新製品レビュー
シャープAQUOS R6
話題の“1インチ+ライカレンズ”を実写検証 スマホらしからぬ自然な画作りも魅力
2021年7月14日 09:00
シャープのハイエンドスマートフォン「AQUOS R6」。現行のスマートフォンでは最大級となる1インチの撮像素子を搭載し、ライカとの協業によるレンズ設計や画質評価を受けたことで注目のスマートフォンだ。そのカメラ性能をチェックしてみた。
ハイエンドスマホ+高級コンパクトデジカメでお手頃かも
AQUOS R6は、シャープのラインナップ上ではハイエンドに位置づけられるスマートフォンで、最新のチップセットであるSnapdragon 888を搭載し、5G通信にも対応するため、基本的なパフォーマンスは高い。写真を撮影するだけでなく、ゲームを含むスマートフォンの利用で不足を感じることはないだろう。
ディスプレイは6.6インチの大型ディスプレイで、パネルには同社初の「Pro IGZO OLED」を採用する。有機ELらしいコントラストの高い表示が可能で、画像をメリハリのある表示で見せてくれる。
本体サイズは約74×162×9.5mm、約207g。大画面なので大型かつ重めだが、昨今のハイエンドスマートフォンとしては極端に大きいわけではないだろう。ちなみに、先行する1インチセンサー搭載スマートフォンだったパナソニックLUMIXのDMC-CM1(2015年発売。パナソニックは“コミニュケーションカメラ”と呼んでいた)は約68×135.4×21.1mm(ボディ部:15.2mm)、約203gだったから、重さは同等だし、厚みは大幅に薄くなっている。
AQUOS R6もレンズ部は少し盛り上がっているが、それでも同じ1インチセンサー搭載スマートフォンとは思えない薄型化を実現していると言えるだろう。
肝心のカメラ部は、昨今のハイエンドスマートフォンカメラとしては珍しいシングルカメラ。ライカが監修したことでライカのSUMMICRON銘のレンズとなっている。シングルカメラとは言え、1インチのセンサーを搭載した割にコンパクトに収めたという印象だ。
デザインは端末を縦方向に持つことを前提としたスタイルに見える。のちに発表されたライカブランドのスマートフォン「Leitz Phone 1」に比べると、スマートフォン寄りのデザインと言えるだろう。
スマートフォンとしては、デザインを含めて昨今の一般的なもの。LUMIX CM1のように「カメラ」に特化したわけではなく、NTTドコモ版で一括11万5,632円、ソフトバンク版で一括13万3,920円と、ハイエンドスマートフォンとしては平均的な価格か、むしろ少し安いぐらい。その価格でハイエンドスマートフォンと1インチセンサー搭載のライカ監修カメラが手に入ると考えると手頃、という言い方もできるかもしれない。
スマートフォンとしては中国ファーウェイに続くライカとの協業によって、「ライカ全面監修」のカメラ機能を搭載した。これまでシャープのスマートフォンはカメラ機能が伸び悩んでいて、リコーGRの認証を取得したこともあったが、他社の後塵を拝していた。
それを改善するために選択したのがライカとの協業だ。どうも、最初はライカとソフトバンクが協業の話し合いに入り、そのメーカーとしてシャープが選ばれて、ライカ版の「Leitz Phone 1」とシャープ版の「AQUOS R6」の開発に繋がったようだ。Leitz Phone 1はソフトバンク限定だが、AQUOS R6はソフトバンクとドコモから発売される。
ハードウェアスペックとしては同等だし、ライカの画質評価による調整が加わっているため、AQUOS R6でも「ライカ」としてのカメラ機能は体感できる。
主要デバイスについて
ハードウェアスペックとしては、1インチ2,020万画素のセンサーを搭載。3:2というアスペクト比であることからも分かるとおり、センサーは既存のデジタルカメラ用のものを採用している。像面位相差やデュアルピクセルといった位相差AFの仕組みは搭載していない。
レンズは7枚構成の「SUMMICRON 1:1.9/19 ASPH.」。35mm判換算19mmという超広角レンズだが、メインの画角は24mmとなっている。これはわずかにデジタルズームした状態が標準という珍しい方式を採用している。いろいろ理由はあるだろうが、そのおかげで、シングルレンズながら超広角と広角(メイン)という2つの画角を選択できる。
画面の一部分を切り出すデジタルズームではあるが、画質劣化は気になるほどではないため、この状態を24mm相当のメインカメラとして使って問題ないだろう。むしろ、画質が低下しがちな周辺部分を除いた中央部分を切り抜いているため、被写体の配置などを気にする必要がなく使いやすいとも言える。ただ、Exifの焦点距離表示は全て6.85mm(実焦点距離)となり、35mm判換算での焦点距離が分かりにくいのは難点。Exifには「デジタルズーム倍率」として1倍、1.2倍、といった表示はあるため、そこから確認することは可能だ。
AFはコントラストAFのみだが、それをカバーする形でレーザーによる測距を行うToFセンサーも搭載している。レーザーAFは基本的に近距離で動作し、暗所でもピント合わせができる点がメリットだが、遠距離では効果がない。とはいえ、遠距離はコントラストAFで十分だろう。レーザーAFは位相差AFほどの合焦速度はないが、動き回る動物を追うといったシーンでもなければそれほど遅くは感じない。
ただ、ごく近距離にガラスがあるとガラス面にピントを合わせてしまうという動作が気にかかった。ガラスから離れるかガラスにカメラを密着させるようにすると問題ないようだが、「ガラスに接近したけどガラスには密着していない」ぐらいだとガラスの向こう側にピントが合いづらいようだ。その場合、ToFセンサーを指でふさぐとコントラストAFのみになるのか、その状態ではガラスにピントは合わなくなった。
