赤城耕一の「アカギカメラ」

第5回:GR座談会にお呼ばれしました

フィルムGRの28mmモデルは、ちゃんとGR 28mm F2.8レンズを搭載。あたりまえのことだけど、デジタルのGRをそれぞれ使う場合は、5.9mmとか6mmとか18.3mmとかの実焦点距離を少しだけ意識して撮影すれば、フィルムGRとは異なるアプローチができそうな気がするわけ。

今回はリコーGRシリーズのお話です。おつき合いはフィルムカメラ全盛時代からだから、ずいぶんと長くなったものだなあとしみじみ思います。1996年に登場する初代GR1の前、ベースモデルとなった1994年に発売されたリコーR1から使用経験があります。

今でこそ「高級コンパクトカメラ」というくくりが作られたけど、これは1967年に発売されるローライ35から始まったコンセプトだと思いますね。その後1984年に登場するコンタックスTで注目されて、コンタックスT2で人気が大バクハツしました。

「高級フィルムコンパクトカメラ」の代表格コンタックスT2。デザインが美しいし、チタン外装、仕上げもいい。ゾナーT* 38mm F2.8は恐ろしく良く写る。一時は中古カメラ店でのウィンドウの場所ふさぎみたいになっていたが、今になって人気沸騰。高価に取引されている。でもね、タイムラグあるしさ、壊れたら終了です。もう治りませんから購入するには覚悟が必要です。

コンタックスT2の発売は1990年で、おりしもバブル時期と重なっていますねえ。考えてみればコンパクトカメラに12万円払うって、バブルの時期でもそれなりの気合いは必要としたよなあ。それでも購入しちゃうわけだから、コンタックスのブランドやツァイスの力、価格の問題よりも当時の世間の風潮に踊らされて、絶対これは入手せねばならぬみたいな感じになりました。

コンタックスT2はアサインメントでもよく使いました。タイムラグとかAF精度とか、気にいらないことはたくさんあったんだけど、現像してみると、妄想かもしれないけどモノクロでもネガの調子がなんだか少し違うように感じるし、プリントもしやすいように思うわけ。周辺まで結像はしっかりしているから一眼レフで撮影した写真と見分けがつきません。

脚本家の市川森一さんの取材に伺ったとき、発売されたばかりのコンタックスT2を持っていったら、すぐに市川さんの目にとまり、何としても早急に欲しいと言われて、東京の量販店でも品薄だったT2を見つけるのに奔走したこともあったなあ。この時は京セラさんに知り合いもいなかったし、某カメラ店で在庫を見つけた時はうれしかったですね。

T2の外装はチタン製でヘビーな使用にも耐えられるという都市伝説があって、どこかの従軍カメラマンがポケットにT2を入れていたら、飛んできた銃弾からT2が身を守って命を助けたみたいな話がどこからか出てきて、私も含めて単純な人たちは、高級コンパクトカメラの外装は金属じゃなきゃ許されませんから。と、いう共通認識が出来上がったわけ。でもT2は外装の質感はいいんだけどさ、中身はプラスチック製だし、ポケットに入れるとだらしなく垂れ下がったりしてなんだかかっこ悪いから、携行のためにベルトに通すケースを使うとかそれなりに工夫が必要だったわけ。それに今、壊れると修理不能ですよ、それでもお買い求めになりますか?

GRの話をします

えーと最初から話が脱線してしまいました。GRの話に戻しますが、GRの基本的なスペックの共通したコンセプトは、コンパクトなサイズであることはもとより、レンズを高性能化することで、一眼レフで撮影したものと伍する画質を得られることを目指していたわけです。

リコーGR1s。1998年登場。フィルムGRの2代目。フードが装着可能(フード好きでも、まず使いはしませんな)になったり、暗い場所ではファインダー内に照明が点灯して、フレームが見やすくなりました。フィルムGRは液晶表示部分が経年変化に弱く、数字が欠けたりするのがちょっとイヤ。

初号機GR1の外装もマグネシウム合金を採用しました。チタンよりは頑丈そうじゃないし弾丸も貫通しそうだけど、軽いからポケットに入れてもT2みたいに垂れ下がらないですね。これはいい。

搭載されたレンズはGR 28mm F2.8レンズ。小さなレンズだけど、性能面では開放から素晴らしくシャープでコントラストが高く、周辺域まで面倒見の良い描写をしました。少々、周辺光量は低下しますが、どうせ周辺は焼き込むんだからいいんですよ。なんせ、その性能の良さから1997年には同じ構成のレンズをライカスクリューマウント用の交換レンズにして売り出したくらいなんですぜ。

