特別企画
ポートレート写真家・魚住誠一さんに聞く「50mmレンズ」使いこなしのコツ
2024年8月8日 07:30
ポートレートや風景など様々なシチュエーションに対応する「50mm」。撮り方によってはまるで異なるレンズのようにその描写が変わる、魔法のような焦点距離でもある。今回はポートレート撮影で活躍する魚住誠一さんに、50mmレンズを使いこなすコツを聞いていく。
——魚住さんは普段から50mm単焦点レンズで撮影されることが多いとお聞きしました。ズームレンズの50mmと単焦点の50mm、ずばり違いはなんでしょうか
実は元々ズームレンズが好きで、24-70mmを主に使っていました。単焦点レンズはF値も明るく被写界深度が浅くて扱いづらいので、あまり使わない時期もありました。ただ、ミラーレスカメラの時代に入って状況が変わりました。
「50mm」の単焦点レンズをミラーレスカメラに組み合わせてみたところ、新しい表現の可能性に気づいたんです。被写体との距離感や構図の取り方も、単焦点レンズならではの特徴があって、それが新鮮な表現につながっているんだと思います。
——明るさも含めて、新たな表現が可能になったということですね。ポートレート撮影での利点はありますか?
ポートレート撮影で最も重要なのは被写体との距離感なんです。50mmレンズの良さは、その距離感がダイレクトに表現できる点にあります。
望遠レンズだと画像が圧縮され、実際の距離感よりも技術的な面が目立ちがちです。一方、50mmは自然な距離感を保ちながら被写体とコミュニケーションを取りやすい。
つまり、50mm単焦点レンズは技術面だけでなく、被写体との関係性構築という点でもポートレート撮影に適しているんです。
——先ほどお話しがあった距離感というのは、撮影中に指示がしやすいということですか?
それも1つの要因ですが、もっと本質的な部分があります。50mmレンズで撮影する距離というのは、ある意味「ドキドキする距離」なんです。
35mmだと被写体に近すぎてしまいますし、85mmだと逆に遠すぎる。50mmは絶妙なバランスで、普段なかなか近づけない距離感を写真に表現できるんです。この距離感がもたらすリアリティは独特で、自分自身の写真家としての成長も感じられます。
被写体との関係性や、自分の心理的な距離の取り方まで、写真に如実に現れるんです。つまり、カメラマンと被写体の距離までも表現できる、非常に「距離感」がわかりやすい焦点距離だと言えるでしょう。
モデルの自然な表現を引き出す撮影テクニック
——魚住さんはポートレートを撮るときにモデルさんにどのような指示をして撮影するのですか?
実はほとんど指示はしないんです。強いて言えば、立ち位置を伝える程度ですね。
例えば、上の作品のように街中で氷の暖簾を見つけたとします。そこで「夏に氷を食べたくなるような雰囲気」を撮りたいなと思うかもしれません。そういう場面設定をすると、モデルさんが自然に「氷のポスターってこんな感じかな」と想像して、自分なりのポーズを取ってくれるんです。それが一番その人らしい、自然な姿だと思うんです。
もちろん何枚か撮って、その中から表情の良いものを選びますが、基本的にはモデルさんの自然な動きや表情を大切にしています。こういったアプローチで撮ることで、その人の個性や魅力が最も引き出されると考えているんです。
——自然な雰囲気がありますね。表情なども、例えば笑顔などはモデルさんが自主的に?
はい、その通りです。実は「笑って」と言葉で指示すると、逆効果になることが多いんです。言われて作った笑顔は、どうしても引きつったものになりがちですから。
私が笑顔を撮りたいときは、別のアプローチを取ります。具体的には、自分自身が満面の笑みでカメラを構えるんです。言葉で指示するのではなく、自分の表情でモデルさんに伝えるわけです。このやり方だと、モデルさんも自然と笑顔になってくれることが多いんです。カメラマンの笑顔に反応して、自然な笑顔が生まれる。そうすることで、より自然で生き生きとした表情を捉えることができるんです。
決まりにとらわれない自由な表現
——次の作品はいままでの作品と違ってかなり近めですね
そうですね。これは愛知県犬山市にあるリトルワールドの教会で撮影した作品です。背景をぼかして、モデルさんの肌にほどよく光が当たっているシーンを捉えました。特徴的なのは、瞳の中に様々なものが写り込んでいることです。撮影している私の姿はもちろん、青空なども見えるんですよ。
多くの人は可愛いモデルさんの姿を見たいと思うので、このように日の丸構図でアップで撮るのも悪くないと思います。よく「なぜ頭を切っているの?」と聞かれるんですが、このときは目に吸い込まれそうな感覚があったから、あえて切ったんです。写真に絶対的な決まりはありません。自分が表現したいように、好きに撮ればいいんです。それが写真の面白さだと思います。
常に周囲を観察して最適なロケーション選び
——次は和傘が印象的な作品ですね。撮影場所はどのように選んでいるのでしょうか?
