20周年企画

デジタルカメラニュースの20年を振り返る/第10回(2013年)

フルサイズのミラーレスカメラが登場 APS-Cコンパクトブームが到来?

本年9月27日(金)、デジカメ Watchは開設から20周年を迎えます。ご愛読いただきました皆様に感謝申し上げます。

それを記念して、過去のニュースを振り振り返る小特集を設けました。私個人の基準にはなりますが、年ごとに印象深い記事をピックアップして紹介いたします。

今回は2013年の記事からです。

デジタルカメラニュースの20年を振り返る
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/20th/


ミラーレスカメラが位相差AF対応へ 35mmフルサイズモデルも

オリンパスは5月、「PEN」シリーズの最上位モデル「OLYMPUS PEN E-P5」を発表しました。EVF内蔵モデルの「OLYMPUS OM-D E-M5」と同等の撮像素子を備えるなど、「OLYMPUS PEN E-P3」からのスペックアップを果たしています。

最も大きな変化はフロントダイヤルを設けたことでしょう。テクニカルな撮影を意識的に避けていたように見えたこのシリーズですが、徐々に変化の兆しが見えます。

OLYMPUS PEN E-P5

6月には富士フイルムが「X-M1」を発表。勢いに乗るXシリーズの新ラインアップとなる製品で、シリーズ最小最軽量のボディを実現。エントリークラスを受け持つ製品となり、新たに設定されたキットレンズからは、絞りリングが省略されました。

FUJIFILM X-M1

パナソニックからは、「LUMIX DMC-GX1」(2011年)に続くフラットボディの高級モデル「LUMIX DMC-GX7」が登場。背面モニターのみならず内蔵EVFもチルトするという珍しい機構を採用しています。また、ボディ内手ブレ補正機構をGシリーズで初めて搭載するなど進化が見られます。

LUMIX DMC-GX7

当時、海外ではこんな製品が発表されていました。ソニー「α3000」は、Aマウント機のようなボディにEマウントを採用。もちろん、Eマウント用のレンズを装着できます。日本での発売はありませんでした。

α3000

「OM-D E-M5」が人気のオリンパスからは、「OM-D E-M1」がこの年に発表されています。フォーサーズ対応の「E-5」の後継と正式に明言され、ここにオリンパスのデジタル一眼レフカメララインアップ消失、マイクロフォーサーズのミラーレスライン1本に集約されました。

「OM-1 E-M1」自体は新たに像面位相差AFを搭載。動体への対応が強化され、これが同社がデジタル一眼レフカメラから手を引いた要因の1つといっても良いでしょう。またローパスフィルターレスとした代わりに、モアレをデジタル的に除去する機構も備えました。

OLYMPUS OM-D E-M1

ニコンが9月に発表したミラーレスカメラが「Nikon 1 AW1」です。レンズ交換式カメラで世界初の防水・耐衝撃を実現。防水性能は水深15mまでとなっています。もちろん水中でのレンズ交換はできません。専用の防水・耐衝撃レンズも2本用意されました。

Nikon 1 AW1

そして10月。ソニーが35mmフルサイズセンサーを採用するミラーレスカメラ「α7R」「α7」を発表します。Aマウント機との差別化のためか、薄型のスナップシューターといった面持ちの製品でしたが、製品名に「NEX」ではなく「α」を冠したところに、ソニーの覚悟がうかがえたものです。フルサイズ対応レンズも一挙5本が投入されています。

このときすでに、下位モデルの「α7」には像面位相差AFが搭載されていました。以後、ソニーのミラーレスカメラの進化はフルサイズ機が牽引していくことになり、Aマウント機のリリースは不活性化していきます。

α7R

「α7R」「α7」の翌日に発表されたのが、パナソニックの「LUMIX DMC-GM」でした。こちらはマイクロフォーサーズの特性を生かし、極限まで小型化したボディが特徴。マグネシウム合金製の外装に、上位モデル「LUMIX DMC-GX7」譲りのイメージセンサーを搭載しています。ボディデザインに合致した標準ズームレンズを新たにリリースするなど、力の入った製品でした。

