特別企画
自由な表現を手軽に楽しむ…LUMIX S9で「リアルタイムLUT」を試した
自作LUTも簡単に スマホカメラで撮影した写真にも
2024年8月28日 07:00
パナソニックが6月に発売したミラーレスカメラ「LUMIX S9」は、スマホと連携して簡単にLUTを適用できる機能があり話題となっている。今回はLUTやスマホアプリを使ってどのようなことができるのかをまとめてみた。
LUTとは何か
まず「LUT」だが「Lookup Table」の略で、撮影情報をどのような色味やコントラスト(画調、ルック)で表現するかを決める設定データになっている。動画の分野では比較的早くから採用されていた。
というのは、動画は写真と違ってRAW記録が難しかったことから、Log撮影した素材にLUTを適用して仕上げるというワークフローが映画制作などで採用されていたのだ。
これまで、素材に対してPCソフトでLUTを適用するというやり方が主だったが、最近はミラーレスカメラでも本体にLUTを転送して適用できる機種が増えてきて少しづつ注目を集めている。カメラのフィルター機能よりもLUTの方が表現の自由度が高いのに加えて、LUTファイルは共有もしやすいのがメリットだ。
カメラで使われるLUTファイルには共通の規格があり、例えば「33グリッドの3D LUT(CUBE形式)」がよく使われている。カメラメーカーが用意しているのが一般的だが、PCソフトなどで自作も可能となっている。ユーザーが自作のLUTを公開しているケースも多い。
「リアルタイムLUT」が進化
デジタルカメラにLUTファイルをインポートして適用できる機能は、例えばLUMIXなら「リアルタイムLUT」、ソニーのαなら「PPLUT」などとして以前から搭載されている。
中でもパナソニックはLUT機能に注力しているようで、LUMIX S9では新たに「LUTボタン」を設けて簡単にLUTの切り換えができるようになった。
以前はLUT適用のベースとなるフォトスタイルが「V-log」のみだったが、LUMIX S9からは好きなフォトスタイルをベースにLUTの調整ができるようになった。また、LUTの濃度調整、粒状性の追加、LUTの重ね合わせもできるようになるなどかなり多様な表現が可能になった。
これらをPCソフトでやると結構手間だが、後述するアプリで操作できるのでLUT活用のハードルがかなり下がったと言える。
LUTの重ねがけも可能に
LUMIX S9は、初期状態ではフォトスタイルが「スタンダード」になっている。そしてLUTボタンを押すとLUTが適用されるモードになる。本体には「Sample LUT」が3種類入っており、まずはこれらで楽しめるということだ。
またフォトスタイルのメニューからは、選択中のLUTに対して細かい調整が行える。LUTの濃度が変えられるほか、コントラスト、ハイライト、シャドウ、彩度、色相、粒状、色ノイズ、シャープネス、ノイズリダクションが調整できる。
さらに面白いのはLUTの重ね合わせだ。2つまでのLUTを重ね合わせて、マイフォトスタイルの1つとして記憶しておける。その際、各々の濃度も変えられる。色々なLUTを組み合わせることで意外な効果が見られるかもしれない。
LUMIX Labでクリエイターのルックを適用
LUMIX S9のリアルタイムLUT機能で最も進化したのが無料のスマホアプリ「LUMIX Lab」との連携だ。これによって、LUTのダウンロードや自作が簡単にできるようになった。現時点ではマイクロフォーサーズカメラ「LUMIX GH7」でも同様なことができる。
カメラとアプリのペアリングを済ませたら、まず試したいのがクリエイターが公開しているLUTだ。選択画面ではサンプル画像のほか、スマホに入っている任意の画像で効果を確認できる。かなりの数が登録されているので、これだけでもかなり遊べる。
これまで、Webサイトで公開されているLUTはPCなどで一度SDカードに保存してからカメラにインポートする必要があった。今回、スマホで全て完結するので非常に手軽になった。
LUTの自作も簡単
続いてLUMIX LabでのLUT自作をしてみたい。始めに、LUMIX S9からサンプルにしたい画像をLUMIX Labに転送しておく。それを見ながら「ツール」の中にある設定項目で細かく調整できる。
明るさや全体の色味ももちろん変えられるが、RGB別のトーンカーブや明暗別色補正も可能になっている。このシャドウとハイライトで別々の色にするという操作は、流行のレトロ風のLUTを作る際は必須の操作となる。いままでカメラ内ではここまですることが難しかったので大きな進歩だ。
調整が終わったらLUTに名前を付けて保存する。このとき、ベースとなるフォトスタイルも指定可能だ。
上記の作例はトーンカーブの青を「逆S字」にしただけだが、良い雰囲気になっている。シャドウに青が乗り、ハイライトは青成分が減って黄色くなったということだ。
加えて、特定色の色相、彩度、輝度を変えるといったこともできる。例えば空の色だけを変えたり、葉の色だけを変えるといったことで特定のフィルムのルックに近づけるといったこともできそうだ。
作成したLUTは「33グリッドの3D LUT(CUBE形式)」のLUTファイルに書き出せるほか、LUMIX Labへの読込も可能。他の人と共有も簡単だ。
LUMIX LabはLUMIXカメラの画像取り込みができ、スマホのギャラリーに保存できる。そのため、SNSアップロード時のスマホ転送アプリの側面も持っている。
スマホカメラだけでもOK
ところで、スマホに入っている画像であればスマホカメラで撮影したものでもLUMIX Labにインポートできる。そして各種LUTやツールによる色調整を施して保存できる。
そのため、対応するLUMIXカメラを持っていなくてもLUMIX Labが写真編集およびLUT適用のアプリとして使える。
LUTの概念から言えば対応カメラと組み合わせるのが本来だが、気軽に「LUTでどういうことができるのか」を体験できるのは良いと思う。もちろん、スマホカメラに合わせて自作LUTを作っておくという使い方も可能だ。
LUTのハードルを下げた功績
これまでLUTを作るというと、PhotoshopやDaVinci Resolveなどのプロ向けソフトを使わなければならずハードルが高かった。
今回のLUMIX Labによって、簡易的ではあるがスマホベースで完結するLUTのシステムが完成したとも言える。これで、だいぶカジュアルにLUTによる絵作りを楽しめるようになっただろう。
そして、今まで難しかった「撮影場所でLUTを作る」ことも容易になった。その場所で撮影した写真を見ながらスマホで作り込めるので、事前に用意しておくのが基本だったこれまでのLUT運用とはまた違った面白さも生まれた。
さて、撮って出しで雰囲気のある写真が撮れるということで有名なのが、フィルムシミュレーションを搭載した富士フイルムのデジタルカメラ。方向性としてはちょっと違うかもしれないが、「リアルタイムLUT+LUMIX Lab」は使い方によっては対抗馬として興味深い存在ではある。
LUMIX Labの完成度もなかなか高いので、好きな写真をスマホで撮影するとAI解析でその写真と同じルックになるLUTを自動生成してくれる機能などというのが今後実装されれば一層面白いのではないかと感じた。
加えてLUTの重ねがけ機能では、カメラに入っているLUTをランダムに選んで重ねてくれるモードもあると偶然性という点で楽しそう。今後のLUMIXの発展に期待したいところである。