イベントレポート

ソニーGマスターレンズの実力をプロ写真家が斬る!

大三元&85mm&100mm STFでポートレート撮影

ソニーマーケティングが関係者を対象に、「『Gマスターで撮る』 ポートレート撮影体験会」をこの度開催した。

このイベントは、ボケ描写にもこだわったというEマウントレンズ「Gマスター」シリーズが6本揃ったタイミングでポートレート撮影における描写力を実感してもらおうという趣旨。α9を初めとするミラーレスカメラとGマスターレンズの相性も試すことができた。

今回も5月の「α9体験会」に続き、写真家の井上六郎さんによる実写&レポートをお伝えする。(編集部)

筆者がα9を導入した理由

5月に行われたα9の体験会と、そのレビュー記事執筆を経て、新世代ミラーレスカメラα9に好感触を得た。

さらに、従来の一眼レフカメラでは撮影が難しかった場面でα9による撮影を行ったが、特に暗所でのブラックアウトフリーの被写体追随の実力に大きな可能性を感じるに至った。

一歩先行く機構的な新機軸は、あれこれと試したい性分の私の気を掴み……、とりあえずではあるがα9のテスト的導入を決めた。まだまだ従来一眼レフカメラとの併用だが、ミラーレスαシステム全体での操作性と基本性能の向上、そして超望遠のレンズラインナップ拡充など、希望的観測を織り込んでのことでもある。

スポーツ写真家とポートレート

私はスポーツシーンなど、いわゆる“動きもの”の撮影が多いが、選手インタビューなどで動かない人物に面と向かってレンズを向けることは当然、多々ある。

利便性から大三元ズームが主流で、単焦点の出番はあまりないが、45mm F1.8や50mm F1.4、85mm F1.8のいずれか1本を、突如として現われるポートレートなどに備えカメラバッグに忍ばせている。

いざ、ポートレートの撮影となれば、光の回し方を考えながら画面内で最良となる作画を想像しつつ、被写体となる人物を緊張させまいと、あれこれ頭を巡らせて撮影に臨む。

人物がどんな方であれ、私にとってその現場は、限られた時間への緊張、相手とのコミュニケーション、そして仕上がりの責任と期待が味わえる心躍るひと時だ。

レンズにも独自技術が満載

ミラーレスαを導入したばかりのタイミングで巡ってきたこの「Gマスター」体験会。果たして、そんな姿勢で撮影に臨む私に「Gマスター」が後押しをしてくれるのか……。いや、そもそもソニーが誇るその性能を存分に発揮させられるのか……。体験会はそんなことを見計らうのに絶好の機会である。

ここ数年で急速にラインナップを広げたEマウントレンズだが、これら「Gマスター」はコニカミノルタ時代から続く「G」レンズ、そして「ZEISS」ブランドレンズのハイグレードの流れの先にあるという。

「G」「ZEISS」の両レンズとも高精度、高解像などを目指したものだが、それらの性能に加え、レンズの「ボケ」に代表されるような「味」にもこだわって設計・開発されるのがこの「Gマスター」なのだと。

Gマスターシリーズは計6本となった
Eマウントレンズは焦点距離12~800mmをカバーする(テレコンバーター使用時)

体験レポートなので技術的トピックの詳細は割愛するが、「Gマスター」は高解像が得られることは当然のこととしながら、ボケ味の滑らかさにも寄与するという「XA非球面レンズ」、高透過を達成しコート表面の平面性に長けるとする「ナノARコーティング」、そしてボケ味を設計段階でシミュレートする「ボケシミュレーション」の3つをもってしてでき上がった高級ラインである。

レンズにおいても様々な独自技術を持つことがソニーの強みという
非球面レンズの高い面精度もアピールポイントだ

体験会で用意された「Gマスター」レンズは、FE 16-35mm F2.8 GM 、FE 24-70mm F2.8 GM 、FE 70-200mm F2.8 GM OSSの大三元にFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを加えたズーム群、そして単焦点のFE 85mm F1.4 GMとFE 100mm F2.8 STF GM OSSの現状ラインナップを飾るGマスター全布陣。(100-400mmは今回未使用)