LUMIX DMC-GM

前年に登場した「FUJIFILM X-E1」も、順当に「FUJIFILM X-E2」へと進化しました。X-Trans CMOSの特質を維持したまま、流行の像面位相差AFに対応しています。

FUJIFILM X-E2

前年に「EOS M」でミラーレスカメラに参入したキヤノンは、12月に「EOS M2」を発表。「ハイブリッドCMOS AF II」に対応しました。「EOS M」の弱点であったAF速度を一気に解消したかたちです。

EOS M2

デジタル一眼レフカメラは「ローパスフィルターレス」がキーワード

ニコンが2月に発表した「D7100」は、当時のDXフォーマットにおける最上位モデル。視野率100%のファインダーをはじめとした特徴を「D7000」(2010年発表)から受け継ぎ、さらに有効画素数を2,000万クラスに。さらに光学ローパスフィルターをなくすという決断をしています。当時、「ある程度解像度が上がればローパスフィルターの必要性は薄くなる」との言説が取り沙汰されていたのを思い出します。

D7100

6月に発表された「PENTAX K-50」は、エントリークラスで初の防じん防滴を実現したというデジタル一眼レフカメラ。ファインダー視野率も100%となり、上位モデルの「K-30」にかなり近づいた印象です。まだ発展の余地はあったとはいえ、各社とも細分化したエントリークラスにおける格付けが、多少苦しくなってきた感があります。

PENTAX K-50

そうした中でキヤノンが発表した「EOS Kisss X7i」と「EOS Kiss X7」は、前者をこれまでのX1桁シリーズの後継、後者をよりコンパクトなボディにするという、新しいラインアップを提案。特に「EOS Kiss X7」の小型ボディには、かなりのインパクトがありました。

EOS Kiss X7

続く7月、キヤノンは「EOS 70D」を発表します。この機種から像面位相差AFが「デュアルピクセルCMOS AF」になりました。1つの画素を2つの独立したフォトダイオードで構成し、その位相差でAFを行うという仕組み。現在の同社製品まで引き継がれているもので、CMOSセンサーを自社開発する同社ならではのサプライズでした。

光学ファインダー側の位相差AFも引き続き搭載されていたため、この時点ではライブビュー使用時のみの副次的なAF機構といえました。が、これが来るミラーレス全盛時代への布石となったのです。

EOS 70D

10月に発表されたニコン「D5300」は、Wi-Fiやバリアングル液晶モニターを搭載するなど流行の機能を取り入れたエントリーモデル。さらに初のモノコック構造をボディに採用しています。シャシーをなくした一体成形となり、強度と軽量化を実現しました。

D5300

リコーイメージングは10月、デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3」を発表しました。「PENTAX K-5 IIs」(2012年発表)に続き、ローパスフィルターは非搭載。ただし新機構として、モアレを軽減する「ローパスセレクター」を搭載しました。

これは、露光中にイメージセンサーを微小駆動させてモアレの低減を狙うもの。磁力によるセンサーシフト式手ブレ補正機構「SR」を活用したものです。ローパスフィルターレスが流行する中、ハードウェアで解決策を提示した珍しい例となりました。

PENTAX K-3

この年のデジタル一眼レフカメラで最後を飾ったのが、ニコン「Df」です。往年のMFフィルム一眼レフカメラを思わせるスタイリングを採用し、メカニカルダイヤルをメインとした操作系や動画機能を非搭載とした割り切りなど、「ここまでやるか!」というレトロ志向がファンを驚かせました。

ただし、当時のデジタル一眼レフカメラの奥行きからすると、ぼてっとしたボディになった感は否めません。ということでこのモデルが目指した理想の姿は、現行ミラーレスカメラの「Zf」に受け継がれたのは間違いないでしょう。逆にいえば、「Df」がこのときなかったとしたら、「Zf」「Zfc」はいま存在していなかった……かもしれません。

