イベントレポート

PENTAXミーティングオンライン2021レポート(Part.1)

2021年の新製品振り返りと、新カスタムイメージ「里び」使いこなし術

PENTAX機を愛する人、PENTAXのカメラや製品づくりに興味・関心を抱く人が集うファンミーティング「PENTAX ミーティング オンライン 2021」が11月27日に開催された。PENTAXファンにとって約2年ぶりとなったファンミーティング。アーカイブ配信のない一回性のイベントだったために見逃してしまったというユーザーも多くおられることだろう。少し時間は経過してしまったが、あらためてイベントの模様をお伝えしていきたい。話題・内容ともに多岐にわたったこともあり、今回は2パートにわけてお届けしたい。パート1では新たに登場したカスタムイメージ「里び」に関する情報を中心にお伝えしていく。

一眼レフ体験にこだわるPENTAX

PENTAXファンにとって2021年最大のエポックメーキングかつホットな話題といえば、ついに登場したAPS-C一眼レフカメラの新フラッグシップモデル「PENTAX K-3 Mark III」の存在ではないだろうか。4月23日の発売当日には同社代表取締役社長(当時)の高橋忍氏が東京・新宿のリコーイメージングスクエア東京に駆けつけ、手ずから購入者に製品を渡すイベントが催されるなど、大きな注目を集めたことも記憶に新しい。

PENTAX K-3 Mark III(ブラック)

同製品は2019年9月に開催されたファンイベント「PENTAX ミーティング 100周年スペシャル」の催行前日に開発が報じられて後、PENTAXファンの熱視線を集めながらも、未だ収束のきざしが見えないコロナ禍により大規模展示イベント「CP+2020」が中止になり、同「CP+2021」もオンラインのみでの開催となるなど、発売に至るまで中々実機を手にする機会に恵まれないなどの紆余曲折を経てきた。

この間、同社は積極的にオンラインイベントを開催。2020年5月にはK-3 Mark IIIをはじめCP+2020での参考出品を予定していた製品をWebを通じて紹介するなど、PENTAXファンや数多くのユーザーへ向けて様々な形で情報が発信されることになった。

2021年に発売された製品。(イベント中で映し出されたスライド資料より。リコーイメージング提供。以下同))

光学ファインダー機の開発・製造に今後も注力していくことを宣言した「PENTAX STATEMENT」もまた、「これからのPENTAXカメラが大切にしていくこと」と題した動画(2020年7月16日、YouTubeを通じて配信)の形式で発信されたものだった。

世界規模のコロナ禍は数々のリアルイベントを中止あるいは延期に追い込み、同社を含め各社のイベント催行をオンラインでのバーチャル形式に舵を切らせることになったわけだが、かつてのリアルイベントを振り返ってみると、大規模な展示イベントは別にして、同社のユーザーイベントとしては前記「PENTAX ミーティング 100周年スペシャル」が最大のものだった。国内5地域に加え、中国・上海でも開催された。

同イベントは「PENTAX」ブランドを立ち上げた旭光学工業合資会社の誕生100周年を記念したもので、東京会場ではK-3 Mark IIIの試作機お披露目のほか、モデルの丹羽明日香さんが締めのじゃんけん大会を勝ち抜き、K-1 Mark IIのガラスペンタプリズムを手に取ったことでも話題になった。

今回のイベント「PENTAX ミーティング オンライン 2021」は、旭光学工業合資会社の誕生102年の節目に開催されたもの。昨今の状況に鑑みてリアルではなくオンライン形式での催行とはなったものの、同社が催行するイベントらしく視聴者がともに楽しめる内容で、大いに賑わうものだった。熱気の一端をあらためてお伝えしていきたい。

多岐にわたるプログラム構成

イベントは同社が光学ファインダーに注力していくと宣言した際に公開された映像からスタートした。ペンタックスステートメントとともに、同社が考える一眼レフカメラならではの撮影体験や、その面白さを伝える内容が改めて提示。スペックシートが示す数値だけを追いかけるのではなく、撮影者の感覚や体験を大切にしていきたいとする同社らしい姿勢が示された。

イベントの案内・進行は同社広報をつとめる川内氏が担当。MCが本職ではないとしながらも、さすが手慣れた差配でイベントの開催が宣言された。

メインプログラムの構成は以下のような内容で構成されていた。本Part.1では「開発者による実写作例バトル」と「K-3 Mark IIIの進化は止まらない!」の模様の一部をお伝えしていく。

・開発者による実写作例バトル
・K-3 Mark IIIの進化は止まらない!
・ここが知りたいPENTAX
・今後のPENTAX製品について
・じゃんけん大会オンライン2021