会場となる外光が注ぐハウススタジオに4つのシーンが用意され、それぞれメイクを施した女性モデルが待ち構える。Gマスターとミラーレスαの性能をテーマごとに発揮させられるお膳立てだ。

では、体験会でのポートレート作例を見ていただこう。

FE 24-70mm F2.8 GM+α9

何かと汎用域の広い大三元の1本である標準ズーム、FE 24-70mm F2.8 GM。キッチン付きの部屋に置かれたダイニングテーブルの前でモデルさんに座ってもらい、向かい合わせで会話をするような状況を作った。

モデルさんとの距離は1.5mほど。絞り優先モードにして絞り開放のF2.8、1/80秒、ISO1000、+0.7EV補正、望遠側の70mm、ホワイトバランスはオート。

α9 / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/80秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO1000 / 絞り優先AE / 70mm

早速、αの目玉機能の1つ、瞳AFを試みるが、この距離では何ら問題なく向かって左(右目)の瞳を認識、合焦した。ピントの合う瞳周辺はα9の高感度特性もあってノイズ感なく緻密に見える。

背後のキッチンに置かれた小物類のボケ具合は、そこがキッチンであることが判別できつつ、乱れのない整然とした模様のようだ。

右上と左端中央の丸いハイライトのボケにこそ、僅かな口径食(真円にならない)が出て、ピントの合っていない左目まつ毛の後ボケが僅かに二線ボケのようになっているが、いずれにせよ気にするまでもなく、ズームレンズでの、しかも開放絞りでの描写具合なら上出来の範囲だと思う。

ハウススタジオでの撮影は、その雰囲気を伝えられるかが出来を左右するが、肌の艶、ダイニングの空気感は再現できたと思う。

FE 16-35mm F2.8 GM+α9

同じキッチンダイニングの部屋でレンズをFE 16-35mm F2.8 GMに替えた。モデルさんにキッチン内に立ってもらい、ダイニング側からカメラを構え、小物や果物が手前でボケる状況を作った。

絞り優先モードで絞り開放のF2.8、1/80秒、ISO1000、+1.3EV補正、広角側16mm、ホワイトバランスはオート。

α9 / FE 16-35mm F2.8 GM / 1/30秒 / F2.8 / +1.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / 16mm

超広角レンズでポートレートを撮ることはほとんどないが、この場合は、人物が小さくなるように配置し、ほんの僅かな面積に存在する瞳にAFが機能するかどうかを試してみた。

全画面の面積に対してコンマ1%にも満たないと思われるモデルさんの瞳だが、顔認識時間を短くおいて、すぐにその瞳を検出した。

ノイズを極力抑えたいので絞りを開放にして、感度を極力下げる。被写界深度の深い超広角だが、数m先のものに対しての正確な合焦は、例えば空など背景との明らかな境がない場合、合焦させたい被写体自体の小ささもあって、なかなか難しい。なので、深度内には収まらないと予想できれば、AFであっても合焦作業は疎かにできない。

従来の一眼レフカメラならAFポイントの大きさもあり、AFは背景側のコントラスト引っ張られて、背景に合わせてしまうことが多々あるほど、実は苦手なシチュエーションだ。

しかしこんな場面でこそ、ミラーレスの撮像面AF、さらに瞳認識ならではのメリットが生かせた。

全体的な白壁の影響もあり、露出補正で1.3段のプラスを施して人物の適正露出が得られているが、顔認識で得られたエリア(顔)の輝度を反映させる露出決定の切り口がさらに備わっていれば、ポートレートに持ってこいとも思えた。

FE 100mm F2.8 STF GM OSS+α7R II

「アポダイゼーション光学エレメント」というグラデーションフィルターを内蔵させた単焦点の100mm F2.8レンズ。

このレンズはグラデーションフィルターによりボケの輪郭を柔らかくでき、例えば背景で既にボケている点光源の輪郭模様を周囲に馴染ませられる。

レンズ名称で口径比を由来とする開放F2.8と記しながら、そのエレメントのために、絞り開放で撮影しても撮像面に届く光から、データ上はF5.6(T値としてのT5.6)と表示(Exif情報の記録も)され、エレメント非搭載の通常レンズで表示される近似F値となる数字を示す。

