ミニレポート

カメラをお気に入り設定で着替える。内田ユキオ流“GR活用術”

GR III/IIIxのおすすめ設定をご紹介

ミラーレスであれ一眼レフであれ、レンズ交換式カメラの魅力は「被写体に合わせてレンズを交換できる」ところにあります。また、デジタルカメラの多機能化と豊富なメニューにより、撮影シーンに応じて設定をさらに最適化できるようになりました。28mm単焦点でスナップを撮る人と、大口径の85mmでポートレートを撮る人、70-200mmでスポーツを撮る人とでは、同じカメラであっても設定は違うもの。フィルム時代の感覚では、別のカメラと言っていいほどです。

そんな時代にRICOH GRシリーズはレンズ一体型(28mmの画角。歴代でGR21のみ21mm)のスタイルを貫き、シンプルだからこそ感じられる楽しさや喜びによって根強いファンに支持されています。ナイフや筆記用具のようだと言われますが、どう扱うかは使い手次第、生み出すものもそれぞれ。それでも「28mmだけでは撮り切れないものがある」というユーザーに向けて焦点距離40mm相当のGR IIIxが発売されました。焦点距離の異なる2台が選べるようになったことで、使い分けの喜びが加わり、可能性が広がりました。そこで、提案したい使い方があります。

RPGみたいに、“お気に入りの設定”と旅をする

GRにはユーザーがよく使用する設定値を登録しておける機能があります。カメラの設定をまるごと保存して右肩部のモードダイヤル(U1~U3)に割り当て、ショートカットで呼び出せます。ボタン操作ではなく3つまでアナログなダイヤルに割り当てられるのがポイント。メーカーによって呼び名は異なりますが、似た機能が搭載されているカメラもあります。

モードダイヤルのU1~U3に設定を割り当てられる

わかりやすい利用方法として、家族で同じGRを共用するとしましょう。モノクロのスナップが好きなお父さん、料理の写真をSNSにアップするのが日課のお母さん、ペットの写真をよく撮る娘さんというような場合、イメージコントロールから画像サイズ、AFモードなどそれぞれが使いやすいようカスタムして、その状態をまるごと保存し、自分が使うときだけ呼び出せます。パソコンで言えばユーザーごとにログインする感覚に近いでしょう。同じパソコンなのに、デスクトップから使い勝手までまるで違います。

これをさらに深化させ、1台のGRにつきノーマル+3、2台で8つの設定を作り、自分がよく撮る被写体に合わせて設定を作り込んでみたら便利ではと考えてみました。「ドラゴンクエスト」みたいなRPGで、パーティ(個性を持ったメンバーによるグループ)で旅をして、相手に対して得意技を繰り出していく感覚に近いです。イベントで紹介すると、自分もやってみたいという声が多く返ってきました。

RAW現像じゃダメなの? という疑問があるかもしれません。トーンに関わる多くのことはRAW現像で対処できてリスクも減ります。でも一方でシャッターを押した瞬間に全てが完結する潔さには写真の醍醐味があり、設定が先にあるからこそ「どんな構図で、どれくらいの露出で撮るのがいいだろうか」と悩む楽しさを実感できます。確かなフィードバックのない楽器で、美しいメロディは奏でられないもの。GRのシンプルさとも相性は良いと思います。

スランプに陥ったとき、気分転換の遊びと考えるのもいいです。着替えるだけで、自分自身は何も変わっていないのに、気分まで変わって行動的になったりすることがありますよね。それに似ています。

以下に実際の例を紹介するので、参考にしながら自分の設定を作ってみてください。

内田ユキオの“パーティメンバー”をご紹介

まずはGR IIIxから

40mmという画角は汎用性が高く、ポートレートや商品撮影まで幅広く使えます。そこでまず、とにかくアクションが早く、なんでもメモ感覚でパチパチ撮れるような設定があったら便利だろうと考えました。U1はダイヤルを早く合わせられるので出番が多く、急ぎで呼び出すものを入れておくのがいいです。

主な特徴として、50mmにクロップ、イメージコントロール「レトロ」をベースにコントラストを強く、ビネットは低減させました。写真を並べてもうるさくならないようにです。WBオート、ISO感度を高めにすることでミスショットを減らし、シーンタフネスを強化。SNSにも使いやすいようスクエアに。かつて「ましかく写真」などと呼ばれるスクエアブームがあり、GRもその中心にいました。そのオマージュでもあり、インスタグラマーと名付けても良かったですが「Minimalist」と登録してあります。