Limitedレンズらしさへのこだわりとは。開発者による実写作例バトルより

同社のFA Limitedレンズシリーズの中でも31mmF1.8、43mmF1.9、77mmF1.8の3本は特別な存在だ。その独特な焦点距離設定にも数多くのストーリーがあるPENTAXファンにして必携と言わしめるレンズ群だ。これら3本はフィルム時代から長くファンに親しまれてきたが、この4月にHDコーティング化を果たし、43mmにも七宝焼きのフィンガーポイントがつけられるなどの嬉しい仕様変更が加えられた。

ちなみにこの七宝焼きもFA LimitedシリーズのHDコーティング化にあわせてリニューアル。同シリーズは1997年の「smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited」からスタートしているわけだが、発売当時から現在に至るまでの間に原料素材の制限等によりこの七宝焼きの色合いが微妙に変化してきた。ファンの間でも当初の色合いに寄せる思い入れが強い製品シリーズとなっているわけだが、今回のリニューアルにあわせて、この色合い再現にも注力。「発売当初の色合いに近づけたい」という思いから、職人と調整を重ねてきたことなどが、同社「PENTAX Limited Lens スペシャルサイト」上で伝えられている。

PENTAX Limited Lens スペシャルサイト

さて、HD化された新FA Limitedシリーズの3本は既存の光学系設計を踏襲する点も特徴となっているが、一方で、35mm判フルサイズ対応のLimitedシリーズとしてデジタルの特性に最適化したレンズ「HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR」が11月に登場。「D FA」仕様として初のLimitedレンズとして注目を集めている。前記スペシャルサイト上では本レンズで開発者たちが何を重視して設計したのかなども語られているので、未チェックの方は一読してみてはいかがだろうか。

この最新設計のレンズを用いた作例対決では、光学設計の江橋氏、メカ設計の中村氏、デザインの渡邉氏、メカ設計マネージャーの飯川氏、プロダクトマネージャーの小織氏の5名が登壇。それぞれが捉えた3カットの「作例」が披露された。当該レンズの特性を誰よりも理解している開発者自らが撮影した作例が示されるというのはあまり例がないだけに、その撮影内容に強い関心が寄せられる。ボディはK-1 Mark IIとK-3 Mark IIIの2機種だ。

作例の内容もご覧のとおり5者それぞれ。画面内に思いっきり太陽を入れて光芒を出しながらも様々な構造物のディティールに注目したり、超広角で子どもを捉えたり、ペンタックスらしく自然風景に注目してみたりなど、流石と思わせる作例の数々が披露された。

超広角ならではのエピソードとして、撮影に夢中になるあまりレンズを水につけてしまったという話題も。開発者ならではの視点からは超広角レンズながら奥行きを意識した使い方という点でも示唆に富む内容となっていた。一方で色再現や階調の美しさに注目する視点は、各氏共通。条件をあえて厳しめにふった内容にしていくところなどは開発者の性なのだろうか、攻めた姿勢が印象的だった。

参加者からのリアルタイム投票の結果、最も多くの票を集めたのはプロダクトマネージャーの小織氏。賞品として「ペンタックスオフィシャルで記事を1本書く権利」が贈られた。

小織氏の作例のひとつ。北斎の「神奈川沖浪裏」をイメージモチーフにしたという

新カスタムイメージが登場。K-3 Mark III の進化は止まらない!(前半より)

セットチェンジを経てイベントは続く。イベントの2つ目の柱となる「画質設計」の話題に移り、新しいカスタムイメージ「里び(SATOBI)」が、商品企画の若代氏より発表された。本カスタムイメージは12月7日にK-3 Mark III用のファームウェアアップデート(バージョンは1.31)として公開済み。今後K-1やK-1 Mark IIにも実装を予定しているとのことだ(12月7日にベータ版の機能追加ファームウェアが公開されている)。

画づくりのコンセプトは「少し哀愁を感じるようなイメージ」であること。同社の画づくりとしては「雅(MIYABI)」の対局にあるイメージだという。懐かしさを表現するために60~70年代のカラー写真のイメージを目指したという。アメリカンニューカラーの時代を意識しているということなのだろう。

本カスタムイメージ誕生の背景について、開発に携わった三宅氏は同社としても珍しいパターンで開発が進められていったと舞台裏を告白。設計者が主導していたこれまでのカスタムイメージづくりに対して、本イメージでは企画・開発でイメージを共有しながら、コンセプト固めに重きを置いて開発を進めていったのだと説明した。

「里び」の特徴を説明する若代氏(左)と宮田氏(右)

開発にあたり、数値評価ではなく官能評価でイメージを追い込んでいったと語る宮田氏。その色再現の特徴を4つの色から説明。青空は特徴的なシアン味があり、肌の色は赤味を帯びたものに、黄色は緑がかってくすんだ色合いで、赤は退色して褪せたようなイメージに調整していると語った。

このカスタムイメージ実装に寄せて、カスタムイメージ画面にトーンカーブも表示されるようにしたという宮田氏。パラメータ調整にあわせてカーブが変化したり、アイコン表示にもこだわったとのコメントがあった。

新カスタムイメージを写真家はどう使いこなす?