ライカMPに装着したリコーGR 28mm F2.8。これがあればフィルムGRがなくてもいいや。写りを後世に継承するという意味ではありがたい存在。高級、とはいえコンパクトカメラのレンズをライカに!というのは衝撃でした。鏡胴やらフードは真鍮製で重たいですぜ。

同じ高級コンパクトカメラでは、1992年に発売されたコニカヘキサーのヘキサノン35mm F2とか、1996年に発売されるミノルタTC-1のGロッコール28mm F3.5も後にライカマウント用の単体レンズとして発売されたから、レンズ性能を天下に知らしめるには交換レンズとして販売すればよかろうということなのだろうなあ。単体レンズにすることで、逃げも隠れもしません、「素のワタシ」を知ってね、ということなんだろうか。

今のカメラボディ内の画像処理でちゃっちゃと収差補正しちゃうレンズより根性があるというか、肝がすわっているように感じませんか? カメラが壊れて修理不能になってもレンズの価値はそのまま生き残るわけだから、これはいいですよね。

1999年には突如として、リコーGR 21mm F3.5というライカマウントのレンズが登場してきます。スペック的にはスーパーアンギュロン21mm F3.4みたいにかなりマニアックなレンズですねえ。これはなんだろうと思っていたら案の定、2001年にリコーGR21という同レンズを搭載した高級コンパクトカメラが登場してきます。

つまり、ライカマウント用レンズの方が先行発売されちゃったわけです。よほどレンズ性能に自信があったんだろうなあ。いや、当時のライカブームに遅れるなということだったのかもしれないけど、デジタルカメラが注目され始めた2001年に高級フィルムコンパクトカメラを出してもインパクトは少々薄くなりますよねえ。

リコーGR1v。2001年発売。フィルムGR1としては最後の機種。このシリーズは時間を経ると液晶表示がみんな経年変化で怪しくなる共通の欠点あり。写りには関係ないけど、これで撮影のためのモチベーションが保てないわけね。私の場合は。

GRの思想、ツールとしてのGR

GRのコンセプトはレンズが高性能であること以外にも、流行に流されない姿勢で安易なモデルチェンジはすることなく、高性能の単焦点レンズを搭載し、高画質の画像を生み出すためのカメラであるというストイックなまでの思想が貫かれています。

基本はスナップシューターのためのカメラとして用意されたものだけど、フィルムのGR時代から、妙にギョーカイ筋の愛用者が多いわけ。ADさんとか編集者とか。彼らと一緒にロケに行って、こちらが目を離しているスキにこちらよりも良い写真を撮られたりする危険もなきにしもあらずで、画質的にも十分に一眼レフで撮影した写真と互角なわけ。だからある意味ではカメラマンを常に緊張させ、より良い写真を撮らせるためのツールともなっています。

GRシリーズ全ての外装のデザインは、現行のGR IIIまで初代GR1からシリーズのそれを踏襲しているところがあります。デジタル化されてからのGRはファインダーが内蔵されてなくて、デザイン的にはちょっとつまらんのだけど。でもコンパクトで良いですね。目立たず、常に撮影者と共にあろうとする少し引いた謙虚な感じも好感触。あくまでもメインカメラの座は脅かしませんよという姿勢。でも、条件によってはメインカメラより活躍する可能性もある。画質はバッチリだからアサインメントでも使える。いいですよね。大きな可能性があります。

右からGR DIGITAL初号機、GR III、GR DIGITAL III。GRはコンパクトであることが設計思想のひとつであるから方向は間違ってはいない。後は内蔵ストロボの有無をどう考えるかだけですねえ。

デジタル化された初号機GR DIGITALは2005年の登場でしたか。1/1.8型・約813万画素のCCDセンサー搭載なんだけど、私がものすごく気になったのはセンサーサイズに合わせた5.9mm F2.4という搭載GRレンズの実焦点距離です。35mm判換算で28mmの画角相当というのは当然の仕様だけど、実焦点距離がこれだけ異なると、フィルムGRとは被写界深度が思いっきり違ってきてしまいますね。2011年発売のGR DIGITAL IVでもセンサーサイズは1/1.7型。レンズの実焦点距離は6mm。ただ、開放F値が1.9だから光量調整と被写界深度のコントロールに少し余裕ができたけど、それでもまだ被写界深度は深いよね。

実焦点距離で使い分けるGRシリーズ

GRの18.3mm F2.8とGR DIGITAL IVの6mm F1.9をそれぞれ開放絞りに設定して、同じ位置から同じ被写体を撮りくらべてみました。開放F値は約1段違いますが、それでも焦点距離が大きく異なるので被写界深度はかなり違います。6mmレンズは絞り開放でも被写界深度はそこそこに深いことがわかります。

