新製品レビュー

Hasselblad X1D II 50C(外観・機能編)

快適性を高め、価格を抑えた中判ミラーレス

2016年6月、ハッセルブラッド75周年という記念の年に世界初となるミラーレスの中判デジタルカメラ「X1D-50c」が発表されたことは今でも記憶に新しい。その驚きから3年を経て、X1Dの進化版である「X1D II 50C」が登場した。

デジタルカメラにおける"中判"とは

X1D II 50Cの紹介をする前に、「中判デジタルカメラって何?」という部分と、ハッセルブラッドというカメラメーカーについて簡単に解説したい。

まず中判デジタルカメラとは、センサーサイズが約36×24mmの「35mmフルサイズ」や「フルフレーム」と言われるセンサーよりもさらに大きな撮像センサーを搭載するカメラの事。

2019年現在の中判デジタルカメラには大きく2通りあり、1つはフィルムの645判(有効サイズ56×41.5mm)に近いサイズの撮像センサーを持つ機種で、Phase Oneは「645フルサイズ」と表現している(7/30追記:ハッセルブラッドではH6D-100cが該当)。もう一方が今回紹介するX1Dシリーズや、他社では富士フイルムGFXシリーズやペンタックスの645Zなどが採用する約44×33mmサイズのいわゆる「中判デジタル」がある。

44×33mmの中判デジタルカメラは35mmフルサイズ相当のセンサーと比べて撮像面積が約1.7倍大きいので、例えば同じ有効画素数の場合、1画素辺りの面積が大きく、その余裕から画質面のアドバンテージが生まれる。また同じ画角を得るためにより長焦点のレンズが必要となるので、より立体的な表現ができるなどの特徴がある一方、システムとしては大きく重く高価になってしまうというデメリットがある。

デジタルカメラの普及後やミラーレスカメラ登場以後に写真を初めた人には馴染みが薄いかもしれないけれど、ハッセルブラッド(以下ハッセル)と言えば、フィルム時代からのカメラファンなら誰もが知っていて憧れのあるスウェーデンのカメラブランドだ。

6×6cm(有効サイズ56×56mm)のスクエアなフォーマットで知られ、なによりアポロ計画で人類史上初めて月面で写真を撮影したのもハッセルのカメラだ。筆者も「いつかはハッセル」と恋心を抱いたことがある。

X1D II 50Cは従来機であるX1D-50cから約5,000万画素(画素ピッチ約5.3μm)のCMOSセンサーや、アルミ削り出しの美しく高品位な外装と本体サイズを継承しつつ、背面モニターの大型化と高精細化、起動時間やメニュー操作時のレスポンス向上、EVFや外部接続端子などハードウェアのアップデートを施し、撮影の快適性を向上させつつ価格を抑えた戦略的なモデルだ。

ボディはシルバーからグラファイトグレーとなり重厚感が増したことで筆者の目にはより魅力的に映ったけれど、75周年記念モデルであるX1D-50c 4116エディションのシャープな印象のブラックボディも相当に魅力的だったと思うので、今後の展開に期待したいところ。

ハードウェアの進化点

背面モニターが3.0型約92万ドットから3.6型約236万ドットへと大幅に高精細化され、見映えが素晴らしく良くなっているので、撮影画像をプレビューすると「綺麗だ」という純粋な印象を持つだろう。晴天日中の屋外であってもディスプレイの輝度を上げれば視認性は申し分ない。

操作性も改善されている。スワイプや拡大時のピンチ操作など、タッチ操作のレスポンスについても明らかに向上しており、より軽快で直感的な操作は完全に"スマホ感覚"だったと言えば想像し易いだろう。

EVFは約236万ドットの液晶パネルから約369万ドットの有機ELパネルとなり、高輝度で精細ながらも自然で明瞭な表示になり、倍率0.87倍になったことでピントが掴みやすくなっている。しかし、出来ればいくつかの他機種のように576万ドットの最新デバイスを採用して欲しかったという気持ちは否定できない。ライブビュー撮影時のリフレッシュレートは37fpsから60fpsに高速化されていて、表示はとてもスムースで心地よい。

起動時間の短縮については直接比較したワケではないけれど、記憶の中のX1Dと比べて速くなったと実感出来るほどに高速化されている。それでも起動にはおおよそ5秒を必要とするので、例えば同じ中判ミラーレスのカテゴリーにある富士フイルムのGFXシリーズと比べて速いか?と言われれば否だ。ただし、テスト機は試作品かつファームウェアについても最終版ではないため、発売時にはもっと良好な結果を示すかもしれない。