新たに登場したカスタムイメージ「里び」。この画づくりを作品づくりにいかしていくアイデアや、マッチするレンズにはどのようなものがあるのか等、ユーザーからの素朴な疑問に応えてくれるコーナーも設けられていた。登壇写真家は佐々木啓太さんと塙真一さんだ。

今回はLimitedレンズとともに新しいカスタムイメージで撮り歩いたというお二方。シャドーとハイライトの伸びが良く記憶の中のイメージに近い印象で仕上げてくれると感想を話す佐々木さんに、塙さんは、ただコントラストが落ちているだけでなく独特のやさしさやシャープネスがある画づくりだと強い同意を示した。

いくつか示された作例について、佐々木さんは撮影した中で最も「『里び』っぽいなと思ったイメージ」だというワンカットを提示。家ではフェルメールと呼んでいるとコメントしつつ、撮影時の目で見るともっと強かった光も「里び」で撮ると、イメージの中のシャドーとハイライトのバランスに近づいていくと指摘。「リバーサル」で撮ると目で見たイメージに近くなるが、記憶の中にあるイメージに仕上げることができたと伝えた。

続けて塙さんからの作例に。写真が表示された瞬間に「これはいい!」という絶賛する佐々木さん。自身はガツンと色を出してくれるリバーサル一辺倒だけれども、この「里び」ではリラックスして撮ることができると応えた塙さんは、続けて紅葉を撮る場合、例えばリバーサルで撮りたいのは真っ赤な紅葉だけれども、里びで撮りたいのはそこに落ちてきた葉なのだとコメント。華やかさを撮りたいのではなく、「寂び」を意識したシーンで使いたい画づくりだと指摘した。

「里び」じゃないと撮らなかったというシーンとして鉄骨を大きく捉えたカットを紹介した佐々木さんは「鉄の強さだけじゃなく、そこに宿る時間も宿っているよう」とコメント。「里び」の印象として、その日の気分にすっと入ってきてくれる側面があるとして、気負わずにリラックスさせてくれる画づくりだ、との感想を示した。

PENTAX機の良いところとして、1枚撮ったあとにイメージを細かく調整できるところを挙げた塙さんは、シアンを少し強めにする使い方を紹介。シャドーをマイナス2にして、少し締め気味にして使うのも面白いと、同社カメラならではの面白さに迫った使い方も教えてくれた。

お二人ともにリラックスして撮っていける画づくりだと指摘する「里び」。それではどのようなレンズやシーンが向くのだろうか。ユーザーからの質問に答えてくれる場面もあった。

まず「Limitedレンズとスターレンズ、どちらが相性が良さそうですか?」との質問に、今回はLimitedレンズとの組み合わせでのみ撮影する内容だったと答えた両名。それでも味わいという点ではLimitedレンズから入っていっていいのでは、とのアドバイスがあった。お二人とも、やはりふだんの撮影ではLimitedレンズについ手が伸びるのだという。

2つ目の質問は、「使ったら面白そうなシーンは?」というもの。ネガカラーフィルムが好きな人にマッチする画づくりだと思うとの回答が塙さんから。佐々木さんはスターレンズとの組み合わせで田舎の温泉でポートレートを撮ってみたいとコメント。鄙びたイメージでの作品づくりが面白いとの感想で一致するお二方だった。

3つ目の質問は、「マッチするレンズや画角」を尋ねるもの。佐々木さんからの回答は35mm判換算で40mm相当が良さそうというもの。塙さんは31mmを選びたいとコメント。スナップの画角がマッチする画づくりだと感想を伝えた。

4つ目は「この画づくりに合わなさそうな被写体」を尋ねるものだった。即座に夜景やイルミネーションと答えた塙さん。やはりきらびやかな場面では「雅(MIYABI)」の方がマッチするだろうとの感想を伝え、佐々木さんも大きくうなずく回答となった。

ここでイベントは折り返しに。Part.2では後編としてK-3 Mark IIIまさかの派生モデル構想やK-1 Mark II後継機にまつわる話題などをお伝えしていきたい。

本誌:宮澤孝周