どちらが優れるかではなくて、双方の特性を踏まえてモチーフを選択したり目的別に使い分ければ、表現の幅は広がるはず。

GR(APS-C。18.3mm F2.8)
GR DIGITAL IV(1/1.7型。6mm F1.9)

スペックの行き詰まりを打開しようというわけではないだろうけど、2013年にはついに1,620万画素のAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載した初代リコーGRが登場してきます。これにWi-Fi機能を載っけてきたのがGR II、そして現行のGR IIIとなりますね。

GR IIIはGR IIより一回り小さくなった印象で、横幅は1cmほど短い。これ、印象としてはかなりいいです。GR DIGITAL IVの印象に近くなりましたが、サイズとのトレードオフで内蔵ストロボが省略されました。GRシリーズでは初めてということで賛否両論でしたけどね。コンパクトカメラという枠組みの中でみれば大胆な決断であって、営業の人に怒られそうな仕様だけど、個人的にGRシリーズでストロボを使用したことは少ないし、購入してから一度も発光させなかったモデルもあるかもしれません。

そもそもセンサーがAPS-Cサイズなんだし、高感度にも強くなったし、手ブレ補正も内蔵されたからアベイラブルフォトを積極的に制作しましょうということなんでしょうねえ。TAv(シャッター&絞り優先AE)が省略されたのは、GRユーザーはそういうユルいモードは使わないということなのかなあ。

2019年発売のGR III。APS-Cセンサー搭載のGRから数えて3代目。内蔵ストロボを省略したことでコンパクトになり、GRのコンセプトが明確になってきた。あくまでも単焦点レンズ搭載というこだわりもみせるが、2,400万画素ともなればトリミングの自由度も増すはず。

センサーはAPS-Cサイズ2,424万画素のCMOSセンサー。搭載レンズはレンズは35mm判換算28mm相当になるGR 18.3mm F2.8レンズ。実焦点距離はGR IIと同じ。GR IIの5群7枚構成から4群6枚構成、うち非球面レンズ2枚と構成枚数を減らして、設計は一新されました。2段分のNDフィルターを内蔵し、オン、オフ、オートが選択できます。

焦点距離18.3mmのレンズは、35mmフルサイズフォーマットならば超広角域に属するが、至近距離での被写界深度はそれなりに浅くなる。ボケの表現が可能になるので撮影の幅も広がりますね。
GR III(F5.6・1/500秒)ISO 400
GR/GR IIまでは最短撮影距離が遠かったためか、GR IIIではその反動で至近距離で撮影することが多くなりました。ワイドマクロの描写が新鮮ということもあるわけです。ボケ味にもクセがありません。
GR III(F4・1/160秒)ISO 200

ペンタックス一眼レフのようにSRを利用したモアレ軽減機能も内蔵されているのは真面目だよなあ。レンズ一体型のコンパクトカメラにしてはめずらしく、ダストリムーバル(センサークリーニング機能)を内蔵しているしたのもエラい。GRはレンズが外れないのにセンサーにゴミがつくとか、一部のユーザーにずっといじめられてましたもんねえ。私はそういう経験ないけどね。気づいてないだけなのかもしれないけど。

液晶モニターは可動式ではないし、特別な飛び道具があるわけでもない。ただ、シンプルな操作性であることに対して、機能がたりないと文句をいうユーザーは少ないんじゃないかな。
GR III専用のワイドコンバージョンレンズGW-4は倍率0.75倍。35mm判相当で21mmの画角。少し大きめだけど性能面では秀逸だ。

AFスピードは速く感じますよね。力強いし。ペンタックス一眼レフのそれに近づけたのかな。像面位相差とコントラストAFのハイブリッド方式の採用で、それまでのストレスはほぼ無くなりましたね。タッチAFとかタッチシャッター採用も良かったですねえ。もっともタッチAFはありがたいけどタッチシャッターは個人的には使わないけどね。

個人的にすごく嬉しかったのは最短撮影距離(レンズ前)が標準で0.1m(GR IIは0.3m)、マクロモード時には0.06m(GR IIは0.1m)になったことです。

マクロモード時の最短距離、レンズ前0.06mで撮影してみましたが。撮影距離によらず性能の変化は小さい方でしょう。コントラストは高く、合焦点のシャープネスが見事です。とても性能の高いレンズであることがわかります。
GR III(F3.5・1/1,000秒)ISO 100

GR IIIはまず最初『アサヒカメラ』のレビューで使ったんだけど、忘れもしない思い出があります。撮影に行った上野でレンズ周りのリングを落としましてねえ。この時は血の気が引きましたよ。プロトタイプだし、近くのヨドバシカメラにも売ってないし。あたりまえか。