レンズの絞りリング(T値設定リング)をT8(アポダイゼーション光学エレメントの効果範囲外)としたカットに対して、アポダイゼーション光学エレメントの効果が最も大きくなるT5.6に設定したカットは、背後のイルミネーションの点光源、黄色い花弁の際が周りに溶け込むようにボケていく。

α7R II / FE 100mm F2.8 STF GM OSS / 1/30秒 / T8 / +1.7EV / ISO6400 / 絞り優先AE / 100mm
α7R II / FE 100mm F2.8 STF GM OSS / 1/60秒 / T5.6 / +1.7EV / ISO6400 / 絞り優先AE / 100mm

もちろん、この状況でも瞳AFが働くので、アングル決定前にフォーカスポイントを予めセットしておく手間も省け、右手人差し指はシャッターボタンに、左手はボケをコントロールするT値設定リングの操作に集中して撮影に臨める。

ソフトフィルターなど、レンズ前面に取り付けるフィルターであれば、画面全体に効果を施すが、このSTFレンズは合焦部はきっちりと解像を残し、周辺のボケを一層ぬくもりある夢幻的な表現にできる、というわけだ。

衣装のレース部分を見ても、ピントを合わせた瞳と光軸方向でそれほど離れていない合焦外の場所でも顕著にアポダイゼーション光学エレメントの効果が表れているのがわかる。

今回は室内での撮影だったが、例えば屋外の広い空間で、やや遠くに立たせた人物を、距離差の出にくい背景前で際立たせる、大判カメラで得られるような望遠効果を狙う際に使ってみたい1本だ。

FE 85mm F1.4 GM+α9

撮影者から被写体である人物と会話ができるよう適度な距離を置きながらバストアップが無理なく撮れるのがこの85mmレンズ。ポートレート撮影の代名詞的レンズと一般的に言われる所以がそこにある。

設定を、絞り優先モードで絞り開放のF1.4、+0.3補正でやや明るめに、ISO500として手ブレを防ぐべくシャッタースピード1/100秒を稼ぐ。ホワイトバランスは、秋っぽさを出すアンバー調を入れようと曇天にしてみた。

α9 / FE 85mm F1.4 GM / 1/100秒 / F1.4 / +0.3EV / ISO500 / 絞り優先AE / 85mm

リビングを模した部屋に置かれたソファーでモデルさんに横たわってもらい、くつろぐ表情を狙う。

瞳AFで捉えた右側の目(左目)の解像は問題なく、はみ出たマスカラ粉の具合もわかる。24-70mmレンズの望遠側で得られる画角に近いが、首筋から右肩にかけて見られるボケ具合はさすがの開放F1.4。

ズームレンズに比べ、自然さが感じられるのはやはり単焦点のおかげだろうか。背景のボケを見るため、わざと角が出るような直線物を入れたが、その本棚の枠と中にある本の直線部分、画面の上から2本入る植物の緑葉には、輪郭が残りながら整いつつエッジがボケていっている。

肌のグラデーションや栗色の前髪の再現からして、一味も二味も違う単焦点レンズで得られる気持ちよさが備わっている。これ以上あれこれと言わせない、品の良い直球のような玉と見受けた。

FE 70-200mm F2.8 GM OSS+α9

上記と同じ部屋、同じモデルさんでレンズをFE 70-200mm F2.8 GM OSSに替えてストロボ撮影を行った。

400W級の大型ストロボも数台用意されていたが、体験会に協賛していたプロフォトが発表したばかりの「Profoto A1」1灯で試してみた。

Profoto A1

アタッチメントの「ソフトバウンス」を着け、画面右側から背後の白壁と天井に向けて1/2出力の発光。向かって左の頬は銀レフを当てて光を起こした。マニュアル露出で絞りは開放F2.8、シャッタースピード1/200秒、感度はISO640。ホワイトバランスは曇天に近い5,700Kとした。

α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/200秒 / F2.8 / 0EV / ISO640 / マニュアル露出 / 200mm