Df

定着なるか? APS-Cコンパクトが相次いでリリース

富士フイルムは1月、「FUJIFILM X100S」を発表します。初代の「X100」はベイやフィルターのCMOSセンサーでしたが、このモデルから撮像素子が「X-Trans CMOS II」になりました。この後も進化を重ねながら現行機種まで世代をつなげていきます。

FUJIFILM X100S

この年、ニコンもAPS-Cコンパクトに参入します。3月に発表された「COOLPIX A」は、小型ボディにAPS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載。レンズは28mm F2.8の単焦点で、外付けファインダーも用意されました。ボディ前面には「DX」のバッジが配置されています。

COOLPIX A

次いで4月、ペンタックスリコーイメージングからは「GR」が発表されました。「GR DIGITAL IV」までの1/1.7型からAPS-Cサイズ相当へと撮像素子をアップグレード。ボディのサイズ感は、これまでの「GR DIGITAL」とほぼ同様に維持しています。35mmクロップもこの機種から搭載。基本的なパッケージングは変わらず、現在までヒットを続けているのはご存じの通りです。

GR

APS-Cコンパクトとしては、すでに「ライカX2」をラインアップに擁していたライカ。この年に同社が発表したのが「ライカXバリオ」でした。単焦点レンズだった「ライカX2」に対し、28-70mm相当のズームレンズを搭載。高品位な造りのボディも相変わらずです。

ライカXバリオ

新たな挑戦が続くコンパクトデジタルカメラ

ペンタックスからは、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の公開を記念したという「PENTAX Q10エヴァンゲリオンモデル」がリリースされています。色違いのパーツを組み合わせることで、主要3キャラクターを見事に表現したことで話題になりました。お得意のカラーバリエーションモデルの技術を生かした企画ともいえるでしょう。

PENTAX Q10エヴァンゲリオンモデルTYPE01:初号機 ©Khara

またこの頃は、スマートフォンにタッチで接続できるNFC(近距離無線通信)が注目されていた時期でした。デジタルカメラではSamsungの「NX1000」(2012年発表)が先んじて搭載していましたが、国内ではこの年にパナソニックが搭載モデルを発表。その後各社が続いています。

LUMIX DMC-TZ40

キヤノンは時折、斬新なコンセプトのカメラを世に送り出しています。同社が1月に発表した「PowerShot N」は、正方形の薄型ボディが印象的なコンパクトデジタルカメラ。SNSへの写真投稿を意識したとし、シャッターレリーズはレンズ周囲のリングで行います(シャッターボタンが存在しない)。カメラ任せで撮影画像にエフェクトが施される「クリエイティブショット」も搭載。実験精神に富んだ製品でした。

PowerShot N(付属ジャケットの1つ、アクアブルーを装着)

国内での発売が4月に発表された「PENTAX MX-1」は、ボディの上下カバーに真ちゅうを採用したコンパクトデジタルカメラ。「使い込むにつれて味わいが出る」という触れ込みでした。上から見ると八角形のボディデザインや、MXの書体に往年のペンタックスフィルム一眼レフカメラのテイストを感じます。1/1.7型の有効1,200万画素裏面照射型CMOSセンサーや28-112mm相当F1.8-2.5のレンズなど、当時としてはスペックも高級志向といえました。

ソニーからは、前年に登場してヒットした「サイバーショットDSC-RX100」の後継機、「サイバーショットDSC-RX100M2」が早くも発表されています。今回は1型で世界初という裏面照射型センサーを搭載。さらに、チルト式液晶モニターの搭載や外付けEVFへの対応が実現しました。

サイバーショットDSC-RX100M2

30倍→50倍と進化を続けてきた高倍率ズーム機ですが、この年には光学60倍ズームの「LUMIX DMC-FZ70」が登場しています。35mm判換算の焦点距離は20-1,200mm相当。さらにフロント装着のテレコンバーターにも対応し、最長2,040mm相当での撮影が可能でした。

