新製品レビュー

パナソニック LUMIX S9

潔いシンプルなボディに最新機能を搭載…「リアルタイムLUT」の強化で魅力的なカメラに

LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.を装着

6月20日(木)に発売したパナソニック「LUMIX S9」は、35mmフルサイズのイメージセンサーを搭載するLマウントのミラーレスカメラです。

大きな特徴は、ファインダーを内蔵しないフラットタイプのコンパクトなボディとしていること。ファインダー以外にもいくつかの機能を省略する潔さがある反面、「リアルタイムLUT」を使いやすくして動画機能を強化するなど、現代的で斬新な進化も見せてくれています。

思い切った“シンプルな”フルサイズミラーレスカメラ

「小さくても本格的に撮れるフルサイズ一眼」と謳う「LUMIX S9」ですが、その通り外形寸法は幅が約126mm、高さが約73.9mm、奥行が約46.7mmと、フルサイズのLUMIXとしてはもちろん最小サイズです。単焦点レンズの「LUMIX S 50mm F1.8」と組み合わせたイメージが以下の画像。

LUMIX S 50mm F1.8を装着

小柄なボディにフルサイズのLマウントを採用していますので、ボディに占めるマウントの径はギリギリいっぱいといった感じです。

搭載する撮像素子は、有効約2,420万画素のCMOSセンサー。上位機種にあたる「LUMIX S5II」などと同等です。解像性能も同じように優れており、ラインナップされているレンズ群が優秀なこともあって、フルサイズならではの高い解像感が得られます。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./28mm/絞り優先(1/30秒・F8・+1.0EV)/ISO 320

ISO 100~51200と幅広い常用感度を持つ上に、低感度と高感度のベース感度を持つ「デュアルネイティブISO」にも対応しています。最高感度のISO 51200で撮った画像でも、実用上問題のないレベルで仕上げてくれているあたりは、さすが2,400万画素クラスのフルサイズデジタルカメラと言ったところだと思います。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./68mm/絞り優先(1/200秒・F5.6・±0EV)/ISO 51200

ボディ内手ブレ補正機構(B.I.S)を内蔵しており、CIPA規格準拠の補正段数は、ボディ単体で最大5.0段、レンズ側と協調する「Dual I.S. 2」では最大6.5段(LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.使用時)となっています。これまでに培った技術が活かされているとはいえ、コンパクトなボディによくここまでの手ブレ補正機構を搭載したものだと感心します。

少ないスペースによく考えられた操作性

操作性に目を向けたいと思います。コンパクトなだけにスペースが少なく、ボディ上面の操作系はシャッターボタン周辺に集中しています。

シャッターボタンと同軸上には「前ダイヤル」があり、直ぐ近くに「モードダイヤル」といった大物が並びます。やや隠れるように「露出補正ボタン」がありますが、注目したいのはそのすぐ横にある、赤い「動画記録ボタン」です。

大変押しやすく、押しやす過ぎて静止画を撮っていてもウッカリ押してしまうくらい。これを見ると「LUMIX S9」は、どちらかと言うとやっぱり動画撮影に比重をおいたカメラなのだなあと感じるのです。

ボディ背面もスペースが少ないのは同じで、ボタン類はわりとシンプルに並べられています。ただし、ひとつひとつのボタンは、指がかりが良いように大きめに設定されており、特に重要なボタンには適度な凹凸も設けられているため、コンパクトでシンプルながら操作性はなかなかに上々だと感じました。

「ホットシュー」ならぬ、電子接点をもたない「コールドシュー」であることも、「LUMIX S9」の思い切った特長。

メカシャッター非搭載でそれほど転送速度の速いイメージセンサーも搭載していないため、ストロボ撮影は基本的に不得手なカメラです。それなら電子接点など省いてしまえという措置も、案外本機のコンセプトに合っているように思えます。

とは言え、マイクや外部モニターなどを固定する「アクセサリーシュー」としては活躍してくれることでしょう。

液晶モニターはバリアングル式の可動モニターを採用しています。静止画も動画も撮りやすい小型ミラーレスカメラですので、妥当な選択だと思います。アスペクト比は3:2で3.0型、静電容量方式のタッチパネルを搭載しています。

メモリーカードスロットは電池室と同居で、SDカード(UHS-I/UHS-II)に対応しています。

付属のバッテリーパックは、上位機種と同じ大容量の「DMW-BLK22」を採用。ボディは小柄でもパワフルなバッテリーを採用してくれています。

4K 60pも撮れる動画性能

「LUMIX S9」は、最大「4K 60p(59.94p)」の動画記録に対応します。

以下の動画がその「4K 60p」で記録したサンプルです。「フォトスタイル」は「スタンダード」。

ただ、最大の「4K 60p(59.94p)」だと、画角が縮小されたクロップになってしまうのが少し残念なところ。「4K 30p」以下の画質であれば、フル画角なうえにオーバサンプリングした高画質な映像を記録できるため、最大画質で撮るかどうかは悩みどころとなります。

ちなみに、上のサンプル動画は、三脚などを使わず建物の壁などに寄りかかっての手持ちで撮影しています。思った以上に手ブレすることなく、画面が安定していたことには驚きました。電子補正を利用した「LUMIX S9」の動画手ブレ補正はかなり強力で実用的なようです。

さらに使いやすくなった「リアルタイムLUT」

「LUMIX S9」には、「フォトスタイル」に加えてカメラ本体でLUT(ルックアップテーブル)を適用し、自分好みのクリエイティブな色表現を撮影データに反映できる「リアルタイムLUT」が搭載されています。