ライバル

スペック的には、同じ中判ミラーレスカメラに分類される富士フイルムのGFXシリーズがライバル”だろう”。あくまでも「だろう」としているのは、筆者個人の意見として断定したくなかったから。X1Dシリーズはレンズシャッターなのでストロボに全速同調するという中判ミラーレスでは唯一無二の特徴がある。なのでこの点に魅力を感じるならGFXシリーズはライバルにはならないし、仮に利便性を追求するならGFXシリーズほど高機能な中判デジタルは他に存在しない。

外観デザインと操作性

ボタンやダイヤルの少ないシンプルな操作系なのはX1Dと同じ。電源ボタンと撮影に必要な機能のみをボディ右肩(シャッターボタン周り)に配置し、右手の親指が届く位置にAE-LとAF-Dボタン、と最小限に留められている。

これで足りない機能についてはタッチ操作で補完するデザインになっている。吟味された機能のボタンのみが配置されているため、EVFを覗きながら操作していても撮影に集中できるのはとても使い勝手に優れるところだ。

グリップは深く、指掛かりとフィット感が良いためホールド性が良い。丸一日手に持ったままスナップ撮影と移動を繰り返したが、手や腕への負担が少なく、ダイヤル操作を繰り返したり長時間保持し続けても、手に触れる部分のどこかが痛くなるようなことは無かった。とても優れたデザインだ。

モードダイヤルはポップアップ式で、押下するとフラットになり誤操作を防いでくれる。X1D登場時にも思ったが、まるでジャガーXFのシフトセレクターのよう。

前後ダイヤルの操作感は上質かつ明瞭。一方で、丸い形状のボタン類は操作感が少し不明瞭なのが気になった。背面モニターの右側に集中している四角いボタンについては明瞭なクリック感があるので、この丸いボタンにも同等の操作感があるとなお嬉しい。

マウント直下で存在感を放つ巨大なセンサー。マウントリングは4点のビスで止められている。ビスによるマウント保持点数の少なさに応力の分布や平面性で不安を覚えるかもしれないが、ボディが頑強なので人力で少々抉った程度ではビクともしなかった。全く心配は要らない。

GUI(HUI:Hasselblad User Interface)

シンプルな外観と同様にとても分かりやすい。メインメニューは直感的に分かりやすいアイコンで機能ごとにまとめられていて、右側のバー以外は配置をカスタマイズできる。より多くの機能を詰め込むよりも、カメラの道具としての使い勝手を尊重した設計思想には称賛を贈りたい。

メインメニュー

設定項目は基本的にスクロール式。項目によってはアイコン選択が採用されているので分かりやすい。やはり海外製品なので日本語ローカライズには少々癖があるというか、頭の体操が必要なところもある。例えば日本では一般的に「測光モード」と言われている機能が「計測法」になっていたりする。こうした部分を見つけると微笑ましく思うと同時に、「おそらく日本で写真をやっていない人が翻訳したのだろうな」と邪推してしまうけれど、ひょっとすると日本製品を使用している海外の方々も同じような感覚を持っているのかも知れない。

コントロールスクリーンは画面上部からスワイプ操作することで表示できる。

面白いのは先程も挙げた測光モード。なんとマルチパターン測光がない。「不便だ」と感じる人が居るかも知れないが、中央重点測光やスポット測光は慣れれば測光の傾向を掴みやすく露出の勉強になる。また、コツさえ掴めれば「光」が読めるようになって積極的にマニュアルで露出を操作できるようになるので、ベテランのみならずしっかりと写真の勉強をしたい人にもオススメだ。

アスペクト比についてはクロップモードから選択できる。
仕上がり設定やアートフィルターのような機能は採用されていない。

X1Dシリーズのシャッター方式はフォーカルプレーンではなくレンズシャッター。レンズシャッターのメリットはストロボが全速同調することとシャッターの動作ショックがとても小さいこと。デメリットとしては最高速側が1/2,000秒と、一般的なフォーカルプレーンシャッターのカメラに比べると限定的だ。もちろんイメージセンサー側での電子シャッターを利用すれば最高1/10,000秒まで選択できるが、その原理上ローリングシャッター歪みの影響は少なからずあるので、シーンによってはNDフィルターを利用するなどカメラへの理解と工夫が必要だ。

レンズシャッターの最高速は1/2,000秒。
電子シャッターの最高速は1/10,000秒。
レンズシャッターの動作音は「パッキン!」という甲高い独特な音で、好みは分かれそうだ。

ドライブモード

一般的なデジタルカメラではメニューから階層を降りていき、特にインターバルタイマーなどは奥深いところで設定をするのが一般的になっているけれど、X1Dではコントロールスクリーンのアイコン操作から僅かな操作で分かりやすく詳細な設定ができるようになっている。これは日本メーカーも見習うべきだ。

