GFX 50Sではボディ左側から入れる構造だったが、GFX100Sではボディ底部からのアクセスに変更されている。こうした構造の見直しもボディの小型化につながっているのだろう。

バッテリーは新たにNP-W235に変更された。右側に置いてあるのがGFX 50S用のNP-T125だ。NP-W235はAPS-Cセンサーを採用するX-T4で初めて採用されたタイプだ。容量は2,350mAh。1,250mAhのNP-T125から、実に2倍近くの高容量化を達成しており、ノーマルモードかつGF63mmF2.8 R WRとの組み合わせでは、公称で約460コマの撮影が可能となっている。1日を通した撮影ロケであったが、バッテリーを交換する頻度は2度ほどだった。

ストラップの取り付けも一般的な丸環タイプを使用するタイプとなっている。GFX 50Sではハッセルブラッドのようにワンタッチでストラップを着脱出来るバヨネットフック式となっているわけだが、このあたりは好みによって評価が割れるところだろう。

GFX100SにGF80mmF1.7 R WR(約795g)を装着した状態。バッテリーとSDカードを装填した状態でのボディ重量が約900gのため、合計で約1,695g。今回のロケではGF23mmF4 R LM WRも同時に使用していったが、十分に持ち運べる重さだった。

作例(後半)

夏に向けてこれから多くの人で賑わうことになるだろう海水浴場も、ロケ日はまだ時期が浅く閑散としていた。焦点距離80mmではF2.8でも十分以上に後ボケが得られる。遠近感の演出は、こうした大型センサー機のほうがかえって簡単。しかも明るいレンズの登場でコントロールもしやすくなったというのは、大いに歓迎されるポイント。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.8・1/500秒・±0EV)/ ISO 100

日が西に傾きはじめた。1億画素機がポートレート撮影で必要なのか、と疑問を感じている人にこそ見て欲しいカット。海岸の細かな砂が、その粒をひとつひとつ確認できるレベルで解像している。凄まじいまでの情報量が画面に立体感を与え、触れることができそうなほどのリアリティを加えているのだ。モデルの声が聞こえてきそうな仕上がりは、縮小表示した状態でもしっかりと伝わっているはずだ。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.8・1/240秒・+1.0EV)/ ISO 100

午後から急激な天候の変化で晴れたり曇ったりと変化の激しい空模様となった。感度を上げるとどうしても画が荒れてしまうため、基本的にISO 100で撮影することを自身に課しているが、GFX100Sは高密度なセンサーにもかかわらず、ISO 400に切り替えてもまったく問題がない。ここでは掲載していないが、暗所で高感度撮影を試みたところ、ボクの許容限界としてみても、ISO 1600程度までは問題なく常用感度として使っていけると感じた。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F4・1/300秒・+1.0EV)/ ISO 400

カメラからちょっと離れた状態で絞りF5.6にして彼女に自由に動いてもらった。この時、モデルとの距離はおよそ6〜7mほど。それでも後方の植物は完全にフォーカスアウトしている。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F5.6・1/600秒・±0EV)/ ISO 100

GF80mmF1.7 R WRのファインダーを通じた見える画角は標準レンズの感覚に近いものだが、焦点距離はあくまでも絶対値なので、ボケ量や遠近感などは35mm判でいうと85mmに近い、中望遠レンズとしての効果がある。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/900秒・±0EV)/ ISO 100

午後の日射しがいよいよ夕陽へと向かう時間帯、左上方向に太陽を配した半逆光の光線で撮影。フレアなどをまったく感じさせない描写で、光をしっかりと拾ってくれた。白っぽい板壁と砂地に囲まれた彼女のワンピースと肌が西日で同系色に染まって美しい。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.5・1/600秒・+0.3EV)/ ISO 100

絞りを開放F1.7にセットして、さらに寄ってみる。そのままでは人物が暗くなってしまうので露出補正をやや+側へ設定。レフ板を軽くあてて自然なバランスに調整していった。肌の質感描写も自然でやわらかい。

GFX100s / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/1,700秒・+0.3EV)/ ISO 100

ロケ当日は80mm F1.7をメインに使っていったが、実は要所要所でもう1本の別のレンズも使っていた。こちらは35mm換算で約18mm相当となるワイドレンズ「GF23mmF4 R LM WR」で撮影した1枚。いわゆる超広角レンズなのでこのカットもかなりの至近距離からの撮影だが、モデル以外の周囲はすべてをボカすことが出来るので広大な風景の中でも人物を立体的に描写する面白さを感じた。

GFX100s / GF23mmF4 R LM WR / 絞り優先AE(F4・1/950秒・±0EV)/ ISO400

西陽を受けて髪の毛と肌が赤く染まった夕暮れ。絞りを開放にして上半身をクローズアップするようにして寄っていった。後方の煩雑な風景は海も砂浜もすべてが抽象絵画のようなシンプルな世界に変わった。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F1.7・1/240秒・+0.7EV)/ ISO 200

太陽に向かって正面からカメラを構えてモデルと太陽を重ねた。撮影条件としては厳しい部類に入る内容ながら、ゴーストやフレアの発生はごく僅か。波間に若干の色収差も見られるが、気にならない程度に収まっている。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F4・1/350秒・±0EV)/ ISO 200