30分くらいかけて記憶を頼りに来た道を戻って、ウロウロして見つけた時の喜びは忘れません。見つけた喜びで、その日は撮影を終了して、昼間からやっている「大統領」に入り、ひとりホッピーの黒で、リング発見の祝杯をあげたことを思い出します。あ、いま発売されているGR IIIはリング脱落に対策されているそうですからご安心ください。念のため。

高速のAFに加えて、顔認識AFも使えるから、すごく使いやすいのはありがたかったですね。それにMFに切り替えると、申し訳程度なんだけど、距離指標グラフが表示されるわけ。かなりアバウトなんだけど、目測のスナップではそこそこに絞り込んで使うからこれでも十分に使えちゃうわけ。いまのミラーレス機に見習って欲しいよね。

背面のダイヤル、ボタン類。うまく機能が集約されている。操作フィーリングも上々。こういうところに高級コンパクトカメラとしての威厳というか価値もあるわけ。
モードダイヤル。ユーザーカスタムセッティングで自分好みにカスタマイズ。といきたいところだけど、何を設定したか忘れるので結局はノーマルなプログラムAEで撮影したりするわけです。

GRお得意のフルプレススナップを使い、あらかじめ設定した距離で撮ればいいじゃんと思われるかもしれないけど、フルプレスだからと正直にシャッターボタンを一気押しすると、たとえ手ブレ補正が内蔵されていたとしても、なんだかブレたりすることがあるじゃないですか。どんな状況でも、シャッターボタンは静かに押すことが重要なんですよ。あ、最新バージョンではフルプレススナップもタッチシャッターで行えるようですが、どうだろう。使うかなあ。

曇天の日。雲の切れ間から太陽がのぞいたので撮影してみました。階調再現性が豊かな印象です。APS-Cというセンサーサイズの余裕はこうしたところにアドバンテージがありそうで、個人的にはシャープネスよりも注目しています。
GR III(F5・1/800秒)ISO 400
雨の日。石の上にハンカチを敷きそこにGR IIIを置いて撮影してみましたが、液晶モニターが固定式なので上からは見られず、カメラの角度を変えて数カット撮影し、フレーミングを決めました。
GR III(F4・1/25秒)ISO 800

先日、リコーが主宰したオンラインのGR座談会に呼ばれてあれこれお話はしたんですが、今後のGRに望むことって訊かれたけど、そんなにないわけ。GR IIIで不満ないし。他社がコンパクトカメラの分野から撤退する中、GR IIIが奮闘しているのは嬉しいよね。Street Editionの限定キットも出たし。

とはいえ、スマホと差別化するならば、ソニーのRX100 VIIみたいにファインダーを内蔵するとか考えてもいいよね。どうせファインダーなんか使わないんだけど、ポップアップして出てくるのが楽しい。なに? そんなことしたらサイズが大きくなるだろうって? それを何とかするのが優れたエンジニアなわけですよ。GR IIIは撮影しない時に、あれこれいじくり回す楽しみに欠けているのが最大の欠点かもしれませんねえ。あと、もう少しだけ色気が欲しいよね(笑)。

反射率の高い白い壁を写し込んだりすると、いきなり性能が落ちてしまうレンズもあるんだけど、さすがのGRレンズという印象。このあたりはさすがですね。
GR III(F5.6・1/800秒)ISO 100
写真家の鬼海弘雄さん。写真展会場でスナップを撮らせていただきました。カメラまかせでの撮影。小さいカメラだから威圧感を与えません。光はフラットですが、しっかりした描写です。周辺光量が少し落ちた感じが、逆に画面を締めました。
GR III(F4.5・1/320秒)ISO 1600

それから、ライカQ2みたいに35mmフルサイズセンサーを搭載したGRがあってもいいわけ。なるべくコンパクト、軽量にしてもらって。これは画質向上を求めているわけではなくて、本来の28mmレンズはどのような描写をするかということを、あらためて突き詰めてみたくなることがあるわけですよ。それにライカQ2にはライカのMやRレンズみたいに鏡胴に距離指標があって、M型ライカみたいに目測での撮影法が使えますからね。そういう点では、ライカQ2はUIがいいよねえ。

逆にGR DIGITAL IVのように1/1.7型センサーのGRがシリーズの中に用意されてもいいと思いますね。画質の問題ではなく、6mmの焦点距離ならパンフォーカス撮影はすっごく楽なわけで、ボケ味とか関係ないぜっていうスナップ撮影では間違いなく重宝しますぜ。今もGR DIGITAL IVはGR IIIと用途別に使い分けてます。画角がほぼ同じでもレンズの焦点距離が違うだけで、目的や表現の違いで役割分担できるんですよ。

GRもまだまだやることありそうですよ。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「銀塩カメラ辞典」(平凡社)