LUMIX DMC-FZ70

ニコンは薄型コンパクトラインの「COOLPIX S」シリーズの新製品「COOLPIX S6600」を8月に発表。特徴はこの手の製品としては珍しいバリアングル液晶モニターを搭載していたことです。いかに自分撮りが世界的に流行していたかがうかがい知れます。

COOLPIX S6600

当時、1/1.7型センサーを搭載したコンパクトデジタルカメラが一定の人気を誇っており、小型化と高性能化を重ねつつ進化していました。その決定版ともいえたのが、キヤノン「PowerShot S120」です。24mm相当F1.8スタートの5倍ズームレンズを搭載する機能性と、シンプルでスリムなボディデザインが好評を博しました。

PowerShot S120

衝撃の「レンズスタイルカメラ」誕生

ソニーが9月に発表した「サイバーショットDSC-QX100」「同DSC-QX10」は、スマートフォンと組み合わせて使うことを想定した「レンズスタイルカメラ」という新ジャンルの製品です。

液晶モニターがなく、フレーミングをはじめとした操作はスマートフォンで行います。現在でこそアクションカメラなどで実用化されている様式ですが、この当時では斬新な発想でした。

背景にはNFC搭載スマートフォンの普及があります。製品にはスマートフォンに装着してカメラのように使うことを想定したアタッチメントが付属。同社の「Xperia Z」には、専用のアタッチメントケースがオプションとして用意されていました。

このコンセプトは翌年以降、ミラーレスマウントを採用した製品へと発展します。

サイバーショットDSC-QX100
Xperia Z用専用アタッチメントケースの使用例

高機能化が進むマウントアダプター

ミラーレスカメラの台頭で活発になったのが、マウントアダプターのリリースです。この頃はまだ海外メーカー一辺倒といった状況ではなく、国内メーカーの製品が店頭で目立っていました。

また、単にマウントを変換するだけでなく、付加機能を持たせた製品が登場してきます。

その走りともいえるのが、コシナの「VM-E Close Focus Adapter」です。アダプターにヘリコイドを内蔵して装着レンズ全体を繰り出せるようにしたことで、最短撮影距離の短縮を可能にしました。これにより、最短撮影距離60cmが基本となるライカMマウントレンズでも、一般的なレンズのように被写体にレンズを近づけてピントを合わせることができました。レンズメーカーのコシナが世に出したこともあり、その安心感からかかなりヒットした記憶があります。

VM-E Close Focus Adapter

カメラバッグにタブレット対応モデルが

iPadのヒットを受け、この頃からタブレット収納スペースを備えたカメラバッグが増えていきます。これまでPC収納スペースを設けられなかったほど小型のバッグに採用される例と、PC収納部に加えてタブレット収納部が付く例の2パターンがありました。s

現在、前者については若干見かける数が減った印象ですが、タブレットを入れずとも、外したレンズフロントキャップや薄いメディアケースを突っ込んでおくのに重宝します。

Vojo 28

ハイエンド液晶モニターもLEDバックライトへ

当時、一般的な液晶モニターのバックライトはCCFL(冷陰極管)からLEDへと切り替わっていった時期でした。しかし、色再現を重視する写真編集用の製品ではLEDの性能が足りず、CCFLの採用が続いていた頃です。

そうした中で、NECディスプレイソリューションズがLEDバックライトのカラーマネジメントモニターを発表。緑と青のLEDに赤の蛍光体を組み合わせることで、広色域を実現した「GB-R」白色バックライトを採用したといいます。

当時のカラーマネジメントモニター市場では、NECや三菱電機の製品が一定の支持を得ていました。撤退して久しい両社の製品を、いまだ愛用している人を見聞きします。

LCD-PA302W

【2024年9月18日】EOS M2が「デュアルピクセルCMOS AF II」を採用したとの記述しましたが、正しくは「ハイブリッドCMOS AF II」になります。お詫びして訂正いたします。

本誌:折本幸治