ミニレポート

カメラを繋いでRAW現像する「FUJIFILM X RAW STUDIO」の使い方

何ができるのか、X-E4で解説

フィルムシミュレーションが魅力の富士フイルムXシリーズ。富士フイルムがこだわった各フィルムシミュレーションは、JPEGで威力を発揮するように開発されている。その思想はポジフィルム(カラーリバーサルフィルム)と同じだ。ポジフィルムは撮影後にラボで現像し、仕上がったフィルム自体が出来上がりとなる。撮影者はそこから気に入ったカットを切り出す。そこに後処理という考えはない。

富士フイルムはデジタルでも同じようなワークフローを想定している。撮影者はフィルムを選ぶようにフィルムシミュレーションを選択し、撮影したらSDカードに記録されたJPEGデータが出来上がりとなる。RAWで撮って後で編集、ではない。以前、富士フイルムの発表会でも壇上で「カメラマンには後処理させない」と語っていた。富士フイルムはそれだけJPEGに力を入れているのである。

フィルムシミュレーションのPROVIAモードでもお馴染み、フジクロームPROVIA 100Fの現像後フィルム。富士フイルムは、撮影後に後処理をせず、JPEGデータが完成型という思想。ポジフィルム(リバーサルフィルム)での撮影に通じる。

とはいえ、撮影後に調整したいときもある。明るさを微調整したい、ホワイトバランスやフィルムシミュレーションを変更したい、などなど。もちろんXシリーズにもRAWはあり、撮影後に編集が可能だ。Adobe Lightroomをはじめ、いくつかのRAW現像ソフトでフィルムシミュレーションの変更もできる。

富士フイルムのRAWデータに対応したいくつかのRAW現像ソフトは、フィルムシミュレーションに相当するプロファイルを持っている。これはLightroom Classicで「Velvia/ビビッド」を選んだところ。

ところが、その仕上がりはJPEGと100%同じにはならない。その理由は富士フイルムの色や階調を作っているカメラ内の画像処理エンジン「X-Processor」(最新はX-Processor 4)を通していないからだ。似た仕上がりはできても全く同じではない。

RAWから富士フイルムのフィルムシミュレーションを100%再現する方法、そのひとつが「カメラ内RAW現像」だ。しかしカメラの小さな液晶モニターを見ながらの操作は快適とはいえない。特に調整する枚数が多ければ、なおさら面倒。

カメラ内RAW現像では、ハイライトとシャドウの調整は「トーンカーブ」から行う。
彩度を調整する「カラー」。以前紹介したようにフィルムシミュレーションをカスタマイズしても好みの仕上がりにならなかった場合、RAWから追い込むのが便利だ。ただしカメラ内RAW現像だと、やはり画面が小さく、正確なコントロールが難しい。

そこで注目なのが、カメラの画像処理エンジンを通してパソコンでRAW現像する、富士フイルム純正ソフト「FUJIFILM X RAW STUDIO」だ。

FUJIFILM X RAW STUDIOの使い方

使い方は、パソコンにFUJIFILM X RAW STUDIOをインストールし、USBケーブルでカメラとパソコンを接続。カメラの電源をオンにしたら、メニューから接続モードを「USB RAW現像/設定保存読込」に設定。FUJIFILM X RAW STUDIOを起動し、接続している機種で撮影したRAWデータが保存してあるフォルダを選択すれば、いよいよRAWからの調整が行える。

FUJIFILM X RAW STUDIOの使用には、まずはパソコンとカメラをUSBケーブルで接続し、カメラの電源をオンにする。X-E4はUSB給電に対応しているので、作業中にバッテリー切れになる心配はない。
カメラのメニュー画面から「接続設定」「接続モード」と進み、「USB RAW現像/設定保存読込」に設定する。そしてパソコン側でFUJIFILM X RAW STUDIOを起動させれば準備完了だ。
パソコンで起動したFUJIFILM X RAW STUDIOの画面。サムネイルは画面下に並ぶのみで、一覧表示できないのはやや使いづらい。
拡大や縮小も可能。画面上のズームボタンや、倍率選択のプルダウンメニューから操作する。ピントやブレのチェックには欠かせない。
2画面表示にして、調整のビフォー・アフターを比べることもできる。こうした作業は画面が大きいパソコンならでは。

ソフトウェアの画面レイアウトは、下にサムネイル、左にソース画像フォルダとヒストグラム、そして画像情報。右に操作パネルが配置されている。拡大や調整前、調整後の2画面表示も可能。やはり、カメラの背面モニターよりパソコンの大きな画面での作業が快適だ。色調や階調の再現性もよくわかる。

調整できる内容

調整できる項目はカメラ内RAW現像と同じ。明るさも1/3EVステップで、汎用RAW現像ソフトのような細かな調整やコントラスト調整はできない。“パソコンを使ってカメラ内RAW現像を行っている”、といえるだろう。ノイズリダクションもカメラ内と同じ仕上がりが得られる。操作はシンプルなので、RAW現像に慣れていない人でも扱いやすように感じた。