AF

AFはコントラスト検出方式のみ。コンティニュアスAF(AF-C)は搭載されていない。ボディ上面のAF/MFボタンを長押しすると35点のAFポイントが表示される。もちろんタッチ操作で自由にAFポイントの選択ができるし、EVFを覗けばタッチパッドAFも可能になるので、35点を表示させる機会は少ないかもしれない。

正直に言うと、AFについてはあまり褒められない。この点については日本のメーカーがいかに世界をリードしているのか、改めて考えさせられる。AF駆動音は大きくやや耳障りな音質で、他のミラーレスカメラやGFX 50シリーズと比べてもAF合焦までに時間がかかる。鎧戸のような繰り返しパターンとなる形状のものはどうにも苦手としているようだけれど、通常シーンでのAF精度には基本的に不満がなかった。

バッテリー

バッテリーはX1Dと同形状で互換性があり、スペック表によると同梱品は3,400mAhのリチウムイオンタイプとある。レビュー機材に組み合わされた2つのバッテリー(3,200mAhの従来品)を使って3日間撮影した感触では、背面モニターの輝度を低めにし、かつ小まめに電源をオフにしながらの撮影で200ショット、省エネを全く意識せずに撮影して160ショット程度でLowBattの表示になった。

新バッテリーの付属する製品版ではおそらくこれより撮影枚数は伸びるだろうが、予備バッテリーは最低でも1つ、出来れば2つあれば安心だろう。

バッテリースロット。三脚ネジ穴まわりを見ると、クイックシューのプレートが大型であってもバッテリーの抜き差しの邪魔になることはなさそうだ。
側面の端子類。USB Type-C端子からのバッテリー充電も可能。

記録メディア

SDダブルスロットを装備し、UHS-IIに対応。順次記録(オーバーフローという表記)のほか2枚のメディアに同じデータを記録するバックアップ記録にも対応している。

まとめ

X1D II 50Cに触れてみると、日本メーカーとは異なる考え方を強く感じられるところが面白い。例えばX1D II 50Cの天面には誇らしげに「HANDMADE IN SWEDEN」の文字が刻まれている。北欧デザインやスカンジナビアデザインでも有名な国だ。

北欧諸国は冬が長く日照時間が短いため屋内で過ごすことが多く、1つのモノと向き合う時間が潤沢であると、スウェーデンに旅した際に聞いたことがある。ということはカタチや使い勝手について考える時間も多いだろう。どのように自然や環境に適応して快適に過ごすか、そこに特別な感覚を持っていることは想像に難くない。

X1D II 50Cは美しい外観と5,000万画素の中判ミラーレスという部分がまず目を引くが、実際に操作してみるとボディの質感や操作性の良さといったホスピタリティに優れ、街中や山岳、森林などのあらゆる場面で取り出しても周囲から浮いて見えない自然な雰囲気を持っている。

一方で日本のカメラには機能性や利便性、高い品質などを追求した製品が多いように見え、「デザインや操作性にも力を入れています」という公式発表には「本当に?」と疑問に感じることも多いが、性能の高さや優れた効率性にはやはりいつも感嘆させられる。舶来品のX1D II 50Cに接すると、そうした特徴の違いにも気付けた。

クルマも外国車がもてはやされた時代があって、確かに高速道路の長時間運転はドイツ車が楽だし、山坂道をマニュアルシフトを駆使しながら運転するにはコンパクトなイタリア車が面白いと感じたけれど、都内の細い道や渋滞にハマった時などは国産車が圧倒的に楽だった。軽トラで進むあぜ道も最高に面白い。

長くなってしまったが、つまり製品にはそれぞれに文化やバックグラウンドがあり、適した環境で使えば必ず輝くところがあるので、一概にどれが優れていると言い切れるものではないのだ、ということが言いたかった。久々に海外製品に触れてみると、こうした色々なことを捉え直すキッカケをくれるので、純粋に視野が広がったように感じられる。

するとX1D II 50Cは、「使い込めば使い込むほどカメラと人との距離が近くなる」のを感じられる、現在では数少ないカメラのような気がする。そう考えればAFの遅さや明らかに苦手なシーン、速いとは言えない起動時間などにも人間臭さが感じられて、どこか憎めない。

結果として一番のハードルは、お手頃になったとは言え絶対的に高価なカメラであり、レンズを増やそうにもどれも気合いの要る価格であることだろう。

次回は実写画像とフィールドでの使用感について紹介していきたい。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。