様々なロケーションがある中で、私は常に周囲を観察しながら歩いています。その場の光の加減や背景などを見て、「ここに立ってもらって、少し離れて撮影すると良さそうだな」といった具合に場所を選んでいきます。
この作品の場合、和傘を使ったことが効果的でした。和傘を開いてもらうことで、肌に対するレフ板効果が得られ、とても良い雰囲気になっています。
こういったアイデアは、実はモデルさん自身が工夫してくれることも多いんです。例えば、和傘の開き方や持ち方など、モデルさんの創意工夫が加わることで、より自然で魅力的な写真が撮れることがあります。
空間を活用して広角感のある表現
——次の作品は風景も相まってとても広角っぽく見えますね。これも50mmですか?
はい、50mmレンズです。菜の花畑を背景に、モデルと一緒に入れてぼかすことで圧縮効果を強調しています。また、上部に空間を開けることで広角感を表現しているんです。
「ズームレンズに頼らず自分の足で動きなさい」とよく言われますが、被写体との距離や構図を調整するために、自分が動き回ることで、50mm単焦点レンズでも広角的な表現ができます。
上下の動きで変わる作品の印象
——対象的に今度は望遠っぽいですね。
そうですね。85mmレンズで撮ったような印象を意識して撮影しました。ただし、実際の85mmだともう少し背景が圧縮されると思います。このショットでは、背景の情報をできるだけ多く取り入れつつ、同時にモデルと背景が重ならないように気をつけました。そのために、自分の立ち位置を細かく調整しています。
実は、上下の位置調整だけでも作品の印象がすごく変わるんです。望遠になるほどカメラマンの微妙な動きが反映されにくくなるため、より大きな動きが必要になり、それが腰痛の原因となることがあります。また、すでに腰を痛めている人が三脚を使用すると、より無理な姿勢になって症状を悪化させる場合もあります。
このように、50mm単焦点レンズでも工夫次第で様々な焦点距離の表現が可能です。ただし、体への負担には十分注意が必要ですね。カメラマンの健康あってこその写真撮影ですから。
魚住さんが考える50mm単焦点とは?
——本日は50mmの撮影について色々とお話いただきありがとうございました。最後に魚住さんにとって「50mm単焦点」とはどのようなレンズですか。
私にとって50mm単焦点レンズは、何でも撮れるオールラウンダーのレンズです。
全身からバストアップまで、さらには広角から望遠のような表現まで、幅広い撮影が可能です。被写体との自然な距離感を保ちながら、創造的な表現ができるのが大きな魅力です。
本日ポートレートについてお話を聞かせてくれた魚住誠一さんが開催する撮影講習会が、長野県と愛知県で開催される。今回の記事で使用した作品も、過去のそれらの撮影講習会で撮影したものだ。
イベント名
こもろでポートレイト 2024 Summer
開催日
2024年8月31日(土)、9月1日(日)(雨天決行・荒天中止)
※1泊2日プランのみ
集合・受付
KOMOROBI Athletic&Camp(長野県小諸市甲4717)
モデル
北田未奈さん、高森琴捺さん
(オスカープロモーション所属)
定員
20名(先着制)※最少催行人数:8名
参加費
- 宿泊プラン朝食無し:4万4,000円 ※撮影会、夕食交流会、宿泊
- 交流会プラン:3万8,000円 ※撮影会、交流会
- 撮影会のみ:3万2,000円 ※撮影会
イベント名
犬山でポートレート
開催日
2024年9月27日(土)、9月28日(日)(雨天決行・荒天中止)
開催地
愛知県犬山市
- 9月27日(土):木曽川河畔~犬山城下町
- 9月28日(日):野外民族博物館リトルワールド
モデル
北田未奈さん、高森琴捺さん
(オスカープロモーション所属)
参加費
- 9月27日(土):2万1,000円(先着15名)
- 9月28日(日):3万4,500円(先着20名)