明るさの調整は、“明るさ”や“明度”でなく「増感/減感」と呼んでいる。RAW現像時の明るさ変更は、フィルム現像時の増感や減感と同じ考えなのだろう。こうしたところに、フィルムメーカーらしいこだわりを感じる。
調整なしのJPEG画像。
増感/減感を+1EVに設定し、約1段分明るくした。
フィルムシミュレーションの魅力はカラーだけでなく、「ACROS」で本格的なモノクロ写真も楽しめるところも大きい。カラーで撮った後に「これはACROSで撮っておけばよかった!」と思っても、FUJIFILM X RAW STUDIOなら最初からACROSを選んでいたかのような仕上がりが作れる。
撮影時のオリジナルJPEG画像。「PROVIA/スタンダード」
FUJIFILM X RAW STUDIOで「ACROS」に設定。
「モノクローム カラー」からモノクロに色を付けることができる。これもカメラ内RAW現像でカメラの背面モニターを見るより、パソコンの大きな画面の方が作業しやすい。
「モノクローム カラー」の縦軸「WARM」「COOL」をWARM寄りの+9に、横軸の「M(マゼンタ)」「G(グリーン)」をM寄りの-4の位置に設定。セピア調のレトロな雰囲気になった。
粒子を加えてフィルムを思わせる仕上がりもできる。「粒度」は弱と強の2種類。

しかし各調整項目を選択すると、手元の環境(Core i7 9700F 3.00GHz、メモリ32GB、Windows 10)では画面に反映されるまで3秒近くかかり、好みの仕上がりに追い込んでいくのはやや時間がかかるのが気になった。また現像後の書き出しフォーマットはJPEGのみ。画質に有利なTIFFに書き出すことはできない。保存先もRAWデータと同じフォルダになる。せめて保存先を指定できると、より使いやすくなるように感じた。

ただ現像時間は速く、こちらは同じ環境で1枚あたり約1.5秒だった。調整の内容さえ決まってしまえば、現像作業はスピーディーだ。調整内容はユーザープロファイルとして登録ができ、カメラプロファイルとしてカメラ側にカスタム登録も可能。特に、カメラにカスタム登録できるのは、パソコンとカメラを接続した状態で使用するメリットだ。

カメラ側で「Velvia/ビビッド」を設定して撮影したJPEG画像。
RAWからLightroom Classicの「Velvia/ビビッド」で現像したJPEG画像。かなり近い仕上がりだが、シャドー部が明るく、ややコントラストが低い。
FUJIFILM X RAW STUDIOで現像したJPEG画像。カメラのJPEGと全く同じ仕上がりになった。
調整を加えると、サムネイルにアスタリスクに似たスターマークが付く。
撮影時のオリジナルJPEG画像。選んでいたのは「PROVIA/スタンダード」
FUJIFILM X RAW STUDIOで、RAWデータからフィルムシミュレーションを「クラシックネガ」に変更・書き出し。

富士フイルムユーザーにはありがたいソフトだが、ひとつ注意することがある。それは現像するRAWデータを撮影したのと同じ機種を接続する必要がある、ということだ。例えばX-Pro3で撮影したRAWデータなら、X-Pro3をパソコンに接続しなくてはならない。同じ撮像素子、同じ画像処理エンジンを搭載したX-E4を接続しても現像できない。複数台を使い分けるなど、場合によっては不便に感じるシーンもあるかもしれないが、仕方のないところだろう。

ここで使用したのはFUJIFILM X-E4。小型軽量のボディに、上位機のX-T4やX-Pro3と同じX-Trance 4センサーとX-Processor 4を搭載する。

使用時には毎回カメラをパソコンに接続することや、編集中の表示速度も速くはないなど、やや面倒に感じる部分もあったが、RAWデータから富士フイルム純正の仕上がりが得られるのは、フィルムシミュレーションの画作りをフルに味わいたいユーザーにとっては大きな魅力だ。個人的には、カメラでJPEGとRAWを同時記録しておき、メインはJPEGを使用。撮影時に追い込めなかった設定をRAWからFUJIFILM X RAW STUDIOで調整する、という使い方が最もスマートだと感じた。

カラークロームブルー

青空をより印象的にする「カラークロームブルー」。撮影時にオフでも、RAW現像時に適用できる。弱と強の2種類が選べる。
オリジナルのJPEG画像。フィルムシミュレーションは「PROVIA/スタンダード」。カラークロームブルーはオフ。
FUJIFILM X RAW STUDIOでカラークロームブルーのみ強に設定した。青空に深みが増している。

ホワイトバランス

明るさと並んでRAWからの調整の定番であるホワイトバランス。オートのまま撮ってしまい、後になって「変えておけば」と思ったことがある人もいるはず。こんなときにRAWはとても便利だ。ここでも富士フイルムが作った色が完璧に再現できる。
ホワイトバランスはオート。フィルムシミュレーションは「PROVIA/スタンダード」
FUJIFILM X RAW STUDIOでホワイトバランスを日陰に変更した。暖かい色調になり、夕方の西日のような印象だ。
WBシフトでホワイトバランスの微調整もできる。撮影時にもカメラで設定も可能だが、細かなコントロールはパソコンで行った方が狙った色を出しやすい。
ホワイトバランスオートをベースに、R+4、B+4に移動させ、紫調の色にした。