「リアルタイムLUT」自体は、上位モデルの「LUMIX S5II」などですでに搭載されている機能ですが、「LUMIX S9」では専用の「LUTボタン」を装備するなど、さらに使いやすくなっているところがポイントです。

「LUTボタン」を押せば、たくさんの「フォトスタイル」の並びからLUTを探す必要はなく、ダイレクトに目的のLUTを設定できるのが優れどころ。クリエイティブな写真や動画を簡単に撮ることができます。試しに、あらかじめカメラ内にインストールされている「Sample LUT3」を選択して、以下の画像と動画を撮ってみました。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./28mm/絞り優先(1/200秒・F8・+0.3EV)/ISO 100

パナソニックが用意するオリジナルLUTは「LUMIX Color Lab」の公式サイトからダウンロードできますが、PCを介してダウンロードしたLUTをSDカードにコピーしなければならないなど、正直言ってカメラへのインストール方法は煩雑で面倒です。

しかし、「LUMIX S9」の登場と時期を同じくして、「LUMIX Lab」というスマートフォン用の新アプリが用意されました。

LUMIX Lab

「LUMIX Lab」はカメラと無線接続することで、画像や動画の転送、SNSへのシェアなどと言ったこともできますが、特徴的なのが「LUMIX Color Lab」からアプリ上で簡単にLUTをダウンロードできるところにあります。

LUMIX Lab

スマートフォンにダウンロードしたLUTは、そのままアプリ上からカメラに転送できます。PCを使ったLUTのインストールよりもはるかに簡単ですので、「LUMIX S9」ユーザーは「LUMIX Lab」アプリを積極的に活用することをお勧めします。

LUMIX Lab

「LUMIX S9」によく合うパンケーキレンズ登場

「LUMIX S9」のコンセプトによく合うパンケーキレンズ「LUMIX S 26mm F8(S-R26)」が同時に発表されました。焦点距離26mmの広角単焦点レンズですが、絞りはF8固定で、ピント合わせもMFのみという変わり種のレンズです。

LUMIX S 26mm F8を装着

姿形から侮ってしまいそうになりますが、描写性能はなかなかに優秀で、解像感は高くボケ味も素直で綺麗です。MFということでピント合わせは難しそうに思えますが、被写界深度が深いこともあって、実際にはそれほど難しくはありません。使えるシーンが限られるとはいえ、歩きざまに切り撮る居合のようなスナップシューティングでは結構活躍してくれるのではないでしょうか?

LUMIX S9/LUMIX S 26mm F8/26mm/絞り優先(1/30秒・F8・+0.3EV)/ISO 1000

静止画作例

ファインダー(EVF)やホットシューを省略するという思い切ったデザインですが、やはりこのコンパクトさは日常のスナップ写真や旅撮影にはうってつけだと思います。フルサイズの高画質を気軽に楽しめるのですから、それだけで存在価値があります。

LUMIX S9/LUMIX S 26mm F8/26mm/絞り優先(1/160秒・F5・-1.3EV)/ISO 800

パナソニックと言えば、少し前に「LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.」や「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」といった、小さくて軽い高倍率ズームやマクロレンズを発売しています。そうしたレンズと本機「LUMIX S9」の相性はもちろん良好で、あるいは、あらかじめ本機の登場を見越してのラインナップだったのかな? とも思えてくるものです。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./75mm/絞り優先(1/80秒・F8・-0.7EV)/ISO 400

ただ、AF性能、特に被写体検出機能を使った場合に、不自然な挙動をすることが時々ありました。具体的には、被写体の検出が遅れる、検出はできても実際にピントが合うまでに時間がかかるといった現象。像面位相差センサーを採用してAF性能は向上しているはずですが……。ファームウェアのアップデート等で改善することを願いたいところです。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./58mm/絞り優先(1/60秒・F5.3・+0.3EV)/ISO 4000

LUMIXの絵作り思想である「生命力・生命美」は本機でも健在。個人的には、パナソニックの絵作りの良さは、他メーカーのなかで比べても非常に優れていると感じています。このコンパクトなカメラでその「生命力・生命美」を味わえるのですから、それだけで嬉しくなります。

LUMIX S9/LUMIX S 50mm F1.8/50mm/絞り優先(1/60秒・F5.6・-0.7EV)/ISO 200

カラーだけでなくモノクロのフォトスタイルにも「生命力・生命美」の思想が生きています。特に「LEICAモノクローム」の本格感は個人的にとても気に入っており、使うたびに巨匠になったかのような錯覚に酔いしれていました。

LUMIX S9/LUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S./90mm/絞り優先(1/100秒・F5.8・-0.7EV)/ISO 125

まとめ

ファインダー(EVF)をはじめ、ホットシューやメカニカルシャッターを省略するなど、思い切った小型・軽量化に舵を切ったのは、それだけシンプルでコンパクトなフルサイズミラーレスカメラの要望があると見込んだからのことでしょう。実際にストロボやファインダーを必須とする人はそれほど多くないかもしれませんし、動画撮影が主体ならなおのことです。

シンプルで気軽に使えるカメラながらもクリエイティブな写真が撮れるとして、「LUMIX S9」を魅力的なカメラにしているのは「リアルタイムLUT」の強化によるものでしょう。専用ボタンの装備と専用アプリの無償提供によって、馴染みの薄かったLUTがずっと使いやすく効果的なものになっています。

フルサイズミラーレスカメラとしてはエントリークラスかもしれませんが、その実、ハイアマチュアがサブ機として使っても十分に使い出のある最新機能も多く備えているから侮れません。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。