ストロボ撮影が前提のセッティングのため、暗い室内となっていたが、瞳AFは向かって左の目(右目)を難なくキャッチ。EVFは露出値を反映させない明るさで表示させるモード(「設定効果反映」のOff)に切り替えた。

白壁のバウンスを利用するためにシンプルな背景にし、顔のパーツと髪型だけを見せるよう肩より上のショルダーアップを狙う。

シャドウ側の髪の毛はボケの中に溶け込むが、半逆光の光を拾うハイライト側はその1本1本が描写され、メッシュの色のグラデーションも滑らかだ。

アウトフォーカスとなる右側の目のまつ毛から外側に向かう後ボケはFE 24-70mm F2.8 GMと同傾向のやや雑なものとなっているが、ズームレンズであることを考えれば合格であろう。

FE 85mm F1.4 GM+α7S II

最後は敢えて1,220万画素と少な目の撮像センサーを採用し、広ダイナミックレンジによる高感度時の低ノイズを実現したα7S IIによる低輝度環境での高感度撮影となった。

ロウソク1本のため、肉眼でもこの程度の暗さだった

FE 85mm F1.4 GMでISO3200、絞り開放のF1.4で1/30秒、ホワイトバランスは2,600K。露出値から算出するEV値は1EVである。

α7S II / FE 85mm F1.4 GM / 1/30秒 / F1.4 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出 / 85mm

さすがにこの暗さでの瞳AFは、モデルさんの顔の角度もあって厳しく、時折チラチラと瞳を認識するまでであったが、AFは問題なく働く。

しかし、85mmのF1.4とあって顔認識モードでは目の上のまつ毛にピントが来るとは限らず、残念ながらその都度マニュアルフォーカスで瞳に合わせる微調整を必要としたが、ピントリングの回転は滑らかに動き、マニュアルフォーカス時のEVFの拡大表示も手伝って、昔ながらのプロセスも楽しめたのだった。

描写性能としてはISO3200設定でも、頬のハイライトから側面のシャドウに至る階調再現、そのシャドウ部のノイズの少なさは特筆できる。

ノイズリダクションが効いてはいるだろうが、レンズが解像した被写体の緻密さを損なうような処理はしておらず、カッチとピントの合う箇所に目が行きつつ、アウトフォーカスの部分の質感も感じられ、ここでも「Gマスター」を活かせるボディとの良い相関関係が体験できた。

Gマスターレンズが活きる瞳AF機能

雑誌の表紙となる写真のポートレート撮影で、一眼レフカメラと明るい単焦点レンズを用いたことがあった。背景をボカそうと絞り開放近辺で撮影したのだが、その半数近くのカットでピントが外れていたことがあった。

原因は、カメラの経年変化やちょっとしたショックを与えたことで、恐らくミラーボックス下の位相差AFセンサーに届く光束の距離と、撮像センサーに届く光束の距離とに誤差が生まれていたものと考えらる。

それ以降、一眼レフカメラでは、ミラーアップをして撮像面AFを用いて、原理的にピント外れがないよう臨むことにしているが、背面モニターを見ながらの撮影では、被写体との前後関係が定まらず、画角もままならない。

こんな光学ファインダーを使わない一眼レフカメラのメリットを捨てたポートレート撮影に疲弊した際、ミラーレスカメラによるポートレート撮影は、実のところ原理的にメリットのある手法だと思っていた。

高速連写、無音撮影、そしてブラックアウトフリー。動きもの撮影へ新次元のアプローチで攻め始めたミラーレスαだが、ことポートレート撮影でも撮像面での瞳認識AFという恩恵が受けられた。

高画素、高性能のセンサーを生み出せる自社で、必要とされるレンズ性能を見通し、マッチングさせられる環境が揃ったことをアピールしたいのだと感じさせる体験会だったが、私としては、次いで出てくるだろうと期待する、スポーツ撮影に適した超望遠の明るいレンズが今から気になっている。

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタントを経て、出版社のカメラマンとして自転車、モーターサイクルシーンなどに接する。後、出版社を退社しフリーランスに。マラソンなどスポーツイベント公式カメラマンも務める。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。