※編注:テスト撮影後の7月12日に「オートフォーカスの精度向上」を含む端末アップデートが提供されたため、上記現象に改善が見られる可能性があります。
1インチ搭載の高級コンパクトデジカメ並みの画質
実写画像を見ると、「スマートフォン」というよりも「コンパクトデジタルカメラ」という印象の画質だ。ファーウェイの場合、ライカとの協業の初期は“カメラ的”な描写で落ち着いた色合いだったが、新機種ごとに次第に派手な色味になっていった。恐らく、スマートフォンのカメラに求められる色というのが、見映えのインパクト重視だったということなのだろう。
それに対して、このAQUOS R6は“カメラ的”だ。シーン認識機能はあるが、極端に色を強調する処理は行っておらず、リアリティ重視。その後の画像処理に向いているが、逆に言えば派手さはなく、インパクトはない。派手さが欲しい場合は、Instagramなどの他のアプリで補うといいだろう。
また、一般的なスマートフォンのカメラに比べると、シャープネスが強調されていない点も素材感がある。自然な輪郭の描写で違和感がない。細部までカッチリした描写という感じはないが、無理のないリアルな描写をする。
薄型ボディに1インチ用と、かなり無理して詰め込んだ感じのあるレンズだが、描写はまずまず。特に日中の撮影で真価を発揮する。19mm相当で撮影する場合、周辺画質は落ちるが、超広角レンズということを考えれば、無理をせずにサイズを重視したと考えられそう。超広角ではあまり周辺に主要被写体を置かない方がよさそうだ。
中心部を切り取る24mm相当のメイン画角は、性能的に苦しくなりがちなレンズ周辺部が切り取られるため、全体に高画質が保たれる。デジタルズームではあるが、画質低下が気になるレベルではないだろう。
カメラのUIでは、ズームボタンをタッチすることで0.7倍(19mm相当)と2倍相当の切り替えができるほか、ズームボタンをスワイプすると無段階で6倍までズーム操作ができる。シングルカメラなので全てデジタルズームとなる。
1インチセンサーということで、大型センサーによる広いダイナミックレンジや低ノイズも期待したいところだが、さすがに通常のスマホと35mmフルサイズセンサー機のような大きな差はない。昨今はデジタル処理を駆使することで、通常のスマートフォンでもHDR技術による広ダイナミックレンジや、マルチフレームなどによる低ノイズ処理なども進化しているため、1インチセンサーだからといって極端に大きなアドバンテージがあるわけではない。
センサーサイズの差が明確に出るのはボケ描写だ。マクロ的に被写体に近づいて撮影したときに当然ボケが大きくなるが、AQUOS R6では近接撮影でなくても1インチらしい適度なボケがある。いわゆるポートレートモードなど、ソフトウェア的にボケを作り出すスマートフォンカメラも多いが、AQUOPS R6の基本はそうした輪郭検出&切り抜き処理ではなく被写界深度で生じる自然なボケなので、違和感がなく被写体を強調できる。
とはいえ、機械的な絞りがあるわけではないので、ボケが必要ない時にもボケてしまうというトレードオフがある。自然な写真とするにはピント合わせや構図に工夫が必要で、スマートフォンカメラと同じように撮影するとボケが大きすぎて失敗することもあるだろう。ピント枠が大きなAQUOS R6は、細かいピント合わせには向かない。“花のめしべにマクロでジャスピンを狙う”、といったようなシビアな撮影はちょっと難しい。
ただ、人や風景を撮る際に条件がピッタリはまると、本機はちょっと楽しくなるほどの写りを見せる。レンズ性能も十分に健闘している。スマートフォンの画質に慣れているとパッと見の派手さは物足りないかもしれないが、そういう人は「素材」として考えれば、後処理で自分なりの味付けを楽しめるカメラといってもいいだろう。
「カメラ」としての機能を追求して、ハードウェアのシャッターボタンやレンズ周辺のリングダイヤル、メカシャッターやメカ絞りを設けたCM1に比べると、AQUOS R6はあくまでスマートフォンだが、沈胴式のレンズではないため防水性能も備えているなど、全体的な利便性は向上している。画面内指紋センサーも高速。今回は割愛するが、動画性能ではとにかく電子式手ブレ補正が強力で、ジンバル不要の強力な手ブレ補正を実現している。
気をつけたいポイントとしては、ディスプレイ側面がカーブするエッジディスプレイを採用しているため、カメラのように横位置で構えると指がディスプレイにかかって、タッチした場所に反応しづらいということもあった。そのため、スマホケースを装着した方が使い勝手は良さそうで、欲を言えばLUMIX CM1やソニーのXperia 1 IIIのような物理シャッターボタンも欲しかった。
ひと味違った“カメラ”を求める人に
今回の試用を通じた全体的な感想としては、ハードウェアというよりソフトウェア面にまだ改善の余地があるという印象で、レーザーAFの精度向上、画像処理のさらなる強化など、今後も継続的なアップデートを期待したいところ。決して満点のカメラとは言えないが、1インチセンサーの実力は確実なアドバンテージだし、レンズも薄型ボディに詰め込んだ割には描写がいい。スマートフォンカメラのような作り込んだ絵ではないのも、個人的には好感が持てる。
そうした点を踏まえると本機は、カメラに特別な興味がなくて「撮れればいい」という人には向かないだろう。普通のスマートフォンから一歩踏み込んで、ひと味違ったスマートフォンカメラを求めている人、高級コンパクトデジカメ代わりのスマートフォンカメラを求める人には良さそうだ。