ハイライトトーン/シャドウトーン(カメラ内:トーンカーブ)

ハイライトとシャドーの調整は、カメラ内では「トーンカーブ」として搭載しているが、FUJIFILM X RAW STUDIOのソフト上では「ハイライトトーン」「シャドウトーン」として独立している。ハイライトトーンはプラス側にするとハイライトがより明るくなり、マイナスにすると暗くなる。逆に、シャドウトーンはプラス側にするとシャドー部がより暗く、マイナス側にすると明るくなる。
調整なしのオリジナルのJPEG画像。フィルムシミュレーションは「PROVIA/スタンダード」
FUJIFILM X RAW STUDIOでハイライトトーンを-1、シャドウトーンを-1.5に設定。オリジナルより雲の階調が柔らかく、暗くなっている建物の階調もより出ている。

カラー

彩度を調整する「カラー」。設定したフィルムシミュレーションよりもう少し鮮やかに、もう少し落ち着いた仕上がりに、などのコントロールができる。
調整していないオリジナルのJPEG画像。フィルムシミュレーションはPROVIA/スタンダードに設定。
FUJIFILM X RAW STUDIOで「カラー」を+3に設定。全体に彩度が上がり、オリジナルよりインパクトのある写真になった。

高感度ノイズ低減

暗所の撮影で威力を発揮する高感度。しかし撮ってみたら思ったより高感度ノイズが多かった、ということがないだろうか。FUJIFILM X RAW STUDIOは「高感度ノイズ低減」で高感度ノイズの調整が行える。
ISO 6400で撮影したオリジナルのJPEG画像。カメラ側の高感度ノイズ低減は初期設定の「0」。
FUJIFILM X RAW STUDIOで「高感度ノイズ低減」を+4に設定。オリジナルよりノイズが目立たなくなった。マイナス側に振るとノイズを目立たせた写真にできる。

ユーザープロファイル保存/カスタム登録

自分好みの設定が完成したら、ユーザープロファイルに保存可能。同じ機種で撮影した別の画像に反映させることができる。またカメラ側に保存してカスタム登録も可能だ。
試しに、X-E4をパソコンに接続した状態で、同じ撮像素子と画像処理エンジンを搭載する「X-T30 II」で撮影したRAWデータを選択してみた。すると画像は表示されるものの、調整や現像はできない。少し残念。

作品(X-E4+XF35mmF2 R WR)

オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
青空を強調させたかったので「カラークロームブルー」を弱、「ホワイトバランス」を晴れに設定。さらに雲を目立たせるため「増感/減感」を-1/3EV、「ハイライトトーン」を+0.5に設定した。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
オリジナルは標準的だがもう少し個性的な仕上がりにしたい。FUJIFILM X RAW STUDIOで様々なフィルムシミュレーションを試し、最もイメージに近かったPRO Neg.HIを選んだ。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
強い光と標識の鮮やかさを感じさせるように、「フィルムシミュレーション」をVelvia/ビビッドに。ハイライトを意識して「増感/減感」を-1/3EVに設定した。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)。
力強さは感じさせながら落ち着いた色調も狙い、「フィルムシミュレーション」をクラシックネガに設定。さらに「WBシフト」をR:-1・B:2、「カラー」を-2にした。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
オリジナルよりもメリハリが欲しかったため、「ハイライトトーン」を+2.5、「シャドウトーン」を+1に設定し、コントラストを強めた。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
ポップな雰囲気にしたかったので、「フィルムシミュレーション」をVelvia/ビビッド、「カラークローム・エフェクト」を弱に設定。華やかさを感じる写真になった。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
渋い色調を狙って「フィルムシミュレーション」をクラシッククロームに設定。オリジナルではシャドー部が明るすぎるため「増感/減感」を-1/3EV、「シャドウトーン」を+1で重厚感のある仕上がりにした。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
モノクロが似合う光景。好みの階調になるように「フィルムシミュレーション」をACROS+Gフィルターに。また深みのある仕上がりにしたいため「増感/減感」を-1.3EV、さらに「ハイライトトーン」を+1、シャドウトーン」を-0.5でハイライトとシャドーを微調整。「グレイン・エフェクト」を弱、「粒度」を小にしてフィルムの雰囲気も出した。
オリジナルJPEGデータ(PROVIA/スタンダード、WBオート)
自然な雰囲気だが、わずかに暖かみがあった方が合っているように感じた。そこで「カラークローム・エフェクト」を弱、「ホワイトバランス」をAUTO雰囲気優先、「ハイライトトーン」を+1に設定。さらに「高感度ノイズ低減」を+2でノイズ感の少ない仕上がりにした。

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。