この日もいろんな天気に目まぐるしかったが、最後には運良く西へと沈む夕陽が空を赤く染めてくれた。F11まで絞り込み、逆光時の解像感と暗部にかけてのグラデーションを確認してみた。センサーの持つ表現領域も広いのだろう、素晴らしいの一言だった。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F11・1/50秒・±0EV)/ ISO 100

朝から日暮れまで撮影してみたが、焦点距離80mmかつ大口径の使い勝手は言わずもがな。軽量化された1億画素ボディは、中判クラスのデジタルカメラに新しい時代が訪れたことを実感させてくれた。

GFX100S / GF80mmF1.7 R WR / 絞り優先AE(F2.2・1/1,100秒・+1.0EV)/ ISO 100

まとめ

ボクはGFXシリーズの1号機たるGFX 50Sを2017年の登場時より愛用してきているが、あれからもう4年も経つのかと思うと、月日の経過とは実に早いものだと感じる。同シリーズは、レンジファインダースタイルのGFX 50R、約1億画素のGFX100と展開してきたわけだが、もし今GFX 50Sと数本のレンズを所有していなかったら(そして最も重要な経済が許すなら)、絶対に買っていただろうとの確信を深めたロケであった。

少し話がずれるが、ボクは標準レンズマニアである。スーパーワイドから望遠レンズまで多岐にわたって使っているが、個人的に一番好きなのは標準焦点域のレンズ。特に中判フォーマット用が好きで、ハッセルブラッドをはじめペンタックス67用、マミヤRZ用、そしてレンズ一体型のローライ二眼レフカメラなど、もはや偏執的といっていいレベルで買い集めていた時期がある。何が言いたいかというと、読者の方々もそうだと思うけれども、要するに単焦点レンズ1本だけということなら、一部の例外を除いて多くの場合標準レンズを選ぶことになると思う、ということを、まずお伝えしたかったのだ。

GFXシリーズでは、2本の標準レンズが出揃ったわけだが、どちらも35mm判に換算すると50mmのような王道の主点距離ではないラインナップとなっている。最初に発売された63mmがややワイド寄りの標準レンズでスナップや風景などに向いているのに対して、この80mmは若干テレタイプの標準レンズであることから、メーカー自身もそう言っているように、確かにポートレート向きだと言える。

ボクはこれまでGFX 50Sの運用では63mmと110mmを使い分けてポートレートの撮影をしてきたが、63mmではちょっとパースが気になるし、かといって110mmは持ち歩くには重いのとやや距離感を感じてしまうなどの理由から、“この中間の焦点距離のレンズが出ないかなぁ”と常々思っていた。そういう意味でも「GF80mmF1.7 R WR」は実にツボにはまったレンズだったし、撮影でもそれが実感できた。

さて軽量化を達成した1億画素ボディについてだが、愛用中のGFX 50Sとは比較すべくもない次元で進化している。センサー画素数だけでなく、画像処理プロセッサーの進化や像面位相差にも対応したハイブリッド式のAFなど、ハンドリングの良さに磨きがかかっていることが、まず大きな魅力となっている。

ボディのつくりもポイントだ。GFX 50Sではシャッターボタンに力を込めてフォーカスを合わせていたけれども、GFX100Sでは、スーッと合焦してくれるようになった。これだけでもストレスが減り、リズムよく楽しく撮影を進行出来た。しかもホールディング性能も良くなっているわけで、体力的な面でも影響が出る重量やバランスに優れるというのは、カメラマンにとって大きな魅力だろう。事実、撮影現場での取り回しが良いというだけで、集中力の維持は大きく変わってくるのだから。

連写性能が秒間3コマから5コマになったことも大きい。ちょっとした表情の違いを追いたい場合、人物撮影ではこの差は大きい。今回の撮影でも以前だったら逃してしまったかもしれない瞬間的な表情を掴むことができたのは、連写性能が向上したことに救われたと感じる場面が、実はいくつもあった。

進化点がたくさんある本機だけれども、最も進化したと感じたポイントは“35mm判一眼カメラ的なホールディング&操作感”があるということだ。あるいはそれ以上にコンパクトともいえるかもしれない。2021年上半期において、大型センサーをこれほど使いやすくしたカメラは、他に類を見ない状況だ。富士フイルムは、APS-Cセンサー機をはじめ、意欲的な製品を次々に世に送り出しているわけだが、次なる機種が果たしてどれほどのレベルに達することになるのだろうか。

個人的に次なる展開に期待しているのは、カメラのバッファ増強や、メガネ族向けにアイポイントを、もう少し長めにできるオプションなどがあるとありがたいな、ということ。これが叶うと更に使い勝手が良くなってくれるように思う。

モデル:斎藤さらら(TwitterInstagram。BLUE LABEL所属)

(はるき)写真家・ビジュアルディレクター。広島市生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。フリーランスでポートレート撮影をメインに雑誌・広告・音楽・映像メディアなどで作品を発表。「第35回・朝日広告賞、グループ入賞&写真表現技術賞」、「PARCO PROMISING PHOTOGRAPHERS #3」、「100 Japanese Photographers」ほか多数受賞。「普通の人びと」「Tokyo Girls♀彼女たちの居場所。」「The Human Portraits 1987-2007」「Automobile Americanos〜Cuba Cuba Cuba〜」「熱い風」「遠い記憶。」「遠い記憶。II」「アンソロジィ」ほか個展多数開催。プリント作品は国内外の美術館へ収蔵。長岡造形大学(NID)視覚デザイン学科非常勤講師、日本写真家協会(JPS)会員。