U1。トーンが強くフォーマットの力もあって、被写体に関わらずまとめ上げていく力が強いので、混ぜて並べたときにさらに面白さが増す

U2には、ローコントラストなモノクロで、映画を見ているような物語の余韻があるトーン。ソフトモノクロの美しさを有効に使いたい狙いもありました。28mmのような広角レンズは光源が入ることが多いため輝度差が高くなりがちで、基本的にハイコントラストとの相性がいいいです。しかし、40mmだと質感などの情報を減らすのは勿体なく、ローコントラストと相性がよいと思います。GRはシャドウ部に豊かなボリュームがあるので2/3段ほどローキーにして、プログラムAEであっても絞りを開けたがるようにISO感度は低くしてあります。

U2。強いハイライトを入れて撮ると、さらにこのトーンの魅力が感じられて美しさが引き出される

続いてU3。ハリウッドを志して映画を学ぶ若者たちが教材として用いることが多い「ドライブ」という映画があります。その監督ニコラス・レフンへのリスペクトから、「Refn」と名付けて人工光で美しく撮れる設定を目指しました。名前を付けるとイメージしやすくなり、細かく追い込んでいくとき目標を見失わないのでお勧めです。ピンチに繰り出す必殺技にも似ていて遊び心もあります。

WBシフトをG10:B13と極端に偏らせ、シャドウを引き締め、光源や輝きをケアできるようハイライトは軟らかく。他と違うのは「測距点と露出の関連付け」がオンになっていること。地下や夜景など輝度差の大きい条件でも、主題にピントを合わせれば露出のバランスはカメラ任せで撮れます。

U3。完全な人工光を意識しているが、自然光とのミックスにも対応できるので、空の深い青と白熱光の対比も美しい

続いてGR IIIを

イメージコントロール「ポジフィルム調」は、フィルムライクな画質と使い勝手が好きでGRを使っている人たちに人気なようです。デフォルトは汎用性を重視してあるので、U1ではちょっと攻めてみました。

コントラストを高く、彩度を下げ、1/3段ローキーに、「フィルム=柔らかい」という先入観を覆し、今の時代から見る昔のフィルムの魅力の再現を目指しています。こういうトーンは繊細なバランスが重要なので、カメラの背面モニターだけで決定せず出力環境で確認しながら調整するのがいいです。

U1。彩度は低いのに色が妙に生々しく、中間調の分離がいいのでスナップ向き。主題をシャドウ域で捉えるのがおすすめ

続いてU2。GRと言ったら「ハイコントラスト白黒」は象徴的なトーンでしょう。印象が強いだけでなく豊かさがあり、逆光などの光線状態にも強いです。でもそのまま使うのもつまらないので、乾燥機にかけて服をエイジングさせるように微調整してみました。

キーを上げて周辺減光をなくし、コントラストは控えめに、これによってハイライトとシャドウの分離はありつつも、中間調にボリュームゾーンが残るためディテールを拾いやすくなります。壁が白飛びしたり、影が潰れることなく、気配のようなものが残るのもいいです。

U2。この写真でいえば横断歩道のようなパターンや直線の多いものを入れると、グラフィカルでかっこよさが引き立つ

最後はU3。GRにはネガフィルム系のモードがありません。そこでスタンダードからシャドウを軟らかく、ハイライトを硬く、ややグリーン寄りにして、シャープネスや明瞭度は下げてみました。また、彩度を低く、粒状感を上げ、露出不足のネガフィルムから強引にプリントしたような雰囲気を意識しました。粒状性を下げると中判カメラのように、上げると小型カメラのように変化させることもできます。

U3。PORTRAのようなハイグレードなネガではなく、家族アルバムに貼られているようなプリントが狙い。ネガなのでWBオートが基本だが、曇り、CTEも面白い

遊びながら自分らしさを

どの設定にも言えることですが、細かく追い込みすぎると使える条件が限られ、かえって撮影ごとに調整が必要になって本末転倒になります。逆光を好む人と順光が好きな人では露出のベースも違いますし、自分のフィールドで作品を撮りながら育てていくのがよいです。いつの間にか迷子になりがちなので、初期設定はどこかに残しておくことも忘れずに。

どんな服に着替えても変えられない最後の「自分らしさ」こそがスタイルだと、ロラン・バルトは提唱しました。遊びから本質が見えるところも、この使いこなしの魅力です。

1966年新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経て独学で写真を学びフリーに。ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。